北村薫(きたむら かおる)とは、日本の小説家。男性。高村薫ではない。
概要
早稲田大学のワセダミステリクラブ出身。高校の国語教師をしながら、デビュー前に創元推理文庫の「日本探偵小説全集」の編集に携わり、また本名で文庫解説を書いたり、匿名で『東西ミステリーベスト100』の作品解説をしたりしていた。
1989年、東京創元社の叢書「鮎川哲也と十三の謎」から『空飛ぶ馬』でデビュー(ちなみに同じ叢書から有栖川有栖、宮部みゆき、山口雅也がデビューしている)。殺人のような大きな事件が起こらず、日常の中の些細な謎を解き明かす、いわゆる「日常の謎」という形式をひとつのジャンルとして確立した作家である。加納朋子、米澤穂信など、北村の影響で「日常の謎」ミステリを書き始めた作家は多く、日本のミステリ界に与えた影響は計り知れない。
デビュー当初は覆面作家であったため、柔らかな筆致と主人公の女子大生の丁寧な心理描写から、作者も同年代の女性ではないかと言われていた。第2作『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞したのを機に素性を明かしているが、基本的に女性が主人公の作品が多く、『ひとがた流し』『飲めば都』のような女性小説も書いているため、未だによく知らない人からは女性と間違われることも。
代表作に、女子大生の「私」と落語家の円紫さんの交流を描く「円紫さんと私」シリーズ、二重人格の覆面作家お嬢様探偵が活躍する「覆面作家」シリーズ、時間に翻弄される人々を描く「時と人」三部作、昭和初期の上流階級を舞台にしたミステリ連作「ベッキーさん」シリーズなど。いい話・優しい話を書く作家というイメージが強いが、「円紫さん」シリーズのいくつかの作品や、単発長編の『盤上の敵』のように、どうしようもない悪意や残酷さを書かせても巧みである。優しさも悪意も、あくまで上品に描くのが北村薫流。
前述の『夜の蝉』のほか、エラリー・クイーンのパスティーシュ作品『ニッポン硬貨の謎』で本格ミステリ大賞評論部門および2006年バカミス大賞を受賞している。直木賞では五度落選(『スキップ』『ターン』『語り女たち』『ひとがた流し』『玻璃の天』)が続いたが、2009年、第141回にて『鷺と雪』で六度目の正直の受賞を果たした。2016年には第19回日本ミステリー文学大賞を受賞。2023年、『水 本の小説』で第51回泉鏡花文学賞を受賞。
小説のみならず、評論家やエッセイスト、アンソロジストとしての著作も非常に多い。元国語教師だけあって、ミステリのみならず、文学、落語、詩歌などへの造詣が非常に深く、作品にもその広く深い知識と教養が反映されている。とは言っても無駄に衒学的なわけではなく、上品で読みやすいのが北村作品の魅力。
……ではあるのだが、2009年に直木賞を獲って以降の作品はもう完全に趣味の世界に入っており、実の父親の評伝小説『いとま申して』全3巻にやたら力を入れていたり、2015年開始の『中野のお父さん』シリーズなども、もはやミステリなのか文学研究なのかよくわからない世界になっている。まあ、もともと「円紫さんと私」シリーズの第4作『六の宮の姫君』が自身の大学の卒論の小説化という文芸ミステリだったわけで、こういう方向に行くにも当然なのかもしれない。
なお、本人のミステリに対するスタンスはガチガチの「本格原理主義者」。と言っても「○○は本格じゃない」と言いたがるタイプの偏狭なマニアではなく、それとは真逆の「本格ミステリに通じる面白さがあれば何でも本格として楽しむ」タイプのマニアである。本格ミステリ作家クラブの発起人のひとりであり2代目会長。
叙述ミステリ作家の折原一は高校・大学の後輩でデビュー前から親交が深く、北村のデビューも折原のデビューに触発されたためだそうである。
作品リスト(刊行順)
小説
- 空飛ぶ馬 (1989年、東京創元社→1994年、創元推理文庫)
