ここでは、競走馬の命名規則について解説する。
概要
競走馬名の登録にはルールが設けられており、審査を通過した馬名のみ使用可能となる。
申請した際に却下されるケースも当然あるため、申請の際には申込書に第3希望まで記載することが可能である。また、初出走後の馬名変更は現在はいかなる事情があろうとも認められていない。
初出走前なら1回まで変更は認められており、「アサカヘイロー」が「キングヘイロー」に、「コパノハニー」が「ラブミーチャン」に改名した例がある。
かつては初出走後も2歳(旧3歳)時や中央・地方移籍の時にも改名が認められており、「パーフエクト」が新馬勝ちした後「トキノミノル」に、夏競馬でデビューし8戦した「タマサン」が年明けに「ダイナナホウシユウ」に、南関東公営競馬で走っていた「ネンタカラ」が中央移籍時に「ゴールデンウエーブ」に改名した例がある。
これ以外では例外的な事例で促音(小さなッ)や、拗音(小さなャュョ)の表記が可能になった時に、菊花賞と天皇賞(秋)を勝っていたニツトエイトがニットエイトと5歳時(旧6歳)の現役中に表記変更を行った事がある。
以下、馬名登録時のルールの一部を紹介(※全てではないので注意)。詳細規則は、ジャパン・スタッドブック・インターナショナルが提供しているので、外部リンクを参照のこと。
世界における馬名登録のルール
以下、赤太字は使用可能なものや条件、青太字は却下される要因となるルール。
国際競馬統括機関連盟(IFHA:International Federation of Horseracing Authorities)、通称「パリ会議」によって取りまとめられた、「競馬と生産および賭事に関する国際協約」(通称、パリ協約)の第14条で定められている。以下、その意訳を含む。
- 名前が付けられる前に輸出された馬(いわゆる「マル外」)は、出生地ではなく輸出先の国の当局で命名する。
- 馬名はローマ文字(アルファベット)表記で明記しなければならない。
- 国際的ルールで命名が規制されるのは以下の通り。
- 18文字以内でなければならない。
- 日本のカタカナ9文字ルール(後述)ほどではないが、海外でも18文字に抑えるべく努力しているケースもある。
- 一例としてユーキャンコールミーミスターラッキー(UCANCALLMEMRLUCKY)は、そのまま表記すると「You Can Call Me Mr.Lucky」と24文字になってしまうが、空白とピリオドを抜いたうえでYouをUと表記する力業でなんとか17文字に抑え込んだ。
- 日本馬でも、1997年の菊花賞馬マチカネフクキタル(MATIKANEFUKUKITARU)は、広く日本国内で使われるヘボン式表記だと「MACHIKANEFUKUKITARU」と19文字になってしまうが、訓令式でチを「TI」にすることで18文字に抑え込んでいる。
- 国際保護馬名に掲載されている。
- 公人の名前であり、その人やその家族の許可がない場合。または商業的に重要な名前であり、適切な許可がない場合。
- 自社および馬主が運営するブランド・会社名であれば許容されることもある。
- 例:「ニホンピロ(ー)」(馬主が日本ピローブロック株式会社(現:FYH株式会社)の創業者)、「トウカイ」(馬主が東海パッキング工業株式会社の創業者)、「サクラ」(馬主がさくらコマース)など。
- 数字が続いている場合。
- イニシャルのみで構成されている、または感嘆符(!)、疑問符(?)、スラッシュ(/)などの特殊記号を用いている場合。
- 下品、卑猥、侮辱的な意味を持つもの、悪趣味と思われる名前、あるいは宗教的、政治的、民族的なグループに不快感を与える可能性のある名称。
- 発音が、保護されている名称や、その年に産まれた馬の登録名と同一または類似している場合。
- 日本国内では、トウカイテイオーに酷似している「チョウカイテイオー」、オルウェーヴルに酷似する「モルフェーヴル」が却下されている。一方で、「クラローレル」(netkeiba)や「ナイキシャトル」(netkeiba)などは採用されている。
- かつてWikipediaには「クラ」「ナイキ」だけが冠名のためセーフと推測できるような記載もあったが、「チョウカイ」(チョウカイキャロルの馬主、なおチョウカイテイオーは「チョウカイライジン」(netkeiba)の馬名で登録している)も「モルフェ」(モルフェデスペクタなどの馬主、なおモルフェーヴルは「モルフェオルフェ」(netkeiba)の馬名で登録している)も冠名のため(現在はWikipediaにもこれらが冠名であると追記済み)、このへんの判断は審査者の胸先三寸というところか。
- 文字以外の記号で始まるもの。
- 当該馬の親、兄弟の名前。
- 18文字以内でなければならない。
- 以上のルールに該当しない馬で、以下のルールに抵触するもの。
日本における馬名登録のルール
以下、特記がない限りばんえい競馬を除く日本の平地競走について解説。世界におけるルールのほか、日本独自におけるルールについて詳しく解説する。
- 馬名は片仮名2文字以上9文字以内、アルファベット表記で18文字以内(空白も含む)。
- ブランド名、商品名、曲名、映画名、著名人などが含まれる馬名は申請を却下されることがある。
