巨大生物(フォーリナー)(ネタ記事)とは (キョダイセイブツフォーリナーネタキジとは) [単語記事]

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この記事は高濃度のフィクション成分を含んでいます！
この記事は編集者の妄想の塊です。ネタ記事なので本気にしないでください。
当然ながら公式の設定と異なるのでご注意ください。

　『巨大生物(フォーリナー)』とは、Ｘｂｏｘ360専用ゲーム「地球防衛軍3」に登場する敵キャラクターである。

　・ゲーム本編については→「地球防衛軍3」を参照とする。
　・プレーヤーが使用可能な兵器と武器については→「地球防衛軍3の兵器」を参照とする。
　・PS2用ゲーム『THE 地球防衛軍』シリーズに登場する巨大生物については→「巨大甲殻虫」を参照とする。

　ここでは「黒蟻」「赤蟻」「蜘蛛」「女王蟻」「蜘蛛の王」「宇宙生物ヴァラク」「ガンシップ」「ヘクトル」「四足要塞」「空母型円盤」「マザーシップ」についてを記述する。ガンシップなどは機械兵器だが、合わせて記載する。

『注意』この記事はネタを多分に含みます。『注意』
≪CAUTION≫This Art icle is a JOKE.≪CAUTION≫

　　なお本記事の記載内容は以下の書籍の情報に基づく。

「たたかえ、ぼくらのE・D・F！」
　出版元：地球出版　発行年：2020年　税込1,680円
　児童向け図書でありながら巨大生物のフルカラー解剖図などが記載されており、参考資料としての価値は高い。
　とくに、あまりにも詳細な解剖図のために規制・回収された初版本はプレミアが付いている。
　
「EDFの戦い　2017年」
　出版元：D4　PU BL ISHER　発行年：2028年　現在絶版　オークション平均価格2500US$
　名著「Battle of E.D.F.　2017」の翻訳版であり、絶版となった現在では入手は困難である。
　著者は元EDF陸戦隊員であり、終戦10年を経て執筆を決意したと言われる。
　事件や作戦に関する記述には情報公開前のものが多々あり、発行されて間もなく発禁処分を受けた。

「サンダー!　結城隊員の軌跡」
　出版元：不明　発行年：不明
　2020年代に古書市で偶然発見された書物であり、同人誌の類と思われるが、黒蟻型巨大生物に関する斬新な考察と自らも強酸液を浴びたとしか思えない詳細な記述から、学会にセンセーショナルを巻き起こした。
　結城という名のEDF隊員は実在し、終戦後は日本某県の津川浦町で民宿を営んでいるが、取材を拒否しており、関係については不明である。

フォーリナーの概要

フォーリナーとは
　外宇宙からやって来た謎の侵略者。数年前から電波の受信によって存在が確認されていたが、地球に近づく意図は不明だった。地球到着と同時に全世界の主要都市に空母型円盤を配置、特に日本上空にはマザーシップを降臨させ、その威容を見せつけた。直後、巨大生物が出現して無差別に人間を襲い始め、厳重警戒の任に就いていたEDF陸戦隊はこれに反撃、戦いが始まった。それでも人類は慎重に対応し、当初は巨大生物のみを駆逐、円盤から直接投下しているのを確認した後にフォーリナーを侵略者と断定した。
　以後、フォーリナーは四足要塞の巨大プラズマ砲やマザーシップのジェノサイドキャノンを投入して徹底的な殲滅戦を行い、EDFも巨大生物への対応を駆逐から根絶へと転換、円盤の撃墜や巣穴の攻略を敢行する。人類の存亡をかけた壮絶な戦いが各地で繰り広げられ、全世界の都市は焦土へと変わっていった。

「地球を救うか……虚しい響きだ。もう守るものなんて、なくなちまったよ！」最終決戦に挑む陸戦隊員の言葉

　フォーリナーの目的と正体が明かされることはないが、女王体を含む巨大生物が知的生命体ではなく戦闘に特化した生物兵器であること、攻撃と捕食と増殖以外の行動が皆無であることから、イナゴのように宇宙を放浪して豊かな星を食い尽して増えていく"何か"ではないかと考えられている。マザーシップが本体だとする説もあるが、マザーシップ撃墜後に他の円盤が自律的に撤退したことから、個体ではなく群体の意思で行動する存在なのかもしれない。
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巨大生物の概要

巨大生物とは
　地獄の悪魔と呼ぶに相応しい人類の天敵である。外見は蟻や蜘蛛に酷似しているが、乗用車を越える大きさであり、強力な顎による噛みつきと強酸性の体液や粘着性の糸で攻撃し、そして人間を捕食する。さらに地中に巣穴を形成し、より巨大な個体である女王の産卵によって増殖する。巣穴からの出口が街中に出現することも珍しくなく、避難の遅れた大都市では市民に甚大な被害が出た。
　これら生物兵器タイプの他に、ガンシップや二足歩行ロボットなど機械兵器タイプの敵も存在する。
　陽動によって包囲するといった高度な戦術を用いる場合もあるが、猪突猛進の突撃が基本であり、その圧倒的な数をもって津波のように押し寄せる。移動速度は黒蟻で最高70～90km/hとEDF 主力戦車に匹敵し、蜘蛛に至っては百メートル以上を一気に跳躍する。瓦礫が散乱する悪路でも踏破能力は損なわれず、ビルや崖などの垂直の壁を登れることから浸透力も極めて高い。
　低高度では酸や糸の投射で戦闘ヘリですら撃墜されるため、航空兵力が壊滅して空爆が望めない状況では陸戦隊がゲリラ戦で迎え撃つしか方法がなく、各地のEDFは苦戦を強いられた。
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詳細

黒蟻
　2017年のファーストコンタクトで最初に確認された巨大生物。逃げ遅れた市民が食害という形で犠牲になったことからも有名で、フォーリナーの巨大生物と言えばこの「黒蟻」が挙げられる程である。
　空に浮かぶ超未来的な造形の円盤に比べて蟻という見慣れた姿だったために、巨大生物とフォーリナーとの間にどのような因果関係があるのか、EDF内部でも議論が続いた。
　「宇宙からの来訪者を歓迎しよう！」というのが当時の国際世論であり、人類が自らの歴史から突き付けられる「征服、略奪、虐殺」という恥ずべき経験則を、異星人に当てはめることは劣等感の証明であると非難する……それこそ罪悪感の反動と言うべき浮ついた風潮が蔓延していた。
　とくにその設立に際して政治・民族・宗教といったあらゆる問題と衝突したEDFにおいては「好戦的意見は厳に慎むべき」という認識が上層部で広まっていた。

　「あれは我々の船舶の底に付く貝と同じように、フォーリナーの宇宙船に寄生して来た異星生物である可能性が高く、フォーリナーが意図をもって出現させた……つまり彼らに攻撃の意思があったと早急に判断するのは危険である。あの宇宙船は爆弾一つ落としていない。不幸な事故ではあったが、これは我々の防疫体制の問題であり、巨大生物の駆除とフォーリナーとの意思疎通の確立を早急に実現しなければならない」

