ミサイル(missile)とは、
おおむね弾頭(爆発などで対象を破壊する部分)に誘導装置(ミサイルを目標に向かうように誘導する部分)と推進装置(エンジンとその燃料)を持つ飛翔体で、誘導装置、推進装置、任務/用途によって大まかに区分される。日本語(防衛用語)では「誘導弾」という。
無誘導で放物線を描くロケット弾とは異なり、誘導装置によって自動で軌道修正を行う。簡潔に言うなら「敵/目標を追いかけて飛んでいく」のがミサイルである。
発射された後は推進装置により飛翔、誘導装置が指定された目標に対して進路を制御し対象に命中(もしくは近接信管による爆発でダメージを与えられるまで接近)する。
ミサイルは基本的に自分自身で目標を補足し、そこに誘導されていくが、ミサイルに事前に目標に関する情報を与え、適切なタイミングで発射し、時には飛翔中のミサイルに目標の動きの変化を伝えることで有効性を一層高めることができる。そのためミサイルはレーダーや射撃管制装置(FCS)と組み合わせて「システム」として運用される。システムは肩撃ち式の地対空ミサイル(射手もシステムに含まれる)から、防空監視システムで目標を探知識別し、戦闘指揮システムで目標を割り当てて各種射程のミサイルを発射、あるいは要撃戦闘機を飛ばして搭載されたミサイルを発射するという国家レベルの防空システムまで様々である。[1]
誘導装置を持たない、つまり真っすぐにしか飛ばないものはロケット弾(厳密には重力や風の影響も受けるため、まっすぐに飛翔する訳ではない。銃弾・砲弾も同じ)と呼び、推進装置を持たない誘導爆弾(航空機に搭載して上空で投下・滑空して命中させる)はミサイルには含まれない…はずなのだが、運用組織によっては推進装置をもたない誘導爆弾をミサイルに区分していたり(AGM-154JSOW)、GPS誘導のロケット弾をロケット弾と呼んでいたり(GMLRS)なので、余りこだわる必要は無い。ドイツ語やロシア語ではそもそもロケットとミサイルを区別しない。
ロケット弾と比較し、ミサイルのほうが誘導してくれるぶん長距離や移動目標に対する命中精度は高いが
信頼性や価格、重量、取り扱いといった面ではロケット弾のほうが優れている点も考慮されたい。(後述)
発射元(歩兵・車両・航空機・艦船)や狙う目標によって、用途はかなり枝分かれする。
初見では「空対艦って何?どっち?」となるかもしれないが、文字を見ると意外と難しくない。
どこから、何に対して発射するかで示される。
「空対艦」=「空→艦」
「対戦車ミサイル」であれば戦車に対して使用される。
「対空ミサイル」であれば上空の目標(飛行中の航空機)に対して使用される。
「地対空ミサイル」であれば地上から上空に対して使用される。(SAMとも)
「空対空ミサイル」であれば上空から同じ上空同士の目標に対して使用される。(戦闘機同士など)
「空対艦ミサイル」であれば、航空機から艦船に対して使用される。
「艦対空ミサイル」であれば、前者の逆で艦船から航空機に対して使用される。
それぞれ単体・組み合わせで対地、空対地、地対地、対戦車、対艦など細かく枝分かれする。
同じミサイルであっても地上・艦上・航空機から発射されるものもあったり、「対戦車ミサイル」と表記されていても必要に応じて戦車以外の装甲車や陣地に使用されたりと大雑把な部分はある。[2]
特に断りがなければ「対○ミサイル」「対○誘導弾(自衛隊呼称)」といった表記も多い。
「弾道ミサイル」「巡航ミサイル」のように飛翔形態を示すもの
「核ミサイル」のように弾頭に詰められたものを強調するものもある。
英語の略称については、後述の「任務(目標)による区分」を参照。
通常は弾頭部の炸薬が爆発することでダメージを与えるが、一部のキネティック弾頭と呼ばれるものは弾頭部が直撃した際の運動エネルギー自体で対象を破壊するよう設計されている。
現在も高速度と高燃費を目指したラムジェットやダクテッドロケットなどの技術が研究されている。
ミサイルの誘導形式は多岐にわたるが、ここではざっと解説する。
まずは外部からの指令による誘導とミサイル自体が目標を追尾する形式に分かれる。ミサイルが外部から誘導される場合としては無線/有線による直接誘導、慣性航法や地形照合、GPSなどによる事前の飛翔経路/目標設定が挙げられる。また、ミサイルから送信された情報(画像、レーダー情報)を元に操作員が操作を行うこともある。
※長文を読むのが面倒な方向けに記載。
詳細は次項を参照して頂きたいが
難しいことを極力省くとこうなる。
目標捕捉・照準にレーダー電波を使用するもの。
ミサイル自身、味方、敵が照射するレーダーを頼りに命中する。
[電波/照射&飛行計算]+撃ちっ放し能力
アクティブレーダーホーミング(ARH)とも呼ばれる。
空中目標に対して使用される。
例:ミサイル自身がレーダーという懐中電灯で目標を照らしながら追いかけるようなもの。
[電波/受信&飛行計算]セミアクティブレーダーホーミング(SARH)とも呼ばれる。
