地球防衛軍3の兵器 アサルトライフル 単語

チキュウボウエイグンスリーノヘイキアサルトライフル

3.9万文字の記事

ここでは地球防衛軍3の兵器のうち「アサルトライフル 」について記述する。

・他の兵器については「地球防衛軍3の兵器ネタ記事」の総録を参照とする。

フィクション この記事は高濃度のフィクション成分を含んでいます!
この記事は編集者妄想の塊です。ネタなので本気にしないでください。

目次

 

 

 

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  • AF16SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆
     それはただの木片か、手頃な大きさの石だったかもしれない……“具”を手にした時から、ヒトは他の生物とは異なるを歩み始めた。
     それが突然変異であれ淘汰選択であれ、他の動植物が数万年から数万年という長い年をかけて自らの姿形を変えることで環境に適応していくの に対し、ヒト特定の機を特化させた人工物――“具”という体外器官を改良発展することで急速に環境適応力を高め、その発生から僅か数十万年(それ以前にも具を使用するヒト生物は存在したが、ここでは現代人類のホモ・サピエンスを例とする)の後には、宇宙真空においてさえも自らの生存を可と し、原子の焔を操る術をも手にした。
     具によって特定の機を外部に付加するという進化形態進化という事環境適応のための手段と定め、その 的が生存継続とその範囲の拡大であるとするならば、具の発明と使役による文明の創造と活動領域の拡大は、ヒト特有の進化形態であると言えなくもない)によって、ヒト は他の生命を屠り、喰い、このにおいて自らを覇者の地位へと押し上げた。
     このように動植物を含む自然を征する手段を得た時から、ヒトの敵は常にヒトであり続けたが、2017年に襲来したフォーリナーはその歴史に終止 符を打った。あの異形悪魔たちはヒト以外で初めて進化によって対抗してきた存在だったのである(例外として挙げられるのは病魔……ウイルスであ るが、現時点での生物定義に照らし合わせて、ここでは除外する)
     巨大生物……特に巨大生物進化は顕著であった。
    その攻撃手段はファーストコンタクトにおいてはによる噛み付きのみだったが、数時間後には部から強弾を投擲する個体が確認され(その時期については諸説があるが、人類およびその兵器群との直接接触によって強性体液の有効性を認め、攻撃に用いるようになったと考えられている) 、数日後には強液の放出量が増した個体も確認された。
     甲殻皮も同様であり、細胞構造の変化によって防御性が向上した個体が現れ始めたことで、EDF戦隊は初期装備のAF14で対抗することが困難となっ ていった(AF14は鉄板を撃ち抜く程の威力を有していたが、最上位脅威標であるInferno級の100発以上の被弾にも耐えたと言われている)
     日増しに悪さを増していく巨大生物に対抗すべく、人類も武器の強化を……EDFはAFシリーズの改良を急ピッチで進めた(まさに種族の存亡を賭けた生存競争であり、人類とフォーリナー双方の攻撃手段とその威力は、僅かな期間に尋常ならざる進化を遂げることとなった)
     当時は拠点防御による阻止戦術が重要視されていたため、射程や精度よりも集中弾幕の有効性を直接的に向上させる要素、つまり破壊力の強化が第 一にめられた。以前から計画されていた再設計を含む統合的な新規開発白紙撤回され、AF14をベースとするごく短期間での強化発展計画が強行されたのである(ただでさえ多くの工業施設が破壊されており、限られた施設で一定の生産量を確保するためには、製造ラインを大規模に変更するような新規仕様は認められなかった)
     AF14STで採用された強装弾をダウンサイズした5.56mmアサルトライフルSS195G2(大きさはAF14の弾丸SS190と同 じだが、炸と弾体材質が異なる)を用いることで、AF15は連射性を維持したまま威力の増大に成功したが、緩衝装置を含む機構全体の改良が追い付かず、撃ち出された弾丸 は一定距離を越えると急に失速し、AF14にべて有効射程を減ずる結果となった(現場の陸戦兵たちにとっても、僅かな威力増加の代わりに故障率の 高まったAF15は急造品の誹りを免れない代物であり、AF14ST――試験的に重質量の炸裂弾体を用いており、弾速に劣るものの、着弾時の破壊力はAF14の7倍であった――を使用し続ける兵 士も少なくなかったと言われている)
     この問題を解決するため、AF16はAF15ST(高性の採用によって弾速の遅さを改善、さらに緩衝装置も独自に 改良し、STモデルの基礎を確立した)の設計と専用弾薬を転用して改良。AF15と同等の連射性を維持しつつ威力を向上させ、AF14以上の射程を得ることに成功した。
    その代償として構造の複雑化によって故障率が悪化し、さらに5.56ミリから7.62ミリへの変更という弾丸の大化は装弾数の減少を招いた。また弾丸 規格の変更は、製造現場はもちろん、戦場兵士にとっても不評であった情報が周知底されていなかった上、カートリッジ自体がAF15と同規格であ ったため、従来の5.56ミリ弾を装填しようとした者も少なくない。また兵站部門のミスによってAF16が未配備の部隊に7.62ミリ弾が支給されてしまうなど、各所で混乱を引き起こした)
     AF16開発の時点でAF14ベースの改良は限界に達しつつあったが、Hard級以上の巨大生物の出現率は日増しに増加傾向にあり、半ば恐怖に突き動かさ れる形で上層部は再設計を請う開発現場からのを退け、さらなる高威力化を命じた。
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  • AF17SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆
     人類由来の技術と資材のみで作られたライフルとしては最後のモデルであり、完成時に「これ以上のAF14ベース開発不可能だ」と開発計画の行 き詰まりが言された。
    ――前モデル開発する時点でわかっていたことだ。
     そもそもAF14の改良は――あの忌々しい悪魔どもに死という絶対的な制裁を下すために――破壊力の向上を至上命題として行われており、例えば AF15はAF14STやAF14-B3で採用された強装弾を用いることでAF14にべて二倍近い威力の向上を果たしていた。発負荷の増大による機構の消耗と、弾丸の飛翔安定性の低下による射程 距離の衰退を代償として。
     それでもAF16の開発は破壊力の向上を優先した。使用弾薬の改良と機構の強度向上によって射程距離はやや改善したが、装填機構は複雑化し、弾 丸の大化は装弾数の減少を招いた。
    ――このままではAFモデル開発は頓挫する……。
     異人の全地球規模侵攻という極限的状況において、数時間刻みの開発スケジュールで万全を期すのは理があっただろう。結果、バランス感覚を 欠いたAF14強化発展計画は、トーキョーの地下鉄網のごとき設計図面へと行き着いた。
     根本的な問題を解決しなければならなかった。
    ――AF14の時点で確認されていた、弾丸に発生するヨーイングだ。
     弾道の不安定化を招いている偏った性バランスの改善。
    ――これをなんとかするため、は新弾丸の開発を行おうとした。
     単純に炸の量を増やすだけではなく、それに耐えられる弾丸や機構の再設計、あるいは新素材開発が必要だった。理をで誤魔化すよう な改良を重ねていては、如何にAF14系のプラットフォームが拡性に優れていたとしても、先は見えている。
    ――なのに、だ。
     以上の点を踏まえて作成されたAF17開発計画は意欲的な案に満ちていたが、押された印は「Rejection」……不認可であった。
    ――上の連中ときたら資も予算も寄越さず、そのくせ新しいアサルトライフルを作れとヌカしやがる。
     開戦以来の絶え間ない巨大生物の侵攻による施設の破壊と人員の消耗、そしてガンシップ襲が恒常化したことで、北米および欧州要な工業 地帯は壊滅しつつあり……それ以前も問題として、加工すべき材料がなかったのである。
     幾度の戦乱と二度の世界大戦を経て築かれ、なおも絶望と血を糧として駆動する政治経済体制という巨大な鈍色の歯車……その世界規模でり巡 らされていた物流網は寸断され、粉砕されつつあった。
     それほどまでに、フォーリナーの攻撃は底していた。
     ガンシップは規模の大小に関わらず、あらゆる鉱物の採掘所・加工工場・備蓄施設をから襲い、の大群は何千キロにも渡るパイライン網を 大陸から消滅させ、ヘクトルの集団は飽きることなく世界中の田を破壊して周った上の田基地も例外ではなく、海底を歩行するヘクトル、ある いは空母円盤から投下されたによって固定脚やフロートを破壊され、中にした。これらの火災に加えて何千隻ものタンカーが沈められ、蒼空煙に濁り、は重 の膜に覆われ、現在まで続く致命的な環境汚染が引き起こされた)
     開戦から数週間の時点で、戦略において人類は敗北していたのである(その責任所在については……大戦後2018年に締結された世界基本条約に記されている通り、2017年フォーリナー襲来以前のの政策や民間の活動について、大戦における被害責任を遡及することは禁じられている 。だが、あえて明記すれば、フォーリナー友好説を流布していた責任マスメディア、諸問題から大衆のをそらすために迷妄な潮を利用した各政府、そして迎合にせよ厭世によ せ、あらゆる形で危険を看過した私たち個人に責任があると言えよう)
    ――それみろ。
     修正されたAF17開発計画は、AF15およびAF16のそれを概ね踏襲した内容となった。さらなる破壊力の向上を的とし、なおかつ統合バランスの改善 を“試みる”というものである。
    ――おかげさまで新モデルマイナーチェンジか失敗作かも解らんようなのができちまったじゃねぇか。
     威力の向上は僅かなものに留まり(AF16とべて単発火力評価値は3しか向上しなかった)、装弾数は120発 に戻ったものの、限界えた過密設計においては……もはや機の余地など残されてはいなかった。
    ――おかげでRAやST開発担当のらがまいってるが、
     これにより、AF17はAFシリーズ内でモデルの存在しないナンバーモデルとなってしまった。
    ――のせいじゃねえ。上の連中の頭が固いせいだ。
     事情を知らされることのない戦場の陸戦隊員から見ても、AF16RA(AF14RAの連射性を維持しつつ威力強化を試み たRAモデルだが、設計に欠陥があり、射撃精度が低く、故障率の高いライフルとなってしまった)並みに故障率が高く、AF15STと同じくらい整備に手間がかかり、しかも製造コス トは今までのどのモデルよりも高く、交換部品も満足に支給されないAF17は、庸でこそあれ、優れたライフルとは言い難かった。
    ――諸君、恨むんならじゃなく、お偉いさんを恨むんだな。
     このためAF17は武器としての活躍よりも、EDF兵器開発計画が見直される契機となった装備として有名であり、先見性を欠いた開発計画の結末とし て、あるいはそのめの代名詞として現在も語り継がれている。
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  • AF14-B3(o0PpVnrRyHさん原案・トウフウドン加筆
     EDF戦隊の初期標準装備であるAF-14は、あくまでも従来の対人戦闘を前提としており、常軌を逸した生命力を誇る巨大生物と戦うには充分な火力 とは言い難かった。
     そして開戦から数日後、ある報告が人類を戦慄させた。
     ――巨大生物進化している。
