EST(競馬)とは、2021年の中央競馬でクラシック三冠を分け合った3頭の競走馬、「エフフォーリア」「シャフリヤール」「タイトルホルダー」の総称である。
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この3頭は2018年に生まれ、2021年の牡馬クラシック三冠をそれぞれ勝利した。ESTはエフフォーリア(Efforia)、シャフリヤール(Shahryar)、タイトルホルダー(Titleholder)の頭文字から取られており、英語で最上級を意味する接尾詞と引っ掛けている。2021年クラシック世代は彼らを代表として「EST世代」と呼ばれることもあるとかないとか。
牡馬クラシックを3頭が分け合うこと自体はそれほど珍しくないが、彼らはクラシック後にそれぞれGIを勝利。3頭全てが古馬GIを勝利するのは史上初の快挙である 。
また、エフフォーリアは史上初 となるクラシック及び天皇賞秋、有馬記念を三歳で制覇
シャフリヤールは毎日杯及びダービーをレコード勝ちし、ダービー馬として史上初めて海外G1を制覇。
タイトルホルダーは菊花賞及び天皇賞春を史上初めて逃げ切り勝ち し、またそれぞれの鞍上が兄弟であり、両方にG1を獲らせた のも史上初めての事である。
とはいえ、かつて人気を博したTTGやBNWと比べると、ライバル感は薄いかもしれない。特に、シャフリヤールはジャパンカップ後に海外路線へ舵を切ったため、他の2頭との直接対決がほとんどない。また、3頭全員が揃ったのも日本ダービーのみである。
ちなみに、2021年は『ウマ娘 プリティーダービー』が大ヒットし、新たに競馬を始める人が急増した年でもある。そんな中で颯爽と現れたこの3頭と2021年クラシック世代は、新しい競馬ブームを牽引する存在となった。有馬記念や宝塚記念で歴代最多得票を更新したことからも、この世代の人気の高さが伺えるだろう。
まずこの三頭、生い立ちが三者三様で全く違う。
エフフォーリアは血統こそ良かったものの、トモ(後肢)を始めとした発達の悪さ、運動を行う度に疝痛を起こす体質の弱さが問題視されており、クラブ代表に「印象がない」と言われてしまうくらいには注目されていなかった。結果、同期のオーソクレースや同厩のダノンザキッドの方に注目が集まり、しばらくは文字通りパッとしない存在だった。1口7万円×400口の2800万円という安めの価格で募集がかけられていたことからもその存在感のなさが伺える。[1]
そんな彼が所属することになった厩舎は騎手時代に祖父シンボリクリスエスの調教にも参加していた鹿戸雄一厩舎。かつてスクリーンヒーローでジャパンカップを制したこともあったが、それ以降重賞とはどこか縁が無い所であった。
一方のシャフリヤール。こちらは父が説明不要の三冠馬、母はBCフィリー&メアスプリントの勝ち馬と良血中の良血から生まれた存在である。おまけに兄にあたるアルアインがGIを2勝するなど既に実績を残していたため、サンデーレーシングの目玉として超高額な募集(総額1億2000万円)がかけられた。エフフォーリアとは対称的にこちらは生まれた時から注目の的であり、所属もダービー馬エイシンフラッシュをはじめ多くの名馬を送り出してきた栗東の名門、藤原英昭厩舎である。
そしてタイトルホルダーは、この中では唯一の個人馬主の馬である。父は日本競馬の結晶とも言うべき良血であり「怪物」とも呼ばれて二冠を制したドゥラメンテ、母メーヴェの父は英ダービーを制したMotivatorと、こちらもなかなかの良血なのだが2160万円とわりと安値で買えてしまったためオーナーは逆に不安になったとか。
しかし、坂路追い切りで頂上からさらに先へ行ってしまうなど調教の時点で力強さを発揮。生産者である岡田牧雄氏はこの馬を「マツリダゴッホ以上の馬[2]」と言ってタイトルホルダーの事を各所に触れ回り、また抜群のスタミナから菊花賞と天皇賞春を最大目標としていた。
