地球防衛軍3の兵器 グレネード単語

チキュウボウエイグンスリーノヘイキグレネード
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ここでは地球防衛軍3の兵器のうち「グレネード」について記述する。

・他の兵器については「地球防衛軍3の兵器ネタ記事」の総録を参照とする。

フィクション この記事は高濃度のフィクション成分を含んでいます!
この記事は編集者妄想の塊です。ネタなので本気にしないでください。

目次

 

 

 

 

 

 

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  • MG13J(o0PpVnrRyHさん作)
     上記の通り、MG13は実用的とはとても言い難い兵器であったが、そもそも官が要望した武器であったこと、「頭のネジが飛んでいる」と評判の開発局員から実戦でのテスト結果の報告を示されていたことにより、EDF日本支部の儀な陸戦兵らは当初バゼラートのペイロードに固定、一種の投下爆弾としての使用を試みた。
     ……が、安全ピンを抜かないと起爆せず、かといってあらかじめ抜いておいたら離着陸時の衝撃で暴発してしまうことが判明。
     その後も
    『高所からぶん投げる』
    SDL2エアバイクで走りながらばら撒く』
    爆弾処理用の防爆スーツを着込んで特攻する』
    『スリングを使って遠くまで投げる』
     などの試行錯誤を繰り返すもうまくいかず、しまいにはテストで死にかけた隊員らは「これはたちを殺そうとする本部の罠なのでは?」とフロントラインシンドロームに陥りかける始末。
     前線兵士らの殺意に近い不満を察知した官は、しかし自分が頼んで作ってもらったものを「使えねぇ」と開発局に送り返すわけにもいかず。
     悩んだ末、整備班に「なんとかしてくれ」と泣きつき、整備班も突然かつアバウトな命に「何故たちが……?」と困惑しつつも、時限装置を取り付けることにより、安全ピンを抜いてから30後に起爆する時限式に改造
     MG13を支給されてきた隊員らも「これでもう衛生隊のらにで見られずにすむぞ!」「もう消火器片手に出撃しなくていいのか!」とを流して喜んだ……が、事情を知らない整備員の、
     
