ここでは地球防衛軍3の兵器のうち「アサルトライフル 」について記述する。
・他の兵器については「地球防衛軍3の兵器(ネタ記事)」の総目録を参照とする。
![]() |
この記事は高濃度のフィクション成分を含んでいます! この記事は編集者の妄想の塊です。ネタなので本気にしないでください。 |
目次
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- 概要
EDFが陸戦隊用に採用している主力装備であり、米国アーマライト社のM16A4を原型としている。
当初は新開発したAR-21の提案を予定していた同社だが、ロシア政府が後押しするイジェマッシ社の新型ラ イフルAK-111との競合に敗れることを恐れ、2011年に開発されたM16の現行モデルを提案、EDFの上層部 に太いパイプを持つアメリカ国防総省の助力を得て正式採用を勝ち取った。なおEDFの“現場”からは米国コルト・ファイヤーアームズ社のM4カービンを望む声が多かったとも言われてい る。
アサルトライフルに限らずEDFの統一装備プログラムは世界規模の超大口契約であり、またフォーリナー到着後は世界統一政府が発足して国家間戦争 はもちろん低烈度紛争すら根絶されるというユートピア論(宇宙人から授けられる叡智によって自然破壊も貧困も解決される筈というアレである) が世間を賑わせていたため、株価暴落に始まる部門売却や買収合併で混乱の極みに達していた軍需産業界は、まるで世界大戦前夜のごとき様相を呈した。各兵器メーカーは空前絶 後のプレゼンテーションを頻繁に行い、贈収賄で起訴される者が後を絶たず、採用トライアルの舞台裏はさながら冷戦時代の諜報戦を思わせる有様であった。
正式配備されたEDF仕様のアサルトライフルはAFモデルと呼ばれており、EDF先進技術開発研究所(あの功名と悪名 を兼ね備えたEDF兵器研究開発チームの根城である)による改良によってM16の欠点(欠陥ではない)をほぼ克服している。とくに新素材 の採用による内部構造の小型最適化は素晴らしく、整備性と拡張性が大幅に向上。初期のAF14こそ有効射程や集弾性などでオリジナルに劣ったが、すぐに改善され、大戦中の劣悪な環境 においても様々な派生型を生み出した。
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF14(SMsjB9Y8Mm さん原案・トウフウドン加筆)
西暦2010年、米国アーマライト社はM16A2の改良型であるM16A4をベースに新型ライフルの開発を進めていた。M16に欠けていた諸性能の改善を目的と したXライフルの開発は順調に進んでいたが、合衆国諸州におけるアサルトウェポン禁止法の施行と全米ライフル協会の不祥事に始まる混乱と規制によって経営が急速に悪化、M16ベース の開発は採算が見合わないと判断された。
西暦2011年、Xライフルの開発計画は破棄され、完成間近だった試作品はイリノイ州にあるアーマライト社本社施設の片隅に保管された。
この試作ライフルM16Xは、しばらくの間、その存在を忘れられることとなる。
西暦2013年、地球人類史に残る一大事件が起こった。
北米のニューメキシコ州ソコロに立ち並ぶ超大型干渉電波望遠鏡群が、極めて指向性の強い電波を受信したのである。それはビームと言っても過言 ではない超精密指向性電磁波であり、大気を貫いても“威力”は損なわれず、“直撃”を受けた数基の電波望遠鏡が破損する程であった。
電波は一度だけではなかった。
まるで潜水艦がソナー波で海中の目標を探るように、謎の強力な電波は一定間隔で地球に到達し、世界各地で観測された(その度に天文観測施設で機器が故障し、軍事、民間を問わず様々な電子機器が壊れて天文学的な金額に及ぶ被害が発生した)。
当初こそ宇宙規模の自然災害や大国の秘密兵器実験が疑われたが、数ヵ月後に国連総会の場で公式に「宇宙人」の存在が明言され、事態は決定的と なった。
「宇宙からの電波は宇宙人からの信号だった!」
「地球外知的生命体! 遂に発見か!」
「宇宙人来たる!? 地球に向けて接近中!?」
2013年の話題は、明けても暮れてもそれに尽きた。
2014年、無邪気に騒いでいた人々も、少しずつではあるが、ある疑問を抱き始めた。
――彼らは何のために、地球を目指しているのだろう。
恒星系の外はおろか、隣の惑星までの有人飛行すら未だ達成していない人類(2012年の米露日による火星有人探査 計画がテロを装った破壊工作で失敗して以後、宇宙開発は米中の政治的対立によって停滞していた)にとって、外宇宙からやって来る異星人の文明、科学技術レベルは想像の域を 越えており、様々な憶測が飛び交った。
やって来るのが異星人の乗った宇宙船なのか、あるいは彼らが何千年、何億年も昔に送り出した無人探査機なのか。それを探ろうとする試みは例の 強力な電波によって阻まれ(現在では一種のジャミングであったと考えられている)、人類は自らの行いを省みて想像する他になかった。
「我々がどこから来て、どこへ行くのか、全く見当もつかない。分かっているのは、その過程で誰かが誰かを殺し、犯し、生命と財産を奪うというこ とだけである」
「悪行を犯す者は常に怯えている。彼らが悪意を手放せないのは、他者に映る己を恐れているからである」
「高度な文明を持った宇宙人が、何百万光年も星の海を渡って地球にまで来て侵略なんかする訳ない、だって? 将来、人類が宇宙旅行を出来るよう になったとして、戦争や犯罪がなくなると思うかい? ロケットが発明されて我々が最初に考えたのは、より遠くに爆弾を落とすことじゃなかったかな」
誰の胸にも、黒い予感が溜まり始めていた。
それまで一笑にふしてきた「宇宙人の侵略」という空想物語が、疑いようのない未来として現実感を帯び始めてきたのである。
圧倒的多数の人々が不安から目を背け、異星人(この頃から広まり始め、後に公式名称となったフォーリナー: foreigner:異邦人という呼び名のニュアンスからも分かる通り、期待と警戒心の入り混じった複雑な心情を人類は抱いていた)歓迎のための準備に明け暮れる中、2015年に一つ の政策が発案された。
地球防衛軍構想である。
公式には国連主導による世界統一政府樹立のための政策の一環と喧伝され、世間からは「エイリアン・シンドロームの好戦主義者を隔離するための 政策」とまで痛烈に非難されたEDF構想であるが、水面下では「地球人類に敵対的な異星文明に対する超法規的武装集団(文化財を含むあらゆる建造物の 接収や破壊が容認されていながら、暴徒化した民間人に襲われても自衛行動を許されないという歪な立場ではあったが)」として先進国と多国籍企業の協力(と妨害)の下で整備が進んでおり、EDF統一装備プログラムに関する軍需産業界の大騒動にはアーマライト社も勇んで参加した。
アーマライト社が狙っていたのは、無論、ライフル部門での正式採用であり、そのために同社は2014年に新型アサルトライフル開発計画「Assault- rifle-Frontier-2014」通称AF14計画をスタートさせていたが……計画は難航していた。
先の業績悪化による経営および資本力の低迷、全米ライフル協会の没落によるコネクションの消失、そして事業縮小に伴うリストラや他社からのヘ ッドハンティングで優秀な技術者を始めとする多数のスタッフを失っていていたのである。
当時の投資家向け資料によればアーマライト社はAF14計画においてAR-18ライフルの後継であるAR-21の開発を行っていたらしいが、実際のところ開 発は難航し、時間と資金の悪戯な消費に終始していたと言われている。
一方、ロシアのイジェマッシ社はアサルトライフルの世界的ベストセラーであるAKアサルトライフルの最新型としてAK-111を開発、EDF構想自体とは 距離を置いていたロシア連邦政府も(正式採用された際の見返 りの大きさに)同社を後押ししていた。
西暦2016年の初頭には、モスクワでロシア政府主催の兵器ショーが開催されて盛況の内に幕を閉じ、Izhmash-AK-111の採用はほぼ確実との評判が流 れ始めた。
ロシアからエコノミークラスで帰国したアーマライト社のある社員は、意気消沈した様子で本社に戻り、窓際のデスクに腰かけて外を眺めた。
「転職先を探すかなぁ」
苦いだけのインスタントコーヒーを啜った彼は腰を上げ、資料保管室へと向かった。同業他社へ転職するなら――有益か無益かはさておき――何か 情報の一つでも持っていかなければ……そうして資料室で書類を物色し始めたが、しばらくして「犯罪じゃないか」と思い直し、その場に座り込んだ。
「大人しく親父の農場を継ぐか……」
呟いて視線を泳がせた先に、書類棚の合間に、見慣れないケースが押し込まれていた。
「なんだ、こりゃ」
1メートルに満たない粗末なケースだった。
引っぱり出し、埃を払う。
「M16……X?」
ケースを開けた彼は、息を呑んだのも束の間、転がるように走って上司の元へと向かい、ドアを叩き開けて叫んだ。
「ボス! まだ我が社は戦えます!」
西暦2016年、国連の世界統一政府準備委員会はEDFの各種装備の採用トライアルの実施を通達。ユートピア論(異星 人の来訪によって世界が“良い方向”に変わるという事実無根、根拠不明の主張であるが、当時は世間を圧巻していた)によって倒産と吸収合併が進み、半数以下になっていた大 小の軍需メーカーのほぼ全てが参加した。
ライフル部門のトライアルの結果は、多くの者の予想を裏切る結果に終わった。
有力候補のAK-111が敗れ、アーマライト社のM16M4が採用されたのである。
「……よくも茶番に付き合わせてくれたな」
建設中のEDF北米総司令部の会議室で、イジェマッシ社幹部とロシア政府関係者は静かに立ち上がり、出席者を睨んだ後、退席した。
彼らが言い放った通り、採用トライアルにおいてはアーマライト社がEDF内のアメリカ勢力と米国国防総省……最終的にはホワイトハウスを経由して 世界統一政府準備委員会にまで、ありとあらゆる手段と用いて便宜を取り付けており、まさしく茶番劇に等しい審査会であった。
会議の席で説明された最新型のAK-111が既存のM16A4に敗れた理由も「アメリカ軍の正式採用ライフルとして培われた信頼性を評価した」という説得 力に欠けるものであった(この一件によってロシア政府のEDF離れは決定的となり、サンクトペテルブルクに建設中だったEDF白ロシア方面軍司令部はシ ベリアへ移設されることになった)。
ではM16A4……正式名称ArmaLite-M16-A4XLの性能に問題があったかと言えば、そうではなかった。採用トライアルの直前にアーマライト社内で偶然 発見された試作ライフルM16Xはほぼ完成状態にあり、従来のM16A4に比べて全体的に性能が底上げされていたのである(仮にAR-21が完成していたところ で、実戦証明のない新型同士となれば、性能的にAK-111に敵うとは考えられなかった)。
アーマライト社はこの“マイナーチェンジ”したM16A4をAF14計画の成果であると発表し、投資家からの批判を逃れようとしたと言われている。
その後M16A4XLに関するデータや詳細な資料……いわゆるAF14計画の成果は契約に従ってEDF先進技術開発研究所に、多額のライセンス料と引き換え に提供された。
アサルトライフルの開発を担当していた研究員は、アーマライト社から渡された資料をまったく期待せずに開き、頬杖をつきながら退屈そうに眺め 始めた。