所属は美浦の栗田徹厩舎。タイトルホルダーが来た頃はアルクトスで初重賞を飾ったばかりであった。
エフフォーリアは2020年8月にデビュー。当初は札幌でデビューする予定であったがコロナの影響で函館に移動しており、また体質が弱く疲れが残りやすいことから緩やかなレースプランが組まれることになった。鞍上は調教を担当していた横山武史騎手に決定[3]。追切での調教でオープン馬であるトーラスジェミニにも先着しその時のエフフォーリアの動きに惚れ込んだ武史騎手は知り合いの記者などに触れ込みまくっていたという。
そんなエフフォーリアは新馬戦を先行してから抜け出して勝利。芙蓉ステークスからホープフルステークスに向かうプランもあったが体質を考慮し百日草特別へ向かう。レースでは馬群に閉じ込められピンチに陥るも一瞬で抜け出して快勝、絶好のスタートを決めた。
シャフリヤールは同年10月、菊花賞の開催日にデビュー。鞍上は福永祐一騎手となり、1番人気に応える形で見事勝利を収めた。
同月にはタイトルホルダーもデビュー。前向きな気性面を考慮して鞍上には戸崎圭太騎手が選ばれた。デビュー戦では1800mを逃げ切り勝ちし、続いて東京スポーツ杯2歳ステークス、ホープフルステークスにも出走するがいずれも2着、4着に終わる。どちらも勝ったのは二歳王者ダノンザキッドであった。
明けて3歳。間隔を空けて走らせつつじっくり調教したエフフォーリアは弱点だった体質が徐々に改善。陣営はこれを好機と見なしクラシックの前哨戦として共同通信杯 を選択する。ちょうどシャフリヤールも休養を挟んで同じレースを選択したため、ここでESTにとって初めての直接対決となった。
レースはスローペースで進む中、エフフォーリアは3~4番手につき、シャフリヤールは中団でじっくりと足を溜めながら待機。最後の直線で鞭が入ると、エフフォーリアはぐんぐん後続を離していき、2着に2馬身以上の差をつける快勝。無傷の3連勝を達成した。一方のシャフリヤールは、2着のヴィクティファルスをアタマ差捉えきれず3着。収得賞金の加算に失敗してしまう。
そんな訳でシャフリヤールは毎日杯 へ出走。オッズ人気は良血馬グレートマジシャンに次ぐ2番人気となり鞍上には先約のあった福永騎手から乗り替わり川田騎手が乗ることとなった。道中を4~5番手で控えたシャフリヤールは1000m通過タイムが57.6というハイペースの中で最後は馬群の中から抜け出し、追いすがるグレートマジシャンから逃げ切ってゴールイン。かつて兄・アルアインが勝利したレースを日本レコードタイの1.43.9という歴代の毎日杯でも圧倒的なタイムで制し、クラシックへの出走を決める。
しかしレコードの激戦で反動を気にしたことや共同通信杯で敗れたこともあって皐月賞には出走せず、目標をダービーに絞り調整が進められることになった。
一方のタイトルホルダーは、弥生賞ディープインパクト記念 に出走。戸崎騎手が海外遠征後の自主隔離期間中だったため鞍上はエフフォーリアと同じく横山武史騎手となった。ここでタイトルホルダー、後に彼の代名詞となる逃げの手を打ちそのまま逃げ切ってゴールイン。ここまで負け続きだったダノンザキッドに初めて先着した。
もっとも、菊花賞を目標としていたタイトルホルダーの陣営にとってのこの勝利は想定外のものであり、予定にはなかったものの皐月賞に挑戦することになった。
迎えたクラシック初戦・皐月賞 。エフフォーリアは引き続き横山武史が騎乗し、空いたタイトルホルダーは田辺裕信にスイッチ。
エフフォーリアは人気の根強いダノンザキッドに次ぐ2番人気、一方のタイトルホルダーは8番人気と乗り替わりの影響からか穴馬扱いされていた。
本番ではタイトルホルダーが先頭争いに加わる積極的な競馬を展開。エフフォーリアは4番手あたりでじっくりと好機を待っていた。ダノンザキッドやアサマノイタズラが先行集団で激しくやり合った結果、タイトルホルダーとエフフォーリア以外の先行勢は壊滅。最後の直線で先頭のタイトルホルダーの横から抜け出したエフフォーリアは他馬とは段違いの脚を伸ばし三馬身差でゴールイン。史上19頭目の無敗の皐月賞馬となる。