     「C系爆弾使えばすむんじゃないですか?」
     
     という一言でに返ったため、MG13Jは実地テストでの結果報告後も、巨大生物の追撃が予想される威偵察などごく一部の作戦で使用されるにとどまった。
     なお、後日『重たいけど高威なC系爆弾』が開発されるが、このエピソードとの関連性は不明である。
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  • MG14(9+l4C/indbさん原案・トウフウドン加筆
     侵略フォーリナー
     幾つかの戦闘機械と生物兵器らしき巨大生物から構成されるそれらが、体的意思を有した知的生命体ではなく、何者かによって造られた自行動体群という説戦後という言葉が風化し始めた2030年代後半に入ってから普及した学説であり、2017年に襲来した地球外起の敵性集団を、異人そのものではなく、異人の被造物ではないかと唱えている。つまりは人類や動植物を含んだ地球という豊かな惑星そのものを“資”として採集していく自機械のような存在であり、その生物鉱物材料として新たな巨大生物戦闘機械を生産し、全てを食い尽すと別の体へと移るというものである。ただし、そうして増殖した軍団を“本”に帰還させてエネルギー化するのか、それとも宇宙を侵食し続ける軍団でもって版図を拡げようとしているのか……意たる的は想像の域を出ていない。終戦後に発案された宇宙規模の戦略である太陽系防衛構想では、フォーリナーとの和交渉ないし全面戦争による“全な決着”が最終標として掲げられている。その最大の障害として懸念されているのは、あのマザーシップ機械進化を遂げた生命体ではなく被造物であると仮定した場合、それらを創造した異文明が今も存続しているのかという問題が挙げられている。なぜならばマザーシップの残骸の内、特殊物理甲殻以外の通常物質を測定したところ、十数億年から数十億年もの過去に製造された可性が示唆されたからである。いかに異の文明とは言え、億単位の年というのは決して短いものではない。もしもあの悪魔たちの創造である異文明が既に崩壊しているとすれば……それでも依然として増殖し続けているとすれば…………人類は、終わりなき戦いを覚悟しなければならない。でなければ地球を含む数多の惑星巨大生物によって埋め尽くされ、あたかもガン細胞が全身を蝕むがごとく、この宇宙フォーリナーという因子によって飽和し、ある意味で“死”を迎えるだろう。万物のである宇宙という存在そのものを殺すこと。それこそが悪魔を生み出した者の邪まな望み、あるいは悪魔そのものの意思なのかもしれない)もあるが、あの悪魔たちが人類以上に高度な知性と邪悪な意思を有していることは、2017年の大戦において疑いようのない事実として確認されている。
     当時、開戦から数週間が経過した時点で「防衛線の構築」という初期戦術はフォーリナーの対抗戦術によって陳腐化し、人類は苦戦を強いられた(数体のヘクトルが集まってビームマシンガンブラスターを乱射しながら前進する“死の行進”は苛極まる攻撃であり、大火力兵器開発が遅れていたこともあって、路にバリケードを構築して迎え撃つなどといった戦い方は自殺行為に等しくなり、また蜘蛛も日に日に個体数を増しており、拠点防衛は困難を極めた)
     替わって生み出されたのが「機動遊撃戦」という新たな戦術の概念(防衛対の存在しない“戦場”に敵の大群を誘い出し、戦闘輛による速やかな移動によって間合いを維持しながら敵戦を分散、各個撃破していく戦術であり、EDFではエアーバイクSDL2によって効果的に実践された)であり、幾つかの武器が……中でも射程距離の問題であまり使用されていなかったハンドグレネードの評価が大きく変わっていった。
     とくに数名の歩兵が後退しながらアサルトライフルショットガンを掃射する戦術(俗に「退き撃ち」と呼ばれ、緩衝装置を内蔵した低反動火器ならばフルオート射撃をしながらの後退も可であった。EDF製アーマースーツではバイザーに後方視界を表示できるが、実戦では転倒を防ぐため、1名から2名の隊員が後退射撃する数名を先導した)は、巨大生物を相手にする際に非常に有効であり、練度の高い部隊になれば数名で数十匹単位の巨大生物を殲滅することができた巨大生物の移動速度人間のそれをかに上回るが、ある程度の威を有する火器ならば、被弾反動で足止めすることが可であった。または一定の距離で停止してから強弾を投射する習性があり、停止して投射姿勢に移った個体を優先的に排除することで効率的に戦うことができたと言われる。ただし跳躍移動によって奇襲を狙う蜘蛛に対しては、複数名による相互援護で死くし、糸の投射姿勢に移った個体を速やかに排除しなければならなかった)
     その際、手榴弾ロケットランチャーよりも高威かつ広範囲の攻撃で複数の巨大生物をまとめて爆殺でき、誤爆の危険も“較的”少ないということで重宝されることとなった。
     ただし次世代の高火力手榴弾として開発されたMG13があまりにも使い難く(アーマースーツの筋補強機をもってすれば重量110キロ手榴弾を投げることも不可能ではなかったが……それを持ち運ぶ時点で隊員に体力の著しい消耗を強いており、およそ実戦的とは言い難かった)MG12の後継となる正統なバグスレイヤー殺し)を望むは多かった。MG13を一度でも手にしたことがある者ならば、なおさらであった。
     戦場MG13を使った経験のある者は言った。
    「女も爆弾も……なのが一番だ」
     その悲痛な要望に応える形で設計、開発されたのがMG14である。
     グレネードランチャーでの使用も考慮されたMG14の開発MG13シリーズとは全に別系統で行われ、開発担当者も異なっていたMG13の設計者は同手榴弾の強化研究し、そのであるMG20の後に「異端の後継者」としてMG21JやMG29Jといった火力バウンド・グレネードを生み出している)
     MG13で実用化された高性焼夷剤を用いず、MG12の良という形で行われた開発は難航したが、外殻構造の再設計によって起爆時に飛散する弾片の初速を60近く向上させることに成功、MG12の3倍近い1400という火力評価値を獲得した。
     当時の敵であるN級からH級までの巨大生物に対しては充分な威を有し(脆弱なEasy級に対しては全なオーバーキルであった)、時折出現したINF級という極めて危険性の高い個体に対抗することも不可能ではなかった。
     またMG12とほぼ同じ11メートルという有効殺傷範囲は威不足と言われながらも、それ以上に安全で使い勝手が良く(乱戦と言う他にない近距離戦において、巨大生物の急な突進と薄によって爆発に巻き込まれる事故の発生率が、手榴弾の殺傷有効範囲と例するのは当然と言えよう)MG14は新兵器の導入が遅れた地域やレジスタンスの間で用され、終戦まで第一線で活躍しつづけた。
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  • MG20(o0PpVnrRyHさん原案・トウフウドン加筆
    以下の文章には全編に渡って重度のネタが含まれています
    読むことによってゲーム中のイメージを損なう怖れがあります
    以上をご了解いただける方のみ、ご覧ください
    ・・・
     「どうして、こんなことになっちまったんだ……」
     見慣れない形の手榴弾を握り締めた陸戦隊員が、いた手でを拭う。
     その独白に答える者はいない。もが重い沈黙を背負っている。
     彼――その部隊の長である男には答えることができた。戦場にいれば、もが嫌でも知ることになる経験則だ。とくに、この大戦では。
     一言口にすればいい。たぶん、運が悪かったのだ、と。
     この世に偶然はない。全ては必然だ。必ず原因があり、それに見合った結果がある。
     ただ、いつもダイスを自ら振れるとは限らない。他人に運命を預けなければならない時もある。そうして生じた必然の結果を快く受け入れられる程、人間はよくできてはいない。
     とは言え、泣き喚いても始まらない。この部下のように独りで静かに泣くのはいいが、女子供のように全てを投げ出して救いを請うことはできない。男に、戦士に、それは許されない。
     だから々は「たぶん」と肩をすくめ、唇の端をめて「運が悪かった」と苦笑してやり過ごすのだ。諦めて受け入れることは、少なくとも受け入れる余裕がある間は。しかし、
    ――たちの命も安くなったものだな。
     自嘲は抑えられず、心中く。
    ・・・
     事の発端は四足要塞の撃破に成功したことだった。
     多大な犠牲を強いられたが、勝利によって得られたものも大きかった。四足要塞攻略作戦戦闘データ世界各地のEDFに伝えられ、新たな対フォーリナー戦術が模索された。北部の戦略研究室から日本支部に“お呼び”がかかるまで、そう時間はかからなかった。
    「実際に戦った人間に会って直に話を聞いておきたい、とはな……」
     四足要塞攻略、いわゆる「木殺し」で一躍有名になったEDF日本支部陸戦隊だったが、海外からの派遣要請にはもが驚きと困惑を隠せなかった。
     られた派遣の理由に対して、リスクがあまりにも大きいのだ。
     陸戦隊海外派遣自体が前代未聞のことであったし、旅客機エコノミーシートドリンクスナックを消費していれば十数時間で着くというのは戦前の話だ。ガンシップが飛び回る路は言うまでもなく、路も安全ではない。軍用潜水艦であっても、中を歩き回るヘクトルに襲われれば……。
    「わかりました。すぐに出発させましょう」
     日本支部の最高責任者は要請を受託した。四足要塞攻略の是非……日本列島を放棄するか否かを巡って北部とやりあったのがのように、あっさりと。
    「し、! この時期に戦を割くのは……」
     オペレーターの苦言を、官は静かに首を振って制し、発所の天井(切れかかったが点滅している)に遠い眼差しを向けて言葉を続けた。
    四足要塞との戦いで、私は多くの部下を失った。生き残った者も傷ついている。死者を弔うことはできる。だが生き残った部下には……残念ながら、々の備蓄する物資では彼らを満足に労ってやることはできない」
    ……」
    「あの戦いに参加したチームを……レンジャー4の隊長を呼んでくれたまえ」
     オペレーターは頷き、内線で呼び出す。その様子を眺めながら、官は軍帽を脱いで席に着いた。
    「休息が必要なのだ」
     「そうですね」と、受話器を置いたオペレーターが応える。
    「陸戦隊の疲労は限界に達しようとしています。も弱音を漏らしませんが、待機室で乾パンっている姿を見ると……わたしも胸が痛みます」
     まだ少女と言っても差し支えのない容貌の東洋人のオペレーターは、軍服に包まれた控えな胸に手を当てた彼女は開戦の直前に、英語が堪というだけの理由でシステム会社からEDF日本支部に出向して来た民間人であり、負傷した正規のオペレーターの代わりに戦術揮管制に携わり、その他にも官の秘書のような役など日本支部内の雑務の一切をこなしていた)