     EDF衛生局……間防疫特化衛生局アメリカ合衆国CDC:Centers for Disease Control and Prevention:疾病 管理予防センターを中核として先進国の医療研究機関から構成された組織である。一応はEDF内の部局だが、国連世界統一政府準備委員会の直轄組織であり、WHO世界保健機構に代わ ってフォーリナー“到着”時の際的な防疫体制を担っていた。医療界および医学会の人脈によって各政府とも独自のパイプを有し、開戦後国連が機停止した後もEDF内で独自の集 団であり続け、EDF先進技術開発研究所とは別に巨大生物研究を積極的に行っていた)において、巨大生物死骸を調していた研究者が、幾つかの外皮サンプルの差異 に気付いたのである。
     開戦直後に回収された甲殻外皮のサンプルは、小さな八形の細胞によって構築された一枚の厚い皮膚に過ぎず、皮膚全体で優れた弾力性を備えて いる反面、強い衝撃を一点に連続して集中されると破れてしまう……つまり高速の弾丸の連続着弾によって貫通可であった。
     しかし、それから数日後に持ち込まれた巨大生物の外皮は、まず皮膚自体が多層化しており、それぞれの皮膚層は異なった特性を有する細胞によっ て構築されていた。例えば高速徹甲弾が高弾力性の第一層を貫通しても、その下の高硬度の第二層で止められてしまうのである。さらに後日のサンプルでは、高弾力層の上をのような 高密度の細胞が覆っており、成形炸薬弾頭弾や粘着榴弾に対して脱落という形で本体を防御する機を有していた。これらは戦車の複合装甲やリアティブ・アーマーに近い、極めて 成度の高い有効な防御システムであった。
     複数のサンプルを較調した結果、EDF衛生局は忌々しい仮説を……巨大生物は人類の攻撃という外的要因によって急速に進化しているという報告 を提出せざるを得なかった(この研究を基に公式に導入されたのが、Hard級やInferno級といった巨大生物の脅威度判定基準である)
     巨大生物フォーリナー生物兵器だとしても、僅か数日間という短時間で適応する力は、その圧倒的物量の脅威を指数関数的に増大させるもの であった(それに対抗することを考えれば、EDF先進技術開発研究所の異常な組織体質も人類には必要であったと言うべきであろう)
     事実、AF14ではH級の巨大生物に損傷を負わせるのは困難であり、後継となる新ライフル開発が急ピッチで行われたが、切迫した戦況は人類に猶 予を与えず、幾つかのAF14強化発展が生み出された。
     中でもAF14STは火の量を増すことで威力を7倍にも増大させていたが、身と緩衝装置への負荷も増したことで連射性が75も低下していた (この時に言い放たれた「これならMMF40RAと大差ないな」という何気ない言葉が、その後のSTライフルの設計思想と同の設計者の人生を決定したと言 われている)
     威力と連射性……これら相反する性を両立するため、STStrongShooting)とRARapidに続いて新たな規格が導入された。それがBurstモデルである。
     「Initial-B」のコードネーム開発された試作ライフル「B3」は、AF14STに用いられた強装弾の改良を採用した。これはSTモデル弾にべて炸 量を減少させていたが、弾殻に新素材を使用したことでAF14にべて単発の威力を4倍に、有効射程を160に高めていた。
     そして、このような弾丸の高初速化による威力および射程の向上と、連射性を両立する試みとして、専用の装填機構と身および緩衝装置の冷却機 同期させる方法が採用された。つまり一定間隔ではあるが、STモデルに匹敵する高威力の弾丸を安定して3連射することが可になったのである。
     戦前対人アサルトライフルバーストとは異なるこの試みは、残念ながら、米軍兵器運用思想に強くを受けたEDF北米方面軍では「実戦 において汎用性を損なう制限が懸念され、信頼性を欠く機である」と歓迎されなかった。自銃器の使用をしてAF14配備にすら難色を示していたEDF欧州方面軍も同様であった。
     一時は宙に浮き、そのまま破棄される可性すら出てきた試作ライフル「B3」であったが、意外なところから実戦テスト補が現れた。
     欧の方面軍と同様に「地球防衛軍の一を担う軍団として是非とも協力したいが、華北防衛戦の予断を許さない戦況においては(中略)故に謹ん でこれを辞退するものである」と協力を断ったEDF東方面軍の北京部が、隷下の日本支部を“推薦”してきたのである。
     現在歴史教科書から想像することは難しいが、大戦初期の日本列島戦線は「持ち堪えて半年間」と評され、いわゆる遅滞戦略地域(限られた人員と物資で可な限り抵抗し、より戦略的に有望な隣接地域を支援する……つまり「小を殺して大を生かす」の小に当たる地域)定さ れていた(もちろん非公式に、であるが、関係者の言と焼け残った資料から日本列島捨て駒とすることが戦略に組み込まれていたのは確かである)
     ていよく面倒を押しつけられる形で、試作ライフル「B3」十数艇が命書とともにEDF北米部から日本列島に送りつけられた。
     輸送を担ったのはアメリカ空軍輸送機C-17グローブマスターであり、「B3」以外にも対H級用の強化ギガンテスの試作モデル1輌を含む物資を 積んでいたが、同機の来日は、奇しくも世界規模で空母円盤およびマザーシップの撃墜を的とした航空作戦が実施された……あの日であった。
     サンダークラウド愛称を持つUSAF所属のEA9824便は、東京湾ガンシップに捕捉された。湾岸戦争以来、幾度となく危機を脱してきた機長の 回避機動も虚しく、4つのエンジン全てに被弾にした同機はコントロールを失って地に降下。巨大生物が群れまとう東京タワーの残骸をかすめて旧東京都港区(すでに東京都市は壊滅しており、首都の移転、そして住民の避難によって大都市人と化していた。戦災を被ってない建造物などの資産は有事 法制に基づいて管理されており、略奪防止のために強制退去と立ち入り制限が実施されていたが、人間捕食する巨大生物徘徊するに侵入する者は皆無だった)墜落した。