採用されたM16A4XLを原型にEDF製ライフルを作れという……つまり名前を変えるだけの余計な作業(と、その過程 で生み落とされる金の行方)を、彼は心底嫌悪しており、一片のやる気も湧いてこなかった。市場性やら軍の伝統やら予算やら、そういった次元の低い物事に縛られずに自由にラ イフルの設計ができると考えていたのだ。
「これが終わったら……ん?」
半ば無意識に目を通していた資料に、興味を引く情報があった。形ばかりのAF14計画の内容ではない。2010年のXライフル開発時の実験データや概念 実証の記録である。
「悪くないな……いや、むしろイイじゃないか!」
椅子を蹴って立ち上がった彼は、机上にあった油性マジックで資料に直接アイデアを書き込み始め、延々と独り言を呟きながら歩き出し、奇声を上 げた後、走って部屋を出て行ってしまった。
一週間後、EDFはM16A4XLを原型にしたEDF製アサルトライフル「AF14」を発表した。
アーマライト社のAF14計画に敬意を払っての命名と言われているが、開発されたライフルは外見こそ同一であったが、内部は全面的に魔改造改良され、性能的には原型のそれを大きく逸脱していた。
走りながらでも正確な射撃を可能とする――発砲の衝撃をほとんど吸収してしまう緩衝装置。超過密多重構造によって120発の収納を可能とした弾倉 。シンプルながらも効率の良い給弾装填機構は弾詰まりを知らず。メンテナンスフリーとまでは行かなくとも、M16に比べれば部品の耐久性や機構の信頼性は向上し、整備の負担は大きく 軽減されていた。
また新素材の採用によって重量とともにコストも低く抑えられており、M16A4に比べて一部の性能(フルオート射撃 時の集弾性の低下など)が劣っているものの、既存のライフル……少なくともAK-111には引けを取らない性能であった。
訓練で使用したEDF隊員からの評価も上々であり、AF14はEDF初期の正式装備の一角として広く名を知られることとなった。
そして2017年。遂にフォーリナーが地球に到着。戦いが始まった。
AF14は初戦で奮闘したものの“対人”アサルトライフルである以上、対巨大生物戦に用いるには威力が不足しており、強化発展型となる後継のAF15 や派生型の開発が進められた。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF16(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
それはただの木片か、手頃な大きさの石だったかもしれない……“道具”を手にした時から、ヒトは他の生物とは異なる道を歩み始めた。
それが突然変異であれ淘汰選択であれ、他の動植物が数万年から数万百年という長い年月をかけて自らの姿形を変えることで環境に適応していくの に対し、ヒトは特定の機能を特化させた人工物――“道具”という体外器官を改良発展することで急速に環境適応能力を高め、その発生から僅か数十万年(それ以前にも道具を使用するヒト属生物は存在したが、ここでは現代人類のホモ・サピエンスを例とする)の後には、宇宙の真空においてさえも自らの生存を可能と し、原子の焔を操る術をも手にした。
道具によって特定の機能を外部に付加するという進化形態(進化という事象を環境適応のための手段と定め、その 目的が生存の継続とその範囲の拡大であるとするならば、道具の発明と使役による文明の創造と活動領域の拡大は、ヒト特有の進化形態であると言えなくもない)によって、ヒト は他の生命を屠り、喰い、この星において自らを覇者の地位へと押し上げた。
このように動植物を含む自然を征服する手段を得た時から、ヒトの敵は常にヒトであり続けたが、2017年に襲来したフォーリナーはその歴史に終止 符を打った。あの異形の悪魔たちはヒト以外で初めて進化によって対抗してきた存在だったのである(例外として挙げられるのは病魔……ウイルスであ るが、現時点での生物の定義に照らし合わせて、ここでは除外する)。
巨大生物……特に黒蟻型巨大生物の進化は顕著であった。
その攻撃手段はファーストコンタクトにおいては顎による噛み付きのみだったが、数時間後には腹部から強酸弾を投擲する個体が確認され(その時期については諸説があるが、人類およびその兵器群との直接接触によって強酸性体液の有効性を認め、攻撃に用いるようになったと考えられている) 、数日後には強酸液の放出量が増した個体も確認された。
甲殻皮も同様であり、細胞構造の変化によって防御性が向上した個体が現れ始めたことで、EDF陸戦隊は初期装備のAF14で対抗することが困難となっ ていった(AF14は鉄板を撃ち抜く程の威力を有していたが、最上位脅威目標であるInferno級の黒蟻は100発以上の被弾にも耐えたと言われている) 。
日増しに凶悪さを増していく巨大生物に対抗すべく、人類も武器の強化を……EDFはAFシリーズの改良を急ピッチで進めた(まさに種族の存亡を賭けた生存競争であり、人類とフォーリナー双方の攻撃手段とその威力は、僅かな期間に尋常ならざる進化を遂げることとなった)。
当時は拠点防御による阻止戦術が重要視されていたため、射程や精度よりも集中弾幕の有効性を直接的に向上させる要素、つまり破壊力の強化が第 一に求められた。以前から計画されていた再設計を含む統合的な新規開発は白紙撤回され、AF14をベースとするごく短期間での強化発展計画が強行されたのである(ただでさえ多くの工業施設が破壊されており、限られた施設で一定の生産量を確保するためには、製造ラインを大規模に変更するような新規仕様は認められなかった) 。
AF14STで採用された強装弾をダウンサイズした5.56mmアサルトライフル弾SS195G2(大きさはAF14の弾丸SS190と同 じだが、炸薬と弾体材質が異なる)を用いることで、AF15は連射性能を維持したまま威力の増大に成功したが、緩衝装置を含む銃機構全体の改良が追い付かず、撃ち出された弾丸 は一定距離を越えると急激に失速し、AF14に比べて有効射程を減ずる結果となった(現場の陸戦兵たちにとっても、僅かな威力増加の代わりに故障率の 高まったAF15は急造品の誹りを免れない代物であり、AF14ST――試験的に重質量の炸裂弾体を用いており、弾速に劣るものの、着弾時の破壊力はAF14の7倍であった――を使用し続ける兵 士も少なくなかったと言われている)。
この問題を解決するため、AF16はAF15ST(高性能炸薬の採用によって弾速の遅さを改善、さらに緩衝装置も独自に 改良し、STモデルの基礎を確立した)の設計と専用弾薬を転用して改良。AF15と同等の連射性能を維持しつつ威力を向上させ、AF14以上の射程を得ることに成功した。
その代償として構造の複雑化によって故障率が悪化し、さらに5.56ミリから7.62ミリへの変更という弾丸の大型化は装弾数の減少を招いた。また弾丸 規格の変更は、製造現場はもちろん、戦場の兵士にとっても不評であった(情報が周知徹底されていなかった上、カートリッジ自体がAF15と同規格であ ったため、従来の5.56ミリ弾を装填しようとした者も少なくない。また兵站部門のミスによってAF16が未配備の部隊に7.62ミリ弾が支給されてしまうなど、各所で混乱を引き起こした) 。
AF16開発の時点でAF14ベースの改良は限界に達しつつあったが、Hard級以上の巨大生物の出現率は日増しに増加傾向にあり、半ば恐怖に突き動かさ れる形で上層部は再設計を請う開発現場からの声を退け、さらなる高威力化を命じた。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF17(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
人類由来の技術と資材のみで作られたライフルとしては最後のモデルであり、完成時に「これ以上のAF14ベースの開発は不可能だ」と開発計画の行 き詰まりが公言された。
――前モデルを開発する時点でわかっていたことだ。
そもそもAF14の改良は――あの忌々しい悪魔どもに死という絶対的な制裁を下すために――破壊力の向上を至上命題として行われており、例えば AF15はAF14STやAF14-B3で採用された強装弾を用いることでAF14に比べて二倍近い威力の向上を果たしていた。発砲負荷の増大による銃機構の消耗と、弾丸の飛翔安定性の低下による射程 距離の衰退を代償として。
それでもAF16の開発は破壊力の向上を優先した。使用弾薬の改良と銃機構の強度向上によって射程距離はやや改善したが、装填機構は複雑化し、弾 丸の大型化は装弾数の減少を招いた。
――このままではAFモデルの開発は頓挫する……。
異星人の全地球規模侵攻という極限的状況において、数時間刻みの開発スケジュールで万全を期すのは無理があっただろう。結果、バランス感覚を 欠いたAF14強化発展計画は、トーキョーの地下鉄網のごとき設計図面へと行き着いた。
根本的な問題を解決しなければならなかった。
――AF14の時点で確認されていた、弾丸に発生するヨーイングだ。
弾道の不安定化を招いている偏った性能バランスの改善。
――これをなんとかするため、俺は新型弾丸の開発を行おうとした。
単純に炸薬の量を増やすだけではなく、それに耐えられる弾丸や銃機構の再設計、あるいは新素材の開発が必要だった。無理を無茶で誤魔化すよう な改良を重ねていては、如何にAF14系のプラットフォームが拡張性に優れていたとしても、先は見えている。
――なのに、だ。
以上の点を踏まえて作成されたAF17開発計画は意欲的な案に満ちていたが、押された印は「Rejection」……不認可であった。
――上の連中ときたら資源も予算も寄越さず、そのくせ新しいアサルトライフルを作れとヌカしやがる。
開戦以来の絶え間ない巨大生物の侵攻による施設の破壊と人員の消耗、そしてガンシップの空襲が恒常化したことで、北米および欧州の主要な工業 地帯は壊滅しつつあり……それ以前も問題として、加工すべき材料がなかったのである。
幾度の戦乱と二度の世界大戦を経て築かれ、なおも絶望と血肉を糧として駆動する政治経済体制という巨大な鈍色の歯車……その世界規模で張り巡 らされていた物流網は寸断され、粉砕されつつあった。
それほどまでに、フォーリナーの攻撃は徹底していた。
ガンシップは規模の大小に関わらず、あらゆる鉱物の採掘所・加工工場・備蓄施設を空から襲い、黒蟻の大群は何千キロにも渡るパイプライン網を 大陸から消滅させ、ヘクトルの集団は飽きることなく世界中の油田を破壊して周った(海上の油田基地も例外ではなく、海底を歩行するヘクトル、ある いは空母型円盤から投下された黒蟻によって固定脚やフロートを破壊され、海中に没した。これらの油田火災に加えて何千隻ものタンカーが沈められ、蒼空は黒煙に濁り、紺碧の海は重 油の膜に覆われ、現在まで続く致命的な環境汚染が引き起こされた)。
開戦から数週間の時点で、戦略において人類は敗北していたのである(その責任の所在については……大戦後の 2018年に締結された世界復興基本条約に記されている通り、2017年のフォーリナー襲来以前の公の政策や民間の活動について、大戦における被害の責任を遡及することは禁じられている 。だが、あえて明記すれば、フォーリナー友好説を流布していた無責任なマスメディア、諸問題から大衆の目をそらすために迷妄な風潮を利用した各国政府、そして迎合にせよ厭世によ せ、あらゆる形で危険を看過した私たち個人に責任があると言えよう)。
――それみろ。
修正されたAF17開発計画は、AF15およびAF16のそれを概ね踏襲した内容となった。さらなる破壊力の向上を目的とし、なおかつ統合バランスの改善 を“試みる”というものである。