    「まったくだ。燃料がなければ戦車が動かないように、満足食事がなければ兵士は戦えない。官の私でさえ、もう半月もE戦闘食が続いている。もうクラッカーは嫌だ。いい加減、合成タンパク質ではなく、本物のを食べたい」
     焦がれるように、官は手中の軍帽を握り締める。
    ……」
     まるで歳の離れた人の健康を案ずるかのように、オペレーターは悲痛な面持ちで、膝の上に置いた小さな拳にを込めた。
     だが次の一言で、その勝ちな瞳に冷たいが宿る。
    「せめて先に食べた冷凍ハンバーグをもう一度……」
    「……だったんですね」
     が変わっていた。
    料理長に残してもらっていた、わたしハンバーグを食べたのは」
     まるでを見つけたかのような眼差しとに、悲壮さを称えていた官の横顔が引きつる。
    「ま、まぁ、とにかく陸戦隊の面々には慰労の機会が必要だ。北部はいいところだぞ。中にマクドナルドもある」
    「食べたんですね」
    「あ、いや……」
    わたしハンバーグ
    「す、すまなかった!」
     官が勢いよく手を合わせて謝る。同時にドアが開いたが、二人は気付かなかった。
    「どうしても慢できなかったんだ、許してくれ」
    「そんな……いまさら謝られても困ります。簡単には許せません。ずっと、大切にとっておいたのに……」
    「悪いとは思っている。しかし、あの匂いを嗅いだら、本理性で抑えるのは難しい」
    言い訳なんて男らしくありません。そもそも黙って奪うなんて……欲しいと言ってくれれば、あげたのに……。とにかく、責任を取ってください」
     入室したまま硬直していたレンジャー4の隊長が、遠慮がちにをかける。
    すみませんが、いったい何の話ですか」
    ・・・
     官権限により、半ば強制的にレンジャーチームは渡した。
    土産は冷凍ハンバーグを…………訳が分からん」
     事情をみ込めない陸戦隊員らであったが、渡のために乗艦したかいりゅう高速ディーゼル潜水艦“かいおう”とヘクトル水中機動戦海底の岩礁のから跳躍して迫ったヘクトルに対して“かいおう”は急速転――艦内に安全帯による身体固定警報が鳴りいたが、食事中だったレンジャーチームは対応できず、カレーに顔面を突っ込む羽になった――体当たりを論むヘクトルを避けるため、“かいおう”は艦の傾斜を戻すことなくバレルロールに移り――レンジャーチームは横向きになった食堂から転げ落ち、通路の突き当たりにある女子仮設更衣室へ突っ込んだ――横を通り過ぎて浮上するヘクトルに向け、背面潜航に移った“かいおう”の外設魚雷発射管から誘導魚雷が発射される――り付いて倒れているレンジャーチームの面々に向けて、安全帯下着だけを身に付けた女性乗組員たちから化粧品が投げつけられる――ヘクトルビームブラスターを発射するが、によって減衰した熱弾で魚雷を射抜くことはできず、魚雷ヘクトルの胸部を直撃した――投げつけられる口マスカラとは別に、床を転げ落ちた化粧のやや大きめの瓶が、隊長の両足の付け根を直撃した――胴体を引き裂かれたヘクトルの四肢が暗い海底していく――警報が解除され、艦がに戻っていくが、隊長が起き上がることはなかった)体力を消耗し、それどころではなかった。
    おまけに上陸艇がガンシップに襲われるとは……西海の港湾施設が壊滅しているのは仕方ないが、あんなで降ろさなくてもいいのにな」
    「不可抗とは言え、更衣室に突っ込んだからな……」
    「突っ込んだというより転落だろ。ダイヴだよ、ダイヴ。アーマースーツを着ていなければ打撲じゃすまなかったぜ。まぁ、おかげでイイものを拝めたが」
    お前が咄嗟に伸ばした手でブラジャーを剥ぎ取った女の子ミス“かいおう”だったそうだ。“かいおう”の連中に袋にされて、太平洋のどん中に降ろされても不思議じゃなかったんだぞ」
    「ああ、確かに可愛い子だったよな。……しかもデカかった」
    「うむ……」
     男同士の奇妙に穏やかな沈黙が周囲を包む。
     EDF部の広大な地下施設の一、一度に1000人以上が食事をとれる大食堂は、とにかく広い。地下施設特有の圧迫感を和らげるためだろう、天井は低いが、照明りは柔らかく、清潔感のあるには巨大な風景画がかけられており、観葉植物の数も多い。
     日本支部の施設とは泥の差だが、この快適さが逆に落ち着かないのか、2人の陸戦隊員は際の席に並んで座っている。
     その背中を見て、まるで高級ホテルに迷い込んだ野良だなと、レンジャー4の隊長は部下と、そして自分にも染みついた貧乏性に心中で溜息を吐き、努めて普段と変わらないで話しかけた。
    お前ら、もっと品位のある話をしたらどうだ」
    「うわ!?」
     背後から突然かけられたに、2人のレンジャー隊員は飛び跳ねるように席を立った。
    隊長!」
    「脅かさないでくださいよ」
     慌てて敬礼する2人に、隊長は「日本語がわかるスタッフも少なくないんだぞ」と注意しながら、ホットコーヒーデザート類の載ったトレイを置いて席に着く。
    「軟質素材の床とは言え、足音に気付かないとは、鈍っているな」
    「サー、イエッサー!」
    「申し訳ありません!」
    「まぁいい。席に着け」
     背筋を伸ばして座る2人に、隊長は皿に盛ったデザートの幾つかを勧める。
    「本物のリンゴを使ったアップルパイだ。ニンジンで代用していたうちの料理長には悪いが、やはり美味いな」
    「ふぁい、おいひいでふ」
    「一口で食うがあるかよ…………ふむ、やや甘さがくどいですが、腔に抜けるリンゴ味が素晴らしいですね。それに、きちんとした純バターが使われている」
    農業区画で育てたものらしい」
    「そこの環境制御に費やされているエネルギーを考えると、ありがたくてが出ますね」
    「まったくだ。栽培した穀物の余剰分で畜産も行っているとは……さすがは世界最大の要塞といったところか」
     やや皮めいた口調だったが、湯気のたつ本物のコーヒーまで否定する気はないらしく、隊長ニューヨークチーズケーキフォークを入れた。
    天然食品にありつけるのを抜きにしても、今となっては来て正解だったな。ここの連中が発案した攻撃作戦をそのまま実行していたら、北方面軍の攻撃隊は全滅していた」
    「あー……あれですか。四足要塞の迎撃射界の設定が甘過ぎでしたね。レーザーの減衰率の計算も遊びが大きいというか……」
    「おおざっぱ、だろ。アメ公らしいぜ。食券一枚でどんな飯でもOKとか、日本支部での苦労が馬鹿らしくなる」
    「まぁ、細かいことはいいんです。ただ、JEDFは戦闘に参加しなくていい、とっとと帰れというのは何なんでしょうね? 確かに々はオブザーバーとして招かれただけですが、こうも当りが強いとは」
    「それは、あれだろ。ここでたちが活躍したら、それこそ連中は無能もいいところだ。なんせ下のアメリカ、北方面軍の精鋭部隊様だからな。格下のジャップに木殺しで先を越されたのが面くないのさ。要するにメンツの問題さ」
    「まさか、人類の危機にそんなことを……」
    「倒した四足要塞によじ登って星条旗を掲げてUSA! USA! を大合唱する連中だぜ? まぁ、気のいいも多いけどな」
    お前たち」
     黙ってコーヒーを啜っていた隊長が、低いを出す。
    「そういう話もNGだ。肌の色も生まれたも違うが、々は皆同じ地球防衛軍だ」
     カップを置いた隊長は、広く清潔な食堂を眺め、溜息を吐いた。
    「とは言え、が隊の士気の低下を見過ごす訳にもいかん。こんな快適なところに長居しても心身が鈍るばかりだ。観光に来たのだと割り切って、地でも飲んでとっと帰りたいものだ」
    「確かに、ここに慣れると日本支部での生活に戻れなくなりそうですね。なんというか雰囲気が……」
    「――びょういん」
    「そうそ病院、そういう感じですよ。精面へのもありそうだ。実際、あの欠陥グレネード開発されたところも、ここですからね」
    「――けっかん?」
    「あー、はいはいMG13のことか」
    「……確かに、あれは酷いものだったな」
     つい今しがた批判的な話題を禁じた隊長でさえ、顔を顰めた。
    「あれを作ったここにいるのか?」
    「はい、地下最下層の工区画にいるらしいです。ロスラモスEDF先進技術開発研究所から出張って来てるとか……。伝説の女ですよ。もちろん悪い意味で、ですが」
    「まったく、最高じゃねーか。敵は圧倒的な科学軍事を有するエイリアン。それにべてこっちの頼みの綱は試験管の中で生まれて、頭のネジを締め忘れちまった科学者様ってか? はぁ……MG13ね、思い出すだけで血管が切れそうだぜ」
    「――そんなに、ひどかった?」
    「酷いというか、110キロ手榴弾を送りつけて使えって、理に決まっているじゃないですか。あんな無茶振り、うちの官じゃあるまいし…………ん? 何か、さっきから聞きなれない女性が交じっているような」
    「――わたしかな、それは」
    「うお!?
     ぬっと、隊長の肩に女の生首が現れた――ように見えた。背後からび寄り、肩にを乗せたのだ。
    ふふふ、まぬけな顔」
     隊長の肩からへ、い顔を寄せながら女は笑う。ゆっくりとした動作だが、切れ長のに収まる藍色に近いい瞳の動きは素く、他の2人のレンジャー隊員の反応を観察している。
    「はじめまして、隊長さん」
     元で囁いて、女は体を離した。
     肩越しに振りかえった隊長は、しげしげと女を見上げる。
     洗い過ぎて色落ちどころか生地まで薄なったジーンズに、くたびれた地のTシャツ。羽織った白衣ボタンが欠け、一度もアイロンをかけたことがないのだろう、ついたシワはギガンテス戦車でプレスしても直りそうにない。
     そのような格好でも、女は美しかった。
     幾つかの民族の血が混じっているのだろう、彫の深い顔立ちだが、輪の印は柔らかい。顔が小さく、も細いからだろう、それほど大きくない唇は、口も塗られていないのに艶めかしい存在感を放っている。そして切れ長の眼だ。童女のようにきを宿しているのに、なぜか、邪まな気配を感じさせる。秘的と呼ぶには危険な瞳だ。
     危ういバランスの上に成り立つ美貌だった。ある種の廃墟芸術性を帯びるように、退廃に包まれることで生の美しさがいている。相反する二つの要素の調和と言うべきか。それを徴するかのように、軽くウェーブのかかった髪の色は淡いグレーだ。の中間色。黒髪から色を抜いても、白髪を染めても、こんな色にはならないだろう。
     切りえられた灰色の前の下で、がすっと細められる。
    「はじめまして、隊長さん。ねぇ、起きてる?」
    「あ、ああ、失礼」