鞍上の横山武史騎手はGI初制覇。無敗のエフフォーリアとともに、新たな世代の台頭を予感させる鮮やかな勝利を決めてみせた。
ちなみにこの横山武史騎手、今となっては信じられない話だがもとからエフフォーリアの鞍上になる予定だったわけではなく当初は新潟に居た三浦騎手や、武史騎手と同じく北海道に居たルメール騎手を乗せる予定だったという。しかしその二人とは都合が合わなかったため「じゃあ調教担当の彼に乗ってもらおうか」ということで武史に白羽の矢が立ったのだ。そんな身も蓋もない事情から二人三脚でGIタイトルを手にするまでに至るのだから、競馬というのはつくづく分からないものである。
なお、タイトルホルダーはエフフォーリアに完全に離されてしまったが、それでも後方から追ってくる馬たちを抑えきって2着と善戦。「皐月2着の馬がダービーに行かないのはどうなのよ」ということで、こちらも当初は予定になかったダービーへ向かうことになった。
競馬の祭典、東京優駿(日本ダービー) 。ここでついにESTの3頭が集結する。内枠有利とされるレースの中、エフフォーリアは1枠1番を引き、さらには他の人気馬が軒並み外枠へ追いやられたのもあって、エフフォーリアがダントツの1番人気。10番のシャフリヤールはマイラー疑惑もあってか4番人気、14番のタイトルホルダーはまたも8番人気に留まる。
レース道中、エフフォーリアは内でキツめのマークを受けてしまうが、最後の直線でなんとか好位置につけ、タイトルホルダーを躱しつつ残り200m辺りでついに先頭へ。「無敗の二冠馬だ!」「最年少ダービージョッキー誕生か!?」と観客の期待は最高潮。多くの人がエフフォーリアの勝利を確信したその時……馬群を抜けて猛然と追い上げてくる馬がいた。
それこそがシャフリヤールであった。既に共同通信杯で土をつけさせたはずのシャフリヤールが、前年のダービージョッキー・福永祐一騎手を鞍上にリベンジと言わんばかりに急追してきたのだ。
福永祐一騎手はこのシャフリヤールに並々ならぬ思いを抱いていた。というのもこの二人は長い付き合いがあり、ワグネリアンでダービージョッキーとなった福永騎手を真っ先に祝福したのも二着に破ったエポカドーロの調教師であった藤原調教師なのである。だからこそ、このダービーに賭ける執念は凄まじいものがあった。
そのシャフリヤールに外から馬体を併せて差し返しに行くエフフォーリア、しかし譲らないシャフリヤール。2頭は横並びとなり、そのままもつれるようにゴールイン。肉眼では勝敗の判断がつかない僅差の決着。そして、3着から5着の馬もハナ差と、競馬史に残るであろう大接戦となった。
写真判定の結果、ギリギリの勝負を制したのは――シャフリヤール。わずか10cmの決着であった。記録された2:22:5 のタイムは、当時のダービーレコードであった。
「自分は下手に乗った。横山武史騎手が一番上手く乗っていた」と語るのは、3度目のダービー制覇となった福永祐一である。そんな騎乗で10cmの差に泣かされてしまうのも、ある意味「最も運のある馬が勝つ」ダービーならではと言える。とはいえ、当然ながら武史は悔しいことこの上なく、レース後に涙を見せた。
一方のタイトルホルダーは弱点となる瞬発力不足を露呈させてしまう形で伸びを欠き、あまり見せ場がないまま6着に敗戦。
しかし、ある意味ではタイトルホルダーにとっても大きな意味を持つ結果だった。
この敗戦を受けてエフフォーリアは古馬中距離路線へ舵を切ることに。当初から菊花賞を目指していたタイトルホルダーは鞍上に武史騎手が戻ってくることになったのだ。
この大接戦の結果が、後に世代の代表となる2頭のレース、そして鞍上を左右することになったと思うと、「もしも」を想像したくなる数奇な運命を感じないだろうか。