空中目標に対して使用される。
例:ミサイル以外がレーダーという懐中電灯で目標を照らすので、それを追いかけるようなもの。
ミサイルが外部からのレーダー情報を受けて飛翔するもの。
発射母機や地上等の発したレーダー波が目標で反射するため、そこに向かって飛んでいく。
発射した射手がちまちまミサイルを操作する必要はないが
発射母機や地上等のレーダーによってロックオン状態を維持する必要がある。
ミサイル側は命中するまでレーダー波を常に受け取り続ける必要がある。
[電波/受信&飛行計算]+撃ちっ放し能力
パッシブレーダーホーミング(PRH)とも呼ばれる。
例:懐中電灯(レーダー)を持っている相手を暗闇で追いかけるようなもの。
ミサイル・発射側は何も照射しない。
目標が発するレーダー波の発信源を追尾する。
主に対レーダーミサイルとして使用される。
初期はレーダー照射をoffにされると目標を見失って自爆したが、現在は位置を覚えて飛んでいく。
幅広く使われている方式のひとつ。
ミサイル先端のカメラ(シーカー)が
敵の発する熱源や、照準用レーザーの照射先を捉えて飛翔・命中するもの。
IRホーミングとも。(Infrared=赤外線)
熱(Heat)を追尾するため装置や誘導方式をヒートシーカーと呼ぶ場合もある。
目標の熱源を検知して追尾する。(熱≒赤外線)
車両や航空機のエンジンが発する熱を追尾する。
・ちなみに、航空機はこんな感じで熱を放出している。(赤外線映像)
[光波/受信&飛行計算]+撃ちっ放し能力
発射後、目標の検出と飛行計算はミサイル自身が行う。
携帯式のFIM-92スティンガー(携帯式地対空ミサイル)や
米軍からウクライナに供与されているFGM-148ジャベリン(対戦車ミサイル)がこの方式である。
また、レーザー誘導もあり、そちらは半自動誘導。
(レーザー照射役が目標にレーザーを照射し続ける必要がある)
目標の熱を追尾する。(前述)
次項の赤外線画像誘導も出てきたが、現在も幅広く使用されている。
初期のものは太陽(熱源の塊)に飛んでいくドジっ子だったり、エンジン排気が良く見える後方からしかロックオンしてくれない[3]ため使い勝手が悪かったが、現在のミサイルは敵機正面からでもロックオンが可能になっている。
ほわほわと浮かぶフレアのような熱源の囮ではなく
明確な航空機・車両の機体っぽい形状を識別して追尾するため欺瞞に強くなった。
[レーザー照射]
単純に「レーザー誘導」とも呼ばれる。
目標に向けて照準用レーザーを照射し、照射先をミサイルが追尾・命中するもの。
「破壊したい目標にレーザーを当てておけばOK」である。
ミサイルの発射機、照準用レーザーの照射役がタッグを組んで敵を撃破する。
この2つは同じ場所でも良いし、別々の場所でも良い。(後者は生存性が上がる)
照準装置上は後述のSOLCOS(モニター中央に飛ぶ)方式と似ている。
採用例:87式対戦車誘導弾(日)、AGM-114ヘルファイア(米)など
「操作した通りに動け!」or「ここへ飛んでいけ!」と指示してあげるもの。
手動指令と半自動指令(目標に向け続ける)の2種類がある。
有線式は射程と扱いやすさが少し劣るが、
非常に細いワイヤーケーブルで接続されており、欺瞞や電波妨害で使用不能にされない。
「操作した通りに動け!」
初期のミサイルに用いられた方式。ラジコンのようなもの。
目標に向かって発射後、命中するまでミサイルをジョイスティック等でズレを修正する。
遠距離はミサイルが小さく見えなくなってしまうため、後部がマグネシウム等で発光する。
…有線式と無線式がある。スコープ等を覗きながら操作する。
採用例:64式対戦車誘導弾(日本)、SS.10(仏)、9M14/AT-3(露)など
ミサイルの尾部に光源が付いており、照準器はそれを捉えてミサイルが照準線(照準器と目標を結ぶ線)からずれているかどうかを判別し、ミサイルの軌道を修正する(人間がミサイルの運動を直接コントロールする必要がない)。
照準用のレーザーやレーダーを照射する必要がないため、敵に発射を悟られにくいのも利点。
採用例:TOW対戦車ミサイル(米)、79式対舟艇対戦車誘導弾(日)、9M111/AT-4(露)、9K114/AT-6(露)など
発射装置「今ビームを照射してるトコに飛んでいけ!あと飛行計算はお前がやって!」
ミサイル「ビームに乗るように飛ぶけど…計算まで俺がするのか…(困惑)」
前者の半自動指令照準線一致誘導と似ているが、飛行指示の計算をミサイル自身がやる羽目になる。
ミサイル後端にセンサーがあり、照準用のビームが当たっている=正しい飛行ルートと認識する。
利点としてビームに沿って飛翔するため、レーザー誘導のように目標からの反射がなくとも空中目標などを追尾することも一応可能。
目標を指定して射撃後、何も誘導せずとも目標まで勝手に飛んでいってくれるアクティブホーミングやパッシブホーミング、赤外線誘導は「撃ちっぱなし(fire and forget)」が可能になるため、発射する側の生存性向上に有利である。近年の電子装置の小型高性能化に伴い、そのような撃ちっぱなし能力を持つミサイルも増えている。