     繰り返された台詞に、隊長に返る。いつの間にか動悸が高ぶっていた。務めて動揺を隠そうとするが、女の微笑は全てを見透かしているかのようだ。いや、見透かしているのだ。あのよく動くい瞳で。が泳いでいるのではない。まるで高性戦闘マシンが周囲を索敵するかのように、ある規則性に従って効率よく視認している。2人の部下の心の内も見透かしているに違いない。
     初めて会うタイプの女、いや、人間だ。
    「はじめまして、EDF日本支部の者です。この二人は、私の部下です。しかし流長な日本語ですね。完璧な発音です。驚きました。こちらのスタッフの方ですか?」
    「たった今」
     女は表情をまったく変えず、涼しい微笑みを浮かべたまま答える。
    「あなた達から驚くべき出生の秘密を聞かされた、伝説科学者様よ」
    「な、なるほど……それは……なんというか」
    「ふふ、日本語って便利ね」
     3人の陸戦隊員の凍りついた表情を余所に、女はを細める。先ほどまでと違って、その両眼は何も見ていなかった。眼球から送られてくる情報全に遮断していると言われれば信じただろう。自らの思考に意識の全てを集中しているらしい。
    情報媒介としての機性と優美性を兼ね備えた言。柔軟な規則性と豊富な彙の組み合わせが楽しいわ。ドイツ語よりも好きよ」
    「はぁ、それは、どうも……。とにかく、部下の非礼をお詫びします。よければ、お座りください」
     そうして隣の椅子を引き、隊長は自らの席に座り直すが、聞いているのかいないのか、女は立ったままジーンズのポケットからスチール製のシガーケースを取り出した。
    わたしスペシャルブレンド、吸う?」
    ありがとうございます。しかし自分は、煙草は吸いませんので」
    「あら、タバコじゃないわよ。わたしが、特別に配合したものよ」
     なおさら要らないと心中き、黙ってコーヒーを啜る。そもそも施設内は禁煙だ。
    残念
     女はなくタバコらしく何かを咥え、ライターで火を付ける。不快ではないが、不思議な匂いだった。未知の惑星の奇怪なを想像してしまう香りだ。
     一度閉じられて開かれた瞼は再び細められていたが、今度は眠たそうに見えた。
    「あなた」
     唐突に部下の1人をす。
    「さっき、あなたは笑ったわね。わたしMG13を、欠陥品と」
    「あ、いや、あれは例えというか……」
    「例え、ね」
     煙を吐いた唇が歪みい瞳が見開かれる。
    わたし例え話は大好きよ」
     静かにる女の唇は笑っていた。微笑みではない。笑みだ。
     女の中に潜んでいたのは、何かしらの狂気だった。それが抑えられることなく、顔という器官を通じて姿を現していた。先ほどの印は微もない。この女が有する顔は、こんな笑みを浮かべるべきではないのだ。暗い眼窩をす髑髏が笑うかのような違和感不自然さだ。
    「例えれば、MG13に推進機構を組み込んで遠投できるようにしてみましょうか」
     もうも、口を挟めない。
    「例えれば、そうして欠陥をしたMG13を評価する場合、かつての欠陥品という状態を知るも者が実践者には最も相応しい」
     まるで、実体を有さない狂気がこの女の口を操って喋っているように見える。
    「例えれば、そのような実情報を有するあなた達が評価試験を行えば、HOL6000での仮試験は必要ない」
     彼女の内で蠢く狂気の正体が何なのか、それは分からない。
     だが、この異質さは知っている。フォーリナーだ。らの思考と笑みを、人間理やり真似すれば、おそらくはこの女のようになるだろう。
    ――この女、何者だ。
     隊長の胸の、思考の片隅に小さな火が散る。異質な存在に対する無条件の敵意と言うべきものだ。一般的には警心と言われるものだが、戦士のそれは鋭敏であり、かつがなかった。
    ――むしろ遅すぎたくらいだ。そもそも自分の背後に現れた時、この女は気配を感じさせなかった。
     思考がそのまま表情に出たのだろう。部下を見詰めていた女の視線が、隊長に定まる。
    「あら、隊長さん」
     見開らかれていたが細り、狂気の笑みが消え、あの微笑が仮面となって現れる。
    コーヒーは嫌い?」
     手元を見ると、傾いたカップからコーヒーが流れ落ちていた。い床を汚したい液体は静脈血を思わせる。
    「いや、嫌いではない」
    ふふふ、おかしい」
     女は軽やかな動作で隣の椅子掛け、隊長の手を掴み上げる。
    「じゃあ、どうして震えているの?」
     想像とは違って女の手は温かかった。手に絡みつく細いには間違いなくい血が通っているだろう。だが、このい瞳のには……。
    「さっきの例え話わたしは本気よ」
    ・・・
    「どうして、こんなことになっちまったんだ……」
     片手でを拭う部下のもう片方の手には、見慣れない形の手榴弾が握られている。
    ――たぶん、運が悪かったんだ。
     見上げた夕暮れに染まっている。視界の隅に高層ビルり込んでなければ、悪い夢だと思うこともできただろう。
     ロサンゼルス
     かつて全第二位の人口を誇っていたアメリカ西部の大都市は、巨大生物の猛攻と数度に渡る人類の解放作戦――そして作戦の失敗による焦土戦術によって大部分が破壊され、現在は放棄されている。瓦礫の荒野と化した跡に、幾つかの半壊した高層ビル墓標のように起立し、い西日に照らされてく長いを落としていた。
     確認できる巨大生物は見り役らしいのが十数体だけだが、都市の中央には巣の入口がある。もう数分と経たずに地下から数、数千体の巨大生物が現れ、らにとって異質な存在である異種族――つまりレンジャーチームに襲いかかるだろう。
    隊長、今のうちに逃げましょう!」
    逃げる? どこに逃げるんだ」
    きっと、どこへ逃げたとしても、あの女は追ってくるだろう。戦を生き抜いてきた自分でも逃げ延びられないという確信があった。
     部下を危険に曝すのは本意ではないが、あの女の、その中に潜む狂気の相手をするよりは、に弾丸を叩き込む方が気楽だ。
    「あの女……頭のネジが抜けているという評判だったが、が思うに、そうじゃない」
    「どういうことです、隊長
     ひび割れアスファルトセントリーガンを固定していた部下が振り返る。いい具合に吹っ切れているのか、落ち着いている。自分も同じ表情をしているのだろうと、隊長は苦笑を堪えてる。
    「あれはネジ止めなんて立な施工はされていない。有り余る好奇心と抑えきれない情熱、そして得体の知れない何かを、僅かばかりの人間性に封じ込めている。カオスだ」
    「なるほど、分かる気がします」
     そんなことを話している間にも、各所に敷設したモーションセンサーが警告を報じている。血が染み出すがごとく、レーダー上に巨大生物の反応を示す点が浮かび、く間に溢れ返っていく。
    全員聞け、この新手榴弾の実戦評価試験が終わったら、々は祖国に帰る」
     溢れだした巨大生物はすぐに群となり、飢餓に突き動かされる単細胞生物のように、獲物である異物へ向けて移動を開始する。その動きには微も慈悲もない。
    「配られた試作品を使い切れば、評価試験は終わりだ。5分とかからない仕事だ」
     少しずつ、しかし確かに、地きが大きくなっていく。相対距離は数キロだろう。すぐに見えるだ。
    「ありがたいことに、どもが送別会を兼ねて付き合ってくれるそうだ。ダンスの相手には事欠かないだろう」
    隊長! 来ます!」
     3キロほど先に、沈みゆく夕日の下に煙が見える。逆光の中で数の醜いが躍っていた。前衛のは数体といったところか。低く鳴動する大気に負けないように、の底からを出す。
    々が生き残るには敵を倒すしかない! 全員手に踊れ! わかったかぁッ!
    「サーッ! イエッサァァー!!」
    全員、ピン抜け!」
     横一列に並んだレンジャー隊員全員が、新試作グレネードの安全ピンを抜き、投擲姿勢を取った。全身にを込める――アーマースーツ補強機、最大。
     はっきりと見える距離まで迫ったが、一斉に部を振り上げた。
    「――投擲ッ!!!」
    うわあああぁぁぁぁぁ!!!」
     夕焼けに向けて投げ放たれた十数個の手榴弾と、数個の強弾が交錯する。
    ・・・
    「そうか、そんなことがあったのか」
     整然と並ぶベッドの一つの傍らで、官は大に頷いた。
    「で、これがそのMG13か」
     隣には小さな木を載せた台車がある。大人3人を運べる台車に30センチ四方の木箱1つというのは不釣り合いだが、中身は例のMG13を改造した新手榴弾だ。3個も載せれば台車輪が壊れて動かせなくなる。日本支部の医療室は決して小さくはないが、満員になるとさすがに狭く、邪魔な荷物だった。そもそも爆発物を医療室に持ち込む時点でおかしい。
    「投げられるようになったのなら上出来だ。いや、よくやったぞ!」
    「笑い事じゃありませんよ、官」
     ベッドの上の、包帯でぐるぐる巻きにされてミイラ男と化しているレンジャー4の隊長抗議をあげる。官に通じるとは思っていないが、周りで治療中の部下のためにも、言わない訳にはいかない。
    「生きて帰って来られたのが不思議なくらいです」
    「そうか、やっぱりが一番だな!」
     これだよ……。
    「……官、すみませんが、少し休ませていただけますか」
    「うむ、療養したまえ。戦線はストーム1が支えているからな」
    「はい……」
     また彼に借りを作ってしまった――そんな苦い思いも、官の次の言葉で吹き飛んでしまった。
    「ああ、そうだ。その手榴弾MG20として正式配備が決まったぞ」
    「……えっ」
    火力を維持したまま、遠くまで投げられるようになったからな。まぁ推進機構を付けたせいで炸の搭載量が減って殺傷範囲は狭くなってしまったが、問題ないだろう」
    「相変わらず、持ち運びは不便ですがね」
    「それにしても、私の思いつきがここまで進化するとは……。やはりこの新手榴弾開発は私のおかげということになるのか? はっはっは!」
    「むしろアンタのせいで……いえ、もう、どうでもいいです」
    「ところで、頼んでおいた土産はどこかね?」
    「勘弁してくださいよ……」
     そんなやり取りを医療室の外から何とも言えない眼差しで見詰めていたオペレーターに、通りかかった一人の遊撃隊員がをかける。ついさっき戦場から戻ったらしい彼の手には、MG20のマニュアルが握られていた。
    MG13もそうだが、重いなら、ランチャーで射出しては駄なのか」
    「だ、駄目ですよ」
     オペレーターの即答に、ストーム1は顔に疑問符を浮かべる。
    「そんなこと言ったら……泣きますよ? 彼ら」
    「……」
     医療室で療養中のレンジャーチームを見て、ストーム1言で頷いた。
     中からは、まだ話しが聞こえる。
    「そうそう。思いつきと言えば、さっき買ってきた販の殺スプレー。これを兵器に転用できないかと――」