- 紛らわしい名前の馬名は禁止。
- 馬及び競馬等に関する用語。
- 奇妙な馬名は禁止。
- 登録抹消・死亡後、一定年数が経過すれば馬名を再使用できる場合もある。
- 「ミスターシービー」「ゴールドシチー」「エルコンドルパサー」は規定の年数を満たした上で再使用されている他、「クロフネ」「ヒシマサル」に至っては3度にわたり再利用されている(記事参照)。
- 種牡馬・繁殖牝馬にならなかった馬で、かつ競走馬登録されなかった馬の名前は、死亡翌年の1月1日から4年、もしくは馬名登録の翌年1月1日から9年経過すれば再使用可能。
- 競走馬登録され、抹消された馬の名前は、別段の事情がない限り登録抹消翌年の1月1日から4年経過すれば再使用可能。
- 種牡馬の名前は、死亡・用途変更の翌年の1月1日から14年、あるいは最後の産駒誕生から14年、出生の翌年1月1日から34年(つまり生きていれば35歳になる)のいずれか早いタイミングで再使用可能。
- 繁殖牝馬の名前は、死亡・用途変更の翌年の1月1日から9年、あるいは最後の産駒誕生から9年、出生の翌年1月1日から24年(つまり生きていれば25歳になる)のいずれか早いタイミングで再使用可能。
- 名前が登録された状態で輸出された、もしくは輸出後に名前が登録された場合は、死亡判明翌年の1月1日から4年、もしくは出生の翌年1月1日から19年(つまり生きていれば20歳になる)経過すれば再使用可能。
- 持込馬の父馬の馬名、もしくは輸入馬の父馬・母馬の馬名(ただし輸入され国内で飼養しているものは除く)は、出生の翌年1月1日から父馬は34年(つまり生きていれば35歳になる)、母馬は24年(つまり生きていれば25歳になる)経過すれば再使用可能。
- 競走馬の名前変更を行った場合の旧馬名は、変更翌年の1月1日から1年経過すれば再使用可能(ただしJRA登録で、当該期限が経過した場合は、出走もしくは未出走引退までは再使用不可)。
一例
…と、延々と連ねていったが、正直これだけではわからない部分が大きいと思われるため、90年代に重賞戦線を賑わせたロイスアンドロイス、キョウエイボーガン、ツインターボ、ナイスネイチャを用いて解説する(なお、左記の競走馬は、記録より記憶に残る名馬であるため、安易な再利用は困難である)。
アメリカ合衆国・カナダの馬名登録のルール
アメリカ・カナダではニューヨークにあるジョッキークラブで馬名を管理しているが、そこでの規則は以下の通り。
- 18文字を超える馬名は使用不可
- 単なるイニシャルは使用不可
- 「filly」「colt」「stud」「mare」「stallion」及びそれらに類する競馬関係の単語で終わる名前は使用不可
- 単なる数字のみの名前は使用不可。30を超える数字は全部英字で書けば使用可能
- 序数で終わる名前は使用不可
- 存命人物の名前は明示的許可が必要
- 存命でない人物の場合でも、その名前の使用は許可が必要
- 競馬場やグレードレースの名前は使用不可
- 商標などは使用不可
- 個人や団体などを差別・中傷する名前は使用不可
- 現役の競走馬・種牡馬・繁殖牝馬の名前は使用不可。現役でない馬の場合は10歳を超えており、かつ競走・繁殖の用途に5年以上用いられていない場合は使用可能
- GIの勝ち馬の名前は25年間は使用不可
- 以下の条件を満たす名前は永久に使用不可
- 6から13に類似する名前は使用不可(6・7は許可が得られてない場合)
- アメリカのスタッドブックに記録されている名前は使用不可
- 直近5世代と同じ名前は使用不可
正確な条文はこちらを参照せよ。
オーストラリアの馬名登録のルール
オーストラリアの馬名はThe Registrar of Racehorsesが管理しているが、そこでの規則は以下の通り。
- 名前は18文字以下(スペースとアポストロフィを含む)
- 記号はアポストロフィのみ可
- 発音や読むことが困難な馬名は拒否されることがある
- 意味や由来が満足に立証できない名前は拒否されることがある
- 法令に反する名前は拒否される
- 年ベースで、以下の基準が適用される(8月1日が起点となる点に注意)。ただ、翻訳がかなり怪しいので、正確なところは条文を参照せよ
- 国際保護馬名、メルボルンカップ・コックスプレートの勝ち馬、およびオーストラリア競馬殿堂入りした競走馬の名前は使用不可
- 既存の名前に類似した名前は拒否されることがある。特に、国際保護馬名を単複変化しただけの名前は拒否される
- 品位に欠けるなどの名前は拒否されることがある
- 単なる数字だけから構成される名前は拒否される
- 人名に関しては存命か否かにかかわらず拒否されることがある
- 姓名のスペースをとっただけだったり、多少もじっただけの名前は拒否される
- 苗字にイニシャルをつけただけの名前は拒否される
- 1文字の名前は、それが単語として識別可能な場合以外は拒否される。アルファベット略語は拒否される
- 商標や芸術品の名前などは拒否されることがある
- 競馬場の名前、賭けに関する用語、レースの名前などは拒否される
正確な条文はこちらを参照せよ。
名付け方法
明文化されていないものも含む。
冠名