- 夜の蝉 (1990年、東京創元社→1996年、創元推理文庫→2005年、双葉文庫)
- 秋の花 (1991年、東京創元社→1997年、創元推理文庫)
- 覆面作家は二人いる (1991年、角川書店→1997年、角川文庫→2002年、C★NOVELS→2019年、角川文庫[新装版])
- 六の宮の姫君 (1992年、東京創元社→1999年、創元推理文庫)
- 冬のオペラ (1993年、中央公論社→1996年、C★NOVELS→2000年、中公文庫→2002年、角川文庫)
- 水に眠る (1994年、文藝春秋→1997年、文春文庫→2020年、文春文庫[新装版])
- スキップ (1995年、新潮社→1999年、新潮文庫)
- 覆面作家の愛の歌 (1995年、角川書店→1998年、角川文庫→2002年、C★NOVELS)
- 覆面作家の夢の家 (1997年、角川書店→1999年、角川文庫→2003年、C★NOVELS)
- ターン (1997年、新潮社→2000年、新潮文庫)
- 朝霧 (1998年、東京創元社→2004年、創元推理文庫)
- 月の砂漠をさばさばと (1999年、新潮社→2002年、新潮文庫)
- 盤上の敵 (1999年、講談社→2001年、講談社ノベルス→2002年、講談社文庫→2021年、講談社文庫[新装版])
- リセット (2001年、新潮社→2003年、新潮文庫)
- 街の灯 (2003年、文藝春秋→2006年、文春文庫)
- 語り女たち (2004年、新潮社→2007年、新潮文庫)
- ニッポン硬貨の謎 エラリー・クイーン最後の事件 (2005年、東京創元社→2009年、創元推理文庫)
- 紙魚家崩壊 九つの謎 (2006年、講談社→2009年、講談社ノベルス→2010年、講談社文庫)
- ひとがた流し (2006年、朝日新聞社→2009年、新潮文庫→2022年、朝日文庫)
- 玻璃の天 (2007年、文藝春秋→2009年、文春文庫)
- 1950年のバックトス (2007年、新潮社→2010年、新潮文庫)
- 野球の国のアリス (2008年、講談社ミステリーランド→2016年、講談社文庫)
- 鷺と雪 (2009年、文藝春秋→2011年、文春文庫)
- 元気でいてよ、R2-D2。 (2009年、集英社→2012年、集英社文庫→2015年、角川文庫)
- いとま申して 『童話』の人びと (2011年、文藝春秋→2013年、文春文庫)
- 飲めば都 (2011年、新潮社→2013年、新潮文庫)
- 八月の六日間 (2014年、KADOKAWA→2016年、角川文庫)
- 慶應本科と折口信夫 いとま申して2 (2014年、文藝春秋→2018年、文春文庫)
- 太宰治の辞書 (2015年、新潮社→2017年、創元推理文庫)
- 中野のお父さん (2015年、文藝春秋→2018年、文春文庫)
- 遠い唇 (2016年、KADOKAWA→2019年、角川文庫)
→ 遠い唇 北村薫自選日常の謎作品集 (2023年、角川文庫[増補版]) - ヴェネツィア便り (2017年、新潮社→2020年、新潮文庫)
- 小萩のかんざし いとま申して3 (2018年、文藝春秋→2021年、文春文庫)
- 中野のお父さんは謎を解くか (2019年、文藝春秋→2021年、文春文庫)
- 雪月花 謎解き私小説 (2020年、新潮社→2023年、新潮文庫)
- 中野のお父さんの快刀乱麻 (2021年、文藝春秋)
- 水 本の小説 (2022年、新潮社)
- 中野のお父さんと五つの謎 (2024年、文藝春秋)
- 不思議な時計 本の小説 (2024年、新潮社)
エッセイ・評論(単著)
- 謎物語 あるいは物語の謎 (1996年、中央公論社→1999年、中公文庫→2019年、創元推理文庫)
- ミステリは万華鏡 (1999年、集英社→2002年、集英社文庫→2010年、角川文庫→2021年、創元推理文庫)