    「や・め・て・く・だ・さ・い・!」
    隊長のみならず、周囲のレンジャー隊員もを上げた。
     彼らが地球を救う英雄となるのは、まだ先の話である。
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  • スタンピードM1CvmaT72wBUさん原案・トウフウドン加筆
     殲滅。
     々の戦争でも多用されていたこの言葉は、しかし戦術概念としては慎重に、政治的示威行為として限定的に行われてきた戦闘員民間人の区別がつかない状況、あるいは故意に民間人への偽装を戦術として用いてくる勢に対する戦闘では、この限りではなかったが)
     たとえ戦略的が異教徒や異民族の“浄化”であったとしても、制圧標となる地域への付随被害は懸念すべき事柄であった。論、死体が山と積まれた焼け野原に戦旗を建てることを渇望する狂気は常に存在し、不幸にもそれが実行されてしまった悲劇は数え切れないが、原則あるいは原理として、他のあらゆる政策・商業行為がそうであるように、大な物資と人員を投入して遂行される戦争には必ず……いかなる大義の下にあっても、支出を回収し、損失を補填するに足りる収益がなければならなかった。を殺し、二度の世界大戦で己の理性を信じられなくなった々が、それでも自滅を免れていたのは資本主義経済原理に身を委ねていたからに他ならない。
     然るに施設や土地、奴隷ないし植民地市場となりうる住民といった“資産”を利用不可能なまでに破壊する殲滅戦は後世の歴史のみならず、本の官僚によって虐殺と糾弾され(血に飢えた市民からの支持があれば話は別だったが)、現代においても戦略核兵器のような広域制圧兵器政治具として使われた(結局、第二次世界大戦末期によるヒロシマとナガサキへの実験的かつ政治的な差別爆撃を除いて、異人の来訪を前に全されるまで、半世紀以上に渡って天文学的な資と資材を投入した各の核戦は――公式上――実戦には使用されなかったのだ)
     戦術級兵器であったとしても、広範囲を攻撃する武器には不文とも言える前述の軍事原則と幾つかの制限条約が課せられていた。中でも多数の子弾を内包したクラスター爆弾不発弾の発生率の高さについて、人義を標榜する者達(安全な本都市生活を満喫し、自戦争経済の恩恵を貪り喰らっている連中だ)から非難を浴び、戦術級広域制圧兵器MOABのような単発の、確実性が高い、大で大重量の爆弾流となりつつあった。
     故にアイデアとしては古くからあり技術的にも可でありながら、小クラスター爆弾や、ショットガンのごとく多数のグレネードを一斉発射する個人用兵装は試作品こそ作られはしたが、表立って実戦には投入されなかった。
     純軍事的な理由もあった。
     面制圧を望むのならば1人の兵士重い特殊弾を携行させるよりも、後方の砲兵隊から撃のを降らせるか、攻撃機戦闘ヘリによる近接航空支援を用いる方が有効だったからである。
     そうして幾つもの兵科と多様な特化兵器群が、互いの機を補い合いながら組織として有機的に集団戦を行うのが、果てしない戦いの歴史の末に々が辿り着いた戦争形態だったのだ。
     ウィントン=チャーチルの言葉の通り、ある種の美学が戦争から失われていた。
     優勝劣敗という単純かつ絶対の命題の下で、かくも々の戦争システムとして完成しようとしていたのである。戦闘機パイロット騎士からマシンオペレーターへと変化したように、どのような戦士も、権者も、現代戦争においてはシステムの一部……チェスの駒……ただの装置に過ぎない。
     もはや戦争々に英雄めてはいなかった。組織を運営するための代替え可プロフェッショナルを量産し、愛国者という名の供物としてげる限り、その国家とそこに住まう民はマルス加護を得ることができたのである。
     2017年のあの戦いで、そのような“常識”は脆くも崩れ去ってしまった。
     異体であるフォーリナーは人類に対して死を強要する以外、一切の交渉を望まなかった。宣戦布告も、戦時協定もなかった。
     らとの戦争ルールは単純にして明快だった。
     生か、死か。
     ただ、それだけである。
     ……あれはまさに、生存競争と言うべき戦いだった。
     かつての総力戦などではない。々は戦うために全てを費やした。経済は純戦争のための手段となり、文明や文化と呼ぶべきものの多くのものが滅び去っていった。々が互いの生命を費やして築きあげた軍事体系も例外ではなく、開戦から数週間で多くの国家とその常備軍は機不全に陥った。
     軍事戦略および戦術について、々は根本的な転換を迫られていた。
     機動と数的優勢で航空を揉み潰したガンシップの大群によって、爆はおろか航空支援すら望めない。巨大生物の大群に対して高価な巡航ミサイルとそれを運用する艦や大輛の費用対効果は劣悪である。そして制権の喪失が恒常化したことで、自走砲などの長距離実弾爆撃兵器群の大規模な運用は困難となりつつあった。
     々は……々とEDFは諦めなかった。
     数的劣勢を覆すことは不可能だったが、その上で新たな戦術を模索した結果、拠点防御と阻止線構築を重視した初期の戦術はめられ、少人数の部隊による遊撃が行われるようになった。そして、戦車並みの防御を備えたアーマースーツと、強オーバーウェポン(大戦中、本土のEDF先技研によって開発されたフォーリナーテクノロジーを導入した武器であり、いつしか大戦前の“通常兵器”と区別されるようになっていた)を持った兵士による単独遊撃へと発展していったのである。
     それは純かつ底的にフォーリナーを狩るために特化した戦法であり、も、市民も、時には負傷した味方さえも犠牲にすることを厭わなかった。
     あの非情な戦法をなく実践した者たちの多くに、共通するものがあった。
     故郷の喪失である。
     する家族が殺され、想い出を育んだ生は瓦礫と化し、先祖から受け継いだ土地さえも巨大生物死骸に汚染された々に、守るべきものは残されていなかった。が身は復讐の炎を燃やすためのと脂の塊に過ぎず、意味を考える暇があれば、々は一匹でも多くの巨大生物を殺すために戦場へと赴いた。
     々がフォーリナーの死滅以外に望んだもの、それはだった。地を埋め尽くして波のように迫りくる巨大生物の大群を薙ぎ払い、絶望的な対複数敵戦闘勝利する
     携行拡散榴弾……スタンピードM1が配備された時、その広域爆撃兵器がもたらす付随被害について、戦場となる都市の保全や、またそこに取り残された難民や負傷兵の安全について、私も含めて言及する者は一人もいなかった。
     前線となった都市は既に廃墟と化していたし、爆撃に巻き込まれて死ぬ者がいれば、それらは全て“戦死者”に数えられたからだ。
     大戦中期、既に軍人と民間人の区別はなくなりつつあった。
     15歳以下の子供、70歳以上の老人、とくに体力が劣った女性妊婦、四肢を失った重傷者……それら後の労務に従事する者と、一部の例外EDF以外で辛うじて機していた数ヵ政府機関および軍上層部と幾つかの多企業の構成人員)を除いて、戦える者は例外なく、たとえ病人であっても、を撃てる者は直接戦闘に参加しなければならなかった(この戦時体制については、ほとんどの場合、強制はなかった。巨大生物の牙が、戦意の有に関わらず抗う術のない者からいなく命を奪うことを、もがにしていたからだ)
     精密さを必要とせず、ただ広範囲に大量の爆弾を降らせられればいいというコンセプト開発されたスタンピードと専用の多弾頭榴弾は、従来のMARSなどロケット輛に代わる面制圧を発揮し、密集を好む巨大生物に対して絶大な効果を示した。複数人の射手による多方向から波状撃で、地形ごとらを“ならした”のだ。
     さながら重爆撃機絨毯爆撃を思い起こさせる、素晴らしい光景だった。
     微かな着色煙を引いて降り注いだ弾が一斉に炸裂し、全てを粉砕した。同時多発的に発生する強な圧熱量暴力によって、あらゆるものが引き千切られ、焼き尽くされた。地表にいた巨大生物はもちろん、面にり付いて潜んでいた姑息蜘蛛巨大生物建物ごと爆砕され、強な上位級の巨大生物でさえ全周囲からの衝撃波で体内組織を破壊され、崩れ落ちたものだ。
     当初こそ誤爆の危険が摘され、遠距離からの曲射による初期制圧に使用を制限されていたが、極東の「彼」が対ヘクトル戦で直射兵器として使用したのを皮切りに、中近距離戦でも用いられるようになった々から見ても、彼は異常だった。上位級ヘクトルプラズマと熱弾の弾幕をもろともせず、ビルや瓦礫をにして接近しただけでも驚嘆に値するが、ほとんど直下に近い至近距離スタンピードを放ったのは……命知らずの一言で片づけられるものではない。ヘクトルの胴体が消し飛び、残った細い両脚が倒れていくのを見向きもせず、彼は次の獲物を狩りに行ったと言われている)
     UMグレネードランチャーを転用した専用ランチャーは、精密爆撃を想定しない簡潔な構造に変更されており、また多弾頭榴弾も中分裂ではなく発射直後に拡散するため、射手とランチャーが移動している場合、慣性のを受けて弾の軌は変化し、射……つまり飛翔距離の長さに例して拡散範囲は広くなる。熟練者はこの特性を活かして爆撃範囲を感覚的に調節し、近距離戦でも確実に巨大生物の大群を切り崩していった(中には低を匍匐飛行するガンシップに対し、網を投げるがごとくグレネード弾幕を展開して一網打尽にしたという言も存在する)
     あの戦いの結末は、常に明確だった。
     生か、死か。
     々は、生を掴むことができた。
     幸運だとは思わない。々は勝つために最善を尽くしたのだ。
     だが、勝者であり愛国者である々を待っていたのは、静寂な死の世界だった。
     いつかどこかで見たあの色を……全てが焼き焦がされ、煤とに汚れた荒野に沈む夕陽を、私は今でも憶えている。
     もともと荒野だったのか、都市廃墟と化したのか。それさえも分からない程に、大地はその身を数多の弾で抉り取られ、数の爆撃孔によって埋め尽くされていた。面の方が、まだ整然としていると思わせる有様だった。
     爆撃孔の中や周辺には残骸が散らばっていた。く炭化してにねじ曲がったそれが巨大生物の断片なのか、兵器や建造物の名残なのか。おそらくは、人間も含まれているだろう。
     悲しくはなかった。そう感じるべきだと思考する良識は残っていたが、それを受け止めるの何かが消え去っていた。
     彼ならば……英雄と呼ぶべき活躍を成したあの男なら、何を思うだろう。
     しばらくの間、々の部隊はその場に佇んでいた。失った何かを、あるいは答えのようなものを、沈みゆく夕陽光の中にめて。
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  • スタンピードM2
    以下の文章には全編に渡って重度のネタが含まれています
    読むことによってゲーム中のイメージを損なう怖れがあります
    以上をご了解いただける方のみ、ご覧ください
    ・・・