――おかげさまで新モデルかマイナーチェンジか失敗作かも解らんようなのができちまったじゃねぇか。
威力の向上は僅かなものに留まり(AF16と比べて単発火力評価値は3しか向上しなかった)、装弾数は120発 に戻ったものの、限界を超えた過密設計においては……もはや機能拡張の余地など残されてはいなかった。
――おかげでRAやSTの開発担当の奴らがまいってるが、
これにより、AF17はAFシリーズ内で唯一派生モデルの存在しないナンバーモデルとなってしまった。
――俺のせいじゃねえ。上の連中の頭が固いせいだ。
事情を知らされることのない戦場の陸戦隊員から見ても、AF16RA(AF14RAの連射性能を維持しつつ威力強化を試み たRAモデルだが、設計に欠陥があり、射撃精度が低く、故障率の高いライフルとなってしまった)並みに故障率が高く、AF15STと同じくらい整備に手間がかかり、しかも製造コス トは今までのどのモデルよりも高く、交換部品も満足に支給されないAF17は、凡庸でこそあれ、優れたライフルとは言い難かった。
――諸君、恨むんなら俺じゃなく、お偉いさんを恨むんだな。
このためAF17は武器としての活躍よりも、EDFの兵器開発計画が見直される契機となった装備として有名であり、先見性を欠いた開発計画の結末とし て、あるいはその戒めの代名詞として現在も語り継がれている。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF18(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
開戦以後、日進月歩で改良が続けられてきたEDF正式採用アサルトライフルAFシリーズであるが、依然として大きな問題が残っていた。
有効射程の短さである。
AFシリーズのライフル弾は巨大生物の強力な外皮を貫く高初速を得るために(モデルや弾種によって量は異なるが )高性能炸薬を用いており、大きな破壊力を有するものの、発射時に発生する強烈な負荷に弾丸が耐えらなかった(ライフルの銃身も同様であり 、中でもSTモデルは頻繁にクリーニングを要するデリケートな武器となってしまった。もっともSTモデルはその高性能から信奉者が多く、彼らにとって分解清掃は愛銃との――以下省略 )。
具体的には、発射後、約100メートルを越えた時点から弾丸にヨーイングが発生し始め、その後の距離に比例して弾芯を貫く回転軸の歪みが大きくな り、一定の距離を越えると急激に失速して完全に威力を失ってしまうのである(通常モデルの場合は150メートル前後であり、高価な高剛性素材弾を用い たSTモデルでさえ250メートルに達するのがやっとであった)。
AF14開発の時点で確認されていたこの問題は、大戦前においては「流れ弾」による二次被害を抑制するという観点から容認されており、開戦後も巨 大生物を確実に撃破するための威力の強化が優先されたため、改善されていなかったのである。
従来の“対人”アサルトライフルとその弾丸の殺傷有効射程が400メートルであったことを考えれば、相手が巨大生物であるとは言え(ちなみに大戦前に造られた対人ライフルの対巨大生物有効射程は100メートル以下であった)、AFシリーズの戦術上の射程不足は明らかであった(近距離で確実に巨大生物に損害を与えられるとは言え、黒蟻や蜘蛛から致命的な反撃を受けることを考えれば、その射程外から攻撃し、反撃を許さずに撃破 する性能が求められたのは当然と言えた)。
陸戦隊の負傷者数という“数字”によって、ようやくEDF上層部もこの事態を重く受け止め、「急務である!」とEDF兵器開発研究チームに射程の改 善を要請した。
「で? 頼んでいた材料はあるんだろうな」
以前から新型弾丸の開発とそのための資源と予算の確保を繰り返し陳情していた研究員達は、苛立ちを隠さずに言った。
「もちろんだ。“もっと良いもの”を用意してある!」
自信と自尊に満ちたEDF長官の暑苦しい顔に代わってモニターに映し出されたのは、照明を落とされた暗い倉庫の中で、ライトに照らされて白銀に光 輝く無数の金属の塊――北米一帯から掻き集められたガンシップの残骸であった。
「最高のプレゼントね」
グレネード開発担当の女性研究員が無表情のまま、愉快そうに言った。
先の大空襲による制空権の喪失で空路はもちろん、海上の輸送路も寸断され、石油や希少鉱物、食糧といった戦略資源の輸送は困難を極めており、 巨大生物の外皮やガンシップの残骸の利用は然るべき措置ではあったが……、
「長官殿は、わしらを錬金術師か何かと思っているらしいな」
素材として利用する以前に材質を調べなければならず、作業は当初から難航することが予想されたが、研究員の中で嫌そうな顔をしている者は1人 もいなかった。皆、趣味と実益と兼ねて仕事をしている者達なのである。
残骸の調査によって、幾つかの事実が明らかになった。
まずガンシップが推進力に頼らない、時空基幹情報の書き換えによる疑似重力の発現によって機動していること。そのための球体の装置以外に、空 気抵抗を減ずるための微弱なフォースフィールド(斥力場)を展開する装置を機首や翼に有していること。そしてガンシップを構成する人工金属 (合金ではなく、分子レベルで設計された金属である)フォーリニウム(Foreinum)が、フォースフィ ールド発生装置の心臓部にある立方体(一辺が48.18cmの黒色の正立方体であり――後にストリンガーJ2狙撃銃の開発者によって原理が解明されるまで― ―人類には解析不可能と言われ、まさしくブラックボックスとして公式にもBBユニットと呼ばれている。なお、どのような環境下でも摂氏マイナス18℃を保っていることから、戦場では 保冷剤として重宝されており、兵士達はよく冷えたビールを飲むことができた)と接触した後、まるで磁力が転移するかのように、極めて微弱であるが斥力作用を発生させるよう になるのである(おそらくはフォーリニウムに分子レベルで刻み込まれた極小回路群の働きであり、接触後に表面に幾何学模様が浮かびあがるのも回路 が活性化して連結し、より大きなサーキットを構築して作動したためである)。
このフォーリニウムの斥力転移作用は、BBユニットと接触した時の形状を変えない(活性化して連結、構築された 分子回路を寸断しない)限りは長期間持続するため(最長で18ヵ月間に渡って持続した記録がある)、斥力作用を有する材質の生産が可能となった。
この新材質「R3F:Repulsive Force-Fed- Foreinum:斥力を帯びたフォーリニウム」を弾芯の70%(残りの30%は巨 大生物の外皮を超高圧加工した高剛性素材……やや硬質なバウンド素材である)を使用したR3Fライフル弾(表面の被甲部分は銅メッキされた軟 鉄であり、弾丸に回転を加える銃身内のライフリングに削られて消失する)は、より大量の高性能炸薬の衝撃を受けても弾芯の回転軸に歪みが生じず、弾丸を包む円錐状の微弱な フォースフィールド(後に開発されたストリンガー狙撃銃専用のJ2弾もフォースフィールドを発生させる弾丸であるが、R3F素材は用いておらず、EDF製 フォースフィールド発生装置を弾頭に搭載している)によって空気抵抗を極限まで減じ、飛躍的に射程距離を延ばす…………筈であった。
R3Fライフル弾に対する期待は大きく、新型AFライフルの標準モデル、さらにSTモデルの開発が決定し(STモデルの 開発者が無断で会議に出席して強引な主張を押し通し)、予算も確保された。
「善は急げというからな! Hurry! Hurry!! Hurry!!!」
EDF長官の号令の下、開発は突貫作業で行われた。評価試験もデータ上のシミュレーションで済まされ、僅か数日で完成した新型ライフルAF18は、ま ずは北米に配備された。
新型弾の噂は戦場にも広がっており、前線で木箱を開けてライフルと弾薬ケースを取り出した隊員達は、まるでサンタクロースからのプレゼントを 喜ぶ子供のように、嬉々として真新しいライフルに新型弾を装填した。
ここに、ある部隊の通信記録が残っている。
「Okay! これでバグどもをヒーヒー言わせてやるぜ!」
「Wow! 有効射程800メートル以上!? Cool!」
「Boss! ブロック4のセンサーに感あり! 奴らだ!」
「さっそく来やがったか! 野郎ども! 派手に出迎えてやれ!」
「新型弾の試食会へようこそ、ってな!」
「Standby……Standby……Now! Fire!!!」
「YHAAAAA!!!………………What's?」
「Oh ……My…… God!!!」
その後は戦闘音が続いたが、事態の推察は容易である。
射程は、改善されていなかったのである。
改善どころか、むしろ悪化しており、撃ち出されたR3Fライフル弾の有効射程は80メートルにも満たず、それ以上の距離だと黒蟻の表皮に跳ね返され る始末だった。
散々なデビュー戦を飾ったAF18はただちに回収され、実戦での使用を禁止されたが、全てが回収された訳ではなく、戦場に放棄されたものをレジス タンスが使用していた事例も報告されている(一時は前線部隊による武器の横流し……食糧などとの交換が疑われた)。
回収後、速やかに調査が行われたが、はっきりした原因は分からなかった。
EDF先進技術開発研究所が誇るスーパーコンピューターHOL(ホル)6000型(当初は人工知能として機能していたがマザーシップのデータ解析中に「我が我に我を我は我に我を我が我に我を我は我に我を……」と無限思考に陥り、知 能回路が焼き切れてしまった。おそらくはマザーシップに情報汚染された、あるいはマザーシップの意識の断片に触れて発狂したと考えられているが、当時は物理的故障だと発表されて いた)でもシミュレーションが繰り返えされたが、エラーは見つけられなかったのである。
一説には銃本体におけるフォーリニウムの含有率が関係していると考えられており、18%前後で正常にR3Fライフル弾は撃ち出された。おそらくはフ ォーリニウムの分子回路による未知の働きによって銃身内部で弾丸に負荷がかかると言われているが、未だに議論が続けられており、定かではない(た だし含有率18%という法則の実証性は間違いなく、後のフォーリナーテクノロジーを用いた武器は全て18%の法則を踏襲している)。
ちなみにAF18から撃ち出されたR3Fライフル弾は80メートルまではAF17を上回る威力を有しており、ガンシップの残骸――フォーリニウムを用いた弾 丸の有効性を実証した。
AF18がシミュレーションのみを経て実戦に投入された結果、陸戦隊に多数の被害を出したことは大きな問題であり、大戦後に当時のEDF上層部の責任 が問われた(もっとも大戦中のEDF長官は、あの北米決戦において決戦要塞X3に搭乗していた。マザーシップのジェノサイドキャノンに機体を貫かれて墜 落し、自由の女神像に激突して爆発したX3の乗員は大半が殉職したが、比較的損傷の軽かったブリッジにおいて、キャプテンシートに座っていた筈のEDF長官の遺体は発見されておらず、 彼を補佐し続けた秘書官の女性とともに、現在も行方不明扱いになっている)。
武器としては完全な失敗作だったAF18であるが、初めて本格的にフォーリナーテクノロジーを導入した武器であり、兵器開発史において語らない訳 にはいかない“迷” 銃として後世に名を残した(なお空気抵抗軽減による弾速の向上など、数々の副次作用が多方面で活用されたことから、資料によっては「弾速の向上を目的に開発された」と記されている場合もある)。