前述の通りエフフォーリアは古馬中距離へ路線変更し、天皇賞(秋)へ向かうことに。さらにはシャフリヤールも神戸新聞杯で重馬場巧者ステラヴェローチェの4着という結果に終わり、「菊花賞の3000mは不適」と判断されてジャパンカップへと向かった。その結果、菊花賞は皐月賞馬もダービー馬も不在の混戦模様を呈する。まあ次世代のステイヤーを決めるレースになるのはいつものことのような気もするが。
残ったタイトルホルダーは鞍上に横山武史が戻り、前哨戦にセントライト記念を選択。これまでの実績を踏まえて1番人気に支持されたものの一番人気で先行した結果、前が壁どころか前後左右全部壁という状況に陥ってしまい、先行勢が揃って沈んたのに巻き込まれる形で13着とボロ負け、評価を落としてしまう。
しかし、陣営は転んでもただでは起きなかった。この失敗で腹を括った栗田調教師は武史騎手に「責任は自分が持つから逃げてくれ」と頼み、武史騎手もこれに応える形である秘策を練っていた。
菊花賞 本番。2枠4番からスタートしたタイトルホルダーは抜群のスタートを切り、同じく逃げようとしたワールドリバイバルを武史騎手は視線で牽制して積極的な逃げの手を打つ。最初の1000mを1分ちょうどの緩みないペースで通過すると次の1000mは65.4秒と一気にペースを緩めた。序盤に作ったリードを存分に活かし、1着をキープしたまま足を溜めていたのである。
そして最後の直線コース、横山武史の追い出しに応えたタイトルホルダーは、温存したスタミナで一気に後続を突き放す。2着争いが大接戦となる中、タイトルホルダーは2着から5馬身の差を作る大楽勝となった。こうして、タイトルホルダーは23年ぶりに逃げて菊花賞を勝利した馬となったのである。
「この勝ち方、どっかで見たことあるぞ!?」とどよめく往年の競馬ファンたち。それもそのはず、23年前に菊花賞を逃げきった父・横山典弘騎乗のセイウンスカイと逃げ方が全く同じなのである。
ラップタイム | |||
---|---|---|---|
1000m | 2000m | 3000m | |
セイウンスカイ 鞍上:横山典弘 |
59.6 | 123.9 | 183.2 |
タイトルホルダー 鞍上:横山武史 |
60.0 | 125.4 | 184.6 |
もともと研究熱心な性格の武史はかつて父が菊の舞台で見せた幻惑逃げを、数十年の時を経て見事に再現してみせたのだ。
また、タイトルホルダーの父・ドゥラメンテにとっても嬉しい勝利となった。かつて「怪物」と呼ばれたドゥラメンテは皐月とダービーの二冠達成後、怪我に泣かされ菊花賞に出られなかった経緯を持つ。おまけに2021年8月、繋養中の社台SSで急性大腸炎を発症し9歳という若さでこの世を去ってしまっていた。タイトルホルダーの勝利は、亡き父に出られなかった最後の一冠を届けたレースとなった。
本命不在と言われた菊花賞も、終わってみれば非常にドラマチックな決着になったと言えよう。
日本ダービーの節で書いた通り、エフフォーリアは古馬中距離路線へ進むことに。向かうのは天皇賞(秋) 。1番人気は大阪杯の雪辱に燃える三冠馬、コントレイル。2番人気は短距離・マイルの女王で、中距離含めた三階級制覇を狙う5歳の女王グランアレグリア。その中でエフフォーリアは3番人気になった。
スタートが切られると先行策をとるグランアレグリア。エフフォーリアは中団前方に、コントレイルは中団中ほどにつける。ここで鞍上の横山武史、先のダービーで早仕掛けからハナ差で負けた反省を活かし、コントレイルが前に持ち出すギリギリまで仕掛けを我慢する戦法を選択。最初の1000m通過タイムは60秒5と平均ペースで進み、残り400mを通過する頃にグランアレグリアが掛かり気味になりながらも先頭につける。残り100m付近でエフフォーリアがグランアレグリアをかわし、コントレイルもそれに追いすがるがエフフォーリアには届かない。前評判通り3強が揃ってゴールイン。エフフォーリアは3歳にして秋の盾をもぎ取る快挙を達成。これは父の父・シンボリクリスエス以来であり、史上4頭目(1987年以降に東京競馬場で行われたものに限定すると史上2頭目 )となる記録であった[4]。