    ――女神よ、勝利を歌え。魔笛とともに。

    ――魔笛よ、死の旋かせよ。なす者、その全てを滅せよ。

    ――が怒りはの血潮。灼熱の裁きとなって降り注がん。

     2017 A.D.
     31 October
     GMT 16:44
     North America

     肌を鋭く刺す死神の息吹を思わせた。
     晩には違いなかったが、体の芯まで冷気が浸み込んでくる。の前の光景が、そう感じさせるのだろうか。小さな丘に過ぎなかったが、遮るものは何もなく、全てを見渡すことができた。
    「酷いもんだな」
     すぐ隣で、朽ちた石レンガの壁に背を預けて座っている男が無表情く。沈黙で応えながら、もう一度、わたしは“世界”を見渡した。
     腐った臓腑のごとくく濁った暗の下、巨大な死が横たわっている。
     300万近い人々の生活の場であった大都市の姿は既にい。粉々に砕かれ、焼け焦げた大小の残骸や瓦礫が、数の墓標となって大地を埋め尽くしている。
     地下に貯蔵された燃料が燃えているのだろうか、シカゴ陥落から1カ近く経とうとしているのに、未だにそこかしこ火災が起こっていた。強にあおられてしく揺れる炎の群は、踊り狂う地獄の悪を連想させる。彼らが昇らせる煙と暗が入り混り、地平線は定かではない。
     かつてここに存在したで盛大に新年が祝われたのが、ほんの11ヶほど前であったと、が信じられるだろう。戦前の日々はあまりにも遠い。
     この、このだけではない。
     地球というそのものが、変わり果てていた。
     先日、飛翔体軍事衛星々に残された一の広域情報収集手段だ)から送られてきた映像は、戦慄すべきものだった。
     戦災によって南米の熱帯をはじめとする深緑大地は半ば消え失せ、各地の田施設から流出した重によっては……あの生命の神秘を讃えたりを失いつつあった。かつて人類の跡を示していた都市は炎と煙に代わり、残り少ないはか弱く、それさえも時折く禍々しいによって掻き消されていくユーシアを西進するマザーシップ……あの悪魔の巨ジェノサイドキャノンによって、多くの国家が、民族が、滅びつつある。欧州も、そう長くはもたないだろう)
     燻ぶる炭の塊のような惑星を、宝石に譬えることはできない。
     世界は、もう……。
    「守るものなんて、なくなっちまったな」
     応える代わりに、顔を向けて横顔を見詰めた。男も視線で応じる。
     問いはしない。失ってしまったものはあまりにも多く、悲憤のも枯れ果てて久しい。
     互いにそれを知っているなのに、わたしは口を開いてしまう。
    「そんなことはない」
    「……」
     男は答えない。じっとわたしを見詰めるい瞳は、何も映していないように見える。何の感情も読み取れない。
     でも。
    「あなたが、まだ生きている」
     無表情だった横顔に、その間に深い皺が刻まれた。
    「よしてくれ……」
     きつく瞼を閉じ、搾り出すように紡がれた拒絶の言葉。それを哀しいと思うと同時に、の前にいる深く傷ついた男を愛しいと……優しさを与えたいと感じるのは、彼の心情を量るに足りる事実を知っているからだろうか。それとも、単にわたしが女だからだろうか。
    ごめんなさい
     せ、己が胸に抱く武器を見る。
     スタンピードM2
     あらゆるものに死の制裁を下す、漆黒魔笛わたしの半身。
    ――府抜けるな。
     いつものように、魔笛り始める。
    ――お前は何のために、ここにいる
     雄々しいが、髄を震わせる。
    ――責務を果たせ。
     もう一人の自分……家族を失ったあの日、復讐のために誓った決意は、わたしの軟弱を決して赦しはしない。あの時に味わった身を裂くような悲しみと後悔、そして自分自身への怒り。軟肌に焼き鏝(ごて)を当てるがごとく、全てはめの刻印として心に強く刻み込まれている。
     冷たい身を抱き締め、火の匂いを嗅ぐ。そうだ。責務を果たさなければ。
    「時間だ」
    「……了解」
     アーマースーツを待機モードからアクティブへ。バイザーの裏側にある装置から網膜に投影される。システムチェック。視界を電子情報が埋め尽くす。レーダーサークル、アーマー耐久値、兵装……全て異常なし。
    線封鎖を解除する。レンジャー2-4からHQ部)作戦開始まで60
    『――こちらHQ。オペレーションカウントダウン最終同期を確認。作戦に変更はない』
    「了解した。作戦に変更なし。オーバー
    レンジャー2-4、幸運を』
    「……ああ、お互いにな」
     最後となる通信は、それだけだった。
     男は武器を構える。AF20ST。少数のみが配備された希少な高威の重アサルトライフル
    「打ち合わせ通りだ。援護を頼む」
    「わかってる」
     残り30
     男は立ち上がる。わたしを浮かし、戦場に体を向け、片膝を着く。
    ――不意に、彼がわたしの名を呼んだ。
     見上げたわたしは、自分でも気の抜けた顔をさらしているのがわかった。初めてファーストネームを呼ばれたことも驚きだったが……人の感情というものは、こうもに顕れるものなのだろうか。
    「短い付き合いだったが……」
     一つの確信が意識を占めていた。
    「随分と助けられた」
     わたしは死ぬまでこの光景を――彼の表情を忘れることはできないだろう。
    「……ありがとう
     言葉を、返すことができなかった。
     緩んでいた唇を噛み締め、女々しい台詞み込むので精一杯だった。
     時計の針は止まらない。
     作戦が始まり、彼は駆け出した。
     欧州の陥落を見越し、北決戦に備えて北アメリカ大陸の全戦東海に集結させる……そのために仕組まれた陽動。陥落して放棄された都市を攻撃し、可な限り戦うという作戦と呼ぶの憚られるミッション
     決行の日に因んでハロウィン・ウォークと名づけられたそれは、EDF単独で行われる。陸軍の残存部隊を中核として新たに編成されるアメリカ本土防衛軍を温存するためだと言われているが、理由は定かではないし、興味はなかった。断る理由がなかったからだと言われても、納得しただろう。フォーリナーと戦うのはEDFの使命であり、また望みでもあったからだ。少なくとも、わたしと彼にとっては。
     このロジックに他の感情が入る余地は一切なかっただ。そうであればこそ、わたしと彼は戦ってこられたのだから。
     なのに、なぜ、今になって……。
     丘を下りて遠ざかる背中を見詰めながら思う。
     ファーストコンタクトのあの日、彼は妻子をの前で喰い殺されたという。わたし家族のようにヘクトル撃で“消えた”のとは訳が違う。人を愛した経験のある者なら、わかるだろう。おしい者が傷つけられることは、何よりも耐え難い。ましてやそれが……。
    「だから、わたしはあなたを……」
     スタンピードM2に、多弾頭炸裂榴弾を装填する。
    復讐さえ、慰みにならないのに」
     セーフティーを解除。
    「それでも生きようとするあなたが……」
     アラート
     レーダーサークル点が生じ、まるで大地が血を噴き出すかのように、く間に溢れ返っていく。禍々しい巨大な数に蠢き、暗闇に沈む廃墟全体が波打つように揺らぎ始める。警告が鳴りやまない。第2世代アーマースーツに搭載されている戦術戦闘支援コンピューターが慄いている。
    ――獲物がいるぞ。
     魔笛囁きは、微かな苛立ちを感じさせた。
    ――あの男を死なせたくないなら、勝てばいい。
     わたしの心を見抜き、半ば軽蔑しているようだった。
    ――悩む必要はない。今までと同じだ。
     を、構える。
    ――殺される前に、殺し尽せ。
     戦場を見据え、同時にレーダーで状況を把握する。巨大生物地跡地全域渡って展開していたが、急速に迎撃態勢を整えつつある。フォーリナーも向かってくる人間が規格外の兵装を有する決戦兵器だと理解しているのだろう。が中央に集合しながら正面突撃を開始し、逆に左右両側へ散開する包囲網を形成しつつ強液の投射範囲を二重三重に合わせて濃密なキルゾーンを構築していく。さらに蜘蛛が大跳躍で彼の背後へ周り、退路を防ごうとしていた。
    ――馬鹿らだ。
     不敵な嘲笑を漏らしたのは魔笛か、それともわたしの唇だろうか。
    ――なす者、その全てを滅せよ。
     細な疑問は消え去り、思考は発射後25発に拡散する致死性兵器の軌予測と殺傷効率の計算に費やされた。
     何も悩むことはないだ。
     わたしが敵を皆殺しにすれば、彼は死ななくて済むのだ。
     もはや意識に隔たりはない。漆黒身とわたし体との間に、界はない。
    ――が怒りはの血潮。
    「灼熱の裁きとなって、降り注がん」
    ・・・
     知覚野の内、有形素子によって構築中の新規領域は、第57231兆1032億821万4621期行動を開始してから1572万4千8を経ても未だ完成していない。
     阻因子群である炭素系有機体の個体数は最盛期にべて大幅に減少しており、それらの集合意識すなわち文明の体となる原始的な電子知性網は物理的に排除した。このに存在した第3段階級の疑似文明は既に崩壊している。対するも幾つかの素子基幹体を失ってはいたが、有形素子の増殖率は安定して推移しており、彼の優勢は揺るぎなく、知覚野の拡大に何ら障害は認められない。
     それにも関わらず、有形素子の損耗率が低下しない。
     標準時間単位で過去31536千億間の情報を参照したが、今期行動において遭遇した阻因子群には何ら特質性は認められない。
     それにも関わらず、時推移曲線は修正を余儀なくされている。
    ――何故ダ。
     阻因子群は第3段階級の疑似知性体である有機系機体の集合体に過ぎない。
     単細胞の有機系機体が、より複雑高度な多細胞のそれを発生させるための土壌であるように、疑似知性体である有機系機体など、惑星圏生態系の発生と発展の過程においては電子知性体を生み出すための因子に過ぎない。に等しい存在だ。
     第48段階級以上の知性体でなければ、の脅威にはなり得ない。この絶対の事実が、のごとく小な存在によってめられる。
    ――何故ダ何故ダ何故ダ何故ダ何故ダ何故ダ何故ダ何故ダ何故ダ。
     今も知覚野の末端……拡大行動中の有形素子が物理干渉を受け、破壊されている。有形素子が一体、また一体と破壊される度に、極小ではあるが、負荷が生じる。
     を、ひいては秩序と知性の守護者であるら救済者の行動を、この取るに足りない惑星にこびりついたが妨げている。正義に反する、許されないことだ。宇宙の摂理に委ねるまでもない。は、と熱によって浄化されなければならない。
    ――死滅セヨ。
     阻因子群の集合拠点を焼き払う作業も、間もなく終了する。残る地域は3箇所。先ほどから行動が活発化した場所も含まれている。259万2千後には到達し、事態を善できるだろう。それまでの有形素子の損耗は受け入れなければならない。
     しかし、徒に事態を看過すべきではない。
    ・・・
     後方から放物線を描いて飛来したグレネード前に降り注ぎ、前方に迫りつつあったの一群が爆炎に包まれた。
     正面から打ち寄せた爆音は質量をともなっているかのように重く、アーマースーツを着ていても全身を震わせた。それに混じって、一で粉砕された数十体の断末魔不協和音となってき渡る。続いて々と広がる煙の中から脚やら触覚やら、大小の破片が飛んで来たが、走る速度は緩めない。
     に流れ始めた煙に飛び込む寸前、一匹のが姿を現した。頭部が半分欠落しており、残った片方の牙を忙しなく動かしている。既に構えていたAF20ST引き金を短く絞り、離す。強装弾が命中したの胸部は弾けるように四散し、余波で頭部と部も引き裂かれた。続いて現れた4体のも同じ運命を辿る。弾倉交換。