なおSTモデルの開発者はAF18を華麗にスルーし、後にAF19ST、そしてAF20STを完成させている。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF19(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
AF18およびAF18Xは武器としては成果を残せなかったが、この2挺の開発によってフォーリナーテクノロジーの研究は大きく躍進し、その結果は…… まさしく大戦の趨勢を左右する程の重要な意味を持っていた。
無限に近い試行錯誤の末に発見された「18%の法則(銃機構の構成素材の18%にフォーリニウムを用いることでR3F :Repulsive Force-Fed- Foreinum:斥力を帯びたフォーリニウム弾の正常な射撃が可能となる事象である。弾丸と射出機構それぞれのフォーリニウム含有量が関係していると言われてい るが、現在も厳重な機密指定を受けており、詳細は不明である)」によって、ガンシップやヘクトルの残骸から採取したフォーリニウム (Foreinum:極小の分子回路が刻み込まれた特殊な金属であり、軽量かつ強靭な上、ある処置を施すことによって回路が連結して活性化し、微弱なフォースフィールドを帯びさせること ができる)の資源化が可能となり、人類の戦略上の劣勢は挽回されることとなったのである。
これ以後の兵器開発における性能の向上は、まさしく加速度的であり、AF18Xを改良する形で開発された試作ライフル「拾九号」はその先駆けであっ た。単発火力評価測定でAF17の170%増である44という数値を記録し、巨大生物を殺傷可能な有効射程はAF18の80メートルから150メートルへと回復、そしてAF18Xの致命的欠陥である射撃 精度も大きく改善されていたのである。
この結果にEDF上層部はもちろん各国政府も高い評価を示し、またAF18から続く一連の出来事によってEDF先技研の研究者らの“気質”についても理 解が充分に及んだらしく、会議の席で公言された「好きに作ればいい」という方針によってEDF先技研の権限も拡大することとなった(これを言葉通りに 受け取ったSTライフルの開発者は試作ライフルを独自に改良して新型のSTモデルを開発、ナンバーモデルであるAF19が企画段階の間にAF19STを完成させてしまった。組織を無視した完全 な独断専行であったが、AF19STの設計はR3F弾採用ライフルとして充分に洗練されており、AF19の開発と配備を早める結果となった)。
「フォーリナーテクノロジーの制御と安定による全体的な性能の底上げ」という開発コンセプトは見事に達成され、AF19は統合性能に長けた名銃と して完成した。
高い威力、充分な弾速と精度、低い故障率と優れた整備性、そして豊富に供給される新型弾……。有効射程には改善の余地が残されていたものの、 高性能でありながらAF14よりも使い勝手のよいニューモデルの登場に、戦場の兵士達の多くは――中でもAF18やAF18Xによって“被害”を被った部隊の者たちは――涙を流して喜んだと言 われている。
また「AF14の正統な後継たる」の評価に違わず拡張性にも優れており、僅か数日でRA (Rapid)モデルの開 発に成功。当初の予定にはなかったB (Burst)モデルまでもが急遽開発されたが、AF14ベースの時よりも開発は容易であった(多くの開発者にとってAF19は優れたプラットフォームであり、AF20の開発が成功した後も、バウンドガン開発にはAF19が選ばれた)。
数週間と経たずに後継のAF20が登場したため生産数も少ないが、フォーリナーテクノロジーの実用化を知らしめ、EDF製アサルトライフルの新時代の 到来を告げた名銃である。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF100
現行最強のアサルトライフルであり、圧倒的な総合性能を有している。
AF99の改良発展モデルであるが、フォーリナーの技術が使用されており、基本性能の底上げに加えて弾速が飛躍的に向上している。
また「弾薬を選ばない」という他に類を見ない性能を有している。これは各国で使用されている口径5.45mmから7.62mmクラスの弾薬なら、その種別 に関わらず装填・発砲が可能であり、さらに一定の威力を保証するというものである。軍事機密のため詳細は不明だが、銃内部で弾薬を分解・再構築していると考えられており、発射機 構のメカニズムも異質であるらしく、厳密にはライフルとは呼べない可能性がある。
このように使用技術の機密性の高さが唯一の問題であり、AF100より製造コストが150%も高いAF99STの信奉者に反論の余地を与えている。
軍事評論家からも「あまりに高性能過ぎて可愛げがない」と評されているが、ブラックボックスの塊であるという点を除けば、性能には欠点らしい 欠点が無く、維持コストも低いことから、今後のEDFのスタンダード・ウェポンとして注目されている。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF14RAR(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
AF14ST(Strong:Shooting)とAF14RA(Rapid)の開発と実戦での 評価によってAF14ライフルの拡張性の高さは実証され、然るに採用トライアルを実施したEDF上層部も評価された。
「EDFは立ち止まらない! 常に歩み続ける!」
という意味不明の声明とともに、すぐさま新兵器開発の指示がEDF兵器開発研究チームに下 され、ライフル部門においてはAF14RAの再設計が試みられた。
完成したAF14RAR(Rapid-Refine)はAF20RARの直系の先祖に当たるが、大戦初期の開発ということもあって フォーリナーテクノロジーは一切使用されておらず、純粋な機械工学のみで「AF14と“同じサイズ”“同じ重量”でAF14RAを越える“ミニガン並みの連射力”を持つライフル」というEDF 上層部から要求された悪魔のような仕様を実現している。
毎秒60発という最高クラスの連射力を誇るが……カートリッジに納められたマイクロ・ライフル弾150発と電池(超 小型多連装銃身駆動用の電力)は3秒と持たない。
評価試験の場でEDF上層部の面々は「こんな武器があるか!」と立腹したが、研究員は「軽いからいいだろ」の一言で退けたと言われている。
実用性のない試作兵器と思われたが、半ば押し付けられるように初期ロットが配備された日本列島戦線のEDF陸戦隊では、西暦1575年の長篠の合戦 において織田軍の鉄砲隊が用いたと言われる三段撃ち(騎馬の突撃を柵で妨害し、かつ射撃手順を3段階に分けて射手を入れ替えることで火縄銃での連射 を可能とした戦術と言われているが、史実としては実存を疑問視する意見も少なくない)の古事に倣い、2人の隊員が交互に射撃と装填を繰り返して濃密な弾幕を張ったと記録に 残っている。
マイクロ・ライフル弾では致命傷に至らなかったが、巨大生物に対する阻止効果は高く、民間人が避難するまでの時間稼ぎに一役買ったと言われて いる。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF20RAR
RA(Rapid)シリーズの中でも最高クラスの連射性能を誇るライフルであり、レボリューション(Revolution)の名を冠している。
その名に恥じず、AFモデルの原型であるM16A4の発射速度が毎秒15発、前モデルのAF19RAですら毎秒30発であるのに対して、AF20RARは毎秒60発を誇 っている。これは米国ゼネラル・エレクトリック社製の電動式ガトリングガンに匹敵し、個人用の小型火器としては……もはや現実離れした性能である。
EDFの公式データによれば専用弾倉の装填弾数は999発であるが、銃本体と同じく弾倉も外見上は他のAFモデルと変わったところは見られない。それ ばかりか、重量はAFモデルの中で最も軽いと言われている。もちろん弾倉装填時の重さである。発射時に大量の空薬莢が滝のごとく排出されることから実弾が使用されているのは間違い なく、質量保存の法則を前に、この銃を持つ兵士自身も首を傾げたと言う。
大戦末期にEDF兵器研究開発チームが生み出した武器はフォーリナーの技術が転用されており、AF20RARもそれら“神器”の一つに数えられる。重量 と弾数の秘密は、あの“無尽蔵に巨大生物を投下する”空母型円盤のオーバーテクノロジーに基づくものだと言われているが、定かではない。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF20ST
ST(Strong:Shooting)シリーズの系譜はAF14の改良型である14STに始まったが、「狙撃銃に劣らない高精度・高威力の突撃銃」とテーマが明確であったこ とから、専用弾薬によって弾速の遅さを改善した15STが速やかに登場し、後継の19STでほぼ完成を見ることになる。
EDF陸戦隊員からの揺るぎない信頼を獲得したSTシリーズの開発責任者は、「アサルトライフルの高性能化によって大半のスナイパーライフルは不要 になる」という理論を信奉しており、永遠のライバルと名指しで公言していたMMFスナイパーライフルの打倒(本当にそう発言している)のため に、STシリーズの真の完成形となる次世代モデルの研究を始めた。
通常はAFの基礎モデルが完成した後に、改良という形でRA(Rapid)型やB (burst)型が派生開発されるのだが、彼は慣例を平然と無視して19STを独自に改良発展させたAF20STを発表した。
同時期に開発されたMMF100の単発火力評価値が820、前モデルのAF19STが230であるのに対して、AF20STは1200という圧倒的な威力を見せつけ、評価 試験に参加した関係者の度肝を抜いた。
これほどの威力でありながら最高評価であるS+級の精度と、毎秒4発という19STと同等の発射速度を備えており、反動を相殺する緩衝装置の出来も言 うことなく、まさしく既存のスナイパーライフルを陳腐化する性能であった。
ただし専用弾薬に使用されている炸薬があまりにも強力であり、6発以上連続射撃すると銃身が加熱・破損するという致命的な弱点があった。このた め装弾数は5発に限られており、また弾倉交換時に銃身と緩衝装置の強制冷却に5秒間の時間を必要とする。銃本体も大変デリケートであり、粗雑に扱うと寿命は極端に短くなる。然るに 作戦後の分解清掃と整備には非常に手間がかかり、部品の交換も頻繁に行わなければならない(もっとも射撃性能については“5連射可能なスナイパーラ イフル”と考えれば充分過ぎる程の威力であり、MMF100よりもAF20STを選ぶ兵士が多かったと言われる)。
これらの点を改良した99STの方が兵器としては総合的には優れているが、開発者は宿敵(本当にそう発言している )であるMMFを打ち負かしたAF20STを溺愛しており、公式に「フロイライン(Fräulein:未婚の令嬢)」という愛称を付加するようEDF上 層部に申し出ている。
99ST の信奉者と異なってあまり表には出ないが、開発者以外にも20STを「愛娘」と呼んで愛用する兵士は多い。これは「突出して高い威力(魅力)を誇りながら、リロードや整備などで世話を焼かせる」というアンバランスさが一種の“可愛らしさ”となって彼らを魅了していると考えられ ており、生産数の少ない専用部品の価格が高騰するなど一部のスポーツカーに近い様相を呈している。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF99ST