     地に“不時着”した同機の乗員の速やかな救出と物資の回収のため、EDF日本支部は陸戦隊レンジャーチーム2個班……1班3名、計6名の陸戦隊 員を出動させた。
     晴れ。時刻は正午
     初の日差しに陽炎揺らめく首都高速道路を、レンジャーズエアーバイクSDL2を駆って墜落地点に向かった。
     道路上には乗り捨てられた乗用車が点在していたが、それら放置された四輪を午睡するに譬えれば、彼らの操るエアーバイクのごとく 疾駆した。
     均時速120キロというのはSDL2乗りにとっては安全運転もいいところだったが、を切って首都高を駆け抜ける疾走感は、束の間ではあるが現実を 遠いものにした。視界の隅を高速で流れゆくの残が、機が大気を切り裂く鳴りが、意識を深く鋭く研ぎ澄ましていく……その針の先端で、陶酔の炎が揺らめく。
    「いかん、いかん」
     先頭を走るSDL2シートで、臨時編成分隊を率いる隊長独り語る。
     フルスロットルで飛ばして部下を事故らせたら始末書ではすまない。墜落した輸送機の乗員のことを考えれば、急いで咎められることはないだろ うが……
    六本木か」
     今その名を聞いて思い出すのは、ファーストコンタクトでの食事件だ。あの日は東京中がそうだったが、マザーシップの直下に位置した所は見物 人が集まっていたこともあって、巨大生物は悪食の限りを尽くした。
     巨大生物は放っておくと際限なく数を増した。まるで地図を塗り潰すかのように、人類を、その跡となる都市み込もうとしていた。それを可 とする程の物量だった。掃討戦は繰り返し行われたが、すぐさま空母円盤が新たな巨大生物を投下したのだ。
     対処療法ではダメなのだ。物量を最大の武器にする相手と消耗戦などしたら確実に負ける。決定打になるような、根本的な対抗策が必要だった。
     そうして発案されたのが昨日航空作戦だったが……結果は例の通りだ。
     ほぼ毎日のように行われていた関東エリアの“掃除”も数日前から停滞している。どれ程の数のが溜まっているのか、考えるだけで気が滅入っ た。輸送機パイロットには悪いが、とても助かるとは思えない。
     むしろ、墜落時に即死していてくれればいいと思う。巨大生物の鋭利で不潔な牙に噛みつかれ、恐るべき万力で手脚を引き千切られ、生きたまま内 臓を食い荒される苦しみにべれば、まだ人間らしい死に方だ。らには一片の慈悲もない。命乞い駄だ。大で泣いても喚いても、絶対に、やめてくれない。
     ある種の人々の昆虫に対する異常恐怖心は、このようなの異質さ、意思が全く通じないという不気味さに起因すると何かで読んだことがある。
     ――案外、あのが“ら”なのかもな。
     円盤マザーシップは器に過ぎないのではないだろうか。巨大生物の群体知性こそがフォーリナーの……
    隊長
     部下の緊したインカムを震わせる。埒のない物思いはとともに去った。
    「前方2キロ、架の崩落を視認。墜落地点とほぼ一致します」
    「着いたな。全、減速開始。勢い余って落ちるなよ」
     スロットルを搾ってエアーバイクの吸排気率を落とす。慣性走行に移るとすぐさま速度が下がり始めた。追突防止のために後ろを確認してから、 僅かに体を起こして重心を後ろに傾けつエアブレーキスロットルを閉じてホバリングモードに。姿勢を保って重心を安定させ、機体に残る運動エネルギーを緩やかに消費していく 。
     6台のSDL2は楔形に停止した。悪くない腕だ。
     エンジンを切ると静寂が辺りを包む。人はもちろん、も、あの疎ましいカラスえもいない。ビルの合間を抜けるだけが鳴いている。
     そのに運ばれて、十数メートル先の崩れたの先からジェット燃料の異臭が漂ってきた。
    「これが不時着扱いなら、保険屋泣かせだな」
     崩落個所に近づき、下を覗き込んだ部下の一人が呆れたようにく。
     確かに、どう見ても墜落だった。
     C-17首都高速3号線の架の下にもぐり込んでいた。ビルを突き破った際にもがれたのか、左右のはない。を失った灰色巨人機の残骸は、 に打ち上げられたクジラを思わせる。
    キャビンの状態からすると、積み荷は事かもしれませんね」
     機体は破損が著しいが、炎上はしなかったようだ。燃料が残っていなかったか、中投棄したのだろう。
    パイロットは……」
     部下は続けるのをう。コクピットを含む機体前方の機首部分はかった。おそらくは墜落時の衝撃で脱落したのだろう。機体の下敷きになって 潰れている。
    遺体の回収は理だな」
     認識票だけでも持ち帰りたかったが、仕方がない。
    「運べる物だけを回収する。時間がないぞ」
     レーダーガンに似たバイオセンサーを四方に向けている部下からの報告は「3キロ以内に巨大生物の反応なし」だが……巨大生物モーターセルが発 する磁気を、人とは言え、これほどのコンクリートジャングルで感知できるのか怪しいものだ。しかし、それ以外に検証できるデータはない。少なくとも姿は見えないし、気配もない 。
    「よし、と2人で降りる」
     少し戻って料金所近くのインターチェンジからSDL2ごと降りても良かったが、脱出する際、大混乱跡も甚だしい東京の一般エアーバイクで 全力走行するのは自殺行為だ。
    「3名はここから周囲を警を見つけても撃つな。座標だけ記録しておけ」
    「サー! イエッサー!」
    「都民の皆様、害虫退治には後日うかがいます、と」
    駄口をたたくな。降りるぞ」
     まず3機のSDL2を底部アンカーで固定し、機体後部からワイヤーを引き出す。燥重量98キロ軽量エアーバイクに、60000キロオーバーギガン テス戦車を牽引可な高分子ワイヤーが搭載されているのもおかしな話だが、それを伝って降りる身としては丈夫なことに越したことはない。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のようでは困る 。