　以上が国連安全保障理事会とEDFが連名で発表した声明である。
　巨大生物がフォーリナーの先兵であると正式に認められるのは数日後、円盤から直接投下されているのが確認されてからであった。
（中略）
　この巨大生物は、外見は極東に生息するクロオオアリ（Cam ponotus ja pon icus）に酷似しているが、回収された死骸を解剖した結果からは、我々がよく知る“小さな蟻”とは全く異なる生物であることが判明した。類似点として挙げられるのは酸素を呼吸し、水を嫌う性質のみである（もっとも酸素を呼吸するのは戦闘行動のための余剰エネルギーを生産しているに過ぎず、無酸素状態でも活動可能である。理論上は真空や水中でも活動できる筈であり、水を嫌うのは単純に泳ぐことができないからだと考えられている）。
　最も異なるのはその大きさであり、全長9メートル、全幅3メートル(脚を開くと6メートル)、全高は起立状態で約5メートルに達する。
　この巨体を支える外骨格である外皮は非常に硬く、かつ弾力性を備えており、小口径の拳銃ではダメージを与えられない。加えて軽量で、同量の強化プラスチックよりも耐久性に優れている（この事から、黒蟻と赤蟻の外皮はアーマーの素材として利用された）。
　感覚器官では複眼が高度に発達しており、触覚や嗅覚よりも視覚によって外界を認識する。無論、視覚がメインであっても嗅覚は鋭敏であり、触覚は大気の微細な振動さえ察知することができる。
　特筆すべきは、この生物が感覚器官のダメージコントロールに長けている点である。例えば音響閃光手榴弾が至近距離で起爆しても、伝達神経を一時的に遮断することで神経中枢を守り、同時に別の感覚器官が外環境に対応するという機能である。このため「触覚を切り落とす」「普通の蟻が嫌がるフェロモンを噴霧する」などといった手段で無力化することはできない。
　移動については左右3対の脚で歩行するが、筋肉と言うべき組織は存在しない。筋肉に代わって体を動かしているのは、全身の関節に存在するモーターセル（駆動細胞）である。モーターセルは関節の接合部分……パーツとパーツが接する部分に緩衝材のように挟まれており、一つの関節につき数千万個のモーターセルが存在している。有力な仮説としては、それら無数の微小組織が震動することによって身体を構成するパーツの連結状態を変化させ、脚を曲げて“歩く”という動作を行っていると考えられている（このため独特の歩行音を発する）。
　このように全身で膨大な数となるモーターセルに比べて、それを制御する脳と思われる中枢神経は極めて小さい。最近の研究では各関節にあるモーターセルの集合体が脳の役割を果たしており、各部の脳は複数の神経網で結ばれ、中枢神経と思われる部分はハブ・ステーションに過ぎないと考えられている。このように複数の脳が連携して活動するメカニズムは完全には解明されてないが、この生物は中枢神経を物理的に取り除いても全く問題なく動き回る。
　そうして動かされる6本の脚は先端に爪を持ち、急傾斜の壁を登る際には、爪の付け根から極微量だが充分に粘着性のある体液を分泌することで接着を可能としている。粘着性の体液の成分構造は蜘蛛型巨大生物の糸と同様であり、蟻と蜘蛛という異なる巨大生物が非常に近い生物（または同様の生物兵器）であることを示している。
　幸いなことに、この強靭な脚は歩行のみに使用されており、攻撃や捕獲は頭部先端の顎で行われる。左右に牙を生やした顎の力は尋常ではなく、戦車の複合装甲に穴を穿つほどであり、ファーストコンタクトにおける市民の食害事件は極めて凄惨な様相を呈した。　
　もう一つの攻撃手段が、強酸液の噴射である。
　腹部の末端に無数の噴射口があり、中に赤色の強酸液が満ちたゼリー状の球体を、腹部を下向きに振り出す際の遠心力で投射する。この“強酸液の水風船“は噴射口を覆っている粘着性の膜を、内部から強酸液の圧力で膨らませ、一定量で噴射口を閉じて分離することで形成される。ゼリー状の球体は人体などに衝突すると簡単に弾けて強酸液を撒き散らすが、空気抵抗で割れることはなく、黒蟻の投射姿勢によっては数十メートル上空まで届くため、戦闘ヘリでも撃墜される恐れがある。
　また対象物に合わせて強酸液は希釈濃度が調節されるため、重装甲の戦車と言えども長くは耐えられない。
　この強酸液を人間が生身で浴びた場合は重度の化学熱傷を負い、即死の可能性も高い。耐酸性のボディアーマーを着ていても、一部なら装甲脱落で事なきを得るが、全身に浴びれば致命傷は免れない。最新のアーマーはマイクロマシン塗装が施されているが、強酸液との反応を抑制・遅延するに過ぎず、完全に無害化するものではない。
　一度に噴き出される強酸液の量は約500mlから最高で15000mlだが、驚くべきことにこの巨大生物が活動可能な状態で噴出できる体液の限界量は全重量の60％を越えると言われており、大群の場合、強酸液の枯渇や噴射行為が黒蟻の活動時間を縮めることは期待できない。逆に体液を排出することで軽量化し、俊敏性を増すことが確認されている。
（中略）
　黒蟻は強酸液を噴出する際に腹部を大きく振り出すため、動きをよく観察し、並行に移動して避けることを心がけなければならない。
（中略）
「いかにすれば、この悪魔に迅速な死の鉄鎚を下せるか」
　このテーマの答えを求めてEDFと各国の研究者は回収した死骸はもちろん、捕獲した個体を隅々まで調べ、あらゆる攻撃テストを行った。
　しかし、分かったことは「弱点らしい弱点が存在しない」ということであった。人間で言うところの急所が無く、体液の半分を失っても身体活動に障害が現れず、たとえ頭部・胸部・腹部を切り離してもそれぞれが動き回る始末である。
　この化物を殺すには集中攻撃か大火力でもって徹底的に粉砕するのが最も確実であり、その結果を前にして研究者の多くは口を揃えて「何者かに兵器としてデザインされたとしか考えられない」と語った。
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赤蟻
　黒蟻の亜種と考えられる巨大生物であり、黒蟻よりも一回り大きく、外皮の硬度や顎の力も黒蟻より優れる。当然、重量も黒蟻を上回るが、俊敏性は損なわれておらず、高い耐久力を活かして突撃の前衛として押し寄せる。
　最たる特徴は活動時間の長さであり、死骸の解剖データから推測するに理論値で黒蟻の百数十倍に達する。反面、強酸液を噴出することはない。
　赤色に見えるのは、黒蟻と同じ黒い外皮の上を、さらに透明の殻皮が覆う二重構造になっており、その隙間を埋めるグラス・ファイバー状の血管網を赤い体液が循環しているからである。これは体液の循環によって熱の蓄積を防ぐためと考えられ、レーザー照射テストでは黒蟻よりも25%ほど高い耐久値を示した。
　これらの特徴から、地熱が高く過酷な環境となる地底深くでの巣を作る掘削作業に特化した巨大生物と考えられる。
　酸や糸の投射攻撃がないことから個体レベルでの脅威度は低いが、大群になると耐久力の高さを活かして迎撃効率を著しく低下させ、さらに黒蟻や蜘蛛の盾となり、強力な顎で文字通り防衛線を噛み千切って突破口を開く役割を担うため、決して油断してはならない。
　また活動時間の長さから、退却する部隊や避難民を狙って執拗に追撃してくることでも有名である。
　中国戦線では、北京を脱出してシベリア司令部に向かっていたEFD極東方面軍の残存部隊が1000 キロ以上もの距離を進む間、赤蟻の群から絶え間ない追撃を受けた。止まることを許されない行軍を強いられたことで大量の脱落者が発生し、中国政府と軍の首脳部を護衛していた本隊も振り切ることができずに全滅。途中の万里の長城における阻止作戦では城壁が喰い破られ、死守を命じられていた部隊は僅か数十分で壊滅したと言われる。
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蜘蛛
　そのあまりに醜悪な外見と極めて高い危険性から「凶蟲」と報じられた巨大生物である。
　黒蟻や二足ロボットよりも遅れて出現したため、水平弾幕の形成を重視した初期の対巨大生物戦術では対応できない。一説には、人類の戦術を分析したフォーリナーが、地球の蜘蛛を参考に造った巨大生物ではないかと言われている。それ故か、蟻と蜘蛛という大きく異なる生物でありながらサイズはほぼ同じである。
　外見は世界各地の温帯に生息するオオツチグモ科（Theraphos idae）に近く、4対の脚と1対の触肢、鎌状の牙を持つ。硬い体毛を有するが、地球の蜘蛛のように刺激毛として飛散させることはない。眼の数や配置はハエトリグモ科（jumping spider）と同じく肥大化した4つの眼を持ち、黒蟻以上に高度な視覚能力を有する。どちらの特徴も徘徊性であることを示しており、糸によって巣を作る習性は確認されていない。
　移動については全くと言っていいほど歩かず、跳躍でもって進行する。その飛躍距離は巨体に反して長く、百メートル以上を一気に跳び越える。数メートルの近距離でさえ跳躍で移動するが、これは8本の脚が跳躍のみに特化した関節構造となっているためである。
　運動器官における黒蟻との大きな差異としては、関節のモーターセルとは別に、脚の内部に筋肉が存在することである。むしろ脚はそれ自体が1つの筋肉組織と言うべきもので、接地旋回時には関節のモーターセルで無理矢理に脚を曲げている。
　跳躍による3次元的な動きで接近し、着地時の衝撃を吸収してほとんど音を出さないために奇襲を受ける可能性が高く、その独特の攻撃手段もあって、中東方面軍の壊滅は蜘蛛の登場が原因と言われている。
　岩石に覆われた荒野と見晴らしのよい砂漠という地理的条件、さらに軍事力と戦訓の豊富な国家が多い中東地域は、石油戦略によって欧米諸国から戦前以上の軍事的援助を取り付け、初戦では優勢を誇っていた。
　問題はイスラエル、イラン、エジプト、サウジアラビアなど各国が政治的に対立しており、各国から戦力を抽出する形で結成されたEDF 中東方面軍もその影響を受けていたことである。
　各国は巨大生物を互いの国土に追い込むように戦い、とくにシナイ半島における包囲殲滅戦ではイスラエル軍がアラビア半島側へと巨大生物の群を押しやったことで、聖地絶対防衛を掲げていた他の中東諸国が激怒、EDFが仲裁に入ったものの、一時は人類同士が再び銃を向け合う事態に陥った。