- 詩歌の待ち伏せ (2002年-2003年、文藝春秋[上下巻]→2006年、文春文庫[1・2巻]→2020年、ちくま文庫[3冊合本])
- ミステリ十二か月 (2004年、中央公論新社→2008年、中公文庫)
- 続・詩歌の待ち伏せ (2005年、文藝春秋)→ 詩歌の待ち伏せ 3 (2009年、文春文庫)
- 北村薫のミステリびっくり箱 (2007年、角川書店→2010年、角川文庫)
- 北村薫の創作表現講義 あなたを読む、わたしを書く (2008年、新潮選書)
- 自分だけの一冊 北村薫のアンソロジー教室 (2010年、新潮新書)
- 読まずにはいられない 北村薫のエッセイ (2012年、新潮社)
- 書かずにはいられない 北村薫のエッセイ (2014年、新潮社)
- うた合わせ 北村薫の百人一首 (2016年、新潮社→2019年、新潮文庫)
- 愛さずにいられない 北村薫のエッセイ (2017年、新潮社)
- 本と幸せ Kaoru Kitamura 30th Anniversary (2019年、新潮社)
- ユーカリの木の蔭で (2020年、本の雑誌社)
- 神様のお父さん ユーカリの木の蔭で2 (2023年、本の雑誌社)
関連動画
関連項目
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 森博嗣
- 西尾維新
- 甲田学人
- 有栖川有栖
- 小林泰三
- 貴志祐介
- 芦辺拓
- 横山秀夫
- 芥川龍之介
- 宮部みゆき
- 歌野晶午
- 島田荘司
- 伊坂幸太郎
- 石持浅海
- 東野圭吾
- 森見登美彦
- 殊能将之
- 法月綸太郎
- 黒田研二
- 恩田陸
- 星新一
- 北山猛邦
- 深水黎一郎
- 綾辻行人
- 大沢在昌
- 田中芳樹
- 小松左京
- 古処誠二
- 浅暮三文
- 浦賀和宏
- 小川一水
- 時雨沢恵一
- 神林長平
- 田中啓文
- 伊藤計劃
- 舞城王太郎
- 神坂一
- 麻耶雄嵩
- 乾くるみ
- 加納朋子
- 貫井徳郎
- 川原礫
- 奥田英朗
- 長谷敏司
- 石田衣良
- 小野不由美
- 今野敏
- 水野良
- 有川浩
- 詠坂雄二
- 氷川透
- 東川篤哉
- 道尾秀介
- 西村京太郎
- 米澤穂信
- 万城目学
- 森岡浩之
- 三崎亜記
- 古泉迦十
- 海堂尊
- グレッグ・イーガン
- 西村賢太
- 円城塔
- 田辺青蛙
- 田中慎弥
- 岩井志麻子
- 笹本祐一
- 朱川湊人
- 三田誠
- 真保裕一
- 品川ヒロシ
- 月村了衛
- 辻村深月
- 真梨幸子
- 佐々木譲
- 赤川次郎
- 梶尾真治
- 井上夢人
- 瀬名秀明
- 荻原規子
- 竹本健治
- はやみねかおる
- 池井戸潤
- 山田風太郎
- 船戸与一
- 北方謙三
- 連城三紀彦
- 高村薫
- 湊かなえ
- 三津田信三
- 誉田哲也
- 野崎まど
- 中山七里
- 似鳥鶏
- 泡坂妻夫
- 桐野夏生
- 倉知淳
- 黒川博行
- 広瀬正
- 相沢沙呼
- 皆川博子
- 牧野修
- 稲見一良
- 恒川光太郎
- 西澤保彦
- ジョージ・オーウェル
- 天藤真
- 町井登志夫
- 今邑彩
- ピエール・ルメートル
- 初野晴
- 羽田圭介
- 岡嶋二人
- 石川博品
- 藤井太洋
- 江戸川乱歩
- 若竹七海
- アガサ・クリスティ
- エラリー・クイーン
- 島本理生
- 横溝正史
- アーサー・C・クラーク
- 須賀しのぶ
- 篠田節子
- 宮内悠介
- 青山文平
- 真藤順丈
- 円居挽
- 松本清張
- 芦沢央
- 内田幹樹
- 細音啓
- 折原一
- 早坂吝
- 呉勝浩
- 西村寿行
- 久住四季
- 月夜涙
- 高木彬光
- 遠田潤子
- 中村文則
- 鮎川哲也
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