一方、菊花賞の節で書いた通り、シャフリヤールはジャパンカップへ。1番人気はコントレイル(1.6倍)、2番人気がシャフリヤール(3.7倍)、3番人気はアルゼンチン共和国杯連覇のオーソリティ(7.1倍)で、4番人気のアリストテレスが20.5倍と大きく離れた。そしてこのレースは日本ダービーを制した馬が4頭もいることも注目された(2021年シャフリヤール、2020年コントレイル、2018年ワグネリアン、2016年マカヒキ)。
スタート直後に先行集団にとりついたシャフリヤール、それをマークする形でコントレイルは中団につけた。しかし、1コーナーの所でゴール板の影に驚いたアリストテレスが驚いてしまい、それに釣られる形でシャドウディーヴァが外にヨレてから内に戻ってしまい、その内に潜り込んだシャフリヤールはラチに思い切り衝突してしまう[5]。それでも落馬は避けられたがこれで掛かってしまい、しかも1000mは62秒2とかなりスローペースの展開。だがここでキセキ(2017年の菊花賞馬)がハナを取るために後方から一気に上がっていき大逃げを打つ。
4コーナーを抜けオーソリティは2番手、シャフリヤールは5番手、コントレイルは8番手であった。そしてオーソリティがあっさりとキセキをかわすと、シャフリヤールとコントレイルが上がってくる。だがコントレイルは差しで末脚を出せるも、ラチに衝突した上オーソリティとコントレイルの二頭に馬体を併せられて怯んでしまいシャフリヤールはコントレイルの外側にまで行ってしまう。立て直そうにも既にそこまでの力は残っておらず、オーソリティに引き離されないようにするのが精一杯であった。
結果はコントレイルが1着となり有終の美を飾り、2着がオーソリティ、シャフリヤールは3着に敗れ去り、ダービー馬対決では[6]。コントレイルはまだしも、GI未勝利のオーソリティにまで先着されてしまい、しばらくの間「いつもの早熟ダービー馬」等と揶揄されることに[7]。シャフリヤールは年内はこれで休養となった。
一方エフフォーリアとタイトルホルダーは年末のグランプリ、有馬記念へと向かっていた 。
先述の通り、エフフォーリアもタイトルホルダーも、武史騎手の騎乗によってGIを勝利した馬である。巷では武史が足りないとか言われていた。結局、武史騎手はエフフォーリアを選択。空いたタイトルホルダーの騎手はどうなるのか注目されたが、ここで武史の兄・横山和生騎手に白羽の矢が立つ。和生は横山家の長男でありデビューから既に10年が経っていたが俗に言う中堅騎手であり、一時期は1年間で500鞍にまでしか乗れないということも経験した苦労人であった。しかも年間勝利数は武史の方が上でGI勝利も弟に先を越されていた。 「武史が活躍したことによるおこぼれなんじゃないか」とも囁かれたがただの代打ではなく、彼自身の真面目さが評価されたが故であり今後も騎乗することを見越しての起用だった。
レース本番、行ったのはパンサラッサ[8]で、大外枠もありタイトルホルダーは2番手につける競馬となる。四歳勢の大将格ディープボンドは先行策。中団にグランプリ四連覇を目指す女王クロノジェネシスとエフフォーリアがつける。最初の1000mは59秒5と、2500mということを踏まえるとややハイペース気味(といってもそこまでぶっ飛ばしてるわけではない)。3コーナーに差し掛かるころにはタイトルホルダーはパンサラッサに追いつき始めるが、簡単には譲らないパンサラッサ。4コーナーを抜けてようやくタイトルホルダーが先頭に立つが、そのころにはすでに最内を突いてディープボンドが抜きかけており、それらをまとめて外からエフフォーリアが抜き去っていく。結果、エフフォーリアが1着でゴールイン。2着にディープボンド、3着には厳しいマークを受けながらもクロノジェネシスが入り、タイトルホルダーは5着に終わった。