　その隙を突く形で、紅海と地中海に潜航していたフォーリナーの空母型円盤が浮上、シナイ半島に集結していた中東方面軍の後方に蜘蛛型巨大生物を投下したのである。跳躍を繰り返して阻止線を飛び越える蜘蛛の群に各国とEDFの連合軍は大混乱に陥り、狭めていた包囲網が仇となり、逆に包囲殲滅されることになった。
　この時、イスラエル航空宇宙軍のAH-64Dを中核とするEDFの戦闘ヘリ部隊を壊滅させたのが、蜘蛛型巨大生物の攻撃手段である糸であった。
　一般的にも蜘蛛の糸が強靭なバイオ・ファイバーであることは知られているが、この巨大生物の糸の強度は同じ太さの鋼鉄の10倍、伸縮率がナイロンの6倍と通常のそれを大きく凌ぎ、さらに黒蟻の強酸液と同様の威力を有している。
　糸は一本一本が無数の穴の空いた管のような構造をしており、その中に強酸液が満ち、物体に付着すると強酸液が滲み出るようになっている。この直径1ミリに満たない極細の糸が腹部末端の出糸突起内で束ねられ、直径数センチの束糸となって噴き出される。一度の噴射で放射される束糸は十数本に及ぶため、数体の蜘蛛が同時に放射すると視界を覆うような糸の壁が形成される。
　糸そのものの粘着性も高く、一本でも容易く全身に絡みつくため致命傷を負いやすい。糸の粘着性と強酸液によって機械的かつ物理的な損傷を負ってしまう戦闘ヘリは、とくに注意が必要である。
　この巨大生物も人間を捕食するが、強酸液を満たしていない糸で捕獲する習性も確認されている。救助された者が皆無であり、撃墜した空母型円盤や地底の巣においても生存者や遺体が発見されていないことから、捕食以外で人間を捕獲する目的は不明である。
　幸いなことに黒蟻や赤蟻に比べて耐久力は低く、充分な距離があれば着地の瞬間を狙うことで撃破は容易だと言われている。とくに4つの大きな目が脆弱で貫通しやすい。欧州戦線の北欧防衛戦では2人のスナイパーが合わせて1000体余りの巨大生物を撃破しているが、このうちの800 キル以上が蜘蛛型巨大生物の目を狙撃したと言われている。
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女王蟻
　日本列島戦線の地底進攻作戦において巣の最深部で確認された超巨大生物であり、ただでさえ巨大な黒蟻型巨大生物の10倍以上という、もはや荒唐無稽な大きさの化物である。
　攻撃手段は強酸液のみであるが、粘着弾で投射することはなく、腹部末端の噴射口から霧状に噴き出す。噴霧範囲は広く、一度の噴射で部隊が全滅することも珍しくない。
　通常の蟻にも存在する女王蟻と同じく産卵する能力を持つが、本来は抜け落ちる筈の羽根が残っており、解剖結果からも飛翔能力を有することが判明している。日本列島戦線において女王の飛翔を見ることがなかったのは、多大な犠牲を払いながらもEDF 日本支部が巨大生物の掃討と巣穴への攻撃を断続的に行っていたからだと言われている。なぜなら、1つの巣における個体数が一定数を超えると女王は産卵を辞め、新たな王国を築くために移動するからである。
　女王の飛翔が確認された中央アジア戦線では、一時期を境に巨大生物の個体数が爆発的に増加した。これによって、EDFの欧州方面軍とシベリア方面軍は分断され、ウラル山脈攻防戦の敗退、延いては欧州陥落の遠因となった。
　なぜ巣の拡散を許したかについては、ロシアが白ロシア地域以東の、特に中央アジアの防衛を放棄したことが最大の要因と言われている。
　ロシアと近隣諸国との紛争はEDF設立時に中東問題に次いで紛糾した問題であり、ロシア側は譲歩の条件としてウラル山脈以東の防衛をEDF単独で行うこと、さらにロシア連邦軍からの戦力抽出を人員に限定することを通達した。
　チェチェン紛争の平和的解決と、後の核兵器全廃計画への協力を条件に欧米諸国はこれを承認。サンクトペテルブルクに予定されていたEDF方面軍司令部はシベリアに建設されたが、派遣された戦力が兵役に就いて間もない新兵や重度のアルコール中毒（ロシアでは軽度のアルコール中毒など珍しくない）などの健康障害を抱える者であったことからも、当時のロシア政府がEDF構想を軽視していたことが窺える。
　ロシア連邦軍にもその能力がなかったとは言え、EDF シベリア方面軍の限られた人員と装備で中央アジア全域をカバーすることは不可能であり、逆に両者の間に協力体制があれば巣の拡散速度を抑えることはできた筈であり、政治的な失策であったと言える。ウラル山脈を飛び越えた数体の女王が産卵を繰り返し、溢れ返った巨大生物によってウクライナの穀倉地帯が壊滅し、赤の広場を蹂躙されたことも考えれば、代償はあまりにも大きかった。
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蜘蛛の王
　前述の女王蟻と同等の大きさを誇る、蜘蛛型巨大生物の超個体。
　確認はされていないが、女王蟻と同じく地中深くで産卵して個体数を爆発的に増加させると考えられており、想像しただけでも身の毛がよだつその不気味さと、地上に現れた時の威容から「奈落の王」と呼称されている。
　あまりの重量によって跳躍距離は短くなっているが、大きさが大きさであるため、実質的な移動距離は通常の個体よりも長い。
　また腹部を振り上げた際の出糸突起の高さを活かして、遠距離からでも糸を放射してくる。束糸の太さと数量、なによりもその重さは尋常ではなく、生身で直撃されると衝撃で内臓破裂などの重傷を負うのは確実であり、隠れていても遮蔽物ごと貫通される怖れがある。無謀な突撃は速やかな死に繋がるため、撃破するためには入念な攻撃計画を練られなければならない。
　超個体は自身が絶大な戦闘能力を有していながらも、単独で行動することはなく、常に巨大生物を随伴させており、とくに蜘蛛の王はその傾向が顕著である。具体的には王を中心に同心円状の陣形が組まれ、死角のないキルゾーンが形成される。このような方陣を組まれると容易には手を出せなくなり、“彼ら”もそれを理解しているらしく、侵攻においても群での移動を徹底している。
　その習性を逆手に取り、日本列島戦線や欧州戦線ではエアーバイク SDL2を用いた誘導殲滅戦が試みられた。これは数台のSDL2で群を挑発、放棄された市街地や渓谷などの地形に誘い込み、事前に設置しておいた高性能爆薬の起爆で一網打尽にするという戦法である。
　単純ではあるが、それ故に成功率は高く、欧州では民衆が避難する時間を稼ぐために志願兵によって繰り返し行われた。EDF構想に参加せず、最後まで一国武装中立を貫いたスイスでも同様の戦法が試みられ、アルプス山脈には幾多の英霊が眠っていると言われる。
　なおEDFにおいて使用されたのはC70爆弾である。
　これは小型の戦術核兵器や燃料気化爆弾に代わる“使い勝手の良い”戦術級戦域制圧兵器として開発されたMOAB （Mass ive Ordnance Air Blast bomb：大規模爆風爆弾兵器）「Cシリーズ」の中でも、最も新しく、最も威力が高く、そして最も多く巨大生物を殺した英雄的爆弾として知られており、MOABの別称「Mother Of All Bombs：すべての爆弾の母」にかけて「ビッグ・マム」の愛称で兵士から親しまれている。
　かつて特定の爆弾の固有名称であったMOABが近年急速にカテゴリー化した背景には、EDF構想と並行して計画、実施された核兵器全廃計画の存在が大きい。
（中略）
　EDF創設が世界政府準備機関の下準備であったこと、そして世界政府樹立構想が宇宙からの来訪者を迎えるための政治劇であったことは周知の通りである。
　フォーリナーとの壮絶な戦いを経験した現在では性質の悪い冗談にしか聞こえないが、大戦前、世界はフォーリナーの来訪を心待ちにしていた。好意的に見れば、多くの人々は映画 E.T.のような光景を純朴に思い描いていたと言えるのかもしれない。だが、実際には「賢い宇宙人が、地球人類の抱える諸問題を解決する叡智を授けてくれるだろう」という旨の無責任な楽観論が蔓延していたと言わざるを得ない。彼らは、人類の文明レベルが格段に進歩することを、異星人の協力によってユートピアが築かれることを“そうあるべき未来”として期待した。まるで、中世ヨーロッパの野蛮人が古代ローマの復活を夢見るかのように。
　無責任な楽観論に陥った民衆の多くが厚顔無恥に“そうあるべき”を主張するのは歴史の常であり、核兵器全廃は最も魅力的な“そうあるべき “事柄の一つであった。
　また、
「フォーリナーが核兵器の存在を知ったらどう思うだろう？」
　この何気ない問いに、世界の列強国も本気で顔を見合わせていたのである。
　「人類は危険種族と思われて“駆除”されるかもしれない」という議論が大真面目に語られたことからも分かる通り、特定の人々には「高等な異星人によって人類が下等生物と断定される事態」は極めて遺憾な予測であった。特に有色人種に対して優越心を抱いている人々ほど、恒星間航行でやって来る異星人へのコンプレックスは顕著であった。
　そもそも世界政府という構想自体が「人類は一人前である」と異星人に誇示するためだけに発案された政策であり、その実践に宗教的使命感を持っていた人々は核兵器全廃計画も驚くべき早さで実現してしまった。その際、日本を含む数ヶ国が「ヒロシマやナガサキといった“人類の過ち”を素直に告白すべきだ」と主張したが、ある国が「それはアメリカの過ちである」と名指しで糾弾し、また別の国が「過ちではない」と反論するなど紛糾した。
　このような理想主義と言うのも憚られる空虚な政策の中で、フォーリナーを警戒した純軍事的な政策であるEDF構想が後に世界を救ったことは、人類に大きな教訓を残した。
　2016年には米・露・英・仏・中の核保有国連安保理連常任理事国、インド・パキスタン・イスラエルなど準核保有国、さらに複数の核保有疑惑国も含めて公式上の核兵器は全て解体破棄、または永久封印された。人々は手放しで喜んだが「EDF構想が緩衝材として機能しなければ、軍事バランスの急激な変化によって世界は致命的な混乱に陥っていただろう」というのが、後世の歴史家の評価である。