     二人の部下とともに、十数メートル下のアスファルトに降り立つ。
    「見るもないですね」
     六本木ヒルズを含む建造物群そのものは概ね事だが、路は酷い有様だった。
     ビル面は巨大生物の脚と弾丸によって抉られ、所々でタイルが剥がれ落ちている。落たテナントショウウィンドウの中は割れガラスと土 に汚れ、高級ブランドスーツを着たマネキン所在さそうに佇んでいた。
     路肩では、何十匹ものに踏み潰されたのだろう、銀色スポーツクーペの残骸が残な姿をしている。エンブレムければメルセデスだ とは分からないくらいに。
    「せっかくのSLが、体ねぇな」
     好きらしい部下の感想はともかく、この災厄による損失がどれ程の規模になるのか……もはやにも見当 がつかなかった。
     見える範囲にあるの残骸や破壊された店舗だけではない。経済活動の場となる都市が機しなくなるということは、人々の生活が破壊されるとい うことだ。避難民が流入した関東近隣の県ではくも食糧と医薬品が不足しているし、河川ダムの貯池が巨大生物死骸で汚染されたことによる不足は深刻な問題だ。衛生環境の 低下が社会不安を増長させるという悪循環が始まっている。
     このに限った話ではない。今やを敷いていないの方がしいくらいだ。
     そして、たとえを実施しても暴動が多発し、政府が崩壊したも少なくはない。
     開戦前に存在した社会や体制といったものが、世界規模で崩壊しようとしている。
     ――この戦いに勝ったとして、どんな世界が残るというんだ。
     巡らせた視界の端に、幼児のものらしい靴が映る。く血に汚れた、小さな靴が。
    くそったれが……!」
     もう一人の部下もその靴を見つけたのだろう。その大人しい面立ちに似合わず、罵倒を洩らした。
    「ああ、まったく、クソったれな有様だな。絶対に償わせてやるぜ。もっともどもの命なんざ、とっくにインフレ起こしてるがな。億匹ブチ殺 しても割が合わねぇ」
     巨大生物死骸を山と積み上げても、戦前生活を取り戻すのに何年……いや、何十年もかかるだろう。もちろん死んだ者は、帰って来ない。
    「……隊長、回収する物資は例のだけでいいですか」
     お調子者の冗談を聞いて逆に自らを恥じたのか、部下は冷静さを取り戻していた。冷静でいてくれるのはありがたい。彼が幼な子の死に心を痛める ように、自分も部下が死ぬのは見たくない。
     「そうだな」と努めて静に応じる。 
    「機密文書の類はないらしいからな。戦車自爆させるだけだ」
     の外れたカーゴベイの中には塗装ギガンテスが一輌、眠るように擱座している。対H級巨大生物用に装甲を強化した試作輛らしい。
     その無限軌道輪帯の近くに、いかにもそれらしい木が転がっていた。AF14XR-Type-B3の印字。間違いい。試作ライフルの入っただ。
    「これだな。開けろ」
     もう一人の部下には戦車の自壊機構の作動を命じる。
    「さて、パパからのプレゼントは何かなと」
     駄口の多い部下だが、木コンバットナイフを深く挿し込み、釘止めされたフタを梃子の原理で浮かせていく。乱暴なやり方だが、を傷つけ るほど間抜けではない。器用だ。
    「何が出るか、楽しみだな」
    「期待ハズレだったら、着払いで送り返してやりますよ」
     皮めいた言葉で応じながらも、部下はまるでサンタクロースからのプレゼントを待ち望んでいた子供のような笑みを浮かべている。フタが外れる と、軽く口笛を吹いた。
    「状態はどうだ」
    ハードランディングの割には……」
     部下は一艇を取り出し、素く点検する。未装填のライフルが小気味のよい作動音を立てた。
    「……オーケー。弾さえあれば、どもにアツいツイストを踊らせてやれますぜ」
    「数は」
     緩衝材を掻き分けて数えた部下の告げた数字は、北米から連絡のあった数の半分にも満たなかった。全作動状態らしきものが6艇だけだ。
    やれやれ、これっぽっちじゃ話になりませんな」
    「試作品のテストだからな。充分だ」
    「そりゃまぁ、射的大会ならいいんですがね。“実戦”テストとなると、どうだか……」
    隊長
     いいタイミングで、もう一人の部下がギガンテスから降りてくる。
    「報告します。自壊機構の作動を確認。射撃管制装置を含む全ての電子機器は物理的に破壊されました。弾はありませんし、後は爆破処理で機 構とエンジン、それから体をできるだけ破壊すれば了です。……それがB3ライフルですか。少ないですね」
    「だろ? 同封されたカートリッジ入りの専用弾薬120発だけ。あとは交換部品もないんだぜ?」
    「しかし壊れてはいない」
     静かに、しかし強いで部下の会話を遮る。
    事に日本まで届いた」
     二人の部下が口を噤み、C-17の残骸を見上げる。
    「人類のために勇敢に戦った、この機の飛行士に感謝する」
     民族人種も違うが、今この間も、遥か彼方大地で、同胞が戦っている。
     イデオロギーのためではない。
     金のためでもない。
     自らが生きるために、かを生かすために、人類は戦っている。
     その献身に名誉を。死には、尊厳を。
    「――敬礼
     逆光の中に起立する巨大な垂直尾翼残だったが、それは大地に突き立てられた小銃墓標と同じく、誇らしく、そして勇ましく見えた。
    「試作ライフル6艇と、専用弾薬120発を回収した。任務了。撤収する」
    「サー! イエッサー!」
     部下の顔は引き締まっている。しばらくは愚痴を漏らすこともないだろう。
     ふと口許を緩めた、それを慢心だと警告するかのように、いたく。
    『た、隊長ッ!
