世界の奇書をゆっくり解説とは、Alt + F4
氏(三崎律日氏)によるゆっくり解説作品である。
概要
本シリーズは、有史以来生まれつづけている様々な書物の中からいわゆる奇書にカテゴライズされる作品を解説する。
一部の動画は、softalkが苦手な人のために136氏の朗読による修正版も投稿されている(2019年08月現在第01回・02回の2本)。
シリーズは本編・番外編で構成されている。本編で紹介される奇書は主にスキャンダル、学問の発展、世相の変化に伴い結果的に奇書になってしまったものである。それに対して番外編で紹介される「奇書」は成立当初の価値観で見ると奇書そのものだが、現代の目で見ると社会を支える根本概念の基となった甚だしく重要な「奇書」であり、その本の成立から思想や技術が変化していく過程に焦点が当てられている。
当該回には作者の意図を汲み取ったコメントが多くされたため、「訓練されたコメント」タグが貼られている。
本動画シリーズをまとめた本が『奇書の世界史』『奇書の世界史2』として書籍化されている。これまでの動画内容に加えて書き下ろしも収録されているので買いましょう。詳細は下記告知動画を。
ちなみにうp主のツイッターによると、著者名「三崎律日」は「奇書 往」(奇書がないと往ってしまう)のもじり
である。またペンネームの読みは、本人にこだわりは無いものの、著書の奥付によると「みさき りつか」、本人のツイートによると「みさき りっか」
のようだ。
紹介作品
| 第 01 回 |
『魔女に与える鉄槌』 (Malleus Maleficārum) |
ハインリヒ・クラーマー/ヤーコプ・シュプレンガー (Heinrich Kramer / Jakob Sprenger) |
|
|---|---|---|---|
|
「本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる。」 |
|||
| 第 02 回 |
『台湾誌』 (a Description of Formosa) |
ジョルジュ・サルマナザール (George Psalmanazar) |
|
| 第 03 回 |
未詳 通称『ヴォイニッチ手稿』 (Voynich Manuscript) |
著:未詳/発見:ウィルフリッド・ヴォイニッチ(Wilfrid Michael Voynich) | |
|
「あらゆる達成は、人生においても芸術においても、行き止まりである。」 エミール・シオラン(Emil Mihai Cioran) |
|||
| 第 04 回 |
東京朝日新聞連載コラム 『野球と其害毒』 |
新渡戸稲造 他 | |
|
「人間は、それぞれ考え方や、ものの見方が違うのが当然である。その違いを認め合い、受け入れられる広い心を持つことが大切である。」 ——新渡戸稲造 |
|||
| 第 05 回 |
『非現実の王国で』 (in the Realms of Unreal) |
ヘンリー・ダーガー (Henry Joseph Darger, Jr.) |
|
|
「おお、誓ってくれ、作り話を信じると、ずっと虚構だけに忠実でいると、魂を牢獄に閉じ込めたりしないと、手を伸ばしここに壁があるなどと言わないと。」 ——ウラジーミル・ナボコフ (Владимир Владимирович Набоков) |
|||
| 番 外 編 第 01 回 |
『天体の回転について』 (dē Revolūtiōnibus Orbium Coelestium) |
ニコラウス・コペルニクス (Nīcolāus Copernicus) |
|
|
「下を見下ろせば上が見え、上を見上げれば下が見える。」 —— ラテン語格言 ティコ・ブラーエ(Tycho Brahe) |
|||
| 第 06 回 |
『フラーレンによる52Kでの超電導』 (Superconductivity at 52K in Hole-Doped C60) |
ヤン・ヘンドリック・シェーン 他 (Jan Hendrik Schön) |
|
|
「虚偽を加味することは、金銀貨の混合物のように金属をより実用に役立たせるかもしれないが、その質を低下させる。」 |
|||
| 第 07 回 |
『軟膏をぬぐうスポンジ』 (a Sponge to Wipe Away the Weapon-Salve) |