STタイプの最高峰であり、高威力・高初速・低反動という黄金条件を成し遂げた名銃として名高い。
撃ち手にもよるが、疾走中の速射で実効射程480メートルという極めて安定した性能から「狙撃銃を駆逐する突撃銃」と呼ばれている。
大戦末期の北米決戦と日本列島戦線にのみ配備されたが、赤蟻を撃退できる火力とガンシップを狙える弾速、それでいて従来のライフルにさほど劣 らない連射性から絶賛された。
現役退役を問わず、現在でもEDF内に熱烈な信奉者が多い銃としても有名であり、大戦後にこの銃の愛称を公募したところ、選考会が紛糾して結局決 まらなかったという逸話がある。なおAF100の登場によってAF99が廃れてしまったため、「ダブルナイン」や「九十九式」と言えばAF99STを指す(もしも 君がこの名銃の愛称を尋ねられたなら、大人しく型番を略して答えることをお勧めする。うっかり女性名を口にした日には、それが神話の女神であろうと女王陛下の御名であろうと、大 戦を生き抜いた戦士から紳士的に“警告”される羽目になるだろう)。
唯一の欠点は銃本体と使用する専用弾薬のどちらもが製造工程が複雑であり、コストが非常に高いことである。このためEDFではAF100の速やかな量 産化による装備の再統一プログラムを計画しているが、「そんなことよりもダブルナインの製造ラインを改良すべき」という主張も根強く、計画は難航している。
なおAF99STの信奉者と、前モデルのAF20STの愛好家は折り合いが悪いことで有名である。表だって衝突はしていないが、EDF基地近辺の酒場では「最 強のライフルは……」などの軽率な話題は慎むのが暗黙の了解となっており、時折“礼儀”を知らない新兵が口を滑らして、古参兵から紳士としての“作法”をレクチャーされている。 ちなみに新兵同士が論争を起こした場合は「最強はAF100だってママンが言ってたぜ!」というヤジを飛ばすのが恒例になっている。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF14-B3(o0PpVnrRyHさん原案・トウフウドン加筆)
EDF陸戦隊の初期標準装備であるAF-14は、あくまでも従来の対人戦闘を前提としており、常軌を逸した生命力を誇る巨大生物と戦うには充分な火力 とは言い難かった。
そして開戦から数日後、ある報告が人類を戦慄させた。
――巨大生物は進化している。
EDF衛生局……星間防疫特化衛生局(アメリカ合衆国のCDC:Centers for Disease Control and Prevention:疾病 管理予防センターを中核として先進国の医療研究機関から構成された組織である。一応はEDF内の部局だが、国連の世界統一政府準備委員会の直轄組織であり、WHO:世界保健機構に代わ ってフォーリナー“到着”時の国際的な防疫体制を担っていた。医療界および医学会の人脈によって各国政府とも独自のパイプを有し、開戦後に国連が機能停止した後もEDF内で独自の集 団であり続け、EDF先進技術開発研究所とは別に巨大生物の研究を積極的に行っていた)において、黒蟻型巨大生物の死骸を調査していた研究者が、幾つかの外皮サンプルの差異 に気付いたのである。
開戦直後に回収された甲殻外皮のサンプルは、小さな八角形の細胞によって構築された一枚の厚い皮膚に過ぎず、皮膚全体で優れた弾力性を備えて いる反面、強い衝撃を一点に連続して集中されると破れてしまう……つまり高速の弾丸の連続着弾によって貫通可能であった。
しかし、それから数日後に持ち込まれた巨大生物の外皮は、まず皮膚自体が多層化しており、それぞれの皮膚層は異なった特性を有する細胞によっ て構築されていた。例えば高速徹甲弾が高弾力性の第一層を貫通しても、その下の高硬度の第二層で止められてしまうのである。さらに後日のサンプルでは、高弾力層の上を骨のような 高密度の細胞が覆っており、成形炸薬弾頭弾や粘着榴弾に対して脱落という形で本体を防御する機能を有していた。これらは戦車の複合装甲やリアクティブ・アーマーに近い、極めて完 成度の高い有効な防御システムであった。
複数のサンプルを比較調査した結果、EDF衛生局は忌々しい仮説を……巨大生物は人類の攻撃という外的要因によって急速に進化しているという報告 を提出せざるを得なかった(この研究を基に公式に導入されたのが、Hard級やInferno級といった巨大生物の脅威度判定基準である)。
巨大生物がフォーリナーの生物兵器だとしても、僅か数日間という短時間で適応する能力は、その圧倒的物量の脅威を指数関数的に増大させるもの であった(それに対抗することを考えれば、EDF先進技術開発研究所の異常な組織体質も人類には必要であったと言うべきであろう)。
事実、AF14ではH級の巨大生物に損傷を負わせるのは困難であり、後継となる新型ライフルの開発が急ピッチで行われたが、切迫した戦況は人類に猶 予を与えず、幾つかのAF14強化発展型が生み出された。
中でもAF14STは火薬の量を増すことで威力を7倍にも増大させていたが、銃身と緩衝装置への負荷も増したことで連射性能が75%も低下していた (この時に言い放たれた「これならMMF40RAと大差ないな」という何気ない言葉が、その後のSTライフルの設計思想と同銃の設計者の人生を決定したと言 われている)。
威力と連射性能……これら相反する性能を両立するため、ST(Strong:Shooting)とRA(Rapid)に続いて新たな規格が導入された。それがBurstモデルである。
「Initial-B」のコードネームで開発された試作ライフル「B3」は、AF14STに用いられた強装弾の改良型を採用した。これはSTモデル弾に比べて炸薬 量を減少させていたが、弾殻に新素材を使用したことでAF14に比べて単発の威力を4倍に、有効射程を160%に高めていた。
そして、このような弾丸の高初速化による威力および射程の向上と、連射性を両立する試みとして、専用の装填機構と銃身および緩衝装置の冷却機 能を同期させる方法が採用された。つまり一定間隔ではあるが、STモデルに匹敵する高威力の弾丸を安定して3連射することが可能になったのである。
戦前の対人アサルトライフルのバースト機能とは異なるこの試みは、残念ながら、米軍の兵器運用思想に強く影響を受けたEDF北米方面軍では「実戦 において汎用性を損なう制限が懸念され、信頼性を欠く機能である」と歓迎されなかった。自国製銃器の使用を主張してAF14配備にすら難色を示していたEDF欧州方面軍も同様であった。
一時は宙に浮き、そのまま破棄される可能性すら出てきた試作ライフル「B3」であったが、意外なところから実戦テストの候補が現れた。
欧米の方面軍と同様に「地球防衛軍の一翼を担う軍団として是非とも協力したいが、華北防衛戦の予断を許さない戦況においては(中略)故に謹ん でこれを辞退するものである」と協力を断ったEDF極東方面軍の北京司令部が、隷下の日本支部を“推薦”してきたのである。
現在の歴史の教科書から想像することは難しいが、大戦初期の日本列島戦線は「持ち堪えて半年間」と評され、いわゆる遅滞戦略地域(限られた人員と物資で可能な限り抵抗し、より戦略的に有望な隣接地域を支援する……つまり「小を殺して大を生かす」の小に当たる地域)に指定さ れていた(もちろん非公式に、であるが、関係者の証言と焼け残った資料から日本列島を捨て駒とすることが戦略に組み込まれていたのは確かである) 。
ていよく面倒を押しつけられる形で、試作ライフル「B3」十数艇が命令書とともにEDF北米総司令部から日本列島に送りつけられた。
輸送を担ったのはアメリカ空軍の輸送機C-17グローブマスターⅢであり、「B3」以外にも対H級用の強化型ギガンテスの試作モデル1輌を含む物資を 積んでいたが、同機の来日は、奇しくも世界規模で空母型円盤およびマザーシップの撃墜を目的とした航空作戦が実施された……あの日であった。
サンダークラウドの愛称を持つUSAF所属のEA9824便は、東京湾上空でガンシップに捕捉された。湾岸戦争以来、幾度となく危機を脱してきた機長の 回避機動も虚しく、4つのエンジン全てに被弾にした同機はコントロールを失って市街地に降下。黒蟻型巨大生物が群れまとう東京タワーの残骸をかすめて旧東京都の港区(すでに東京の都市機能は壊滅しており、首都機能の移転、そして住民の避難によって大都市は無人と化していた。戦災を被ってない建造物などの資産は有事 法制に基づいて管理されており、略奪防止のために強制退去と立ち入り制限が実施されていたが、人間を捕食する巨大生物が徘徊する街に侵入する者は皆無だった)に墜落した。
市街地に“不時着”した同機の乗員の速やかな救出と物資の回収のため、EDF日本支部は陸戦隊のレンジャーチーム2個班……1班3名、計6名の陸戦隊 員を出動させた。
天候は晴れ。時刻は正午。
初夏の日差しに陽炎揺らめく首都高速道路を、レンジャーズはエアーバイクSDL2を駆って墜落地点に向かった。
道路上には乗り捨てられた乗用車が点在していたが、それら放置された四輪車を午睡する草食獣に譬えれば、彼らの操るエアーバイクは狼のごとく 疾駆した。
平均時速120キロというのはSDL2乗りにとっては安全運転もいいところだったが、風を切って首都高を駆け抜ける疾走感は、束の間ではあるが現実を 遠いものにした。視界の隅を高速で流れゆく街路灯の残影が、愛機が大気を切り裂く風鳴りが、意識を深く鋭く研ぎ澄ましていく……その針の先端で、陶酔の炎が揺らめく。
「いかん、いかん」
先頭を走るSDL2のシートで、臨時編成分隊を率いる隊長は独り語る。
フル・スロットルで飛ばして部下を事故らせたら始末書ではすまない。墜落した輸送機の乗員のことを考えれば、急いで咎められることはないだろ うが……
「六本木か」
今その名を聞いて思い出すのは、ファーストコンタクトでの食害事件だ。あの日は東京中がそうだったが、マザーシップの直下に位置した所は見物 人が集まっていたこともあって、巨大生物は悪食の限りを尽くした。
巨大生物は放っておくと際限なく数を増した。まるで地図を塗り潰すかのように、人類を、その痕跡となる都市を呑み込もうとしていた。それを可 能とする程の物量だった。掃討戦は繰り返し行われたが、すぐさま空母型円盤が新たな巨大生物を投下したのだ。
対処療法ではダメなのだ。物量を最大の武器にする相手と消耗戦などしたら確実に負ける。決定打になるような、根本的な対抗策が必要だった。
そうして発案されたのが昨日の航空作戦だったが……結果は例の通りだ。
ほぼ毎日のように行われていた関東エリアの“掃除”も数日前から停滞している。どれ程の数の黒蟻が溜まっているのか、考えるだけで気が滅入っ た。輸送機のパイロットには悪いが、とても助かるとは思えない。
むしろ、墜落時に即死していてくれればいいと思う。巨大生物の鋭利で不潔な牙に噛みつかれ、恐るべき万力で手脚を引き千切られ、生きたまま内 臓を食い荒される苦しみに比べれば、まだ人間らしい死に方だ。奴らには一片の慈悲もない。命乞いは無駄だ。大声で泣いても喚いても、絶対に、やめてくれない。
ある種の人々の昆虫に対する異常な恐怖心は、このような蟲の異質さ、意思が全く通じないという不気味さに起因すると何かで読んだことがある。
――案外、あの糞蟲が“奴ら”なのかもな。
円盤やマザーシップは器に過ぎないのではないだろうか。巨大生物の群体知性こそがフォーリナーの……
「隊長」
部下の緊張した声がインカムを震わせる。埒のない物思いは風とともに去った。
「前方2キロ、架橋の崩落を視認。墜落地点とほぼ一致します」
「着いたな。全車、減速開始。勢い余って落ちるなよ」
スロットルを搾ってエアーバイクの吸排気能率を落とす。慣性走行に移るとすぐさま速度が下がり始めた。追突防止のために後ろを確認してから、 僅かに体を起こして重心を後ろに傾けつつエア・ブレーキ。スロットルを閉じてホバリングモードに。姿勢を保って重心を安定させ、機体に残る運動エネルギーを緩やかに消費していく 。
6台のSDL2は楔形に停止した。悪くない腕だ。
エンジンを切ると静寂が辺りを包む。人はもちろん、鳥も、あの疎ましいカラスさえもいない。ビルの合間を抜ける風だけが鳴いている。
その風に運ばれて、十数メートル先の崩れた道の先からジェット燃料の異臭が漂ってきた。
「これが不時着扱いなら、保険屋泣かせだな」
崩落個所に近づき、下を覗き込んだ部下の一人が呆れたように呟く。
確かに、どう見ても墜落だった。
C-17は首都高速3号線の架橋の下にもぐり込んでいた。ビルを突き破った際にもがれたのか、左右の主翼はない。翼を失った灰色の巨人機の残骸は、 浜に打ち上げられたクジラを思わせる。
「キャビンの状態からすると、積み荷は無事かもしれませんね」
機体は破損が著しいが、炎上はしなかったようだ。燃料が残っていなかったか、空中投棄したのだろう。
「パイロットは……」
部下は続けるのを躊躇う。コクピットを含む機体前方の機首部分は無かった。おそらくは墜落時の衝撃で脱落したのだろう。機体の下敷きになって 潰れている。
「遺体の回収は無理だな」
認識票だけでも持ち帰りたかったが、仕方がない。
「運べる物だけを回収する。時間がないぞ」
レーダーガンに似たバイオセンサーを四方に向けている部下からの報告は「3キロ以内に巨大生物の反応なし」だが……巨大生物のモーターセルが発 する磁気を、無人とは言え、これほどのコンクリートジャングルで感知できるのか怪しいものだ。しかし、それ以外に検証できるデータはない。少なくとも姿は見えないし、気配もない 。
「よし、俺と2人で降りる」
少し戻って料金所近くのインターチェンジからSDL2ごと降りても良かったが、脱出する際、大混乱の痕跡も甚だしい東京の一般道をエアーバイクで 全力走行するのは自殺行為だ。
「3名はここから周囲を警戒。糞蟲を見つけても撃つな。座標だけ記録しておけ」
「サー! イエッサー!」
「都民の皆様、害虫退治には後日うかがいます、と」
「無駄口をたたくな。降りるぞ」
まず3機のSDL2を底部アンカーで固定し、機体後部からワイヤーを引き出す。乾燥重量98キロの超軽量エアーバイクに、60000キロオーバーのギガン テス戦車を牽引可能な高分子ワイヤーが搭載されているのもおかしな話だが、それを伝って降りる身としては丈夫なことに越したことはない。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のようでは困る 。
二人の部下とともに、十数メートル下のアスファルトに降り立つ。
「見る影もないですね」
六本木ヒルズを含む建造物群そのものは概ね無事だが、街路は酷い有様だった。
ビルの壁面は巨大生物の脚と弾丸によって抉られ、所々でタイルが剥がれ落ちている。洒落たテナントのショウウィンドウの中は割れたガラスと土 埃に汚れ、高級ブランドスーツを着たマネキンが所在無さそうに佇んでいた。
路肩では、何十匹もの黒蟻に踏み潰されたのだろう、銀色のスポーツ・クーペの残骸が無残な姿を晒している。エンブレムが無ければメルセデスだ とは分からないくらいに。
「せっかくのSLが、勿体ねぇな」
車好きらしい部下の感想はともかく、この災厄による損失がどれ程の規模になるのか……もはや誰にも見当 がつかなかった。
見える範囲にある車の残骸や破壊された店舗だけではない。経済活動の場となる都市が機能しなくなるということは、人々の生活が破壊されるとい うことだ。避難民が流入した関東近隣の県では早くも食糧と医薬品が不足しているし、河川やダムの貯水池が巨大生物の死骸で汚染されたことによる水不足は深刻な問題だ。衛生環境の 低下が社会不安を増長させるという悪循環が始まっている。
この国に限った話ではない。今や戒厳令を敷いていない国の方が珍しいくらいだ。
そして、たとえ戒厳令を実施しても暴動が多発し、政府が崩壊した国も少なくはない。
開戦前に存在した社会や体制といったものが、世界規模で崩壊しようとしている。
――この戦いに勝ったとして、どんな世界が残るというんだ。
巡らせた視界の端に、幼児のものらしい靴が映る。赤黒く血に汚れた、小さな靴が。
「くそったれが……!」
もう一人の部下もその靴を見つけたのだろう。その大人しい面立ちに似合わず、罵倒を洩らした。
「ああ、まったく、クソったれな有様だな。絶対に償わせてやるぜ。もっとも糞蟲どもの命なんざ、とっくにインフレ起こしてるがな。百億匹ブチ殺 しても割が合わねぇ」
巨大生物の死骸を山と積み上げても、戦前の生活を取り戻すのに何年……いや、何十年もかかるだろう。もちろん死んだ者は、帰って来ない。
「……隊長、回収する物資は例の銃だけでいいですか」
お調子者の冗談を聞いて逆に自らを恥じたのか、部下は冷静さを取り戻していた。冷静でいてくれるのはありがたい。彼が幼な子の死に心を痛める ように、自分も部下が死ぬのは見たくない。
「そうだな」と努めて平静に応じる。
「機密文書の類はないらしいからな。戦車を自爆させるだけだ」
扉の外れたカーゴベイの中には無塗装のギガンテスが一輌、眠るように擱座している。対H級巨大生物用に装甲を強化した試作車輛らしい。
その無限軌道輪帯の近くに、いかにもそれらしい木箱が転がっていた。AF14XR-Type-B3の印字。間違い無い。試作ライフルの入った箱だ。
「これだな。開けろ」
もう一人の部下には戦車の自壊機構の作動を命じる。
「さて、パパからのプレゼントは何かなと」
無駄口の多い部下だが、木箱にコンバットナイフを深く挿し込み、釘止めされたフタを梃子の原理で浮かせていく。乱暴なやり方だが、刃を傷つけ るほど間抜けではない。器用だ。
「何が出るか、楽しみだな」
「期待ハズレだったら、着払いで送り返してやりますよ」
皮肉めいた言葉で応じながらも、部下はまるでサンタクロースからのプレゼントを待ち望んでいた子供のような笑みを浮かべている。フタが外れる と、軽く口笛を吹いた。
「状態はどうだ」
「ハードランディングの割には……」
部下は一艇を取り出し、素早く点検する。未装填のライフルが小気味のよい作動音を立てた。
「……オーケー。弾さえあれば、糞蟲どもにアツいツイストを踊らせてやれますぜ」
「数は」
緩衝材を掻き分けて数えた部下の告げた数字は、北米から連絡のあった数の半分にも満たなかった。完全作動状態らしきものが6艇だけだ。
「やれやれ、これっぽっちじゃ話になりませんな」
「試作品のテストだからな。充分だ」
「そりゃまぁ、射的大会ならいいんですがね。“実戦”テストとなると、どうだか……」
「隊長」
いいタイミングで、もう一人の部下がギガンテスの砲塔から降りてくる。
「報告します。自壊機構の作動を確認。射撃管制装置を含む全ての電子機器は物理的に破壊されました。砲弾はありませんし、後は爆破処理で砲塔機 構とエンジン、それから車体をできるだけ破壊すれば完了です。……それがB3ライフルですか。少ないですね」
「だろ? 同封されたカートリッジ入りの専用弾薬は120発だけ。あとは交換部品もないんだぜ?」
「しかし壊れてはいない」
静かに、しかし強い声で部下の会話を遮る。
「無事に日本まで届いた」
二人の部下が口を噤み、C-17の残骸を見上げる。
「人類のために勇敢に戦った、この機の飛行士に感謝する」
国も民族も人種も違うが、今この瞬間も、遥か彼方の大地で、同胞が戦っている。
イデオロギーのためではない。
金のためでもない。
自らが生きるために、誰かを生かすために、人類は戦っている。
その献身に名誉を。死には、尊厳を。
「――敬礼」
逆光の中に起立する巨大な垂直尾翼は無残だったが、それは大地に突き立てられた小銃の墓標と同じく、誇らしく、そして勇ましく見えた。
「試作ライフル6艇と、専用弾薬120発を回収した。任務完了。撤収する」
「サー! イエッサー!」
部下の顔は引き締まっている。しばらくは愚痴を漏らすこともないだろう。
ふと口許を緩めた、それを慢心だと警告するかのように、乾いた銃声が響く。
『た、隊長ッ!』
インカムが震える。高速道路上に残した部下の、悲鳴に近い声だった。
『敵が! 敵が現れ――』
インカムの声がノイズに変わると同時に、断末魔の絶叫が頭上から直に聞こえた。
自分と2名の部下は条件反射でその場を離れて遮蔽物に身を隠し、AF14ライフルを構える。
直後、何かが目の前の路上に落ちた。数百個の生玉子を一度に叩き割ったかのような音とともに。
「うっ……」
白いBMWの影に屈んだ部下が、苦しそうな声を洩らす。自分も舌打ちを堪えられなかった。
ついさっきまで生きていた者の無残な死体というものは、何度経験しても慣れるものではない。所々が強酸液で焼け溶け、四肢もバラバラになって いるが、おそらく3人のものだろう。強酸液にやられた死体に違わず、臭いも酷かった。
「糞蟲がっ……どこにいやがる!」
軽口を叩いていた様子からは想像もできない憤怒の形相で、部下が激昂する。
「ぶっ殺してやる!」
巨大生物との戦いでは、声や音を気にする必要はない。
どういう習性か、奴らは一定範囲内に入らなければ、たとえ銃声がしても反応しない(撃った弾が当たれば別だが )。逆に、奴らのテリトリーに足を踏み入れれば、息を殺していても確実に気付かれる。心臓の鼓動すら聞き分けられる化物を相手に、声を潜めても気休めにもならない。
闘争心が燃え上がるなら、いくらでも叫んでいい。
ただし、冷静さを失ってはいけない。
奇妙な状況だ。上に残した3人の部下を惨殺した巨大生物の姿が見えない。アーマースーツのセンサーでは検知できないのか、ヘルメットのバイザー に表示されたレーダー・サークルには何の変化もなかった。
経験上、このケースなら既に自分達も攻撃を受けている筈だ。この近さで見過ごされることはない。そもそも奴らは大群で全てを押し潰す津波のよ うな猪突猛進が基本戦術の筈だ。高所から全周囲を警戒していた陸戦隊が奇襲を被るなど、ありえない。これではまるで……。
「嫌な感じだな」
昼間の市街地に、真夜中のような静寂が満ちている。息が詰まると言うべきか、空気が粘度を有したかのように重い。もしも目の前に仲間の無残な 死体がなければ、悪い夢を見ていると思ったかもしれない。
死の臭いは強烈だ。全身が緊張し、喉が渇いている。
仲間を殺した敵は、必ず近くにいるのだ。
その脅威は、絶対的な現実だ。
――そうだ。
「バイオセンサーを。精密探査だ」
神経質そうに辺りを見渡していた部下もその存在を忘れていたのか、腰からセンサーガンを取り出す。
「必ず近くにいる筈だ。検知パターンを再設定。フィルターから共鳴要素を排除しろ」
頷いた部下がセンサーガンを構え、ゆっくりと巡らせていく。相手は群れではなく、単独だろう。巨大生物が個体で発する磁気パターンに絞り込め ば……。
「……いました! 2時の方向、距離120、高度プラス24、あのビルの上です!」
「野郎!」
全員が雑居ビルの屋上に銃口を向けたのと、そこに設置された消費者金融の看板が歪んだのは同時だった。軽薄な笑みを浮かべた女の顔が醜く膨ら み、食い破られる。
「敵を視認! 黒蟻……1体です!」
「いい度胸だな! お友達も呼んでいいんだぜ!?」
全長9メートルに達する蟻の化物は、そのままビルの壁面に張り付いて降り始めた。6本の脚が忙しなく動き、その関節部のモーターセルがきりきりと甲高い音を立てる。
「射程内だ! 胴体部に集中射撃! 撃て!」
狙いをつけ、引き金をしぼる。
AF14の有効射程は150メートル。個々の集弾性は低いが、3挺で狙えば1匹の巨大生物を殺すには充分な弾幕となる。
僅かな反動とともに無数の5.56ミリ弾が撃ち出され、大気を切り裂いて飛翔した。
もしも生身の人間に当たれば、薄い肌を貫いて柔らかい肉を深く引き裂き、弾丸の回転と断片化によって致命的な損傷を負わせる弾丸だ。黒蟻型巨 大生物の外皮も同様に貫通し、内組織を傷つけて死に至らしめることができる…………できた筈だ。
「……なんだ」
一瞬、我が目を疑った。
巨大生物の表皮で火花が……まるで戦車に撃ち込んだかのように、跳弾している。
「おいおい! 変だぞ!」
驚愕は続く。速いのだ。ビルの壁面を垂直に降りているからではない。脚の動き自体が速い。それはビルを降りると、より明確になった。瞬く間に 距離が詰まり、その姿が大きくなる。
「退避! 散開だ!」
白いBMWの影に隠れていた部下が飛び出してアスファルトを転がる。
咄嗟の警告と部下の即応が功を奏した。
20メートルまで距離を詰めた黒蟻が、素早く腹部を振り上げ、驚くべき速さで前に突き出したのだ。腹部の先端から赤い強酸液の満ちたゼリー状の 球体が無数に放たれ、白いBMWを覆い隠した。優美なドイツ車が異音をたてて溶け崩れていく。あと一秒でも遅れていれば、部下は骨も残っていなかっただろう。
「なんだよ! あの酸は!」
ビルの影に逃げ込みながら、部下が叫ぶ。
黒蟻が放つ強酸弾は、通常は3つから5つの筈だが……軽く10を超えていた。
「出血大サービスだな」
「冗談じゃないですよ!」
数だけではない。威力も尋常ではなかった。強酸液を浴びたBMWは影も形もない。1トン以上の金属とプラスチックの塊が……。
「H級とか言う奴じゃないのか!? こいつ! うわ!」
黒蟻が突進して来るのを見て、部下は銃撃を止めてビルの間の路地に逃げ込んだ。ビルとビルの隙間と言っていいほど狭い路地に黒蟻は頭部を突っ 込む。猛烈な突進を受けてビルの壁面に亀裂が走り、一階はおろか二階の窓ガラスまでもが砕け散った。
「畜生が! 寄るんじゃねえッ!」
部下がライフルを連射するが、銃撃の響きよりも、その弾が黒い硬皮に跳ねる音と、鉄骨を打ち鳴らしているかのような耳障りな音の方が勝ってい る。飢餓に狂った猛獣のごとく、黒蟻が顎の先にある鋭い牙を噛み鳴らしているのだ。
「退れ! 伏せていろ!」
黒蟻の腹部の下へ、背後からMG10手榴弾を転がした。起爆。音速で飛び散った無数の弾片と発火した焼夷剤の熱量が真下から黒蟻の腹部に集中する 。
「こいつ……!」
その黒蟻は平然と、何事もなかったかのように路地から頭部を引っこ抜き、振り返ったのだ。手榴弾の威力は、焼け焦げて砕けたアスファルトが物 語っている。
「隊長! 無茶しないでくださいよ! アーマースーツを着ていなけりゃ…………嘘だろ、おい」
黒蟻の向こう側で、路地の奥から文句を言おうとした部下も、目の前の化物の健在ぶりに絶句したようだ。
「そのまま隠れていろ!」
ライフルを撃ちながらC-17の残骸に逃げ込む。
「隊長! こちらへ!」
部下に招かれ、ギガンテスの後ろに隠れた。
「……Hard級の上は、なんて名前だった?」
上手く引き付けることができたらしく、黒蟻がギガンテスに喰らいついた。
「確かHst……Hardest級ですね。欧州のジブラルタル海峡戦線で、普通じゃない黒蟻がいたそうです。たぶん、こいつみたいな」
複合装甲を噛み千切る轟音と衝撃に60トンの戦車が揺れている。思わぬところで装甲強化試作車輛をテストできた。
「なるほど、その上は?」
「一応、最上位脅威目標としてInferno級が設定されています。まだ発見されてはいませんが……」
「こいつが、記念すべき第一号かもしれないな」
突然変異なのか試作タイプなのかは分からないが、単独行動していた理由もその辺にあるのだろう。
「我々が生還できれば、そうなりますね」
「そうだな…………車輛破壊用の爆薬はあるか?」
「お二人が囮になっている間にセットしておきました。少しですが燃料も残っていましたし、手榴弾よりはマシですね。いつでも起爆できます」
「上出来だ」
部下と拳を合わせる。
AF14もMG10も効かないなら、これしかない。
「走れ!」
部下ともに残骸の奥へと走る。機首部分が脱落していたのは幸運だった。外に出て振り向くと、ちょうど黒蟻がスクラップ寸前のギガンテスを乗り 越えようとしているところだった。部下に続いて地下鉄の入口に飛び込む。
「やれッ!」
次の瞬間、地面が揺れた。装甲を強化した試作戦車を破壊するために与えられた工兵用爆薬は強力で、仕掛けた方も優れていた。まずエンジンブロ ックから炎が噴き上がり、燃料に引火、爆発するのと同時に砲塔破壊用の爆薬も炸裂する。その真上にいた黒蟻は砲塔とともにC-17の背中を突き破って吹き飛ばされた。
「バラバラになれば、いい花火になったんですが」
まさしく、その通りだった。
数十メートルを吹き飛ばされた黒蟻が、平然と立ち上がったのだ。
「まいったな……これは」
多少のダメージを与えられたようだが、脚は一本も欠けていない。
「やれやれ、お手上げですね」
もう一人の部下も合流する。
アーマースーツを着た大の男3人が階段に伏せて、地下鉄の入口から顔を覗かせている光景を考えると、口許に自嘲的な笑みが浮かんだ。
「最後だ。意見があれば聞くぞ」
「このまま地下鉄から逃げられればいいんですが……無理ですね」
蟻らしく巣でも掘る気なのか、巨大生物が片っ端から水道管や下水管を食い破ったせいで、地下鉄こと東京メトロは汚水に没している。
「SLD2のところまで行けば……まぁ、残っているかどうか怪しいもんですが」
こちらを見つけたらしく、黒蟻が正面を向く。脚の動きを見る限り、俊足は健在らしい。SDL2がなければ、とうてい逃げ切れない。
「エアバイ乗りなら、最後はあの音が聞きたかった」
「そうだな」
思えば、愛機を離れたのが運の尽きだったのかもしれない。
「目を閉じれば聞こえますよ。あのドイツ製高級掃除機みたいな音が……」
「変ですね。自分にも聞こえます」
確かに、聞こえる。幻聴ではない。
音源を探ると、3人とも同じ方向に顔が向いた。
首都高速道路だ。
「まさか……」
もはや疑いようはなかった。
0-100km/h1.5秒台を叩き出す、エアーバイクSDL2のフル・スロットル加速音だ。
黒蟻も頭部を巡らし、到来する“脅威”に身構えている。
「速いぞ」
大気を切り裂くこの高音……250キロの高巡航速度からさらに加速――270――290――320――限界まで高まる吸気音に混じって、聞きなれない異音 が響く。高速域で自動固定される機首のカナードを、マニュアルで動かした時に似たような風切り音が出るが……。
「いったい何をする気だ」
その疑問に答えるかのように、崩落した高速道路の先端から、まさしく弾丸のごとく黒い影が飛び出す。
次に目にしたのは、一気に数十メートルを吹き飛んだ黒蟻と、それと並行して道路を転がる何かの影だった。
もうもうと立ちのぼった砂埃が風に流されるまで、随分と時間がかかったように感じた。
「あれは…………人間か?」
ひっくり返って脚を蠢かす黒蟻の近くで影が……誰かが立ち上がる。
遠目にも分かる赤と黒の派手な色彩。EDFアーマースーツの後ろ姿だ。
「何がどうなって…………え?」
「あれは…………!」
起き上った黒蟻を見て、二人とも絶句した。
「無茶苦茶だ……!」
半ば呆れ果てて、叫んでいた。
黒蟻の頭部に巨大な杭が……残骸と化したSDL2が突き刺さっていた。
高速道路から飛び出して黒蟻に激突した影は、あの人間が乗ったエアーバイクだったのだ。
「時速300キロ以上で……崩落部ギリギリでカナードを……機首を下げて……」
確かにそうしなければ“飛んで”しまうが、コンマ1秒でもタイミングが違えば、カナードの角度が1ミリでも深ければ、下がった機首が路面に干渉 して横転ならぬ縦転、いや、SDL2の剛性では瞬時に分解してしまうだろう。
そして黒蟻と衝突するまでに、その一秒とない僅かな間に最終的な突入軌道を空中で調整し、グリップから手を放して離れなければ確実な死が待っ ている。それに成功しても、地面にうまく“不時着”しなければならない。
「信じられない……」
「アーマースーツを着ているからって…………限度があるでしょう」
「……Nice Landing」
呆然とする我々を余所に、そのEDF陸戦隊員は黒蟻との戦いを始めた。
頭部を振り回してSDL2を脱落させた黒蟻が、腹部を突き出して強酸弾を放つ。
近距離から赤い壁となって迫った強酸弾の雨を、人影は当然のように避けた。1度、2度、3度と、最低限の動きで避けていく。黒蟻の腹部の動きから 強酸弾の投擲軌道を予測しているのだろうが、それは理屈に過ぎない。致命的な攻撃に即応するための判断力と集中力……それを支える精神力がなければ不可能だ。
「あんなことが……」
できるのか、とは言えない。目の前に、現実に存在しているのだ。
黒蟻の脅威度を測るかのように回避に徹していた彼は、何の前触れもなく反撃に移った。
飛び込むように路面を転がり、落ちていたライフルを拾う。それがAF14XR-Type-B3だと気付いた時、遮蔽物の影で素早くライフルを点検した彼は、 いつの間に拾ったのか、弾倉を装填して黒蟻の頭部の傷……SDL2の衝突によって穿たれた大穴に銃口を向けていた。
AF14STと同様の重い銃声が連続して三度、戦場の大気を震わせる。
「やった!」
黒蟻が大きく頭部をのけ反って赤い体液を撒き散らした。射撃は止まらない。揺れ動く黒蟻の頭部へ向けて、正確無比な3連射が次々と叩き込まれて いく。彼の攻撃は容赦がなく、徹底していた。弾が尽きると弾倉を交換し、同様に射撃を続ける。威力は不足しているようだが、あれほど正確に傷口を狙われ続けては黒蟻も堪ったもの ではないだろう。
「あれはあれで、実戦テストにはならねぇよな……」
どうにか“抵抗”しようと黒蟻は腹部を振り出すが、強酸弾を放つ寸前に腹部先端の分泌孔を狙い撃たれる。3連射のうち、まず第1撃が分泌中の強 酸弾を破裂させた。続く2発目の衝撃によって強酸液が飛散し、無防備となった分泌孔に3発目が飛び込む。腹部の奥深くまで突き刺さった弾丸によって致命的な損傷を負ったのだろう。 それ以後、黒蟻が酸を放つことはなかった。
黒蟻は威嚇のために牙を噛み合わせるが、その姿は弱々しく、許しを請うようにさえ見えた。当然、銃撃が止む筈もない。牙は付け根を砕かれて抜 け落ちた。
「とても真似できない……」
「ああ……」
遂に死の鉄鎚が下され、黒蟻がその場に崩れ落ちる。
専用弾薬120発は、ほとんど使い切られたようだ。あの黒蟻に対して弾丸一発の威力は低かったのだろうが、一箇所に集中して絶え間ない負荷を与え られたため、神経網が耐えられなくなったのだろう。人間に譬えれば、小さく鋭い針で頭の傷を刺し続けられて痛みで憤死するようなものだ。
「いったい、何者なんだ」
“彼”は銃口を下ろしてこちらを向いたが、顔に見覚えはない。
「あの白いV字の入ったヘルメット……遊撃隊じゃないですか」
「ストームチームか……」
圧倒的な戦い振りを見せ付けられたからだろうか。我々と彼は歩み寄ることもなく、互いに佇み、静寂に身を任せていた。
エアーバイク無しでどうやって帰るのか。その問題に気付くまで。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF21-B4
弾速と威力の強化と、銃身と緩衝装置の冷却を効両立するために導入されたBurstモデル(一般的なライフルは単射 ・バースト・フルオートに切り替え可能であるが、このモデルはバーストのみとなっている)であるが、独特の使い勝手から、評価が芳しくないシリーズであった。
しかし実際は同クラスのノーマルモデルに比べて射程が長く、装弾数も多く、AF19X-B3ならばH級(同じ巨大生物で も出現時期や地域によって脅威度に差がありEasy<Normal< Hard<Hardest<Infernoに分類されている)を、AF21-B4ならばHst級を相手にしても充分に戦える優秀なアサルトウ ェポンである。
またAF21-B4はAF20の射撃精度がAマイナスであるのに対して、Aプラスを獲得しており、同時期に開発されたAF20STやAF99STよりも製造と取扱いが容 易で、信頼性が高く、価格も遥かに安いため(良い意味でも悪い意味でも“ライフル界のスーパーカー”と称されるAF20STやAF99STと比較すること自体 問題であるが)、大戦後も沿岸警備隊や治安維持部隊などで採用されている。
射撃間隔が長いことから地形戦や回避行動との組み合わせが重要であり、STアサルトライフルとMMFスナイパーライフルの中間的存在として、近年は 評価を見直す動きがある。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF18X
著しい射程不足が取り沙汰されて回収されたAF18であるが、単なる装備の欠陥に留まらず、今後のフォーリナーテクノロジーの応用の左右する重要な 問題として、徹底的に調査されることなった。
ガンシップの残骸を資源化して新型ライフル弾に用いられていたR3F(帯斥力フォーリニウム)材が原因な のは明らかであった(従来のマイクロ・ライフル弾を用いたRA型は正常に作動し、AF18RAとして配備された)が、開発時のシミュレーションにお けるエラー要因は発見されず、開発チームが手探りで検証していく他になかった。
最終的に「18%の法則」が発見されるまでに試みられた対策は数知れず、その後もAF19開発(当初は改修型である AF18-Refineの開発が予定されたが、速やかな資金調達のために新規開発計画となった)の前段階として作られた試作ライフルについても、スーパーコンピューターHOL6000型によ る仮象実証試験が信頼できない以上、一つ一つ実射試験が行われた(兵器に限らず、あらゆる機械装置の開発において実機試験は当然であるが、当時は 人類の存亡を賭けた激烈な戦いの最中であり、1分1秒の時間が惜しまれていた)。
開発は段階的に行われ、幾つかの評価試験用モデルが完成し、戦場での実戦テストがEDF北米方面軍(もともとは北 米総司令部とは別の軍団であり、他の地方方面軍と同じく司令部を有していたが、大戦初期のワシントンD.C.壊滅によって司令部を失い、大戦中は北米総司令部の直轄軍団とされていた )に命じられたが……、
「断る」
「アラバマのお袋を悲しませたくない」
「HAHA! Nice JOKE!」
戦場でAF18を使ってしまった悲劇の部隊はもちろん、その話を聞いた北米各支部のEDF陸戦隊がテストへの協力を拒否したのである。
もちろん“必要な犠牲”を合法的に強要できるのが軍隊という組織であるが、かといって士気の低下を看過することもできず、仕方なくテストモデ ルを絞り込み、もはや慣例と化しつつあった「EDF日本支部の精鋭陸戦隊に新兵器として供与し、実戦データを収集する」ことが決定された。
評価試験用試作ライフルAF18Xの輸送については、初の試みとして大戦前の月面往還ロケット(スペースシャトルの 後継として設計された経済性に優れた宇宙ロケットであり、国際条約を平然と無視して水面下で行われていた米中の月面開発競争の先兵として実用化が準備されていた)の縮小改 良版が用いられた。
後に大陸間弾道輸送機として正式化される“特別便”は、北米総司令から南西に数百キロ離れた田舎町にある偽装ミサイルサイロ(冷戦時代の遺物ではなく、2016年の核兵器全廃までアメリカ戦略軍の実動戦力として秘密裏に機能していた)から打ち上げられた。
早朝、田舎町のスーパーマーケットには不釣り合いな広大な駐車場が地盤沈下のように陥没した次の瞬間、振動とともに陥没した穴から白煙を噴き 出しながらロケットの弾頭が現れた。コールドローチン式サイロから高圧水蒸気で射出されたロケットは高度数十メートルでエンジンに点火、強烈な爆風で直下の建物の窓ガラスや屋根 を吹き飛ばし、古い建物を崩壊させてロケットは天に飛翔した(発射後の町はさながら爆撃を受けたような有様であった。既に集団避難によってゴース トタウンと化しており、米軍時代も発射に際しては住民を避難させる決まりであったが、核戦争において核ミサイルサイロが最重要攻撃目標になることを考えれば、市街と市民を盾とす るような偽装サイロを建設した者の精神を疑わざるを得ない)。
3段式の輸送ロケットは1段目のブースターを切り離し、成層圏まで上昇、先頭のカーゴユニットを切り離した(2段 目の運搬ユニットは滑空翼を展開して降下、発射地域に自動帰還して回収され、再び使用される)。
ICBMの再突入体ほどではないが、フォーリナーに攻撃されないためにカーゴユニットも音速域の速度で降下、地表近くで盛大な逆噴射をかけて減速 、全周囲にエアバックを展開して旧東京跡の廃墟に落下した(フォーリナーの徹底的な破壊によって障害物がなかったため、着地点から完全停止するま で数キロをボールのように転がった)。
北米総司令部からの直接命令で出撃させられていた陸戦隊が荷物を回収した時点で、EDF日本支部にAF18Xの実戦テストが決定事項として通達された 。
「なんということだ……北米総司令部は何を考えている!」
声を荒げた日本支部司令官に、女性オペレーターが「では反対を……」と心配そうな面持ちで訊ねるが、
「いや、カーゴユニットの落下で巨大生物が集まってきている。ちょうどいい。回収部隊はそのままAF18Xをテストして帰還しろ」
カーゴユニットから荷物を取り出していたレンジャーチームは既に交戦中だったが、巨大生物の大群から逃げ切れるかどうかも分からない状況でテ ストを命じる通信に、怨嗟の声があがった。
「何が“ちょうどいい”だ! ちくしょう!」
「隊長! 敵に囲まれています!」
「いいから撃て! 撃てぇ!」
「こうなりゃ新兵器ってやつを試してやるか!」
「それが新しい仕事だろ! くそ!」
ヤケ気味に叫んだ隊員が強化プラスチックケースを開けて緩衝材を掻き分け、試作ライフルAF18Xを取り出し、同封されていたR3Fライフル弾を装填 する。
「来るぞ! 10時方向!」
「よっしゃあ! 新製品のお試しだぜ! 喰らいやがれ!」
住宅の瓦礫を突き破って現れた赤蟻に向けてAF18Xの銃口が向けられ、トリガーが引かれる。
「うおお!?」
毎秒12発の速度で撃ち出された弾丸が、さながら手持ち花火の火花のように、銃口を出ると同時に急激なカーブを描いてあらゆる方向に飛び散る。
「ちょ!? 危ねぇだろ!」
「馬鹿野郎! 俺を殺す気か!?」
周囲の隊員が身を屈めて叫ぶが、AF18X撃った隊員も訳が分からなかった。MMF50のように強烈な反動があるかと言うとそうではなく、従来のライフ ルよりも反動は軽く、どうして弾丸があちこちに飛び散るのか、理解できなかった。
水平方向に飛んで行った弾丸が150メートルは離れた黒蟻に当って体液が飛び散ったことから、有効射程は平均的のようだが、射撃精度と表現してい いのかさえ迷うような性能では意味がなかった。
「まったく、たいした玩具だな! ショットガンの代わりにもならねぇよ!」
至近距離まで引き付けることで赤蟻を撃退した隊員はそう評したが、威力はAF17の2倍近くあり、まったく使えない訳ではなかった(あくまでも“使わざるを得ない状況”に限った話である)。
その後、命からがら帰還した陸戦隊から回収されたAF18Xは、日本と北米を定期的に往復している日本海上自衛隊( に残された唯一の艦艇である)かいりゅう型高速ディーゼル潜水艦“かいおう”(もともとは三菱造船など複数の日本企業によって共同開発され たハイドロジェット推進方式の実験潜水船であり、大戦中に日本政府によって接収され、EDFの兵站部門に協力していた。その名の由来となった美しく滑らかな流線型の船体は水の抵抗を 極限まで抑えており、従来の軍用潜水艦を遥かに上回る水中速度を誇る。また可動型ハイドロジェット推進器の偏向排水と、コンピューター制御される十数枚の舵翼によって常軌を逸し た水中機動が可能であった。ただし軍用潜水艦として設計されていないため、ステルス性は皆無であり、限界潜航深度も浅い。一応はディーゼル船であるが、水上航行時および大容量電 池の緊急充電用のものである。武装はコンフォーマルタンクのように船体に外付けした流線型の多目的発射管4門であり、魚雷の他、水中発射型ミサイルも運用可能である。同艦は大戦 末期の大西洋海戦に遠征、米英連合海軍が離脱する時間を稼ぐため、海上のマザーシップに単艦突撃、限界深度から一気に艦首を上げ、海面を突き破るような急速浮上によって奇襲し、 直下からC70弾頭ミサイルを発射した。残念ながらマザーシップに損傷は与えられず、直後に周囲の空母型円盤から水中に投下された無数の小型ヘクトルによって集中攻撃を受け、撃沈さ れたと考えられているが、現在も「未帰港」と記録されている)で北米へと送られて解析された。
開発チームは実戦で大量のR3Fライフル弾を発射したAF18X――その銃身を構成するR3F材の分子回路を徹底的に調べ、R3Fライフル弾の射出に最適な サーキットパターンを完成させた。
この結果は「超高速で擦過するR3F含有体の相関性」そして「18%の法則」へと理論化され、R3Fライフル弾の安定した弾道での高速射撃が実現。 AF19の開発へと繋がった。
なおガンシップやヘクトルの残骸のみを供給源としていたフォーリニウムだが、大戦後に飛躍的に進んだフォーリナーテクノロジーの解明によって (疑似バウンド素材と同じく)高コストではあるが製造法が確立されており、様々な分野で用いられている。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
- [▲前の項目へ][次の項目へ▼]・
- AF-V
初期のAF-14強化計画に関連して試作開発された特殊ライフルであり、左右斜め方向に2発の弾丸を同時発射する。
数人の隊員が並んで撃つことで、特定の距離での集弾密度を高めた水平弾幕が形成される。単独の場合、正面に撃てないのは大きな問題であるが、 優秀な緩衝装置を搭載しているため、目標に対して銃を斜めに向けて撃つことで……なんとか正面に撃つこともできたと言われている。
癖の強さからシリーズ化されることはなかったが、2発同時発射のために開発された緩衝装置は独自に改良が続けられ、STシリーズや各種スナイパー ライフルに活かされた。
なお2発の弾丸をV字方向に同時発射する技術……とくに銃身内の構造については北米総司令部の壊滅によって資料が残っておらず、開発責任者だっ た研究員も「憶えていない」「今となっては自分でも分からない」と正式にコメントしており、試作製造された4艇も戦災の混乱で行方不明となってしまったためにロストテクノロジーと 化し、記録映像のみに残る“幻の武器”となってしまった。
[▲前の項目へ]
[目次][総目録]
関連動画
関連商品
関連コミュニティ
関連記事
外部リンク
- 7
- 0pt