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宇宙生物ヴァラク
　極東の日本列島戦線で最初に確認された超巨大生物であり、獰猛な姿と圧倒的な攻撃力から「魔獣」と怖れられ、公式に「宇宙生物ヴァラク」と命名された。
　当初は単独で出現したが、その後2体で出現した際の行動パターンなどから女王蟻のような超個体ではなく、あの大きさで通常の個体であると考えられる。日本列島を皮切りに世界各地に数体が投下されており、日本列島戦線には3度襲来した。なお最後に出現した1体はフォーリナーによって機械的改造を施されていた。
　二足歩行する姿は古代の肉食性恐竜を思わせるが、全身の各所に装甲のような部分を有している。これは硬質化した表皮であり、甲殻であると同時に外骨格の役割を果たしている。内部の骨格も外骨格との整合性を保ちながら発達しており、これによって高い懸架性と衝撃吸収分散性を実現、大きさと重量を考えれば立つことも適わない巨体を支え、疾走させることすら可能にしている。
　巨体を前傾させて行う突進は強大な運動エネルギーを有しており、これを防ぐことのできる建造物は地球上に存在しない。なお完全に腕として発達した前脚と、全長の半分近くを占める尾は前傾突進時のバランサーの役割を果たしている。
　黒蟻の強酸液や蜘蛛の粘着糸と同じく、この巨大生物もあるものを噴射する。
　火炎である。
　正確には酸素と反応して発火燃焼する化学物質であり、本来は捕食対象を体外消化するために吐き出すものと考えられている。結論から述べれば、この超巨大生物は自分よりも大きな“何か”を襲う……言わばクジラを群で襲うシャチのような生物であると考えられる。
　根拠としては、まず他の巨大生物と違って人間を捕食しないことが挙げられる。獅子が蟲を主食としないように、咥内の大きく鋭い牙や消化器系の特徴もそれに準じている。
　そして、前脚にある凶悪な爪は獲物を切り裂くナイフではなく、何かに喰い込ませて自身を固定するアンカーのような性質を有している。円錐型の爪には無数の“返し”がノコギリ状に並んでおり、それら刃の列が多重螺旋を描くように重なり合うことで、食い込むと容易には抜けない仕組みになっているのである。また爪そのものが硬質化した表皮ではなく、体外に突出した腕の骨格である。つまりこの生物は手がなく、拳を握ることも指を曲げることもない。爪と一体である指は僅かに歪曲しており、巨大な銛を思わせる。
　全高40メートルを越えるこの超巨大生物の攻撃・防御力と獰猛な性格を鑑みるに、捕食対象はより大きく、より強靭な生物であると推測される。
　もはや我々の常識では計り知ることはできないが、何処かの天体に常軌を逸した生態系が存在するのは確かであり、あまりにも広大な宇宙……自然というものに畏怖を感じずにはいられない。そういう意味では、フォーリナーも我々人類と同じく自然に依存する生命体に過ぎず、決して神などではない。
　なおフォーリナーによって機械的改造を施された個体は、切除された腕の代わりに高出力の光学兵器が搭載されていた。近接迎撃用の散布地雷も有しており、量産されていれば甚大な被害が出ていたと予想される。
　最後に、日本列島に出現した4体のヴァラクは、全て1人の陸戦隊員によって撃破されている。他地域のEDFは「さすがニホンは怪獣との戦いに慣れている」と冗談を口にしたが、直に壮絶なジャイアント・キリングを目撃した日本支部では「化物だ」と呟いた者が少なからずいたと言われている。
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ガンシップ
　大戦初期、マザーシップと空母型円盤に対する世界的な航空作戦において、人類側の戦闘機を壊滅させたフォーリナーの飛行兵器である。
　銀色のノーマルタイプと、レッドカラーという高性能タイプの2種が確認されている。
　レッドカラーの性能はノーマルタイプの3倍以上と言われており、高速化に伴う大気との摩擦熱や人類の迎撃に対抗するためか、極めて高い耐久性を有する赤色の装甲を有している（材質の強化に伴う分子構造の変化など、負荷によって赤く変色しているという説が有力である）。これによってレッドカラーはヘクトルに匹敵する程の防御力を有しており、僅か数機によって制圧された都市も少なくない。なお赤蟻との混同を防ぐため、一部の戦場では「親衛隊」と呼称されている。
　空母型円盤もアメリカのSF番組に登場するスターシップを彷彿とさせるデザインだが、この飛行兵器も古典的なUFOと言うよりは宇宙戦闘機の印象を受ける。
　胴を丸めた猛禽のような姿をしており、遠目に見る影は球体に近い。航空力学を完全に無視した形状だが、高速で飛行し、あらゆる速度域で鋭角的な急機動が可能である。
　その飛行は奇怪としか言う他になく、進行方向と機首が一致しない、高速直進中にも関わらず機体が緩やかに回転している、後ろ向きのまま飛んでくるなど、人類の航空機とはかけ離れている。
　誤解を恐れずに、かつ厳密に言えば、この飛行物体は「揚力や推力によって飛行」しているのではなく、内部にある「装置」に牽引されることで「進行方向に落下」していると考えられる。
　一説によると、「仮想重力源を数学的に設定することで装置内部に疑似的な引力を発生させている」と言われているが、物理空間の基幹情報を書き換える干渉手段を含めて、現段階では実証不可能である。以上は仮説の域を出ないが、撃墜した残骸を回収して復元したところ、機首や翼部分には空気抵抗を減らすための斥力場（フォースフィールド）を発生させる装置しかついておらず、機体中心部に埋め込まれた球体状の装置以外に推進機関らしき装置が見当たらないことから、超常的なオーバーテクノロジーが使われているのは明白である。同様の装置は、サイズこそ異なるが、空母型円盤やマザーシップの残骸からも発見されており、フォーリナーにとってはありふれた技術に過ぎないと思われる。
　なお残骸回収の際にフォーリナー“星人”の遺体が発見されることを期待する者は多かったが、そのようなものは、少なくとも人間が見ることのできる異星人の死体は発見されなかった。
　空母型円盤やマザーシップも同様であり、これによって「ガンシップやマザーシップ自体が機械生命というべき存在ではないのか」といったフォーリナーの正体をめぐる論争は紛糾し、現在も決着を見ていない。構成物質が有機物か無機物か、そもそも生命の定義とは何なのか……その答えが出ない限り、確かなことは「フォーリナーは人類の敵だ」という事実だけであり、それが生き物であろうと兵器であろうと、我々は戦うのみである。
　ガンシップの武装は短射程のパルス・ビームのみであるが、数と機動力で人類側の戦闘機を圧倒するため、戦力的に劣るということはなかった。
　初戦の航空作戦失敗で最新鋭戦闘機を失った人類は退役した旧式機を掻き集め、さらには民間機を改造して戦闘に投入した（自動操縦のボーイング旅客機に爆薬を満載して特攻させる「カミカゼ・キング」がネーミングの悪さもあって有名である）が、レーザー機銃を搭載した決戦要塞X3を除き、航空戦で人類は勝利を掴むことができなかった。
　反面、ガンシップは空対地戦において平面的な機動を取ることが多く、そこに反撃の余地が残されていた。
　この油断とも受け取れる機動は、斥力場の衝撃緩和作用によって衝突の危険がないことから超低空の匍匐飛行が可能で、然るに地表の遮蔽物を利用するためのものだと考えられている。確かに、この高速匍匐飛行によって従来の対空ミサイルは無力化され、対空車輛も一撃離脱のパルス・ビームを浴びて撃破されたが、物陰に隠れた兵士の狙撃によって損傷を与えることは可能であった。
　この点に注目したEDFは低威力ながら高機動な小型ミサイルを開発、ゲリラ戦をしかけ、少なからず戦果をあげた。その後、高性能なセントリーガンが投入されると、対空十字砲火の罠で牽制・足止めしたところを、フォーリナー技術を転用した対物スナイパーライフルで狙撃する戦術が確立された。大戦末期に実用化されたレーザーライフルに至っては1：20以上の彼我優勢（1人の兵士で20機以上のガンシップを撃墜可能）と言われている（大戦初期の彼我優勢はガンシップ1機を撃墜するために数人の兵士が必要だった）。
　このような人類の新戦術に対して、フォーリナーはガンシップのみによる地上攻撃を減少させ、二足ロボットや巨大生物との併用を徹底。戦いは激化の一途を辿った。
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ヘクトル
　中国大陸の第7師団はEDF極東方面軍の全戦力の6割以上を占めており、豊富な兵力を用いて初戦では優勢を保っていた。
　これは中国政府（正確には混乱に乗じて地方軍閥化しつつあった各軍区の集団軍）からの豊富な人員と装備の提供によって、文字通りの人海戦術を展開できたことが大きい。たとえ旧式の装備であっても、数的優勢を保っていれば集中砲火で黒蟻を撃退することは容易であり、また民間から大量に徴発したトラックと燃料によって機動力の高い陸戦隊を集中運用することができたため、各都市に出現した巨大生物の群を各個撃破することができた。
　もっとも、このような優勢は長く続かず、フォーリナーが二足歩行ロボットを投入したことで脆くも崩れ去ってしまった。
　上海解放戦において確認されたこの兵器はほぼ完全な人型であり、全高は30メートルに達する。機体のシルエットは極めて細いが、腕や足は全体が円形の駆動ユニットによって構成されているため、見た目に反して運動出力は高い。このため、ワイヤーなどのトラップは容易く突破される他、地雷の起爆や砲撃の被弾によって生じた衝撃を全身の関節で吸収してしまうため、たとえ機体を貫通する程の高速徹甲弾を撃ち込んでも転倒させることは困難である。
　頭部には巨大な単眼を備えており、能動性の複合光学探査によってビルの中に隠れている人間の体内を透視する程の性能を有している。ただし常時作動している訳ではなく、警戒待機および索敵のための精密探査時以外は頭部そのものが体内に収納され、戦闘時は主に胴体胸部中央にある多少性能の劣る単眼を用いている。