ウィリアム・フォスター (William Foster) |
|
| 『パーソン司祭のスポンジの絞り上げ』 (the Squeezing of Parson Foster's Sponge) |
ロバート・フラッド (Robert Fludd) |
||
|
「ある真実を教えることよりも、いつも真実を見出すにはどうしなければならないかを教えることが問題なのだ。」 |
|||
| 番 外 編 第 02 回 |
『物の本質について』 (dē Rērum Nātūrā) |
ルクレティウス (Titus Lucrētius Cārus) |
|
|
「悪魔というものが実際に存在せず、ただ人間が創ったものだとすれば、悪魔は人間そっくりに創られているにちがいない。」 ——フョードル・ドストエフスキー(Фёдор Михайлович Достоевский) |
|||
| 第 08 回 |
『サンゴルスキーのルバイヤート』 (the Rubáiyát of Sangorski) |
著:ウマル・ハイヤーム/訳:エドワード・フィッツジェラルド/装丁:フランシス・サンゴルスキー (Omar Hayyâm / Edward FitzGerald / Francis Sangorski) |
|
| 『ルバイヤート』 ( رُبَاعِیَاتِ عُمَرْ خَیَّامْ / Robâ'iyât-e 'Omar Khayyâm) |
著:ウマル・ハイヤーム ( عُمَرْ خَیَّامْ / 'Omar Khayyâm) |
||
| 第 09 回 |
『ビリティスの歌』 (les Chansons de Bilitis) |
作:ビリティス/発見:ゲ=ハイム/訳:ピエール・ルイス ( Bilitis / G. Heim / Pierre Louÿs) |
|
|
「いちばん嫌らしい虚言は、いちばん真実に近い虚言だ。」 ——アンドレ・ジッド(André Paul Guillaume Gide) |
|||
| 番 外 編 第 03 回 |
『月世界旅行』 (de la Terre à la Lune / Autour de la Lune) |
ジュール・ヴェルヌ (Jules Gabriel Verne) |
|
|
「現実は夢を破壊することがある。ならば、夢が現実を破壊することだってあってよいではないか。」 ——ジョージ・ムーア(George Augustus Moore) |
|||
| 告 知 編 |
うp主の本『奇書の世界史』の宣伝 | 三崎律日(うp主) | |
|
「私は、自分がこれまでに読んだすべてのものの一部である。」 |
|||
| 第 10 回 |
『盂蘭盆経』 (उल्लम्बन सूत्र|ओदन सूत्र / Ullambana-Sūtra|Odana-Sūtra / YúLánPén-Jīng) |
作:未詳 漢訳:竺法護 (धर्मरक्ष / Zhú FǎHù) |
|
|
「未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん。」 |
|||
| 第 11 回 |
『疫神の詫び証文』他 疫病への民間信仰的対策 |
作:未詳 | |
| 第 12 回 |
『農業生物学』 (Агровиология) |
トロフィム・ルイセンコ(Трофим Денисович Лысенко) | |
|
「『人間は特定の化学元素のみによって構成される』と言う説明では、人間を肥料として使うつもりの者達しか納得しないだろう。」 |
|||
| 第 13 回 |
『シオン賢者の議定書』 (Протоколы сионских мудрецов) |
著:ピョートル・ラチコフスキー(Пётр Иванович Рачковский) | |
|
「あなたが望むなら、それはお伽噺ではなくなる。」 |
|||
| 第 14 回 |
『最初の書』 (Liber Prīmus) |
著:Cicada 3301 | |
|
「暗号技術を活用する際、あなたがその暗号技術を理解している必要はない。汎用的な既存の暗号とそのツールを利用すればよい。」 —— ジェフリー・シラー(Jeffrey I. Schiller) |