最近ではさらに発射前ロックオン=LOBL(Lock On Before Launch)から、発射後ロックオンLOAL(Lock On After Launch)へと進化しているミサイルも登場している。LOBLの場合、ミサイルが自身のマーカー(あるいは母機のレーダー等)で目標を捕らえたのちに母機から射出されるが、LOALでは発射後、独自、あるいは母機からのデータリンクで目標を追尾することで命中能力が向上しているものがある。
ミサイルの区分でよく見られる「SAM」「AAM」と言う略語は発射プラットフォームと目標を組み合わせたものである。「SAM」は(surface/ship to air)で地上/艦上発射対空ミサイルを、「AAM」は空対空(air to air)ミサイルをさす。地(艦)対地(艦)ミサイルはSSM、空対地(艦)ミサイルはASMとなる(潜水艦は「underwater」で「U」を用いる)。
逆に「ミサイルを撃たれる側の視点」として見ていく。
相手は歩兵・車両・航空機と様々である。他国といった超長距離から撃ってくる場合もある。
もちろんミサイルを撃たれる側も、命中するまで黙って見ているわけではない。
ただし技術が向上しているため、互いにいたちごっことなっている部分もある。人間が搭乗しないミサイルの方が人間が即失神するレベルの急激な機動ができるといった長所もあるし、発射機や誘導方式の特性や、互いの相対位置などもあるため一概には言い切れない。
追尾してくる赤外線誘導(熱源誘導)ミサイルのセンサーに対して…「そんなに熱源が欲しいならくれてやるよ!」と過剰な赤外線を照射、システムの特性を上手く突いて目標の座標位置を誤認させる赤外線ジャマー(IRジャマー)といった対抗策もある。(関連動画を参照)
陸自ではUH-1、AH-1等について物が有名か。
米軍でAH-64に装備しているもの → AN/ALQ-144 - Wikipedia
その他、直接センサーを狙いバルスレーザーで目潰ししてしまうDIRCMなどの方式もある。
指向性赤外線妨害装置 - Wikipedia
半自動指令照準線一致誘導(SACLOS)に対し照射、ミサイルの位置座標を誤認させるものもある。
シュトーラ (兵器) - Wikipedia
戦車といった車両はもちろん、駐機中の無防備な航空機や艦艇も含める。
ちなみに赤外線映像(いわゆるサーマルサイト)で見ると、自然環境下の植物と戦車の金属では温度差があるため、エンジンを起動していなくても割と「なんかある」程度には見える。ただし前述のダミーバルーンなど、手の込んだものはヒーターを取り付け、実物同様に発熱させるものもある。
ミサイルのほうが誘導してくれるぶん長距離や移動目標に対する命中精度は高い。
「じゃあロケット弾は必要なくない?」と思ったかもしれない。…だがちょっと待ってほしい。
ただし、ロケット弾はミサイルのように未来予測や横風に対する自動補正を行わないため
遠距離や不規則な風の起きやすい複雑な地形では不利となり、射手の技量にも左右される。
ロケット弾一発当たりの価格はミサイルより安いため、訓練でも(多少は)実弾を使いやすい。
ミサイルは方式に限らず一発が非常に高額なため、当たるか否か分からない人間全員に気前よく撃たせる訳にはいかない。[6]
このようにロケット弾とミサイルでは一長一短である。
分類自衛隊兵器のみを集めたもの |
掲示板
160 ななしのよっしん
2024/10/11(金) 22:46:59 ID: +v/CCxFQf6
700じゃねえ480キロだ、何と勘違いしたんだ
161 ななしのよっしん
2024/10/21(月) 23:10:13 ID: 9s2w1G5NkL
兵器に限らんけど物理的な限界に阻まれてこれ以上劇的な進歩が望めなくなってるな人類
代わりにコンピューターで扱いやすさや正確性を上げる方向に行ったと言うかそこにしかもはや行けないというか
162 ななしのよっしん
2024/11/25(月) 22:19:12 ID: zUrpKThp9k
昔は農地が広がる人口増える石炭石油など消費できるエネルギーか増えて、より遠くより速くより沢山できる事が増えるのが進歩だった
その代わり制御技術についてはチグハグで、できる事の圧倒的増加に対して情報処理が常に追いついてない感じ
最近は物理的な伸び悩みの反面ドローンにしろARやVRにしろようやく「想像の範囲内なら想像通りの事ができる」時代になった気がするね
イージスシステムとかそんな感じ(レーダーに映ってミサイルが足りて居れば迎撃できる)
急上昇ワード改
最終更新:2025/01/08(水) 14:00
最終更新:2025/01/08(水) 13:00
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