　武装は腕部先端に直接固定されるため、物を掴む機構は有していない（人間を捕獲するのは随伴する巨大生物の役目である）。確認されている武器はパルスビームマシンガン、ビームブラスター、プラズマキャノンである。両腕に同様の武器を持つ特化型と、左右異なる武装の汎用型が存在する（種別に関してはマシンガンとブラスターで武装した突撃型と、両手にキャノンを装備した砲戦型に分別される）。
　ガンシップの武装の強化版と思われるパルスビームマシンガンは極めて連射性が高く、まさしく弾幕と言うべき濃密な熱弾の雨を降らせる。ビームブラスターはチャージ時間こそあるが、一度に数連射されるため、着弾時のエネルギー爆発もあって制圧能力は高い。日本列島戦線で確認されたプラズマキャノンはチャージ時間が長く、弾速の遅さから着弾までの時間も長いが、高電磁場によって収束保持されたプラズマは減衰率が抑えられており、着弾時には大爆発を引き起こす。どの武装も対人対甲を問わず攻撃力が高く、数体のヘクトルによる行進射撃は灼熱の暴風に例えられている。
　二本の足で避難時の大渋滞の痕跡を残す街路を止まることなく闊歩し、ビルを超える高さに位置する頭部で広域の情報を取得。細く柔軟な体で遠距離からの狙撃を避け、なによりもその巨体によって人間に巨大生物以上の心理恐慌を起こさせる……人類社会においては「前方投影面積の大きい直立人型兵器はナンセンスである」というのが定説であったが、あくまでも航空優勢下におけるコンバインド・アームズ（諸兵科連合）同士の、つまり人類社会の戦争形態に限られたことであり、フォーリナーという異星体の戦略と戦術によって歩兵によるゲリラ戦を強いられた人類にとっては、ヘクトルは充分に有効性の高い兵器であったと言える。
　事実、上海解放戦での市街戦では数体のヘクトルによってEDF陸戦隊・中国軍兵士・武装民兵に甚大な被害が発生し、この作戦の失敗によって敗退したEDF 第7師団は南京、そして北京を失った。
　それまで優勢を誇っていた中国方面軍の壊滅は、人類に衝撃を与えた。各地のEDFは陸戦隊支援のために分散運用していた貴重な長距離実弾砲兵器群を集結、砲兵部隊を組織した。砲弾備蓄量の問題から盛大な面制圧こそできなかったものの、スカウト隊の着弾観測に基づく精密砲撃によってヘクトルに集中砲火を浴びせるというものであった。
　この戦法は成功し、日本列島戦線では海岸部に上陸した数体のヘクトルに対して、被害の大きい水際での迎撃を止めて山岳部に誘い込み、渓谷にしかけた地雷原で足止めしたところに自走砲（MBT ギガンテスであるが）からの砲撃を加えて全滅させた。同日時に別所で行われた防衛戦が従来の阻止線構築に固執したために失敗したことを考えると、遊撃隊と砲兵隊の連携による機動砲撃戦の有効性は疑いようがなく、兵士個人でも面制圧が可能な高性能グレネードランチャー「スタンピード」の開発を促すこととなった。
「今日は美味い酒が飲めそうだ。……しかし、明日は分からない」
　この陸戦隊員の言葉が示すように、新戦術による優勢が新たな対抗戦術によって覆されるのは戦争の常であり、フォーリナーのヘクトルを破った機動砲撃戦も、その鉄則から逃れることはできなかった。
　数日後には、巨大なプラズマキャノンを備えた長距離砲戦型のヘクトルが出現した。この際、突撃型ヘクトルが囮となって砲撃を誘い、隠れていた砲戦型ヘクトルが発射地点にプラズマを撃ち込むという連携を見せており、フォーリナーが人類の戦術を研究し、模倣あるいは対抗しているのは明らかとなった。
　この点については、ヘクトル自体が人間の兵士を分析して造り出された兵器である可能性が高いと言われている。これはパルスビームマシンガンの銃身構造にカラシニコフ自動小銃との類似点が多く、同じ銃が、ヘクトルが初めて出現した中国戦線で広く使われていたことに拠る。また空母型円盤による輸送が可能な小型タイプが登場するなど、大戦を通して幾度か改良が施されたことからも、フォーリナー戦力の中でも特異な存在であると考えられている。
　なおヘクトルという名称は、撃破後の調査回収において残骸が車輛に牽引されていく様子を、亡骸を牽馬戦車によって引きずり回される辱めを受けたギリシア神話の登場人物になぞらえたものである。
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四足要塞
　日本。
　この周りを海に囲まれた小さな島国には資源がほとんど無く、食糧自給率も人口比からすれば劣悪であり、制空権の喪失によって海路の物流が滞り始めた時点でEDFの北米総司令部は日本列島の陥落を想定し、中国北京のEDF極東方面軍司令部も日本列島の放棄を非公式ながら決定していたと言われている。
　EDF設立に関連して安全保障条約を解消していたアメリカ合衆国も同様であり、既に米国本土が戦場と化していたことからも、日本列島を“防波堤”や“不沈空母”として利用する戦略は破棄され、ファーストコンタクト直後に日本近海にいた艦隊も邦人を“救出”すると早々に引き揚げてしまった（この決定については民主党政権下の米国内で共和党が強く反発していた）。
　この日本という民族国家は古来より神仏に基づく名誉と道徳を重んじてきたが、近世に長い鎖国政策を執り、その“ゆりかご”の中であまりに純朴に育ったが故に、20世紀という時代の中でも唯々純粋にあり続けた。
　欧米諸国との苛烈な戦いと壮絶な敗戦の後、属国化愚民化政策を施されると彼らの多くは刀と魂を手放してしまった。初めての挫折に慄く幼子のごとく、多くの事から目を逸らし、耳を塞いだのである。元来の純粋さは稚拙な妄執へと変わり果て、生きる意味を知らない人生の顛末がそうであるように、心を失った虚しさを埋めるかのように邁進した大計無き経済政策は半世紀で行き詰まった。
　幼いまま年老いてしまった国。
　それが21世紀初頭の日本に対する人類社会の評価であり、全世界がフォーリナーの侵略に曝されると、東南アジアや中東、欧州の親日国でさえ、日本の滅亡を致し方のないことだと諦めていた。まるで嵐を前にして散る運命の花を惜しむかのように。
　最長でも半年間というのが、開戦当初に予測された日本列島戦線の抵抗限界であった。
　この予測を覆して開戦直後から積極的に巨大生物を掃討し、ガンシップやヘクトルの襲来を凌ぎ、さらに世界で初めて空母型円盤を撃墜するなど善戦を重ねたのは、世界はもちろん、おそらく大戦前から人類社会を偵察・分析していたフォーリナーにとっても意外な出来事だったのだろう。太平洋を渡って北米に向かうと思われていたマザーシップは突然進路を変え、日本列島に再上陸、関東の海岸部に四足要塞を投下したのである。
　日本で四足要塞、海外では木馬などと呼称された超巨大四足歩行型兵器は全長250 メートル、全幅100 メートル、全高200メートルという大きさであり、その歩行のみで市街地を灰燼に帰すことが可能であった。
　要塞の名に違わず、武装も強力である。胴体部各所にレーザー砲5門、高出力ビームブラスター１門を備えており、後述の巨大生物の投下もあって陸戦隊の攻撃に対する迎撃能力は極めて高い。そして背部には全長100 メートルを越える超大型のプラズマ砲を2門搭載している。マザーシップのジェノサイドキャノンと並んで轟雷と称されるプラズマ砲の威力は絶大であり、原理的に大気中でのエネルギー損失が大きい兵器でありながら直射で10キロ以上の射程を有し、着弾地点の被害範囲は直径数百メートルにも及ぶ。この巨砲はエネルギーの収束率と加速度の調整によって最大で射程100 キロ以上の精密狙撃が可能であり、逆に射程を犠牲にして扇状の広範囲に熱粒子を飛散させることもできるため、航空機では近づくことさえできない。
　長距離砲による砲撃も砲弾自体がレーザー砲に迎撃されてしまうため、大量のC70爆弾を敷設した罠も試みられたが、この巨大兵器を傷つけることはできなかった。肉眼でも斥力作用を確認できるほどの強力なフォースフィールドを前方と左右に展開できる上、四足要塞の装甲は空母型円盤やマザーシップと同様のもの……未知の素粒子によって構築された特殊物理甲殻であるため、現在の人類の技術力では破壊不可能である。
　また胴体底部にはハッチがあり、さながらトロイの木馬のごとく、巨大生物やガンシップ、さらに通常型のヘクトルを投下する。
　このハッチ内部が唯一の弱点だが、位置関係上、四足要塞の迎撃範囲外からの狙撃は不可能であるため、迎撃網の真っただ中に飛び込まなければならず、しかも攻撃が許されるのは巨大生物が放出されている間しかない。四足要塞の対地制圧力については前述の通りである。
　圧倒的なまでに強大な強敵に対して、EDF 日本支部は無謀とも思える陸戦隊による待ち伏せや襲撃を敢行したが、戦力の不足は如何ともし難く、第2次攻撃作戦が失敗した時点で四足要塞への攻撃や阻止作戦は中断された。
　この時、EDF 北米総司令部のみならず、日本政府も日本列島の放棄を検討。水面下で亡命政権の樹立と皇族や政府高官及びその家族の国外避難が準備され始めた。
　関東平野の都市部を蹂躙する四足要塞を放置したまま、各地の港湾施設の防衛や巨大生物掃討を命じられたEDF 日本支部内では日本放棄の疑念が日々強くなり、正式に日本列島からの転進命令が下ると司令や参謀のみならず、発令所に勤務する非戦闘員も反意を露わにした。陸戦隊の悲壮な戦いを目の当たりにしていたオペレーターの涙ながらの訴えに加えて、司令官も辞意をもって撤退に反対し、日本政府と北米総司令部に再考を申し出たのである。
　奇しくも同じ時に宇宙生物ヴァラクの撃退に成功していたことから、北米総司令は日本列島放棄の期限を延期、日本政府も巨大生物の根絶を条件に同意した。一時は司令官の更迭、さらに抗命行為に対する軍事裁判が検討されたことを考えれば、ヴァラク撃退の戦果は大きな意味を持っていたと言える。
　この事件は公表されなかったが、日本放棄の噂は既に民衆の間にも広まっており、EDF 日本支部には過去最多の志願兵が集まっていた。
　国土を失うということは、単に衣食住の場を奪われるということではない。生まれ育った故郷を奪われるということは、過去の想い出のみならず未来への希望を亡くすことに等しいのだと、国を護るということは誰でもない自分自身の問題だったのだと、多くの日本人は気付いたのである。