|||
| 番 外 編 第 04 回 |
『産褥熱の病理、概要と予防法』 (die Ätiologie, der Begriff und die Prophylaxis des Kindbettfiebers) |
著:センメルヴェイス・イグナーツ・フュレプ (Semmelweis Ignác Fülöp) |
|
|
「国家 諸民族の内面の歴史は非常に異なった二つの水源から始まる。人類の叡智の進歩、つまり文化の歴史と、もう一つは人類の苦痛の記憶、つまり医学の歴史である。」 ――ルードルフ・フィルヒョ(Rudolf Ludwig Carl Virchow) |
|||
| 番 外 編 第 P 回 |
『偉大なるパンジャンドラム』 (the Great Panjandrum Himself) |
著:サミュエル・フット(Samuel Foote) | |
|
「ゲームというのは負けたときでも楽しいものさ。たとえゲームをはじめる前から負けるのがわかってるとしてもだ。」 |
|||
| 第 15 回 |
『ノストラダムス師の予言集』 (les Propheties de M. Michel Nostradamus) |
著:ミシェル・ノストラダムス(Michel Nostradamus) | |
|
「50億年後には、膨張した太陽が我々の軌道を飲み込み、かつて地球だった黒焦げの塊を蒸発させることでしょう。良い一日を。」 |
|||
| 告 知 編 |
うp主の本『奇書の世界史2』の宣伝 | 三崎律日(うp主) | |
|
「紅葉を花と呼ぶのなら 秋は第二の春である」 |
|||
| 第 16 回 |
『毛細管内での凝縮に伴う水の構造変化について』 ( Об изменении структуры воды при конденсации в капиллярах Изменения в структуре воды при конденсации в капиллярах ) |
著:ニコラーイ・フェドヤーキン(Николай Николаевич Федякин) | |
| 第 17 回 |
知覚の扉 ( The doors of perception ) |
著:オルダス・ハクスレー(Aldous Huxley) | |
| 第 18 回 |
ドクトル・ジヴァゴ ( Доктор Живаго / Doctor Zhivago ) |
著:ボリス・パステルナーク(Борис Пастернак / Boris Pasternak) | |
|
—— M. ゴーリキー |
|||
| 第 19 回 |
懐疑的天文学 : 非球たる地球 ( Zetetic Astronomy: Earth Not a Globe ) |
著:サミュエル・“パララックス”・ロウボサム(Samuel "Parallax" Rowbotham) | |
| 第 20 回 |
ベティ・クロッカーのお料理ブック ( Betty Crocker's Picture Cookbook ) |
著:ベティ・クロッカー(Betty Crocker) | |
|
レシピに魂はありません。 |
|||
動画冒頭の箴言にかんする補足
「本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる。」
- この格言はこの日本語訳で既に広まっているが、誤解を生みやすい意訳である。正しくは「本を焼いているあの場所で、ついに人まで焼きだしている」である。
- 出典はドイツの詩人、ハイネの長編詩『アルマンゾル』である。(注意:以下に書くのは歴史を元にしているが、あくまでハイネが描いた話である。)
- 舞台はカスティーリャ王国によるレコンキスタ運動が佳境に入り、イスラーム王朝グラナダ王国が陥落した直後である。グラナダに侵入したのはカスティーリャ軍のみならず、教会の代表としてカトリックの修道会もムーア人(入植ムスリム・アラブ人と現地スペイン人の混血)に対して略奪・乱暴を働いていた。