     煙を抜けると同時に、再び爆音く。の壊滅によって急ぎ中央へ集合しつつあったへ向け、彼女が丘の上からスタンピードM2を撃ち込んだのだ。の動きをほぼ完璧に予測した撃は正確を極めていた。囮である自分ととの相対距離を計り、の投射姿勢を取るために停止する位置へ向けて撃ち込んでいる。見事に成功し、の群は部を振り上げたところで背後から強爆発にさらされ、地面に叩きつけられて押し潰され、焼き尽くされた。
     今度は自分の番だ。踵を返し、爆撃を逃れたを狙い撃つ。AF20STなら、どこに当っても変わりはなかった。頭部を撃ち砕かれたはあり余る被弾反動によって縦方向に回転しながら吹き飛ばされ、土煙をあげながら大地を転がった。胸部や部を撃たれたものはい体液を撒き散らし、その場で大小の破片へと姿を変える。戦前ライフルでは撃ち貫くことのわない強な甲殻皮を有した化物が、まるで液体の詰まった風船を撃ったかのような錯覚を憶えるほど、あっけなく四散していく。
     それだけの威を有した強装弾を毎4発で発射可な重アサルトライフル身は加熱し、陽炎を立ち昇らせている。弾倉を交換する際に5間、冷却装置が最大出で稼働し、内部で数百度に達している反動吸収用の緩衝装置を冷やすが、既に機構全体に負荷が蓄積し始めている。本来なら、もう射撃を控えてサイドウェポンで戦っていたことだろう。そして帰還後、摩耗劣化した部品の交換を含む念入りな分解清掃を……。
     今回は違う。
     今日は、に最後まで付き合ってもらう。身が加熱し、緩衝装置が焼け爛れるまで撃ち続ける。そのために弾薬も、自身の継続戦闘力を越える分を持ってきた。
     そういう作戦なのだ。
     陽動とは名ばかりの捨て駒。終わりなき舞踏。エンドレスワルツ
     悔いはなかった。ハロウィン・ウォークなどというふざけた作戦名も気にならない。相棒にも、別れは済ませた。
     彼女へ向かおうとしていた蜘蛛へ弾丸を撃ち込みながら、過去を振り返っていた。戦いの最中にあって危険なことだと分かっていたが、を撃っている時ほど心が落ち着く性分だからか、治らないだ。
     彼女と出会ったのは、軍からの出向という形でEDF方面軍に編入してから数週間後のことだった。
     北極圏経由で北大陸に侵入した空母円盤の大群は、カナダ軍の迎撃虚しく合衆に到達。当時、東部戦線の後方として多数の避難民の退避先となっていたアメリカ中部に大量のヘクトルを投下した。折しもニューヨークロスアンジェルスを中心とした東西の攻防戦が化し、EDF米軍も東西戦線の重要拠点に戦を集中配備していたために対応が遅れた。治安維持のために残された僅かな州兵兵士とは名ばかりの、未成年者と退役した老人で構成された警備隊だった)ヘクトルに立ち向かうのは不可能だった。
     白銀巨人の威容を前に多くの州兵は遁走し、立ち向かった勇敢な愛国者は残な戦死を遂げた。
     そして、虐殺が始まった。
     マンハンター異名に違わず、ヘクトルは執拗に民間人を襲った。を隅々まで闊歩し、住宅を一軒一軒踏み潰し、地下室の入口に口を突き刺して……どれも底的かつ残な殺し方だった。まるで拳銃を撃つかのように、あの巨大なプラズマキャノン人間を撃つなど……。
     彼女家族も、そうして殺された。地上設置の仮設シェルター(剥き出しではなく、横倒しにした円柱形のシェルターに土を被せたものだ)ヘクトルは見逃さず、強引にシェルターを蹴り飛ばした。被せていた土が飛び散り、シェルターパイプのごとくメートル以上を転がった。その時点で彼女父親は首のを折って亡くなり、衝撃で外れたから宙に放り出された母親は地面に叩きつけられて絶命した。
     彼女はそれを見ていた。
     避難警報が発される中、危険を冒してを取りにに戻っていた彼女は、帰る途中で攻撃に遭い、地面に穿たれたクレーターの中に隠れた。都市火災によって黒い雨が降り、爆発で撒き上がった土が泥となって彼女の全身を覆った。さらに彼女の隠れたクレーターの近くで乗用車しく炎上しており、他にも様々な偶然が重なって、彼女ヘクトルに発見されるのを免れた。巨大生物が随伴していなかったのも幸運の一つだろう。
     戦闘後の遺体回収作業伝染病の発生を防ぐためであったが、火葬に必要な燃料は既に枯渇しており、多くの場合、遺体はその場で消毒液をかけられ、とくにの深いクレーターを仮設共同墓地として埋葬された)の最中に発見された時、彼女の精は崩壊していた。
     半死半生の被災者を軍病院で投催眠療法で強引に治療したのは、単純に人手を必要としていたからだった。ステイツは建以来最大の壊滅的打撃を被っており、EDF方面軍の被害も甚大なものだった。施設や兵器は再建できるが、人間はそうはいかない。若い女性であっても、五体満足な者は戦闘要員として徴兵の対となった巨大生物の生体工学を導入することで優れた筋補強機を実現した第2世代アーマースーツなど、皮にもフォーリナーテクノロジーの導入によって急速に発達した戦争技術が、彼女たちの助けとなった)
     彼女は凄惨な殺戮の光景を、その記憶を、治療によって別のものに置き換えられた。ヘクトル撃で家族シェルターごと消滅したというものに。
     治療を担当した軍医は、戦場彼女パートナーを組むことになる自分を呼び出し、彼女が実際に体験したことを伝えた後で、シルバーフレームメガネをかけ直して無表情に言ったものだ。
    彼女には、君はの前で妻と子供巨大生物に喰われたと話してある』
    『自分に妻子はいません。なぜ、そんなを』
    『より不幸遇の者を、彼女の傍に置きたいからだ。わかるだろう』
    『わかりません。いえ、わかりたくもない。卑しい発想だ。それな彼女記憶全に作りかえればいい。家族行方不明ということにすれば……』
    ありもしない希望を与えろというのか。それも残酷だな。彼女家族を殺されたのは事実だし、その方が戦いの動機付けとしては信頼できる』
    『先ほどのお話だと、そのために心理操作を施したらしいですね。戦闘意識を、人格として植え付けるなどと……彼女を分裂症にする気ですか』
    『いいかね、々は戦争をしているんだ。それに、君は孤児だそうじゃないか』
    『何の関係が……』
    『心理操作するまでもなく、憐の情から彼女は君をするだろう。そういう女性だ。君が死ねば悲しむようになる。彼女を悲しませるような戦い方はするなよ』
    『……が、死に急いでいるとでも言いたいのか』
    『これでも医者なものでね』
    『上等だ。だがドクター彼女さないし、彼女愛しはしないぞ。人の心を、そんなに操れると思ったら大間違いだ』
     軍医は何も答えず、溜息を吐いた。その冷たいレンズの、野良を哀れむようなを見るのが嫌で退室した。孤児として育つ中で、飽きるほどにした付きだった。
     彼女を決してすまいと心に誓ったが、彼女に同情を禁じ得なかったのも事実だ。
     なにも女が戦場に出ることはないのだ。女性兵士歴史的にはしくないと分かっていても、己の考えが男の勝手な幻想だとしても、許容できるものではなかった。
     東洋人の血が混じっているのか、年齢よりも幼く見える彼女EDFのド手なアーマースーツを着て現れた時など(周りの男どもはの底から歓をあげ、口笛を吹いたが)眩暈がしたものだ。
     戦友や相棒と呼ぶにはあまりにも華奢で、控えめに言っても可憐な面持ちの少女が、機械を借りてを担ぎ、化物と血みどろの戦いを繰り広げるなど……性質の悪い、あまりにもグロテクスな現実だ。そうまでしなければ戦いに勝てないという罪悪感にも似た現実認識だけが重く、を圧した。
     本来は丸刈りにすべき彼女頭髪を、は故意に留めさせた。もともと長くなかったので衛生的に問題はなく、その容姿から陸戦兵など向いていないとを見る度に感じ、いつかは自覚するだろうと…………まったく、自分の考えも大概に甘かったと今では思う。
     と周囲の予測に反して、彼女兵士として急速に成長した。とくにグレネードランチャーの扱いに高い適正を示した。厳密な数学と緻密な観測に基づいて行われる曲射撃を、彼女は感覚的にやってのけた。じかに軌を操っているのではないかと思う程に。
     周囲は彼女天才と呼んだ。確かに彼女には才があった。だがどのような素質も、鍛練を施さなければ開しない。基礎や練習といったものを疎かにした才為に消費され、最後には散してしまう。
     彼女は違った。自身の素質を一心不乱に磨いたのだ。強迫観念的な戦闘意識を植え付けられ、竄された記憶と偽りの想いに支えられて……。
     彼女は自分よりも悲惨な体験をした“らしい”男に同情し、なまでに信じた。それだけなら、まだいい。己の不満を他人の不幸で紛らわすような低俗なの持ちなら、も悩んだりはしない。
     問題はドクターの言った通り、彼女を慈しんだことだ。言葉がなくとも、態度と行動が全てを物語っていた。もそこまで鈍感ではない。
     彼女情は、優越感を得るための欺瞞的な優しさではなかった。その類のなら、反吐が出るほど味わっている。
     償のなんて信じてはいなかった。
     他人など信用するに値しない。
     信じられるのは、自らので勝ち取ったものだけ……社会的権あるいは暴力で支配した相手の従のだけだった。
     二十数年間の日を費やして得たそれらの経験則が、怯えたの呻きであったことに気付かされた。
     なぜ、のような男が彼女からされるのか。あの軍医の顔を思い出す度に、彼女に対する罪悪感に苛まれた。孤児院で歳老いたシスターに反抗していたことを思い出した時のような、何とも言い難い痛みが胸を突いた。
     彼女は、には身に余る。
     言うべき言葉は分かっていた。
    ――は、君の慰みになるために用意された虚像に過ぎない。
     言える訳がなかった。
     どうして、彼女の生き甲斐を奪うことができるだろうか。
     あのな瞳を、信頼を……たとえ欺瞞の上に成り立ったものであっても、壊すことはできない。彼女が泣く姿を、は見たくはない。
     は、彼女愛してしまっていた。
    ・・・
     さすがと言うべきか、彼の射撃は正確だった。わたし爆撃から漏れた巨大生物を摘み取るように撃ち殺していく。迎撃に出てきた巨大生物の群はほぼ一掃された。初戦で突撃役のが壊滅した後、らがをその代りに回した時点で勝敗は決していたのだ。蜘蛛わたしに差し向けるのも遅かった。
     この感じは悪くない。いい流れ……戦いに勝つ時の流れだ。弾薬の消費量と較したキルレートも高い。
     帰れるかもしれない。
     彼と生きて帰れるかもしれない。
     裏を過ぎたその考えに、胸のが震えるのがわかった。
     そうだ。わたしは、彼と生きて帰りたい。生きて帰って……そして、伝えたい。あなたに死んでほしくないと。
     あなたが生きているだけで、わたしは嬉しいと。
     そのために、戦っているのだと。
    「……が」
     手に持つを見詰める。
     魔笛が、聞こえなくなっていた。
     それが呪縛からの解放であるという確信は、しかし胸を占めることはできなかった。
     代わりに胸の底から湧き起こってきたのは、恐怖だった。それはとなって心を埋め、わたしを守っていた何かを押し流してしまった。一気に気温が下がったような悪寒が背筋を走り、わたしを…………己が半身であったスタンピードM2が、まるで逃れるかのように手から滑り落ちた。
     世界からと音が失われていく。
     深い暗闇に裸で放り出されたような孤独感が身を包む。
    わたしわたし……どうして」
     混沌と化した思考のに浮上するものがあった。
    ――。病室。泥。シェルター雨。
     断片的なそれらの言葉は互いに反復し合い、感がイメージを呼び起こし、糸が絡みつくかのように一つの記憶を形作っていく。