一人の馬主が所有する馬に、特定の名前を付けることで、自身の競走馬であることを強調する。詳細は「冠名」の記事に詳しいが、必ずしも1人の馬主に1つの冠名というわけでもなく、複数の冠名を持つ馬主も少なくない。
ただし、この冠名は独占的なものではなく、他人と冠名がかち合ったり、後述の連想方式と絡まると、非常に紛らわしいことになる。その例としてシャダイカグラ(父リアルシャダイは社台総帥の吉田善哉氏が保有していた馬だが、当馬は吉田一族の保有馬ではなく、また社台ファーム等での生産ではない)、セイウンワンダー(母セイウンクノイチは西山牧場の生産馬だが、当馬は母以外に西山牧場との関係はない)、2代目ゴールドシチー(母父タップダンスシチーは友駿ホースクラブの保有馬だが、当馬はそれ以外にクラブとの関連はない。ついでに言うと初代ゴールドシチーとの血縁関係等もない)などが挙げられる。
連想方式
父または母の競走馬名を部分的に使ったり、その馬名より連想されるものを名付ける方式。
例えば、近代競馬の礎ともいえる存在であり、現在この血を引かない馬はいないといっても過言ではない(2021年のJDDの勝ち馬など探せばいるようだが)ノーザンダンサー(Northern Dancer)。日本語に訳すと「北の踊り子」である。この馬、父ニアークティック(Nearctic)の「新北区」(北アメリカおよびグリーンランドを指す生物地理用語)、母父はネイティヴダンサー(Native Dancer)の「原住民の踊り子」から連想したものである。さらに言うとニアークティックもその父ネアルコ(Nearco)から上5文字を取ったもの、ネイティヴダンサーも本馬から見て祖母のミヤコ(Miyako)、母のゲイシャ(Geisha)と続く踊り子一族なのである。
ノーザンダンサーの産駒にも、ヌレイエフ(Nureyev、ロシアのダンサーについては日本語では「ヌレエフ」と転記されることが多い)、ニジンスキー(Nijinsky)、リファール(Lyphard)などロシアの舞踏家(北の踊り子)から取った名前や、劇場に由来するサドラーズウェルズ(Sadler's Wells)、異色なところでは寿司(北の味)から取られたノーザンテースト(Northern Taste)などがいる。またその子世代にもその連想ゲームは受け継がれている。
既存の競走馬名を丸ごと使用するケースもある。ダンジグコネクション(Danzig Connection)はダンジグ(Danzig)を父に持ち、デインヒルダンサー(Danehill Dancer)はデインヒル(Danehill)を父に持つ。日本ではシンザンを父に持つミホシンザンが代表例に挙げられるだろう。
イニシャル規則
ドイツでは、母馬の名前のイニシャルを引き継いで命名するルールが存在する。
Kingman 2011 鹿毛 |
Invincible Spirit 1997 鹿毛 |
Green Desert | Danzig |
Foreign Courier | |||
Rafha | Kris | ||
Eljazzi | |||
Zenda 1999 鹿毛 |
Zamindar | Gone West | |
Zaizafon | |||
Hope | *ダンシングブレーヴ | ||
Bahamian | |||
*セリエンホルデ 2013 鹿毛 FNo.16-c |
Soldier Hollow 2000 鹿毛 |
In the Wings | Sadler's Wells |
High Hawk | |||
Island Race | Common Grounds | ||
*レイクアイル | |||
Saldenehre 2000 芦毛 |
Highest Honor | Kenmare | |
High River | |||
Salde | Alkalde | ||
Saite |
一例として2021年のNHKマイルカップの勝ち馬、シュネルマイスター(Schnell Meister)を挙げると、シュネルマイスターの母はSerienholdeであり、以下Saldenehre、Salde、Saite、Salesiana…と、ずっとSで始まる名前が続くのがわかる。
関連動画
関連商品
競走馬の命名規則に関するニコニコ市場の商品を紹介してください。(特にない場合はこの部分を削除してください)
関連コミュニティ・チャンネル
外部リンク
- 公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル 馬名登録実施基準
- JRAホームページ 競走馬登録馬名簿・馬名意味(ページ内下部の「JRAホームページ 競走馬検索」のリンクから馬名を検索することで現役馬+2000年以降の登録抹消馬の馬名意味を調べる事が可能)
- 地方競馬情報サイト 競走馬データベース地方競馬の検索が可能(馬名の意味は表示されない)
- JBISサーチ 馬情報検索(欧字名(英字)での表記を調べる事が可能)
- 競馬と生産および賭事に関する国際協約(International Agreement on Breeding, Racing and Wagering)(IRHA、英語)
関連項目
脚注
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