そしてエフフォーリアの3歳で皐月賞・天皇賞(秋)・有馬記念を制するのは日本競馬史上初の快挙である。ただ勝っただけでなく三冠馬コントレイルやグランアレグリア、クロノジェネシスなど、並居る名馬を蹴散らした上での勝利は高く評価された。これらの実績によりエフフォーリアは最優秀3歳牡馬に満票で選出。しかもオルフェーヴル以来となる3歳の年度代表馬になった。主戦騎手の武史も、この年にGI5勝[9]を記録。令和を迎え、競馬界にも新たな時代の到来を予感させる1年となった。
武史と和生は、引き続きエフフォーリアとタイトルホルダーにそれぞれ騎乗することになる。
……この時はまだ、両者の選択が4歳春の明暗をくっきり分けることになるなんて、誰も予想していなかったのである。
当初阪神大賞典で復帰予定だったタイトルホルダーは、地面に脚を付けれない程の重度の筋肉痛を発症。一度は春を全休するという話にもなったが、回復は早く1週遅れの日経賞 での復帰に。天皇賞春に備え余力を残したまま迫る後続馬を差し返す形で逃げ切ってみせた。
一方シャフリヤールは49kgも激太りしてドバイの地にいた。ドバイシーマクラシック に出るためである。メンバーはBCターフの勝ち馬ユビアー、同期のオークス馬ユーバーレーベン、JCで先着されサウジシリーズで快勝してきていたオーソリティ。鞍上はC.デムーロ騎手[10]。
レースではオーソリティ逃げる形でスローペースの中番手からオーソリティをあっさりと躱し、ユビアーが猛烈な末脚を見せる中「最後はソラを使っていた」というほどの会心のレース振りで勝利し、シャフリヤールというアラビアの大王の名を背負い、その名前の通りにドバイで戴冠してみせた。
シャフリヤールがドバイで勝利したこともあり、期待度が高まっていたエフフォーリアは去年の天皇賞秋後に追った怪我の影響もありぶっつけでの大阪杯に挑む。だがスタートから10秒台のラップを刻まれるとあっさりと置き去りにされてしまい中団で捲ることも出来ず直線でも伸びあぐね、9着と大敗を喫することになってしまう。様々な理由はあったとされるが初の惨敗ということもあってか「古馬で枯れてしまったのでは」という意見も出ていた。
そしてタイトルホルダーは兼ねてからの最大目標であった天皇賞(春) へ。1番人気は阪神大賞典から乗り込んだディープボンド(2.1倍)、タイトルホルダーは怪我、枠、調教と様々な要因もあって2番人気(4.9倍)であった。
しかしレースが始まるとタイトルホルダーと横山和生騎手が斜行ギリギリで内に切れ込んで先頭に立ち、しかも菊花賞とは異なり稍重の芝の中で11~12秒台のラップを連発し息を入れたのも13秒台が一度きり。シルヴァーソニックの落馬によりほかの馬が近づきずらい状況であったということもあるが、終わってみれば上り最速のまさに「逃げて差す」走りで2着のディープボンドから7馬身も離して逃げ切勝ちを収めた。なお、父親の横山典弘も天皇賞(春)をイングランディーレで逃げ切ったのだが、その時と同じ7馬身差であり、戦いぶりは父ドゥラメンテの同期の王者キタサンブラックにそっくりだという話も出たほどである。
シャフリヤールはドヴァイで勝利を収めたあと、イギリスのアスコットで開催されるプリンスオブウェールズステークスに挑むが元々日本の不良馬場で敗れている上にアスコットの高低差20mという非常にキツイ坂で完全にバテテしまい5頭立て4着に敗れる[11]。
国内ではエフフォーリアとタイトルホルダーが宝塚記念 で再び直接対決となり、ここにはドバイターフを逃げ切ったパンサラッサ(5歳)、ディープボンド、復活を目指すデアリングタクトも乗り込み、出走希望馬があふれるほどになった。最終的にオーソリティが怪我で競走除外され17頭立てになったこの宝塚記念。
大阪杯の雪辱に燃えるエフフォーリア陣営はブリンカーまで着けて挑んで来たが、一方でタイトルホルダーの陣営は宝塚記念に勝利したら凱旋門賞へ向かうと言いながらもどこか気楽なムードがあった。