　そこには政治的なイデオロギーはもちろん、国粋の熱狂も無かった。
　人々が胸に抱いていたのは「生きる」ことへの純粋な希求と決意であり、EDFの理念そのものであった。
　EDF 日本支部は巨大生物を根絶するために地底進行作戦を敢行。失敗すれば日本放棄を免れないという重圧と巨大生物の猛攻に耐え、巣の最深部に到達した。長時間の作戦行動によって各部隊の平均死傷率が142 %に達するという多大な犠牲を出しながらも、陸戦隊は黒蟻型巨大生物の女王体を追い詰め、撃滅に成功する。
　巣の攻略という世界でも数例しかない戦果に、EDF 北米総司令部と日本政府は四足要塞への攻撃再開を了承した。北米の戦況が好転しないことからも日本脱出計画は撤回され、国家非常事態特別措置法に基づく臨時内閣はEDF 日本支部への全面的な協力を明記した国土防衛計画を発表した。
　EDFは日本列島各地で陽動作戦を展開しながら機会を窺い、沿岸部に停泊していたマザーシップを強襲することで、フォーリナーの侵略活動に一時的な乱れを生じさせることに成功。さらに空母型円盤と接触していた停止中の四足要塞を襲撃し、四足要塞の離脱は許したものの、二隻の空母型円盤を撃墜して補給を阻害した。
　この機を逃さず、四足要塞攻略作戦は実行に移された。
　市街地にて四足要塞を待ち伏せるという従来通りの戦法ではあったが、四足要塞の行く手を遮る役目を担った遊撃隊には高性能のセントリーガン（自動射撃兵器）を始めとした最新装備が与えられており、ヴァラクを撃破した隊員も参加していたと言われている。
　プラズマ砲に直撃される危険を省みず、彼らは市街地に潜伏し、四足要塞に踏み潰される寸前の至近距離で攻撃を開始した。
　遊撃隊は四足要塞の進路をずらし、ビームブラスター砲台を沈黙させることにも成功したが、ロケットランチャーによる攻撃を予定していた主力部隊が四足要塞に部隊ごと踏み潰され、僅かな負傷者を残して壊滅してしまった。
　作戦は失敗するかに思われたが、遊撃部隊は攻撃を続行。投下される巨大生物を撃破しながら四足要塞に食らいつき、直下からハッチ開口部に攻撃を加え続けたのである。
　直前の補給を阻害していたことが功を奏したらしく、四足要塞はレーザー砲台を起動することなく巨大生物を投下しながら離脱を図った。
「何としてもここで四足を破壊する！　たとえ、どんな犠牲を払ってもだッ！」
　EDF 日本支部は増援の投入を決定。増援部隊が身を挺して包囲網を形成し、四足要塞の離脱阻止と誘導を試みた。
　傷つき、絶命していく戦士たち。
　ある者は自ら巨大生物の群に突入して自爆攻撃で血路を開き、ある者は戦友をかばって全身に強酸液を浴びた。
　それでも立ち尽くす者はいない。誰かが倒れても、その亡骸を踏み越えて銃を拾い、トリガーを引く友がいた。
　異星体であるフォーリナーとの戦いには和睦や降伏はない。
　勝利か、絶滅か。
　生か、死か。
　厳然たる現実を前に、誰もが怯むことなく死力を尽くして戦った。
「人類が生き残るには奴らを倒すしかない！　戦って、戦って……戦い続けろッ！」
　決死の攻撃を加える陸戦隊に圧される形で四足要塞は徐々に進路を変え、遂に歩みを止めたが、それはエネルギーの全てを攻撃に費やすためであった。
　眠りから目覚めたレーザー砲台が熱線の雨を降らせ、遊撃隊の面前にヘクトルが降り立つ。そして、2門のプラズマ砲が低く唸り声を上げ始めた。長砲身が竹を割るように開放され、電磁収束無しの零距離全方位拡散放射が準備され始めたのだった。
　だが、時すでに遅く、木馬は罠に嵌まっていた。
　最初のヘクトルが投下されると同時に四方に設置されていたセントリーガンが起動、集中砲火を浴びせることでその場に釘付けにしたのである。二体目以降のヘクトルを投下できないまま、ハッチを閉じることもできない。その僅かな間隙を突いて遊撃部隊は開口部を全力射撃――物質転送装置とも空間圧縮装置とも言われるハッチ内部の発光部分に攻撃が集中し、作動中に致命的な負荷を受けた装置は機能を停止。その崩壊によって生じた強烈な負荷が四足要塞の全身を駆け巡った。
　プラズマ砲の発射準備をしていたことが仇となり、内部機構からの負荷によってプラズマ砲の充填エネルギーが暴走、砲塔が赤く熔け落ちたのを皮切りに連鎖爆発が起こり、四足要塞は全身から紅蓮の炎を噴き出した。
　巨体を支えていた膝が力尽きたように折れ、断末魔を思わせる軋み音をあげて倒れ始める。
　大質量体の転倒に道路のアスファルトが波打ち、周囲のビルが次々に崩壊した。
　粉塵と静寂に包まれた街に、少しずつ、だが力強く、こだまする声があった。
「E！　D！　F！　、　E！　D！　F！」
　涙を流しながら抱き合い、勝利の喜びを分かち合う戦士たち。彼らの中の幾人かは後のマザーシップ攻撃に参加し、人類を救う運命を担っているのだが、その時はまだ、誰にも想像することはできなかった。
　この作戦でEDF 日本支部は戦力の大半を失い、日本という国も甚大な被害を被ったが、人々は決して折れることのない剣を手に入れていた。
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空母型円盤
　フォーリナーの主力艦であり、ファーストコンタクト時に全世界で300隻以上が確認された。それ自体は攻撃能力を持たないが、巨大生物や小型ヘクトルを大量に投下することで知られており、キャリアーと呼ばれている。
　船体構造は旧アメリカ合衆国の人気 SF ドラマ「スタートレック」のエンタープライズ号によく似ており、前方の円形ブロックと後ろのエンジンブロックに分かれている。
　真空、大気中を問わず浮遊飛行を可能としているが、推進剤などが使われている形跡はなく、飛行原理についてはガンシップと同じく「機関装置内において物理空間の基幹情報を書き換えて引力を発生させ、船体を牽引している」と考えられている。現在のところ、この技術の実証および転用は実現していない。
　オーバーテクノロジーはこれだけではなく、船殻も極めて特殊なものである。
　回収した残骸を解析したところ、地球上にはもちろんのこと、物理法則上は自然界にも存在しない筈の未知の素粒子で構築されていたのである。おそらくは人工的に生成された素粒子であり、この装甲を破壊する方法は同素粒子の反物質を用いて対消滅させる他になく、現時点では人類の手で破壊することは不可能であり、仮に可能であったとしても物質の対消滅によって生じる莫大なエネルギーを考えれば、そのような攻撃手段は迂闊には行えない。
　もっとも、船体全てが特殊物理甲殻で構成されている訳ではなく、とくに円形ブロックの下面ハッチの内部は脆弱であり、人類の兵器でも破壊可能である。
　最も大きな謎とされてきたのが、この円形ブロックの機能である。と言うのも、この円盤は無尽蔵に巨大生物や小型ヘクトルを投下するのが確認されている。幾つかの諸説が挙げられているものの、それらは大きく以下の3つに分けられる。
　1・物質を超高密度に圧縮、あるいは異空間に格納して運搬している。
　2・物質を何処かから転送（テレポート）している。
　3・物質をその場で生成している。
　マザーシップが船体に匹敵する大きさの四足要塞を投下したことなどから１の説は有力であり、仮に異空間技術が存在するとすれば無尽蔵性と2の説の転送技術について実証は可能であると考えられている。3の説については、生成するためのエネルギーを有していなければならず、結果的に1か2の方法に帰結する。
　なぜ小型ヘクトルしか投下できないのかという点については、どの説においても円形ユニット内部の装置の大きさの問題であるとされているが、明確な根拠はない。
　欧州や北米における決戦、さらに日本列島戦線の抵抗によって多数の空母型円盤が撃墜されていたが、マザーシップ撃墜の時点で少なくとも150隻以上を確認することができた。
　これら残存艦隊は一時的に活動を停止した後に巨大生物の大半を回収し、地球外へと撤退した。当時の人類は疲弊の極みに達しており、宇宙まで追撃する手段はもちろん、追跡する機材も施設も無かったため、足取りを追うことはできなかった。
　撤退した艦隊は何処に消えたのか。
　その疑問について考える時、我々は戦慄を禁じ得ない。
「奴らは必ず戻って来る」
　大戦後の世界復興会議でEDFの代表は明言した。フォーリナーは復讐を果たすために必ず再来するであろうと。
　そもそも我々はあの異星体の正体さえ知らず、この銀河に、いや宇宙にフォーリナーがどれ程の版図を築いているのかも分かっていない。直径数百メートルのマザーシップ1隻と空母型円盤 300隻余りが彼らの全てであると言うのは、楽観論に過ぎるだろう。
　悪夢の再来は何十年も先なのか、それとも明日なのか。
　そして「その日」に奴らと戦うのは誰なのか。それは私自身かも知れないし、私の子孫かも知れない。もしかしたら、貴方かも知れない。
　我々は怠りなく万事に備えなければならない。
　そうして今も復興を続けている世界を護ることが、あの大戦で、あの戦場で散った人々への鎮魂となるだろう。
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マザーシップ
　フォーリナーの中枢を担う司令船と考えられており、マザーシップの名で呼称されている。
　西暦 2017年に300隻以上の空母型円盤を引き連れて地球に襲来、日本列島の関東平野上空に降臨した。ほぼ球状である船体の大きさは直径500 メートル程であり、数字の上では小さな印象を受けるが、実際に小山ほどの超質量体が浮かぶ光景は見る者を圧倒する。
　初戦の航空作戦では世界各地に展開する空母型円盤への攻撃に加えて、日本近海のマザーシップに対してもEDFと近隣諸国の航空兵力による一斉攻撃が行われた。
　マザーシップ攻撃のために組織された連合空軍の戦力はEDF極東方面軍のEJ24戦闘機に加え、日本航空自衛隊のF-15JおよびF-2、中華民国空軍のF-16、中華人民解放軍空軍のSu-30、大韓民国空軍のF-15K、ベトナム人民空軍のSu-27、インドネシア空軍のSu-30、シンガポール空軍のF-16、オーストラリア空軍のF/A-18A、さらにアメリカ海軍のF/A-18Eと同空軍のB-52およびB-2の爆撃機隊がグアムから合流した。