     インカムが震える。高速道路上に残した部下の、悲鳴に近いだった。
    『敵が! 敵が現れ――』
     インカムノイズに変わると同時に、断末魔絶叫が頭上から直に聞こえた。
     自分と2名の部下は条件反射でその場を離れて遮蔽物に身を隠し、AF14ライフルを構える。
     直後、何かがの前の路上に落ちた。数個の生玉子を一度に叩き割ったかのような音とともに。
    「うっ……」
     BMWに屈んだ部下が、苦しそうなを洩らす。自分も舌打ちを堪えられなかった。
     ついさっきまで生きていた者の残な死体というものは、何度経験しても慣れるものではない。所々が強液で焼け溶け、四肢もバラバラになって いるが、おそらく3人のものだろう。強液にやられた死体に違わず、臭いも酷かった。
    がっ……どこにいやがる!」
     軽口をいていた様子からは想像もできない憤怒の形相で、部下が昂する。
    「ぶっ殺してやる!」
     巨大生物との戦いでは、や音を気にする必要はない。
     どういう習性か、らは一定範囲内に入らなければ、たとえがしても反応しない(撃った弾が当たれば別だが )。逆に、らのテリトリーに足を踏み入れれば、息を殺していても確実に気付かれる。心臓鼓動すら聞き分けられる化物を相手に、を潜めても気休めにもならない。
     闘争心が燃え上がるなら、いくらでも叫んでいい。
     ただし、冷静さを失ってはいけない。
     奇妙な状況だ。上に残した3人の部下を惨殺した巨大生物の姿が見えない。アーマースーツセンサーでは検知できないのか、ヘルメットバイザー に表示されたレーダーサークルには何の変化もなかった。
     経験上、このケースなら既に自分達も攻撃を受けているだ。この近さで見過ごされることはない。そもそもらは大群で全てを押し潰す津波のよ うな猪突猛進が基本戦術のだ。高所から全周囲を警していた陸戦隊が奇襲を被るなど、ありえない。これではまるで……。
    「嫌な感じだな」
     間の地に、真夜中のような静寂が満ちている。息が詰まると言うべきか、空気度を有したかのように重いもしもの前に仲間残な 死体がなければ、悪い夢を見ていると思ったかもしれない。
     死の臭いは強だ。全身が緊し、喉が渇いている。
     仲間を殺した敵は、必ず近くにいるのだ。
     その脅威は、絶対的な現実だ。
     ――そうだ。
    バイオセンサーを。精密探だ」
     神経質そうに辺りを見渡していた部下もその存在を忘れていたのか、からセンサーガンを取り出す。
    「必ず近くにいるだ。検知パターンを再設定。フィルターから共鳴要素を排除しろ」
     頷いた部下がセンサーガンを構え、ゆっくりと巡らせていく。相手は群れではなく、単独だろう。巨大生物が個体で発する磁気パターンに絞り込め ば……。
    「……いました! 2時の方向、距離120、高度プラス24、あのビルの上です!」
    「野郎!」
     全員が雑居ビル屋上口を向けたのと、そこに設置された消費者金融の看板んだのは同時だった。軽薄な笑みを浮かべた女の顔が醜く膨ら み、食い破られる。
    「敵を視認! ……1体です!」
    「いい度胸だな! お友達も呼んでいいんだぜ!?