というのも元々生産者の岡田牧雄氏はアメリカ競馬を目指すべきだという持論があり、またタイトルホルダーを完成途上と見ており中距離においてはまだエフフォーリアを相手にするのは厳しいという思いがあったからである。凱旋門賞に行く提案も栗田調教師の発案であり、岡田氏もオーナーである山田弘氏に「とりあえず登録だけでも…」という事であった。そしてレースもパンサラッサには無理に着いていかず60秒台のペースで行ってほしいという指示もあったほどである。
そんな思いを他所にゲートは開かれ、抜群のスタートを決めたタイトルホルダーが先頭に立ったがほどなくしてあまり出は良くなかったもののパンサラッサが第一コーナーで先頭に立ち、タイトルホルダーは2番手に。少しでもリードを広げようと先頭の1000m通過ラップが57秒6とかいう異常なまでのハイペースに(サイレンススズカの宝塚記念が58秒6だったことを考えるといかにおかしいかが想像つくだろう)。しかし実はこのレース、全頭ハイペースなのだ。最後方のアリーヴォですら前年の先頭並のハイペースなのである。
何故ハイペースとなったかというとパンサラッサ以上にタイトルホルダーのペースが速かったからである。しかもタイトルホルダーを警戒したディープボンドとハナを狙ったアフリカンゴールドがひたすらタイトルホルダーに着いていった上、この年は京都競馬場の改修の影響で芝もそこまで傷んでいなかった。そんな超ハイペースの中エフフォーリアは前走と全く同じようにスタート後に置き去りにされ中団に。4コーナーを抜けるころにはタイトルホルダーは先頭に躍り出る。そしてきっちりと2馬身逃げ切ってGI3勝目をあげ、タイムはレコード、2分9秒7。阪神の菊花賞、阪神の天皇賞春を含めて空前絶後の阪神三冠であった[12]。
一方のエフフォーリアは3コーナーからデアリングタクトとポタジェに外から被せられてしまい、後方10番手以下では最先着であるものの超ハイペースの為に脚が溜まらず6着に沈んみ、競馬界のヒーローはエフフォーリアからタイトルホルダーに移ったといわざるを得ない状況になった。
タイトルホルダーはトリコロールの法被を携えたトップスターにされて凱旋門賞に向かうとのことである。
秋、凱旋門賞に向かったタイトルホルダー。だが、世界の壁は高かった。最終直線まで先頭で粘るも、最後は失速してしまい、日本馬最先着とは言え11着に沈んだ。
一方、シャフリヤールは天皇賞(秋)から始動。パンサラッサが大逃げを打ち、バビットが大きく離れた2番手。シャフリヤールは中団につけたが、後ろからくる3歳のイクイノックス[13]・ダノンベルーガにおいていかれ、パンサラッサを捕まえることもかなわず、始終4番手にいたジャックドールに2馬身おいていかれた5着に終わった。
その後、シャフリヤールはジャパンカップへ。今度は後方からの競馬となる。末脚を使い残り100mでヴェルトライゼンデをかわして先頭に立つが、その刹那、閃光の末脚で飛んできたヴェラアズール[14]がかわしていき、2着に終わった。
そして有馬記念。タイトルホルダーとエフフォーリアの対決となった。タイトルホルダーが先頭に立つも、直線に入るとエフフォーリアが先頭に立とうとする。だが、後ろからくるイクイノックス・ボルドグフーシュ・ジェラルディーナ[15]・イズジョーノキセキ[16]らに飲み込まれ、エフフォーリア5着、タイトルホルダーに至っては9着に沈んだ。
5歳春、エフフォーリアは京都記念から始動する。先行集団につけるが、心房細動を発症してしまい、4コーナーから失速、そのまま競走中止となってしまった。このレースを最後に彼は引退、種牡馬入りの運びとなった。日本ダービー以来の3頭の共演は、ついに実現しなかった。
シャフリヤールは2月末を以て引退する福永騎手による『ジョッキーとして最後の追い切り騎乗』で好感触をもらい、ドバイシーマクラシック連覇を目指す。
タイトルホルダーは有馬記念の大敗から春の海外転戦を諦め国内路線へ。天皇賞(春)連覇を目標に定め日経賞または大阪杯をステップにする。