- 問題となる台詞は、主人公アルマンゾル・ベン=アブドゥラーがキリスト教徒から身を隠す途中で元家来のハサンと再会し、思い出や近況を語り合う流れででてくる。二人が語るのはムスリムに対する弾圧。侵略して好き放題するキリスト教徒に改宗を強制され、大半のムスリムが従ってしまう。それでも抵抗する一部のムスリムに対し、キリスト教徒がコーランを回収し燃やす弾圧にくわえ、ムスリム自体も火刑で虐殺する段階にいたったのである。「あれは序の口にすぎなかった。本を焼くあの場所で、ついに人まで焼くようになった。」
- これを踏まえると「本」は「コーラン」、「人」は「ムスリム」のことである。ついでに言えば原文の主語 man は主語をぼやかして言うときに使われる代名詞だが、この場合は明らかに「キリスト教徒」のことである。
- 冒頭の格言が引用されたとき、多くの場合「思想・表現の自由を軽視する為政者は一般国民の命を軽視する。だから思想・表現の自由は尊重されるべきであり、弾圧する為政者に対しては警戒しろ」という一般論を示す趣旨でなされるが、上記のとおり実際の文脈では「キリスト教徒はムスリムの信仰の自由を無理やり奪おうとして今度はムスリムを殺しはじめた」という、作品内で実際に起きた戦争被害に憤慨するものである。
- よって『魔女に与える鉄槌』に付された冒頭の格言は、「火」がキーワードと理解するだけでなく、「異教・他宗派・異性に対する無理解・優越感は人として超えてはいけないハードルを容易に越えるきっかけになる」と理解すべきである。
- 一言でいえば、ハイネによる冒頭の格言が文脈通りに引用されるなら「思想・表現の自由についての政治論」ではなく「主に宗教による他集団との接し方についての異文化論」としてである。
「おお、誓ってくれ、作り話を信じると、ずっと虚構だけに忠実でいると、魂を牢獄に閉じ込めたりしないと、手を伸ばしここに壁があるなどと言わないと。」
- この引用文はナボコフの小説内のセリフで、主人公が亡命先のベルリンで深夜の密会をする際、暗闇で想い人を待つ間に漏らした言葉である。
- 主人公は亡命生活の傍らロシア語の小説を執筆しているが評価されていない。アイディア出しのために日々夢想するが、書き上げてしまうと一気に現実に引き戻されつらくなってしまう。主人公はそうした楽しい夢想とつらい現実を評して、創作行為のために心が迷い込んだ「作り話(幻想)」の世界であるとか、それでも実際に自分が生きているのはただの現実という「牢獄」であるという趣旨のことを考えている。
- 冒頭の格言を見返そう。「作り話」「虚構」は自身が魂の拠りどころとしている創作世界であり、現実から自由でいられる空想世界である。昼間はよそよそしい想い人と真に向き合える夜の世界を、そうした幻影の世界の一部に感じており、このままこの世界に想い人と埋没したいと告白している。一方、「牢獄」は自身の高揚が一時的なものでしかないと気づき冷めてしまう現実世界で、「壁」とは牢獄の壁のことである。
- 誤解を恐れずにいうと、ネットゲーム内で結婚して舞い上がり「ネトゲこそメインの人生! 現実の世界から脱出だ! 液晶モニタの中の虚構とか言う奴がいたらぶちますよ!」とまくし立てるのと同じ発想で、現実から目をそらして深夜の逢引を楽しみたいと言っている。
- 以上の点を踏まえた上で、発表する気のない『非現実の王国で』の制作に埋没したことでダーガーが人生の大半を使い潰してしまった点を思い起こしたい。
「下を見下ろせば上が見え、上を見上げれば下が見える。」
- 動画中にも登場したティコ・ブラーエのもの。
- 中世ヨーロッパの科学観はアリストテレースやプトレマイオスら古代ギリシア哲学をキリスト教神学に合うように改変したもので、「この世界のあり方・変化はすべて神がもたらしたものか、神の代理人が代わりにしたものだ」というドグマを抱えており、最終的に神のすばらしさを称えるためのおかずだった。その例としてプトレマイオス的宇宙観やガレーノス的人体観にみられるマクロコスモス・ミクロコスモス
(大宇宙・小宇宙)という錬金術思想である。
- 人間は神が創造した生物の中でもっとも優れた存在であり、それは神に似せた姿で創られたからである。地上界の上にある天上界は人智を超えた存在で、やはり神に似た姿をしている。マクロコスモスとミクロコスモス、宇宙と各人の体は神智学的にみるとパーツごとにきれいに対応した構造を持っている。