     全長9メートルに達する化物は、そのままビル面にり付いて降り始めた。6本の脚が忙しなく動き、その関節部のモーターセルがきりきりと甲高い音を立てる。
    「射程内だ! 胴体部に集中射撃! 撃て!」
     狙いをつけ、引き金をしぼる。
     AF14の有効射程は150メートル。個々の集弾性は低いが、3挺で狙えば1匹の巨大生物を殺すには充分な弾幕となる。
     僅かな反動とともに数の5.56ミリ弾が撃ち出され、大気を切り裂いて飛翔した。
     もしも生身の人間に当たれば、薄い肌を貫いて柔らかいを深く引き裂き、弾丸の回転と断片化によって致命的な損傷を負わせる弾丸だ。巨 大生物の外皮も同様に貫通し、内組織を傷つけて死に至らしめることができる…………できただ。
    「……なんだ」
     一を疑った。
     巨大生物の表皮で火が……まるで戦車に撃ち込んだかのように、跳弾している。
    おいおい! 変だぞ!」
     驚愕は続く。速いのだ。ビル面を垂直に降りているからではない。脚の動き自体が速い。それはビルを降りると、より明確になった。く間に 距離が詰まり、その姿が大きくなる。
    「退避! 散開だ!」
     BMWに隠れていた部下が飛び出してアスファルトを転がる。
     咄嗟の警告と部下の即応が功を奏した。
     20メートルまで距離を詰めたが、素部を振り上げ、驚くべき速さで前に突き出したのだ。部の先端からい強液の満ちたゼリー状の 球体が数に放たれ、BMWを覆い隠した。優美なドイツが異音をたてて溶け崩れていく。あと一でも遅れていれば、部下はも残っていなかっただろう。
    「なんだよ! あのは!」
     ビル逃げ込みながら、部下が叫ぶ。
     が放つ強弾は、通常は3つから5つのだが……軽く10をえていた。
    「出血大サービスだな」
    「冗談じゃないですよ!」
     数だけではない。威力も尋常ではなかった。強液を浴びたBMWも形もない。1トン以上の金属プラスチックの塊が……。
    「H級とか言うじゃないのか!? こいつ! うわ!
     が突進して来るのを見て、部下は撃を止めてビルの間の路地に逃げ込んだ。ビルビルの隙間と言っていいほど狭い路地には頭部を突っ 込む。猛な突進を受けてビル面に裂が走り、一階はおろか二階ガラスまでもが砕け散った。
    畜生が! 寄るんじゃねえッ!
     部下がライフルを連射するが、撃のきよりも、その弾がい硬皮に跳ねる音と、を打ち鳴らしているかのような障りな音の方が勝ってい る。飢餓に狂った猛のごとく、の先にある鋭い牙を噛み鳴らしているのだ。
    「退れ! せていろ!」
     部の下へ、背後からMG10手榴弾を転がした。起爆。音速で飛び散った数の弾片と発火した焼夷剤の熱量下から部に集中する 。
    「こいつ……!」
     その然と、何事もなかったかのように路地から頭部を引っこ抜き、振り返ったのだ。手榴弾の威力は、焼け焦げて砕けたアスファルトが物 語っている。
    隊長! しないでくださいよ! アーマースーツを着ていなけりゃ…………だろ、おい」
     の向こう側で、路地のから文句を言おうとした部下も、の前の化物の健在ぶりに絶句したようだ。
    「そのまま隠れていろ!」
     ライフルを撃ちながらC-17の残骸に逃げ込む。
    隊長! こちらへ!」
     部下に招かれ、ギガンテスの後ろに隠れた。
    「……Hard級の上は、なんて名前だった?」
     上手く引き付けることができたらしく、ギガンテスに喰らいついた。
    「確かHst……Hardest級ですね。欧州ジブラルタル海峡戦線で、普通じゃないがいたそうです。たぶん、こいつみたいな」
     複合装甲を噛み千切る音と衝撃に60トン戦車が揺れている。思わぬところで装甲強化試作輛をテストできた。
    「なるほど、その上は?」
    「一応、最上位脅威標としてInferno級が設定されています。まだ発見されてはいませんが……」
    「こいつが、記念すべき第一号かもしれないな」
     突然変異なのか試作タイプなのかは分からないが、単独行動していた理由もその辺にあるのだろう。
    々が生還できれば、そうなりますね」
    「そうだな…………輛破壊用の爆薬はあるか?」
    「お二人が囮になっている間にセットしておきました。少しですが燃料も残っていましたし、手榴弾よりはマシですね。いつでも起爆できます」
    「上出来だ」
     部下と拳を合わせる。
     AF14もMG10も効かないなら、これしかない。
    「走れ!」
     部下ともに残骸のへと走る。機首部分が脱落していたのは幸運だった。外に出て振り向くと、ちょうどスクラップ寸前のギガンテスを乗り 越えようとしているところだった。部下に続いて地下鉄の入口に飛び込む。
    「やれッ!
     次の間、地面が揺れた。装甲を強化した試作戦を破壊するために与えられた工兵爆薬は強力で、仕掛けた方も優れていた。まずエンジンブロ ックから炎が噴き上がり、燃料に引火、爆発するのと同時に破壊用の爆薬も炸裂する。その上にいたとともにC-17背中を突き破って吹き飛ばされた。
    バラバラになれば、いい花火になったんですが」
     まさしく、その通りだった。
     数十メートルを吹き飛ばされたが、然と立ち上がったのだ。
    「まいったな……これは」
     多少のダメージを与えられたようだが、脚は一本も欠けていない。
    やれやれ、お手上げですね」
     もう一人の部下も合流する。
     アーマースーツを着た大の男3人が階段にせて、地下鉄の入口から顔を覗かせている光景を考えると、口許に自嘲的な笑みが浮かんだ。
    「最後だ。意見があれば聞くぞ」
    「このまま地下鉄から逃げられればいいんですが……理ですね」
     らしく巣でも掘る気なのか、巨大生物が片っ端から管や下管を食い破ったせいで、地下鉄こと東京メトロは汚している。
    SLD2のところまで行けば……まぁ、残っているかどうか怪しいもんですが」
     こちらを見つけたらしく、が正面を向く。脚の動きを見る限り、俊足は健在らしい。SDL2がなければ、とうてい逃げ切れない。
    エアバイ乗りなら、最後はあの音が聞きたかった」
    「そうだな」
     思えば、機を離れたのが運の尽きだったのかもしれない。
    を閉じれば聞こえますよ。あのドイツ製高級掃除機みたいな音が……」
    「変ですね。自分にも聞こえます」
     確かに、聞こえる。幻聴ではない。
     音を探ると、3人とも同じ方向に顔が向いた。
     首都高速道路だ。
    「まさか……」
     もはや疑いようはなかった。
     0-100km/h1.5台を叩き出す、エアーバイクSDL2フルスロットル加速音だ。
     も頭部を巡らし、到来する“脅威”に身構えている。
    「速いぞ」
     大気を切り裂くこの高音……250キロの高巡航速度からさらに加速――270――290――320――限界まで高まる吸気音に混じって、聞きなれない異音 がく。高速域で自動固定される機首のカナードを、マニュアルで動かした時に似たような切り音が出るが……。
    「いったい何をする気だ」
     その疑問に答えるかのように、崩落した高速道路の先端から、まさしく弾丸のごとくが飛び出す。
     次ににしたのは、一気に数十メートルを吹き飛んだと、それと並行して道路を転がる何かのだった。
     もうもうと立ちのぼったに流されるまで、随分と時間がかかったように感じた。
    「あれは…………人間か?」
     ひっくり返って脚を蠢かすの近くでが……かが立ち上がる。
     遠にも分かる赤と黒手な色彩EDFアーマースーツ後ろ姿だ。
    「何がどうなって…………え?