シャフリヤールはドバイシーマクラシックを5着とし、台頭するイクイノックスをただ後ろで見るしかできなかった。
タイトルホルダーも日経賞は圧勝したものの、本番の天皇賞(春)ではレース中に競走中止の憂き目に遭い、春はどちらも不本意な結果しか残せなかった。
シャフリヤールはブリーダーズカップ・ターフを目標とし、札幌記念に出走するも、喉頭蓋エントラップメントを発症していたこともあり、11着に沈む。一方のタイトルホルダーもジャパンカップを目標とするためにオールカマーに出走するが、2着に敗れる。
そして本番のレース。シャフリヤールはBCターフでAuguste Rodinの3着、タイトルホルダーはイクイノックスの5着となるも、世代代表としての意地は見せつけた形となった。
シャフリヤールは香港ヴァーズ、タイトルホルダーは有馬記念へ向かう。引退が刻一刻と近づく中、どんな走りを見せてくれるだろうかとなった。ところが、シャフリヤールは不整脈の疑いで現地の獣医師から出走の許可が下りず、失意の帰国をすることに。このため、有馬記念へスライドすることになり、タイトルホルダーのラストランで、東京優駿以来の対戦が実現することになった。やはりタイトルホルダーは逃げるも、最後の直線でドウデュースとスターズオンアースに抜かされ3着、一方のシャフリヤールも先行策をとったが後ろから差し追い込みで突っ込んだドウデュースとジャスティンパレスに抜かされタイトルホルダーにも届かない5着に終わった。
先述した通り、5歳の春に皐月賞馬エフフォーリア、冬に菊花賞馬タイトルホルダーが引退した結果、6歳で現役を続けることとなったのは東京優駿馬シャフリヤールただ1頭となった。
そんなシャフリヤールが6歳初戦で走ったレースは2年前に制したが前年は5着に沈んだドバイシーマクラシック。結果としてはRebel's Romanceに屈する2着となったが、前年の3冠牝馬リバティアイランドらにはきっちり先着し、ただでは負けぬと意地を見せたのであった。
レース | エフフォーリア | シャフリヤール | タイトルホルダー |
---|---|---|---|
2021年 | |||
共同通信杯 | 1着 | 3着 | - |
皐月賞 | 1着 | - | 2着 |
東京優駿 | 2着 | 1着 | 6着 |
有馬記念 | 1着 | - | 5着 |
2022年 | |||
宝塚記念 | 6着 | - | 1着 |
有馬記念 | 5着 | - | 9着 |
2023年 | |||
有馬記念 | - | 5着 | 3着 |
上記の通り、互いに一度は先着を果たしている。
この記事は、大百科グランプリシーズン大会「シーズン2022上半期7月」において優秀賞記事に認定されました! さらなる編集を行ってよりハイクオリティな記事を目指しましょう! |
掲示板
64 ななしのよっしん
2024/04/23(火) 21:59:55 ID: lprIbmg6BW
2021年クラシック世代にリダイレクトさせるべき
65 ななしのよっしん
2024/04/23(火) 22:00:40 ID: Kq1vJdVOyb
66 ななしのよっしん
2024/04/24(水) 07:36:59 ID: m67ZhrZUfL
この記事の問題点は、評価確定前に作った結果、色々期待外れになってメンテナンス不可能になったこと
とりあえずシャフリヤール引退までは細々とメンテナンス可能だとは思う
あとは、その後の繁殖成績が出るまで書くことない
ロベルト系、ヘイロー系、ミスタープロスペクター系とバラバラなので、そこは興味深いが
後で先日のドバイシーマクラシックを追記しておく
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最終更新:2024/04/24(水) 08:00
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