　マザーシップ撃墜による短期決着を実現するために、各国は自国内に展開する空母型円盤への攻撃隊とは別に、空軍の精鋭をマザーシップ攻撃に向かわせたのである。なお後方にはアメリカ海軍の第7艦隊を中核に、日本海上自衛隊と中華人民解放海軍が加わった艦隊が控えていた。
　EDFや各国の軍の広報、民間メディアは概ね楽観的な見解を示していたが、ジャミングに対抗するために有視界域まで接近しなければならず、作戦に参加したパイロット達は漠然とした不安を感じていた。
　何か、嫌な予感がする――と。
　洋上に浮かぶマザーシップは陽光を受けて銀色に煌めいている。遥か遠くからでも、あれは異質な……地球上に存在してはならないものであるという違和感が各人の胸を強く圧していた。そして距離が縮むにつれて、悪寒のようなものがパイロット達の背中を這い始める。
　赤い、血の色を連想させる光が船体の各所で鈍く瞬いているのだ。自然の陽の光とは異なる冷たい光だが、無機質さはなく、逆に強い意思を感じさせた。
　その印象は……そう、まるで暗い夜の海で鮫と出遭った時のようだと、一人の日本人パイロットは思った。
「そうだ……」
　あの白銀の星船は飢えている。何かを喰らいたがっている。血肉を欲しているのだ。
　そう彼が直観したのと、マザーシップの船体が赤い光を増したのは同時だった。
「Not iced！？」
「All Unit Engage！　Weapon free！　EDFAF -Alpha- Leader Fox3！」
「JASDF -Wizard- Leader, Fox3」
「PLAAF - Tiger- Leader,Fox3！　Fox3！」
　午前9時30分、伊豆諸島八丈島から南西に30キロの地点で攻撃が開始された。
　炸薬量が20キロ程度の対空ミサイルで沈められるとは誰も思ってはいなかった。決め手となるのはF-2などが搭載している弾頭重量だけで200キロを越える大型の対艦ミサイルと、爆撃機隊が腹に抱えるC-70弾頭搭載の巡航ミサイルだ。
　数百機から一斉に放たれた無数のミサイルがマザーシップに殺到する。故障とジャミングで十数基が脱落したものの、残りのミサイルの全てが攻撃ポイントに命中した。
「Yes！」
「Did it？」
　機首を反転させながら、誰もが振り返って確かめる。マザーシップの表面では連続的に爆炎が燃え上がり、巡航ミサイルの着弾によって船体の半分を包み隠すほどの巨大な火球の華が咲いていた。
　轟音に大気が震え、それは機体をも揺るがしたが、歓声をあげる者はいなかった。
　マザーシップの船体に風穴を開け、中にいるだろうクソッタレなエイリアンどもを引き千切って焼き殺す筈のミサイル攻撃は、全く効果がなかった。空中管制機からの無情な報告が響く。
「……Negative．Mother Ship alive．Repeat Target no damage」
　星船の表面は傷一つなく、先ほどまでと変わらず白銀に輝いていたのである。
　対艦ミサイルの通常弾頭ならまだしも、巡航ミサイルに搭載されているのは戦術核に匹敵する威力の新型弾頭だ。
「無傷な筈が……」
　人間たちの狼狽振りを嘲笑うかのように、マザーシップの赤い光が強く明滅する。いかに高威力のミサイルであろうとも、特殊物理甲殻とフォースフィールドに守られた船体を傷つけることは不可能であった。
「One more ag ain！　All Unit……What's that？」
「Byrd？　……No！ Fuck！　Foreigner's Fighter！」
　船体の各所で僅かに装甲がスライドし、そこから銀色のガンシップが吐き出され始めた。産み落とされた蟲の卵ように空中を転がったガンシップは、その不安定な姿勢を直すことなく跳ね上がるような鋭角線を描いて高速で急上昇、再反転して攻撃に移ろうとしていた連合空軍の腹に食らいついた。
　数条の赤いパルス・ビームが走り、先陣を切っていたEJ24数機が直撃を受けて爆散する。それを見て退避行動に移ったSu-30に向けて、ガンシップは直角に近い急機動で瞬く間に距離を詰めた。Su-30は機首を引き起こして逃れようとするが、あえなく被弾して黒煙を噴く。
「May day！　May day！　I've been hit！ Eje――」
「Shit！　Tiger - Leader down！」
「Attack！　Attack！」
「I'm in position！　Engage！」
　態勢を整えたF/A-18の編隊が反撃に移る。主翼両端の短距離ミサイルのシーカーが起動。赤外線画像方式のためロックオンは可能だったが、まるで見えない壁に衝突して跳ね回るボールのようなガンシップの動きを捉えることができず、格闘戦においても人類が培ってきた経験と技術は通用しなかった。
　さらに上空に退避していた早期警戒機が撃墜されたことで、連合空軍の各機は有視界戦闘を余儀なくされた。
「Knight-11！　Bogy behind you！　Break！　Break！」
「Where ！？　Enemy no sight！」
「7 o'cl oc k！」
「No sight！　No sight！」
「Turn and evade！　Break now！」
「Je sus！　Ahaaa！」
　高速状態で主翼を撃ち抜かれたF/A-18が錐揉み状態に陥り、空中分解した。
「In gun range！」
　仇を討とうと後方に占位したF-15Jの目前でガンシップが回転――後ろ向きに飛行しながらパルス・ビームを放つ。かつて世界最強と謳われ、21世紀初頭でも有力な戦闘機に数えられていたイーグルの機首が熔けて砕け、直撃を受けた右エンジンが爆発する。
「畜生……！」
　貫通痕の空いたキャノピーが砕けて空中に投げ出される寸前、パイロットは呪詛の言葉を呟いたが、ガンシップは何事もなかったかのように再び回転して前方を向き、別の方向へと飛び去った。
　ものの数分で連合空軍の主力が撃墜され、戦域からの離脱を試みた機体も逃げ切れず、爆撃機隊を含めて全滅した。後に残ったのは航空燃料の油膜が浮かぶ海面と、そこに巨大な影を落とすマザーシップの威容のみであった。
　同じ頃、後方の艦隊もガンシップの襲来を受けていた。
　全てのCIWSで四方に弾幕を張るイージス艦から連続して対空ミサイルが打ち上げられるが、狙われたガンシップは他の艦船に張りついてこれを盾にし、別のガンシップが餌に群がる蟲のごとくイージス艦に殺到、集中攻撃で瞬く間に艦橋構造物を焼き熔かした。艦隊旗艦であるニミッツ級空母は既に傾いて大火災を起こしており、海上に逃れた兵士たちの頭上には数機のガンシップが浮遊し、無慈悲な掃射が行われていた。
　このマザーシップ攻撃作戦と同様に、北米や欧州など世界各地で行われた空母型円盤への攻撃もガンシップの登場によって失敗した。そしてその日の内に、空を覆わんばかりのガンシップの大群によって各地の航空基地や防空施設が空襲を受け、ほぼ全ての航空兵力が壊滅、人類は地球規模で制空権を喪失した。
・・・
　東進して北米に侵攻するかに思われたマザーシップは太平洋上で転進、再び日本列島に上陸した。
　日本列島戦線はEDF 日本支部陸戦隊の驚異的な活躍によって巣の攻略やヴァラクの撃破に成功し、空母型円盤も多数撃墜していた。その戦果は、人類はもちろんフォーリナーの予測さえも覆すものであったらしく、マザーシップは日本に四足要塞を投下。その後も、まるでEDFの戦いを観察するかのように近海に留まり続けた。
　人類もマザーシップを常に監視して攻撃の機会を窺っていたが、予想よりも早くチャンスは訪れた。何の前触れもなくマザーシップが海岸近くの山中に着陸し、そのまま機能を停止してしまったのである。空母型円盤と巨大生物が直衛に就いていたが、赤い光の消えたマザーシップは全くの無防備であり、EDF 日本支部は攻撃隊を送りこんだ。
　マザーシップの離脱によって作戦自体は失敗したのだが、興味深い発見があった。マザーシップは大気を吸収し、ガスを排出していたのである。排出されるガス自体は採取できなかったが、作戦後に計測したところ同地区の酸素濃度は低下し、二酸化炭素濃度が極端に上昇していた。同様に作戦中に頭痛を訴える兵士が多かったことから、マザーシップは我々人類と同じく“呼吸”していたと考えられる。
　恒星間宇宙航行の可能な機械体が、なぜ大気を呼吸するのか。この謎は現在も解明されていないが、マザーシップを「機械的進化を遂げた生命体」と仮定する説では、あの星船をクジラに譬えて、呼吸と捕食のために植生惑星を探して宇宙の海を遊泳する超生物だと唱えている。
　何にせよ、大気の吸収と内部での化学反応によってマザーシップがエネルギーを生成しているのは間違いないらしく、マザーシップ自体が攻撃を行う際は急激な吸排気現象が確認されている。
　それが最初に確認されたのは、四足要塞の撃破後にマザーシップから初めて直接砲撃を受けた日本列島戦線であった。
　マザーシップ下部から生えるように出現した全長約300 メートルの巨砲は、魔神の雷に譬えられる程の威力からジェノサイドキャノンと呼称されている。放たれるのは重粒子ビームではなく純粋なレーザー光線だが、桁違いの熱量によって被照射点の物質は瞬時にプラズマ化し、巨大な火球となって周囲を焼き尽くす。
　日本を離れて北極周りで欧州へと移動したマザーシップは、ジェノサイドキャノンによって文字通り人類の抵抗を薙ぎ払った。ロシアの首都防衛師団が温存していた虎の子の機甲部隊は一瞬で蒸発し、全戦力を投入して「鉄のカーテン作戦」を敢行したEDF・独・仏・英・伊の欧州連合軍も半日で壊滅。ブリュッセルのEDF 欧州方面軍司令部は、歴史ある市街とともに灰と化した。
　この教訓から北米決戦に投入された決戦要塞X3は対マザーシップ戦を想定し、機首に展開式の対光学鏡面装甲を備えていた。この特殊装甲はガンシップやヘクトルの攻撃を一切受け付けなかったが、ジェノサイドキャノンに対しては二射の直撃に耐えるのが限界であり、三射目で装甲が熔けてレーザーに機体を貫通されてしまった（X3は米国首脳部の脱出およびEDF 北米方面軍の移動司令部として開発されていたため、強力な兵器でありながら最後まで温存されるという戦艦大和に似た失策を招き、ニューヨーク会戦では先んじて包囲網を形成した陸軍と海軍に甚大な損害が発生した）。
　ファーストコンタクトから数か月後。アジア、ヨーロッパ、南北アメリカなど各大陸の国家は崩壊、各地のEDFも壊滅し、地球はフォーリナーの手中に堕ちようとしていた。
　唯一粘り強く抵抗を続けていたEDF 日本支部は激戦を生き抜いた精鋭を集い、総攻撃のために旧東京跡に集結していたフォーリナー主力部隊を強襲した。
　敵の圧倒的な戦力を前に劣勢を強いられるのは確実であり、勝機を掴むためには空母型円盤を確実に撃破する必要があった。そのために用意された史上最強のスナイパーライフル“ライサンダーZ”はフォーリナーのオーバーテクノロジーと希少物資を用いた最新鋭装備であり、通常のF型をさらに強化した決戦兵器として4挺だけが試作開発された。
　作戦の成否を握る銃は、ヴァラクを単身撃破した一人の遊撃隊員に託された。
　ストーム1のコードネームを持つ彼は乱戦の最中でも超長距離狙撃を成し遂げ、空母型円盤とヘクトルを立て続けに撃破、作戦を成功へと導いた。翌日には日本列島全域から巨大生物の大群が殺到して包囲殲滅の危機に陥ったが、レーザーライフルを装備したオメガチームが合流、EDF 日本支部陸戦隊は「烈火」と称される程の激戦に勝利を収めたのである。
　喜んだのも束の間、西進を重ねて地球を一周して来たマザーシップが、遂に日本列島に到着した。
　EDF 日本支部は、最後の賭けに打って出た。
　マザーシップの直衛は空母型円盤2隻と数体のヘクトル、そして無数のガンシップだけである。巨大生物がいない今なら、万に一つではあるが、勝機はある。マザーシップの撃墜。それだけが人類に残された唯一の希望であり、この機会を逃せば海外から日本列島を埋め尽すほどの巨大生物の大群が到着し、人類は……。
　やるなら、今しかない。
　最終決戦に臨んだのは先の戦いの生き残りであるストーム１とオメガチーム、そして数える程の陸戦隊のみであり、まさに絶望的な状況であった。
　それでも彼らは敵に後ろを見せなかった。
　人類の未来のために。
　先に逝った戦友や家族のために。
　愛する者の明日ために。
　様々な想いを胸に、彼らは戦場へと赴いた。
「総員、戦闘を開始せよ！」
　暗雲とガンシップが空を覆い尽くす中、正午ちょうどに決戦の火蓋は切って落とされた。
　どうにか直衛の空母型円盤とヘクトルを撃破したものの、ガンシップの絶え間ない空襲に加え、ジェノサイドキャノンが生み出す地獄の業火を思わせる炎の壁を前に、攻撃隊は近づくことができないでいた。
　残された時間は僅かだった。あと数時間と経たずにユーラシアから大量の巨大生物が襲来し、最後の砦を失って人類は滅亡する。
「このままでは……！」
　戦士たちが膝を屈しそうになった時、絶えて久しい機密通信が届いた。
　北米、欧州、中東、アジア……世界各地から反撃作戦開始の報が届いたのだった。
　瓦礫の山と化した市街で――戦車の残骸が無数に朽ち果てる荒野で――陽光を受けて――月明かりの下で――世界のありとあらゆる場所でEDFの旗が高らかと掲げられ、武器を手に取って戦う人間の姿があった。
「旗を掲げているのは市民たちです！」
　生き残っていた市民たちがEDFの戦旗を掲げて戦っていた。男も女も、人種も年齢も関係なく、この大地に生きる全ての人間が戦っていたのである。
「おそらくマザーシップを孤立させるための陽動作戦と思われます」
「我々を助けるために……？」
「各地から続々と通信が入っています。全て内容は同じ……幸運を祈る。以上です」
　地球人類の最後の戦いが始まった。
　攻撃隊はセントリーガンを展開、対空砲火でガンシップを撃退しつつ、ジェノサイドキャノンを集中攻撃。ライサンダーZによるピンホールショットで機能中枢を撃ち抜き、悪魔の巨砲を破壊した。
　巨砲が炎を噴いて脱落する光景に多くの者が歓声をあげたが、それを掻き消すかのようにマザーシップの赤光が輝きを増し、船体表面を覆っていた六角形の装甲が剥離した。船体の周囲を漂う総数200基以上のそれらはレーザーやプラズマを放つ砲台であった。
　四足要塞の砲火を遥かに上回る、まさに熱線と原子炎の暴風が吹き荒れる。無数のビルが崩壊し、街路のアスファルトは煮えたぎり、黒煙を吹き飛ばす爆発の中で廃墟となった家屋が焼け落ちる。地獄と譬えるのも生易しい攻撃に、多くの隊員が傷つき、倒れていった。
「本部！　本部！　このままでは全滅を待つだけです！」
「くそッ！　総員、敵砲台を破壊せよ！　最後まで諦めるな！」
　しかしマザーシップの船体表面は斥力場のシールドと特殊物理甲殻に覆われている。たとえ砲台群を撃破しても、星船を沈める手段を人類は持たない。
　そんな時、爆風の余波とは別に、戦場を吹き抜ける風があることに誰かが気づいた。
　莫大なエネルギー消費を補うためにマザーシップは貪欲に大気を貪っており、開放された船体最下部の大気吸収口にはシールドが張られていなかった。
「あそこが弱点です！」
　オペレーターが叫ぶが、攻撃隊は既に壊滅状態だった。
「弱点が判っても、どうにもならないか……！」
　この大戦で、人類は何度絶望を味わっただろうか。
　戦友を失い、家族を失い、故郷を失い、国を失い……幾億もの人々が自らの命さえも奪われていった。そして遂に文明はおろか、種族の存在そのものが失われようとしている。
　マザーシップは嗤っていた。血色の光を明滅させて、人類を嘲笑っていた。
　屈伏セヨ――レーザーが大気を焼く。
　死滅セヨ――プラズマが大地を焦がす。
　屠り、喰らう。それだけを目的として行動する存在。純粋な欲望の権化であり、邪まな悪意の塊である白銀の星船が戦場を睥睨していた。
　それに応える者がいた。
　幾百ものレーザーの間を貫いて空を走った一発の弾丸が、星船の心臓に突き刺さる。悲鳴を上げるかのように船体で赤光が輝き、吐血するがごとく大気吸収口から黒煙を噴き出した。
「こちらスカウト４！　誰かが敵の弱点を攻撃しています！　マザーシップが黒煙を上げています！」
　浮遊砲台の一つがレーザー照射レンズを撃ち抜かれて爆散する。
「信じられん……！　あの攻撃の中を生き残った者がいる！　そしてまだ戦いを続けている！」
　再び、大気吸収口の内部が狙撃された。ライサンダーZから撃ち出される超高速・超高硬度徹甲弾がマザーシップの中枢部に命中し、強烈な運動エネルギーによって弾道上にある全ての物を抉り、砕き、摩擦熱で焼き尽くす。
　人類は、屈しはしない――次々と砲台が撃ち落とされる。
　人類は、滅びはしない――閉じようとする装甲の隙間を縫って弾丸が飛び込む。
　船体の発光部分が脈動し、全ての砲台が沈黙した。
「マザーシップへの攻撃に成功！　敵は活動停止！」
「ストーム１がやりました！　敵を倒しました！」
「遂にやったぞ！　マザーシップをやった！　我々の勝利だ！」
　歓声に湧く通信を遮るがごとく、マザーシップが唸りをあげて震動し始めた。それは耐えがたい屈辱と怒りに震えているように見えた。
　次の瞬間、船体下部の各所から円柱型の砲台が無数に突き出る。並び立つ姿はまさしく逆さ吊りの巨塔であり、それぞれがパルス・ビームを噴き出すように撃ち始めた。
「マザーシップは健在です！　周囲から砲台が出現！　戦闘形態を取ったようです！」
「これまでは本気ではなかったということか！？　なんという……なんということだ！」
　マザーシップは間違いなく激怒していた。文字通りの弾幕、隙間のない熱弾の豪雨に、街も、人も、ガンシップさえもが呑み込まれていく。星船のエネルギー消費量は増大し続け、吸収口は装甲を閉じることなく大気を吸い続けた。
「本部！　応答願います！　負傷者多数！　戦線を離脱しました！」
「誰か戦場に残っている者はいるか？」
　あらゆる方向に向けて闇雲に放たれるビームとは対照的に、正確無比な狙撃が砲台へ向けて一撃、また一撃と撃ち込まれる。
「誰か……誰かが戦っている……誰かは分からない……どうぞ」
　一つの砲台が破壊され、炎を噴いて脱落する。
「敵の砲台が落ちるぞ！　誰かがやったんだ！」
　狙撃地点へ向けて、マザーシップは狂ったように集中砲火を叩き込んだ。
　直後、全く別の地点から弾丸が飛来、また一つ砲台が沈黙した。
「俺は見たぞ……ストーム１だ！　ストーム１が戦っている……たったひとりで……！」
　星船の命令を受けたのか、狙撃者の影が隠れた瓦礫にガンシップが殺到、執拗にビームを照射するが、瓦礫を囲うように配置されていたセントリーガンが起動。クロスファイア。数十機のガンシップは互いに衝突し、逃げることもできずに残骸と化した。
「こちら、レンジャー７。生き残ったのはわたしだけです。戦線を離脱しました」
「レンジャー７、ストーム１を見たか？」
　もしもマザーシップに感情があったなら……恐怖を感じていたのかもしれない。
「ストーム１はたったひとりで、マザーシップと交戦中。繰り返します。ストーム１はマザーシップと交戦中！」
　砲台が、ガンシップが、次々と墜とされる。
　マザーシップが、人類の軍勢を殲滅した白銀の空中要塞が、為す術もなく丸裸にされていく。大気吸収口は溺れているかのように荒い呼吸を繰り返していた。
　あんなことが一人の人間に可能だったのか、私は今でも信じられない。
　だが、あの日、確かにストーム1はやってのけた。
　英雄は存在したのだ。
　
　人類は、勝つ――――最後の一撃が、放たれる。
　
　人々の願いと祈りを込めた弾丸は流星となって空を駆け、悪魔の心臓を撃ち貫いた。
「マザーシップ大破！」
　船体が断末魔に等しい赤い閃光を放ち、上空の暗雲を吹き飛ばす程の大爆発を起こした。
　全ての砲台が沈黙し、星船から赤い光と全ての機能が永遠に失われる。
「墜落します！」
「総員退避せよ！　マザーシップが落ちる！　できるだけ遠くに逃げろ！」
　西暦 2018年某日、13時48分、マザーシップは撃墜された。

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