- ティコ・ブラーエのいう「上を見る」は視線を上に向けて星を見る、つまりマクロコスモスを研究することである。また「下を見る」は視線を下に向けて自分の身体を見る、つまりミクロコスモスを研究することである。マクロコスモスの研究はミクロコスモスの研究であり、ミクロコスモスの研究はマクロコスモスの研究である。そしてそれは神を研究する学問の一領域でもある。
- そういう意味でブラーエの格言は、研究を貪欲に進めようとする研究者の声明でありながら、同時に後世で本人の研究が評価されるごとに薄れていく迷信の残り香ともいえる。
- この格言はドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』で、神が存在しないことを議論する途中で出てきた台詞である。
- この台詞に対する返答は「ちょうど人が神を創ったようにかね?」である。ルクレティウスの無神論的側面を想起されたい。
「いちばん嫌らしい虚言は、いちばん真実に近い虚言だ。」
- 引用元はアンドレ・ジッドの自伝小説だが、作中でこの発言をした人物はオスカー・ワイルドである。
- アンドレ・ジッドはピエール・ルイスにとって学生時代からの親友である。
- これはルイスがオスカー・ワイルドの傲慢さ・性的だらしなさに我慢できずに絶交した際、ワイルドから言われたとされる一言をジッドがルイス本人の口から聞き、後日ジッドから聞かされたワイルドが愕然として漏らしたもの。
- ワイルドの発言「僕は友達が一人欲しかったけれど、これからは恋人しか残らない」は「君はもう友達ではないが、かつての恋人のような特別な存在として心に居座り続ける」という趣旨だったが、ルイスには「僕が友達を欲しがっていると勘違いしていたようだけど、最初から恋人しか要らなかった」と受け取られた。
- なおこの行き違いは二人が同性もイケるタチだった、つまり同性を「恋人」と呼んでも通じてしまうことからこそ起きたといえる。
「災厄の後、我、再び立ち上がらん」について。
- 元々はエジプトの不死鳥・フェニックスについて表すラテン語の標語で、いくつかのイタリアの都市でも同じフレーズを市の標語に定めている。
- 原語 "Post fāta resurgō." の fāta はここでは「災厄」と訳されているが、ラテン語的には fātum の複数形 fāta はしばしば「死」と訳される。また resurgō に意志の用法は無いため、これを加味した訳「死んだ後、私は再び立ち上がる」だとよりフェニックスのことだと理解できるだろう。
- この標語は本来はフェニックスについて語る一文だが、歴史的に火山噴火からの復興を表してきたものであり、動画では自然的災害からの復興を表す趣旨で引用されているようだ。
- ローマ帝国衰退の一因にヴェスヴィオ火山噴火によるポンペイ滅亡がある。トッレ・デル・グレコはポンペイと大変に近い立地にあり、ポンペイ滅亡の際はポンペイに劣らぬ大損害を被っており、伝統的にこの標語は市と密接にかかわる標語と目されるようだ。1794年(フランスではテルミドールのクーデターが起きた年)にもヴェスヴィオ火山の噴火で市内は壊滅したが、復興にあたってはこの標語を合言葉にしていた。
「あなたが望むなら、それはお伽噺ではなくなる。」について。
- この回を見るだけだと「ユダヤ人可哀想。レイシスト死ね」に落ち着く。しかし本動画シリーズは単なる書物紹介ではなく、「我々現代人が当たり前に持つ感覚は本当に平等か、考える機会に」だと思われる。
- 引用元のテーオドール・ヘルツルはシオニズム運動の中心的人物。当時既にパレスチナ人(=現地住民)が住んでいる宗教的係争地・エルサレムに近代国家イスラエルを再興する計画を立て、精力的に宣伝した。冒頭の言葉はイスラエル建国を宣伝するものとして、実際に建国される数十年前に書かれたものである。
- イスラエルは建国後、幾度となく瀕した国家消滅の危機を乗り越えるべく、強烈な国民意識をそなえた軍事国家に成長した。第二次世界大戦の話題になるとユダヤ人圧力団体の活動がドイツへの優勢を維持する目的でされることがままあるなど、イスラエルの歴史を見ると、ユダヤ人が一方的な被害者ではないことも意識する必要が有ると思われる。
- この箴言は以下の文脈の下で論じられている。
- ナポレオン曰く「世界史とは単なる戦争と和平条約の記録以外の何ものでもない」と。これは誤りである。戦争史は、民族の外面的な歴史にすぎない。それでは民族の内面的な歴史とは?