    「あれは…………!」
     起き上ったを見て、二人とも絶句した。
    だ……!」
     半ば呆れ果てて、叫んでいた。
     の頭部に巨大なが……残骸と化したSDL2が突き刺さっていた。
     高速道路から飛び出して突したは、あの人間が乗ったエアーバイクだったのだ。
    「時速300キロ以上で……崩落部ギリギリでカナードを……機首を下げて……」
     確かにそうしなければ“飛んで”しまうが、コンマ1でもタイミングが違えば、カナードの度が1ミリでも深ければ、下がった機首が路面に干渉 して横転ならぬ縦転、いや、SDL2の剛性では時に分解してしまうだろう。
     そしてと衝突するまでに、その一とない僅かな間に最終的な突入軌中で調整し、グリップから手を放して離れなければ確実な死が待っ ている。それに成功しても、地面にうまく“不時着”しなければならない。
    「信じられない……」
    「アーマースーツを着ているからって…………限度があるでしょう」
    「……Nice Landing
     呆然とする々を余所に、そのEDF戦隊員はとの戦いを始めた。
     頭部を振り回してSDL2を脱落させたが、部を突き出して強弾を放つ。
     近距離からとなって迫った強弾のを、人は当然のように避けた。1度、2度、3度と、最低限の動きで避けていく。部の動きから 強弾の投擲軌を予測しているのだろうが、それは理屈に過ぎない。致命的な攻撃に即応するための判断力と集中力……それを支える精神力がなければ不可能だ。
    「あんなことが……」
     できるのか、とは言えない。の前に、現実に存在しているのだ。
     の脅威度を測るかのように回避にしていた彼は、何の前触れもなく反撃に移った。
     飛び込むように路面を転がり、落ちていたライフルを拾う。それがAF14XR-Type-B3だと気付いた時、遮蔽物ので素ライフルを点検した彼は、 いつの間に拾ったのか、弾倉を装填しての頭部の傷……SDL2の衝突によって穿たれた大穴口を向けていた。
     AF14STと同様の重いが連続して三度戦場の大気を震わせる。
    「やった!」
     が大きく頭部をのけ反ってい体液を撒き散らした。射撃は止まらない。揺れ動くの頭部へ向けて、正確な3連射が次々と叩き込まれて いく。彼の攻撃は容赦がなく、底していた。弾が尽きると弾倉を交換し、同様に射撃を続ける。威力は不足しているようだが、あれほど正確に傷口を狙われ続けてはも堪ったもの ではないだろう。
    「あれはあれで、実戦テストにはならねぇよな……」
     どうにか“抵抗”しようと部を振り出すが、強弾を放つ寸前に部先端の分泌孔を狙い撃たれる。3連射のうち、まず第1撃が分泌中の強 弾を破裂させた。続く2発衝撃によって強液が飛散し、防備となった分泌孔に3発が飛び込む。部の深くまで突き刺さった弾丸によって致命的な損傷を負ったのだろう。 それ以後、を放つことはなかった。
     は威嚇のために牙を噛み合わせるが、その姿は弱々しく、許しを請うようにさえ見えた。当然、撃が止むもない。牙は付け根を砕かれて抜 け落ちた。
    「とても真似できない……」 
    「ああ……」
     遂に死の鉄鎚が下され、がその場に崩れ落ちる。
     専用弾薬120発は、ほとんど使い切られたようだ。あのに対して弾丸一発の威力は低かったのだろうが、一箇所に集中して絶え間ない負荷を与え られたため、神経網が耐えられなくなったのだろう。人間に譬えれば、小さく鋭い針で頭の傷を刺し続けられて痛みで憤死するようなものだ。
    「いったい、何者なんだ」
     “彼”は口を下ろしてこちらを向いたが、顔に見覚えはない。
    「あのいV字の入ったヘルメット……遊撃隊じゃないですか」
    ストームチームか……」
     圧倒的な戦い振りを見せ付けられたからだろうか。々と彼は歩み寄ることもなく、互いに佇み、静寂に身を任せていた。 
     エアーバイクしでどうやって帰るのか。その問題に気付くまで。
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