    『君はを見た。悪い夢を』
     悪い夢……悪夢
    『彼は君の悪夢を知っている』
     彼って、だれ。
    『彼は君をする。君の悪夢を含めて』
     なぜ。
    『君の悪夢は彼の悪夢となる』
     いやだ。ひどいことはしたくない。
    『酷くはない。君は彼のを赦すのだから』
     うそを?
    であってではない』
     わからない。
    『彼は自分の悪夢を知らない』
     かわいそう。
    悪夢に形を与え、彼は己の悪夢を知る』
     わたしも、かれも。
    『人はもが地獄を抱えて生きている。だから支え合う』
     わたしと、かれが。
    かと支え合えば、悪夢から解放される、君も、彼も』
     そう。
    を赦してほしい』
     いいわ。

    わたし…………お父さんお母さん……そうだったんだ」
    ――オ前モ死滅セヨ。
     悪魔が嗤う。
     大音量の警報を劈いた。レーダーサークル点が1つ、サークルの中心部でのごとくいている。
     わたし振り返り、そして仰ぎ見る。
     西の地から差し込むを背後から浴びて、巨大ながそびえ立っていた。
    ・・・
     標地域の有形素子の分布と配備は全ではなかった。
     1体であっても異相概念措置によって非事体化した制圧抗体の情報量は膨大であり、1億足らずの有形素子では演算限界があったが、制圧抗体を基幹現実に実体化させることには成功した。
     標となる阻因子2体は高い物理干渉を有しており、制圧抗体1体では彼優劣は決定的ではない。続いて飛翔抗体を送り込むことも可だが、得策ではないと判断する。
     同地域における阻因子群の大規模行動を、必要以上に妨げる必要はない。が1箇所に集中していれば、それだけ排除にかかる時間を短縮できる。調整で充分である。
    ――死滅セヨ。
     へ還らなければならない。
     それはたる必然であり、また救済でもある。
     消滅こそ、原始の存在へ回帰する一の手段なのだ。
    ・・・
     突然のことにを疑った。
     ヘクトルが現れたのだ。何の前触れもなく。丘の上の、彼女に背後に。
     は大彼女の名を叫び、を構えた。AF20STの対フォーリナー殺傷有効距離は最大で400メートル。何とか射程範囲内だが、現れたヘクトルの脅威度は不明、万が一INF級だった場合、その装甲性は――。
     ヘクトルが、右腕のビームブラスターを直下に向ける。
    やめろ!」
     考える余地などない。全身全霊を先に込め、トリガーを引き搾る。身の深くで高性が燃焼し、5.56ミリ特殊強装“対物”ライフル弾を撃ち出した。
     甲高い金属音が二度き渡り、胸に被弾したヘクトルの巨体が大きく後退さる。
     連射で右腕のビームブラスターを狙う。3射のうち、2射がエネルギーの収束照射装置である先端部分に命中。グラスのように先細った形状の照射装置が砕け散った。
     は弾倉を交換しながら、もう一度、彼女の名を呼んだ。
     遠にも、彼女常でないことはわかった。武器を手放して膝を着いて座り込み、両手で自らの体を抱いている。まるでバラバラになりそうな己を繋ぎ止めるかのように。
     祈るように佇む彼女の頭上で、白銀魔人が左腕を突き出した。巨大な円柱としか形容のしようがない極まる熱粒子が、その暗い口の内部で紫電かせ、原子炎を蓄え始める。
    「懲りないだな」
     悪態が通じたのではないだろうが、ヘクトルの胸部上面装甲が開いた。内部から頭部構造体が迫り出し、なまでに巨大な単眼す。
    ――へ還レ。
     極度の緊が踏み出した幻聴かもしれないが、確かに、そのを聞いた。
     恐怖は、理解の対局にあるものだと考えていた。理解できないから、恐れるのだろうと。無知が自らの中で怖れを生むのだろうと。
     違う。
     恐れるべきものは、理解しようとも、恐れるべきものなのだ。
     らは血に飢えて狂った化物ではない。人類とは異なる進化、異なる知性、異なる世界を有する純なまでの“異物”なのだ。一片の迷いなく、人類に対する無慈悲な殺戮の必要性について、絶対の確信を抱いている。
     どちらかが絶滅しない限り、戦いは終わらない。
    「――上等だッ!
     身および緩衝装置、強制冷却了。
     プラズマキャノン口、その外縁部の下に狙いを定めた。
     数十分の一が引き伸ばされる。

    彼女を悲しませるような戦い方はするなよ』

    は……!」
     AF20ST口が焔の哮をあげる。
     解き放たれた牙がプラズマキャノン身を捉えると同時に、熱粒子の濁流が放たれた。
    ・・・
     は、人の意識は、何処に在るのだろう。
     という器官の化学反応、そうして発現する事を意識と呼ぶのなら、それは夢幻ゆめもぼろし)に等しいものではないのだろうか。
     心は、胸ので痛むこの想いも、に過ぎないのだろうか。
    「……違う」
     この痛みは、心は、偽りではない。
     唇が、その名を紡ぐ。彼の名を。
     己が身を縛めていた腕を解き、顔をあげる。
     破壊され、多くのものを奪われた世界に、める人はいた。
    わたしは……彼といたい」
     世界りが、大気に音が戻る。
     直後、頭上から全てを圧するような爆音が降り注いだ。戦場で聞き慣れた、プラズマキャノン撃音。そびえ立つ白銀悪魔を狙っているのか明らかだ。
    やめて!
     大気を焦がして突き進む原子炎の塊をで追った。
     の束が大地に着弾した間、電磁収束によって辛うじて安定していた膨大な熱エネルギー解放され、急に膨する。
     ゴリアスロケット弾の炸裂に等しい爆発は、しかし人み込むことはなかった。
     寸前で着弾した弾丸がプラズマキャンの狙いを外していたことは、続く4発の撃によってヘクトルの巨体が揺らぐことで分かった。
     ヘクトルが再び、プラズマキャノンを掲げる。
    「させない……!」
     手は既にスタンピードM2を握っていた。
     数万匹のが唸るがごとく、プラズマキャノンのチャージング音が高まっていく。
     多弾頭炸裂榴弾を装填。両手で、頭上へと掲げる。
     ヘクトルが僅かに巨体をずらしわたしを見下ろした。をたたえた機質な機械の眼が、意外な物を見つけたかのように鈍く明滅する。
     遠くに、やめろと叫ぶ彼のを聞いた。
     確かに至近距離では危険だが、全ての榴弾をヘクトル上半身に集中させられれば……。
    大丈夫……」
     もう、魔笛がなくても、わたしは戦える。
     ヘクトルが慌てたようにプラズマキャノンを降ろし、足下を狙おうとした。
    「遅いのよ」
     スタンピードM2口から太く大きい特殊榴弾が飛び出す。く間に弾頭部が開放され、25発のグレネードは宙に舞ったのも束の間、ヘクトルの上半身に殺到した。咄嗟に頭部を収納しようとした装甲の隙間にも、数発のグレネードが飛び込む。
     接触信管、起爆。
     ヘクトルの上半身が爆炎に包まれ、そして胸部が内部から砕け散った。
    ・・・
     は走った。何度も、彼女の名を叫びながら。
     が降り始めていた。
     煤との混じった、く汚れただ。
     ぬかるむ地面に足を取られる。酷使する余り熱で身の変形したAF20STたまりに落ち、蒸気をあげた。
     形振りかまわず、転びそうになりながら、丘の頂上をす。
    ――会って、何を言うべきかなんてわからない。
     上半身を失ったヘクトルの両脚が、ゆっくりと左右に分かれて倒れる。
    ――真実を話すべきなのかどうかも、まだ決めかねている。
     機械脚を構成していた数の駆動ユニットが外れ、丘を転がり落ちていく。
    ――ただ、生きていてほしい。
     世界雨音で満たされていた。

     今、丘を登り切る。

    「まったく……」
     その場に座り込んで胡坐をかくと、上がった息を整える間も惜しんで言葉を搾り出した。
    を、しないでくれ」
    ごめんなさい
     脱いだヘルメットを傍らに置きながら、彼女が微笑む。
     西方の切れ夕日が垣間見え、が淡く、互いの瞳を照らした。
    「言わなければ、ならないことがある」
    「いくつ?」
    「ふ、二つだ」
     悪戯っぽい笑みに面食らい、噛んでしまう。
    「一つはわかってるから、もう一つを教えて」
     その言葉は混乱させるのに充分だったが、見つめ合っていると、おおよその察しはついた。もそこまで鈍感ではない。
    「そっちも、言いたいことがあるんじゃないのか?」
    「まぁね」
     どうやら、を据えて話をする必要がありそうだ。
    「しかし、帰ってからになりそうだな」
     このままに濡れるのも悪くないが、レーダーサークルにちらほらと点が現れ始めている。第二波の到来らしい。
    わたしのを使って」
     ヘルメットを被りなおした彼女が、サブウェポンスナイパーライフルを差し出す。
    MMF100か……」
     ST使いとして義に反するが、生きて帰るためには仕方がない。
     そうだ。この非情な作戦も、捨て駒になれと明言された訳ではないのだ。
    「まだ、守りたいものがあるからな」
    わたしも」
     たちは立ち上がる。戦い、そして生き残るために。
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1 ななしのよっしん
2013/07/21(日) 20:20:51 ID: xtUYGFA8tj
え・・・なにこれ
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2 ななしのよっしん
2013/08/17(土) 05:09:53 ID: KI1o5McoU5
MG20の女科学者が4のサテライトブラスター女性研究員っぽいな
ベガルタ―と同じで公式化か?
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3 ななしのよっしん
2017/12/14(木) 14:58:33 ID: gz931pQLbW
地球防衛軍5MG13出たから使ってみたけど、投げる時叫んでるんですが……
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4 ななしのよっしん
2019/05/07(火) 18:01:45 ID: BpBj1pi8qZ
>>3
4の頃から気合い入れて助走つけるようになった
4以降の記事書く場合、ここからDNG系列(同じように気合い入れて助走つけるタイプ)が生してった…とかアリかも
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