- 「○○人」が栄えたか、強いかを記録するのは戦争の記録の連続になる。だがこれは政治的にどうだったか記録しただけで、社会の豊かさや暮らしやすさをまったく反映していない。
- タコツボ的な学問の縦割りを乗り越えるために、昨今の学者の研究は 学際的な取り組みが多く行なわれている。史学においては文化史・医学史など「○○の歴史」というアプローチがメインの方法論の一つとなっている。その点でフィルヒョの学説は時代の最前線を行っていたといえる。動画中ではフィルヒョは学会を牛耳る抵抗勢力だったが、医学の世界史においては間違いなく特大の重要人物である。
- その一方、フィルヒョの活動は大きくわけて3つの時代に区分できる。
- 「読書の秋」と言われるように、一見すると春の陽気・読書をつなぐステキな内容にみえる。が、カミュの戯曲『誤解』における文脈ではむしろ真逆である。
- ジャンが家出して伴侶を得たため、正体を隠して実家の旅館に宿泊しにいった場面。妹マルタはジャンが騙った出身から地中海の豊かな様子を想像して羨む。
マルタ 「素晴らしいわ。ここでは春といっても、修道院の庭にバラが一輪咲いて芽が二つ出ただけ。(軽蔑の気持ちをこめて)この国の人たちはそれでもう大騒ぎするんですから。あの人たちの心も、そのけちくさいバラそっくりですわ。少し強い風が一吹きすればたちまちしぼんでしまう。お似合いの春ですわ。」
ジャン 「そうばかりとも言えないでしょう。秋もあるではありませんか。」
マルタ 「秋って何のことですの?」
ジャン 「いわば二度目の春です。木の葉という木の葉がまるで花のようになる。(彼女を執拗に見つめる)人間だって、もし我慢強く手をかしてやればきっと同じように花が咲くでしょう。」
マルタ 「私はもうこんなヨーロッパには我慢がならないんです。秋といっても春と変りはなし、春は春で惨めな匂いがする。でも、あのもう一つの別の国のことを想像すると、私は無常の喜びを感じます。夏はあらゆるものを焼きつくし、冬の雨は町々を水びたしにする国、そう、なんでもありのままの姿でそこにある国のことを。」
- ジャンが家出して伴侶を得たため、正体を隠して実家の旅館に宿泊しにいった場面。妹マルタはジャンが騙った出身から地中海の豊かな様子を想像して羨む。
- ジャンは出身地を偽り、行ったこともない地について語った。マルタはそれを聞き、春だろうと秋だろうとフランス自体が偽りの賑わいだと言う。
- 『誤解』が書かれたのは第二次世界大戦中 ナチスドイツ占領下のフランスである。屈辱的な講和条約を結び、ナチスドイツに工場労働者を強制徴用され荒廃したフランスを前提に、偽りの賑わいを論じたものだ。
- この回の冒頭箴言に限っていうと、元の文脈を離れ、文字通りの単純な理解で進めた方がよさそうである。
関連動画
関連商品
関連項目
関連リンク
- 18
- 0pt
- ページ番号: 5495004
- リビジョン番号: 3277768
- 編集内容についての説明/コメント:

