地球防衛軍3の兵器 特殊武器 単語

チキュウボウエイグンスリーノヘイキトクシュブキ

4.3万文字の記事

ここでは地球防衛軍3の兵器のうち「特殊武器」について記述する。

・他の兵器については「地球防衛軍3の兵器ネタ記事」の総録を参照とする。

フィクション この記事は高濃度のフィクション成分を含んでいます!
この記事は編集者妄想の塊です。ネタなので本気にしないでください。

目次

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  • 概要
     なぜEDFに勤めているのかと、未だにかれることがある。
     企業の方が環境も報酬もいいだろうと、面と向かって言われたことさえあった。
    「同じ技術なら、平和利用された方がいいと思うがね」
     その様に揶揄を含んだ問いも少なくはなかった。戦後だから、ではない。大戦の前から、そうだった。
     EDF西暦2015年に“宇宙規模の有事”に備えて結成されたが、当時から世間の当りは厳しいものだった。
     あの頃は大手メディアが――有の商業義者どもが、やがてやって来るフォーリナーを「思慮と博にあふれた賢者である」と根拠もなく宣伝し、それに沿った内容である「未知との遭遇」や「E.T.」といった20世紀のSF映画リメイクし、商売に明け暮れていた。
     大衆もそれに流され、からのごとく嫌われたリメイク作品群は、世間一般では好評を博していた。
     そして同時に「インディペンデンス・デイ」や「プレデター」など彼らが言うところの“好戦的な映画”は批判され、映像ソフトを焼却する様子をパフォーマンスとして喧伝する輩が現れる始末だった(稚拙な二元論を振りかざしておきながら「2001年宇宙の旅」を無視したことに、つまり宇宙人は“友”ではあっても“神”であってはならないというところに、彼らの宗教的、あるいは心理的限界が見てとれたものだ)。
     そこには、ある種の狂気さえ漂っていたように思える。
     現実を向ければ、世界文字通りの病巣と化していた。
     中国を中心として致命的となりつつあった自然環境の破壊。終わりなき民族衝突とそれに付け込んだ経済戦争。大の中枢は多企業の傀儡と化し、装いや飾りを変えるばかりで旧態依然としたままの経済原理は格差を拡大し続けていた。情報産業の発達は無知を救いようのない混沌へと陥れ、世界を征した民主主義とその政治体制は崩壊寸前だった。さらにエネルギーや食糧といった文明の根幹に関わる問題も、解決の糸口すら掴めないでいた。
     もが救済を、メシアの到来を待ち望んでいた。己が罪人であることを忘れ、その罪業にすら気付かない人々が、歩くことを止めて膝を着いて拝んでいた。
     ――救済を。
     ――人類に免罪を。有史以来の負債を全て……。
     そのような迷妄無神論者の私でも、自らを省みず、利益をめるだけのそれを祈りと呼ぶことは憚られる)に惑わされて現実から逃避する人々のにとって、EDFとそこに集った人々が発する冷厳とした意思はあまりにもしく、そして鋭かったのだろう。
    「War Dog!」
     火の臭いに狂っただと、戦士たちは罵られた。戦争病の末期患者。古い人類とも。
     確かに、太古から軍備は示威の根拠として政治の場で折衝に利用され、兵器殺人と破壊のための効率を追求して進化し、使用されてきた。それは何のためだったのか。世界各地で幾度となく繰り返された虐殺と略奪の歴史は、しかし、それが全ての的だったのだろうか。敵を殺し、異民族の女を犯し、文明を破壊する。その先に人間は何をめていたのだろう。
     そして未知の相手と対等の立場で交渉の席に着くために、礼は決して許さないという意思の顕れとして傍らにを置く。話し合うか、殺し合うか、その界を定めた厳しい掟は、疑心暗鬼を捨てられない野蛮人の愚かしい習慣だったのだろうか。
     大戦前EDFを否定していた人々の根拠は、好意的に表現しても「想」に過ぎなかった。曖昧で何のしもない世迷い言に、己や血族の生命を預けられるだろうか。
     私には理だ。今でも。
     EDF構想のの意味を理解し、参加した人々は、虐殺も略奪も望んではいなかった。
     ただ、日々の穏な暮らしを守りたいと願い、行動した。それだけだ。
     あの大戦で、々は宇宙現実を知った。
     人類が築いた文明は泡のように小さく脆いものであり、広大宇宙弱肉強食の原理が支配する荒野に過ぎないのだと。
     近年は、その荒野を征し、人類の、人類による、人類のための秩序を築かなければならないとする人々も少なくない。それは地球上で繰り返してきた同種族との内輪揉めとは違う、より厳しい生存競争と言うべきものだ。
     おそらく、遠からず人類は宇宙へと進出し、フォーリナー以外にも数多くの脅威と戦うだろう。正しいことなのか、それとも過ちなのか……それすら考える間もなく、戦い続けるだろう。
     その果てに、滅ぶことなく突き進んだ最果ての刻に至らなければ、々は答えを知ることも、救済を得ることもできないのだろうか。
     それは……にも分からない。人間には知り得ないことなのだろう。
     あの男のように、歩み続けるしかないのだ。泣きごとを言わず、を食い縛って。
     そうするための意思と勇気を、あの男の――英雄背中が教えてくれた。他にも多くの戦士たちが、命のをもって示してくれた。
     同じ人間として、EDFの旗の下で戦った者として、彼らを裏切ることはできない。
     私はEDF先進技術開発研究所で武器開発に携わっている。私や同僚をマッドサイエンティストと呼ぶ者もいるが、が何と言おうと、これからも研究を続けるつもりだ。フォーリナー再来に備えて、厳しい眼差しで宇宙を見詰める戦士たちがいる限り。
    ・・・
     2017年当時、政治的要因によってEDFの戦力は全世界でたった30万人余りであり、空軍の壊滅によって陸戦隊によるゲリラ戦を強いられたことで、人員不足は深刻な事態に陥った。
     第2世代アーマースーツに度重なる改良が施されようとも、巨大生物との戦いにおいては攻撃こそが最大の防御策であり、EDF上層部は限られた予算に悩まされながらも、より強力な武器め続けた。
     米国ロスラモスEDF先進技術開発研究所では既存装備の強化に加えて新兵器開発も積極的に行われ、それまでの常識を覆す数々の試作兵器が生み出された。中には珍兵器としか言いようのない奇妙奇な代物もあったが、多くは有効な装備として陸戦隊の活躍を後押しした。
    [目次][総目録]

 

 

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  • アシッド・ガン(CvmaT72wBUさん原案・トウフウドン加筆
    以下の文章には全編に渡って重度のネタが含まれています
    読むことによってゲーム中のイメージを損なう怖れがあります
    以上をご了解いただける方のみ、ご覧ください
    ・・・
     研究開発改造……それら何かを創り出す過程において、本来の的からは外れるものの、予期せぬ形で有益な物が生み出されることは、さほどしいことではない。例えば史上初の抗生物質ペニシリンは、細菌養殖中にカビが偶然紛れ込み、その周囲に細菌が繁殖しないことから発見された。ましてや異人の戦闘機械の残骸を調し、異形(外見はともかく、体内構造は人類の知る地球昆虫類とはかけ離れている)巨大生物死骸解剖する者たちが、そういった代物に遭遇するのは時間の問題と言えた。
     中でも大戦を通して数々の偉業を成し遂げたEDF先技研(先進技術開発研究所)と衛生局間防疫特化衛生局)は有力補であったが、マッドサイエンティストという“称賛”を誇りとしていた彼らでさえ、表はおろか、報告することをも逡巡し、深く長いの末に「存在しない」という結論を選んだという事例が、近年になって確認された。
     開発計画コードEDF-NAGHBA-YXW42-SASA002地球防衛軍-北米部基地工製-試作兵器四拾弐号-強噴射兵装弐式)……Acid-Gunである。
     それ自体はアシッドショット試作巨大生物の強弾を……最終的には女王体の「」の再現した兵器であり、強液を巨大生物死骸から直接採取することによる省資性と優れた継戦性を兼ね備えていた。狭い間で使用しても――噴物によっては有ガスが発生する危険もあるが――酸欠の心配がなく、地底進攻作戦における近接戦闘用のスタンダード・ウェポンとして考案された)の改良として設計されたものであり、当初はライフルよりも火炎放射器の代用品として、より女王体の「」に近いものをしていた。
     アシッドショット試作においては、添加した(本来は巨大生物自身にはな強液の成分を致死的なそれに変質させるためのものであり、際的に劇物定されている複数の猛を調合している。なお、理屈としては巨大生物の甲殻皮を装甲に用いれば強液を全に力化できるであるが、実際には成功しなかった。これは巨大生物の甲殻皮表面に寄生している異細菌が関係しており、この細菌……と言うよりは外環適応性を高める分子機械群を研究、模倣することで抗マイクロマシン塗装技術が確立された)の作用によって強液は変質しており、やや度を有し、空気に触れると表面が時に燥して薄い皮膜を形成する特性を有していた。これによって図らずも巨大生物が投射する強巨大生物部の先端にある分泌口は粘着性の体液で覆われており、内部から分泌される強液が押し広げることで粘着性の膜は水風船のように膨らみ、部の動きに合わせて分泌口がシャッターのように閉じることで“弾”として投擲される)に酷似した状態が再現されていた。
     この速性という特質は、強弾として撃ち出すには有効であったが、状にするためには妨げとなっていた。言うまでもなく、強液を本当にとして粒子サイズで噴すると、粒子の一つ一つが時に燥してしまって粒を撒いているのと変わらなくなってしまう(しかも、この燥粒子を吸入すると膜の分によってとしての作用が復活し、隊員の呼吸器系を著しくしてしまう)
     そこで巨大生物の甲殻皮を溶かす性質を維持したまま、速性をするという研究が進められた(弾として投射する機を高めた方がという意見は、EDF先技研内の絶対的不文である“知的好奇心”の前に粉砕された)
     添加品の改良という形で始まった研究は順調に進み、予定よりもく試作品となる“新”が完成し、噴実験が行われることとなった。 
     実験には、かつてアシッドショット試作開発に携わり、実際に戦場でも度々使用した経験のある陸戦隊員が協力した。
     宇宙に近い全防護を着た彼は、慣れた手つきで“新”の錠剤タンクに入れてガン・タイプの噴射ユニットに装着、数時間前に戦場から送られてきた巨大生物の切り取られた部に噴射ユニットを突き刺した。搾液モード起動。モーター音とともに吸い出された強液がタンクに満ち、品と反応、変質する。
    「搾液了。噴射モードに切り替え、了。噴射実験、準備よし」
     静かに見つめる監視カメラの向こう側……隔絶されたモニタールーム開発関係者が頷き、女性オペレーター実験の開始を告げる。
    「標的を設置する」
     一色で構成された30メートル四方のBC生物化学兵器実験室の床が開き、灰色の巨大な金属の塊が迫り出してきた。十数メートル立方体だ。
    カバーを外す、注意せよ」
     電子音とともに金属面が割れ、内部が露わになる。
     巨大なが、蠢いていた。
    「標的はH級の。固定されているが、安全のため、5メートル以上の距離を取れ」
     オペレーターの言う通り、はその全身を高分子ワイヤーで束縛されていた。牙は抜かれ、触覚と全ての脚は根元の関節から焼き切られている。頭部と胸部と部だけののような姿だが、それでも束縛から逃れようと全身を動かしていた。を反射する複眼には憎悪の炎がっているように見える。
     防護フルフェイスバイザーので、陸戦隊員の口許に微かな笑みが浮かぶ。
    「いいザマだな」
     この捕われの身となったが人類を憎んでいるなら、そんな高等な感情があるなら、殺し甲斐があるというものだ。ただの機械のように壊れられては、割が合わない。敵を憎悪し、そして恐怖して死んで貰わなければ…………この害虫が食い殺してきたのは、人間だったのだから。
    「攻撃を許可する。噴射実験を開始しろ。人類の敵に死の制裁を」
    「ラジャー人類の敵に――」
     安全装置を解除し、噴射ユニットを構える。スペック通りなら上の強液がを包み、跡形もなく溶かすだ。
    「――死の制裁を」
     一いもなく、ある種の歓喜とともにトリガーを搾り込んだ。
     品によって赤色から深い緑色になった強液が、全に液体状態を保ったまま噴射ユニットの先端から噴き出す。
     死を予感したのか、が一際大きく四肢なき体を蠢かした。
    ――駄だ。
     高圧噴射された強液のは大気と反応することなく、の全身を包み込んだ。
    ――苦しみながら、怖れながら、死ぬがいい。
     もしもの口に捕食以外の機、つまり発が可であれば、絶叫をあげていただろう。状の強液はの甲殻皮に付着するとすぐさま反応を開始し、煙をあげて溶かし始めた。痛覚を伴う神経が通っているなら、炎に焼かれるよりも辛い地獄の苦しみを味わっているだ。
    「当然の報いだ、フォーリナー
     若い女性オペレーターは冷たく、一片の慈悲も感じさせなかった。
     この実験は、言わば敵の捕虜を使った生体実験だ。もしもフォーリナーが、敵が禍々しい姿の巨大生物ではなく、人間のような生き物だったらどうだろう。悲鳴をあげ、泣いて命乞いをする相手だったら。
     いはあっただろうか? 慈悲は?
    ――まさかな
     どんな相手だろうと、変わらない。
     罪には罰が必要なのだ。
     そして人類とフォーリナー。この二つの異なる種族の間のコミュニケートは単純明快にして、ただ一つしかない。
    ――お前を殺して、は生き残る。
     つまり、殺し合いというコミュニケーションだ。今実験しているこの武器にしても、その意思を相手に伝えるための具に過ぎない。未だにフォーリナーとの和を望み、交渉手段を模索している連中がいるが、お笑いだ。
    ――これで充分だ。これで……。
     もはや原を留めていない死骸を見詰めながら、陸戦隊員は戦意が高揚していくのとは裏に、心が冷えていくのを感じていた。
     大戦前、彼は北米田舎町で暮らしていた。
     学校の成績は悪くなかったが、都会に出る気はなかった。彼は古き良きアメリカ生活愛していたし、そうでなくても数字の勝ち負けに一喜一憂して人生を消耗する生き方は、いくら収入が良くとも面倒の方が多いように思えたし、結果として自分が損なわれるような気がして好きになれなかった。
     だからハイスクール卒業後は地元の工場技術者として就職した。収入はそれほど良くなかったが、それに見合った余暇を手に入れることができた。そして馬鹿ではないが高慢でもない年下の女と結婚すると、もう欲しいものは何もなかった。
     に働き、週末は中古ホンダ・アコードを走らせて畔に出向き、読書をする妻の隣で釣りを楽しむ。それだけで満足だった。
     2017年の、あの日までは。
    実験は成功だ」
     オペレーターに、意識が現実に回帰する。
    「ご苦労だったな、ソルジャー。心拍数が上がっているが、大丈夫か」
    「ああ、大丈夫だ」
    ――なぜ、こんなところにいるんだ。
    く……コイツを実戦で使いたいのさ」
    ――どうして、あの日、彼女を……。
    「わかった。官の部隊への配備を優先するよう上申しておこう」
    ――戦っても、戦っても、帰っては来ないのに。
    「それは、どうも。ありがたいね」
    ――戦争が終わったら、
    博士が夕食を一緒しないかと言っているが、どうする?」
    ――を取ったら、は何をすればいいんだ。
    「君も来るのなら、悪くないね」
    ――虚だ。
     自分でも、意識が分裂しているのが分かった。好戦的な戦士と厭世的な敗北者が頭の中の舞台必死に役を演じ、それを眺めている自分がいる。思考が安定しない。オペレーターが秘匿回線を通じて艶やかなで何か言っているが、遠くに聞こえる。自分の喋っていることが、意識を擦り抜けていく。
     戦場に戻りたかった。何も考えず、敵を殺していたい。
    ――こそ、お笑いだな。
    オーケーソルジャー。最後に連続噴射性を確かめたいとのことだ。残っている強液を全て使い切れ」
    「……標的は?」
    い。だが、の残骸を狙え。後片付けが楽になる」
    「言えてるな」
     再び噴射ユニットを構え、二段トリガー一気に引き搾る。連続噴射モードコンプレッサーが震え、勢いよく強液のが噴き出す。残りの量を全て浴びせれば、本当に跡形も残らないだろう。
    ――それがいいかもしれないな。
    戦争が終わったら……」
    ――も跡形もなく……。
     消えてしまえばいい。
     思い出絶望も、悲しみも怒りも、憎しみも。何もかも……。
    「待て……様子が変だ!」
    「――!」
     訓練の賜物か。オペレーターの叫びに意識が一で切り替わり、“脅威”を探し出そうと反射的に視界を探る――探すまでもなかった。が、の残骸が蠢いていた。強液を浴びた甲殻皮が緑色の煙をあげている。
    「何が起こっている!? 観測班、報告しろ!」
    熱量が発生して、増大しています! バ、バイオセンサーにも反応が!」
    馬鹿な! は溶けただろうが!」
     モニタールーム混乱がそのまま伝わって来る。馬鹿げた話だ。バイオセンサーが反応したということは、巨大生物モーターセルが動いているということだ。跡形もなく溶けたのものが……。
    「間違いありません! 再構築されています! の標本にも同様の反応が!」
    「冗談ではないぞ!」
     確かに、冗談では済みそうになかった。
     搾液のために用意した部も、緑色の煙をあげて震えている。防護フルフェイスバイザーの透過率を上げて眼を凝らすと、切断面塊らしきものが盛り上がり、不気味に蠢いていた。
    が!」
     狂ったように警報が鳴りく中、緑色の煙の中から、が……牙を生やしたの頭部が現れる。続く胴体からは脚が生えており、モーターセルの甲高い駆動音をかせて動いていた。
    「……よう、元気そうだな」
     皮が通じたのか、が対の牙を勢いよく噛み鳴らす。まるで哄笑するかのように。
     と睨み合いながら、ゆっくりと後退さる。この距離背中を見せれば、一気に食いつかれて終わりだ。
    ソルジャー……強液は残っているか」
     監視カメラで間近に見ているからだろうか、オペレーターをひそめていた。
    「いいや、ご命通り、全部出しちまったな。残っていても、使う気にはならないが」
    「同感だ。原因は不明だが、新を投じた強液で復活したと思われる」
    「ああ、見れば分かる」
     混乱しているのか、忙しなく触覚を動かしているが、いつ飛びかかられても不思議ではない。そして、おそらくあと数分もすればも全身を再生するだろう。
    「……どう掃除すればいい」
    「その部屋には4基のセントリーガンが格納されている。それを使う」
    「そりゃ、よかった。部屋ごと焼却されると思ったよ」
    「本来はそうするところだが、私も博士も君を死なせたくない。個人的に、ディナーの後の約束も楽しみにしているんだ」
    「はは、嬉しいね……」
     先の会話のことか。なにをどう約束したのか全く憶えてないが、まぁ、いいだろう。
    ――生きていれば、どうにでもなる。
     心に浮かんだその言葉に、自嘲的な笑みが漏れた。
    「甘ったれだな……」
    「どうした」
    「いや、なんでもない。さて、どうすればいい」
     は近寄るのを止めたが、牙を噛み鳴らして威嚇している。の底にまでく、嫌な音だ。おそらく、再生するまでの時間を稼いでいるのだろう。やはり、こいつらには知性がある。
    「その状況で後ろを見せれば、間違いなく君は殺される。またセントリーガンの背後の面に格納されている。今起動すれば、君も被弾を免れないだろう」
    「なるほど、分かりやすい説明だ。でも今は、結論から言ってくれないか」
    「ふむ……に突っ込め」
    「……悪かった、説明してくれ」
    行動統計に基づけば、10メートル以内の近接戦においては突進の準備動作を省くために脚を屈折させるらしい。確認しろ」
    「ああ、確かに……」
     言われて見れば、は脚の関節を曲げてやや前傾姿勢を構えている。
    「つまり、今は咄嗟に退くことができない。君がうまくの懐に飛び込み、の下をかい潜ることができれば、セントリーガンの射界を脱することができるだろう」
    「わかった。それでいこう」
    セントリーガンの展開と発はこちらで行う。何か質問はあるか」
    「お嬢さん、名前を聞いていいか」
    「ふ……」
     微笑のきとともに、ロシア系の美しいきの名が告げられる。
    「幸運を祈る、ソルジャー
    「ああ」
     短く答えて、と向き合う。戦車の装甲を食い千切る牙とが、ほんの数メートル先で揺れている。
    「どう考えても、お前に喰われるのだけはゴメンだな」
     少なくとも今は、自分を必要としてくれる人々がいる。
    ――身の振り方なんて、戦争に勝ってから考えればいい。
    「さてと…………」
     タイミングなど計りようがなかった。
    「おらよッ!
     めがけて噴射ユニットを投げつけ、駆け出す。の牙が噴射ユニットを掴み、一で噛み砕いたのと、その懐に飛び込んだのは同時だった。勢いに任せてスライディングするが、防護は重く、思ったほど床を滑らない。
    「転がれ!」
     オペレーターに突き動かされ、形振り構わず床を転がる。の下を抜けた。顔を上げると、前方のが開いて4基のセントリーガンが並んでいる。
    「走るんだ!」
     立ち上がるのももどかしく、転がるように走り出す。視界をかすめたは胸部まで再生されていた。
    「跳べ!」
    くっ!
     アメフト選手のごとく、セントリーガンの列に向かって飛び込む。三脚で支えられた自動射撃兵器の合間をすり抜けると同時に莢が降り注ぎ、背後からモーターセル異常音――断末魔が聞こえた。セントリーガン4基の集中射撃に曝され、甲殻皮が砕け、が切り裂かれ、体液が飛び散る。
     その始まりと同じく、撃は一斉に止んだ。
    「……これは、掃除が大変だな」
     振り返ると、はもちろん再生しかけていたも、弾丸の暴によって文字通り粉々に粉砕されていた。
    ソルジャー事か」
    「ああ、ご覧の通り……ディナーの前にシャワーを浴びるよ」
     硝煙まみれの防護サウナスーツ状態だった。
    ・・・
    再生促進剤?」
    が大きい」
     鋭い眼で睨んで、オペレーターは周囲を見渡した。不と呼ばれるEDF北米部地下基地の大食堂も、さすがに午前2時半は人気も疎らだ。
    「あの強液は、最初は確かにを溶かした。それがなんで」
    「わからない」
     オペレーターは静かに首を振る。の加減によっては銀髪にも見える、色の薄い金髪が流れるように揺れた。
    「ただ、“新”の調合に問題があったのは間違いない。もともと強液は巨大生物自身にはだ。それを致死的な性質に変えることができるのなら、その逆も不可能ではないだろう」
     言で肩を竦め、スティック状に成された合成食品をかじる。驚くほど苦いのに異常なまでに甘い……酷い味だった。
    死骸であれほど再生するなら、甲殻皮を素材にしたアーマーの修復に使えるという思い付きは当然だった」
    「アーマーリペアか……。再生はしたんだろ?」
    「ああ、見事に元の巨大生物の姿へと戻ろうとした。途中で焼き払ったが。人間が着用していれば刺しにされるだろうな」
    フォーリナーから勲章を貰えそうな代物って訳だ」
    「そうだ。この技術をフォーリナーが獲得すれば、人類に勝利はない」
     おぞましい光景裏に浮かんだ。戦場に現れた空母円盤緑色再生促進剤を噴すると、何千何万という巨大生物るという悪夢が。
    「そんなものは戦争とすら呼べない。破綻したゲームだ」
     オペレーターを細め、長い毛を揺らして沈黙する。……大戦が始まったあの日、テレビに映る地獄のような光景を見て、妻もこんな顔をしていた。
    「……結局、全てをかったことにするのが最良と判断された。実験は失敗。“新”によって強液は液体状態で安定し、噴することもできたが、有効な溶解性は認められなかった。よって“新”の調合は見直され、今回のデータは破棄される。アシッドガンも噴ではなく、強弾の投射兵器として開発されるだろう。また強液の溶解性を保ったまま速性を抑える途がついたことで、アシッドショット開発も……」
    「まぁ、待てよ」
     懐から6オンスのスキットルを取り出し、オペレーターに差し出す。
    「君と今日のことについて口を噤む。それだけで充分さ」
    「しかし……」
    コーン・リカーじゃ、ウォッカの代わりにはならないか?」
    「……いや、頂くよ」
     原にが射すように、オペレーターは微笑む。
    ウィスキーも嫌いじゃない」
     彼女チタン製のボトルを受け取るとキャップを弾き外し、一気に呷った。く細い喉が鳴り、アルコール度40の蒸留く間に飲み干される。
    「はぁ……!」
     のようにい肌が、く間にみをさしていく。
    「私の系は酷いアル中ばかりでね。に頼るのは嫌いなんだが、気が楽になったよ。ありがとうソルジャー。……どうした?」
    「最後のだったんだ」
    「ふむ…………いや、心配しなくても部屋に“私物”がある。約束通り、行こうか」
    約束?」
    を奢る約束だ。博士の分も飲んでもらうぞ」
    「Oh、my……」
     竦めようとした肩を掴まれ、オペレーターに連行される。
    ――何を浮かれている。
     まだ、頭の中でがする。
    ――手に入れても、また、失うだけだ。
     そうかもしれない。
    ――だったら!
     いいや、もう決めたんだ。
    「悲しみに甘えるのは、やめるよ」
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  • C70爆弾
     フォーリナー襲来直前の2016年に行われた核兵器を悔み、開戦後核兵器の再製造を検討したは少なくはない。とくにEDF距離を置いていたロシアイスラエルは独自の動きを見せ、一の武装中立となっていたスイスロシアに対して「に危を及ぼす範囲で核兵器が使用されることは絶対に看過できない」と表明。戦災と混乱によって北京中央政府の支配力が弱まった中国でも、地方軍閥の独断専行が懸念されていた。
     事態を重く見たEDF上層部は、マザーシップ攻撃時の戦闘データと全面核攻撃を行った場合のシミュレーションを提示し、世界に訴えた。
    「たとえ核兵器を用いたとしても、マザーシップを倒すことも、地下に巣をり巡らせている巨大生物を根絶することも不可能である。々の土を――故郷を焦土と化しても、数日もあれば巨大生物増殖し、侵攻を再開するだろう。仮に核の炎でらを根絶やしにしたところで、汚染された大地々の子孫はどうやって生きていけばいいのか。これは人類全体の問題であり、自らのだけが助かればいいという考えで核兵器を製造し、使用することは人類への反逆である」
     この宣言は「EDFの越権である」との批判を受けたが、アメリカ欧州日本中東は支持を表明。宇宙からの侵略者に加えて、かつての敵対とも事を構えることは得策ではないと判断したのか、ロシアイスラエルは態度を軟化させた。
     代わりにEDFに突き付けられたのが、核兵器に代わる“クリーン”な広範囲制圧兵器開発し、提供せよという要であった。ロシアは期日を設け「この日までに代用兵器が戦線に届かなければ、祖国ロシア連邦防衛のため、々は核兵器の製造に踏み切らざるを得ない」と通達し、イスラエルもそれに倣った。
    「いいだろう」
     EDF北米部の地下深くの執務室で、国連安全保障理事会の遠隔通信会議からの要に応じたEDF長官は、モニターが消えた後、内線でEDF兵器開発チーム責任者を呼びだして言った。
    「そういう訳で、頼む」
     一呼吸遅れて「また徹夜しろと言うのか」と答えたは抑揚に欠けていたが、冷淡さはなく、むしろ事態の混迷を楽しむ気配を帯びていた。
    過勤務手当は出るのかね?」
    「うむ、その話は財務経理の……」
    「あのブロンド女か。わかった。ところで先日陳情したレアメタルの件は? あれがないと作れるものも作れんぞ」
    「それならイワンとハイミーに払わせる。提供とは言わなかったからな」
    「ほう? 研究員一同、期待しているよ。それから新兵器の実戦テストを頼みたい」
    「失敗すると怪をするものか?」
    「いや……」
     失笑に似たきがあった。
    「今度のやつは軽く死ねるな」
    「それは問題だな」
    「なぁに、心配しなくてもいい。人間、遅かれかれいつかは死ぬものだ。そして重要なのは時間ではなく、何のために生き、何のために死ぬか、その意義なのだよ。意義があれば生と死に意味が与えられる。名誉でも何でもいい。意義のない人生に意味はない。それはオチのないジョークアルコール抜きのリスクのない賭けと同じ、虚しいものだ。私の話が解かるかね? 長官殿
    「あ、ああ、もちろんだ。わかっているとも」
    「なら結構。どちらにせよ、生還率の高い陸戦隊でなければな」
    「ふむ、極東に優秀な支部がある。そこに任せよう」
    「なるほど、日本人なら安心だ。儀な彼らなら死んでも結果を報告してくれるだろう。さすが長官殿は組織を把握しているな。々も安心して働くことができる」
    「いやいや、長官たる者の務めだよ、博士。では」
     上機嫌に「これで大丈夫だな」ときながら受話器を置いたEDFの最高責任者だったが、何かを思い出したのか「あ!」とをあげて、傍に佇む女性秘書官を振り仰いだ。唐突にギリシア神話の彫像のような造りの顔を振り向けられたにも関わらず20代女性秘書官は涼しい微笑みで応じる。
    「長官、いかがされましたか」
    「いや、なに、その、日本支部は先日投下された四足要塞への攻撃失敗で……」
     懸念の言葉は「全滅はしていません」という軽やかなに遮られた。
    日本支部の陸戦隊は、先の大空襲を生き残った精鋭です。閣下の采配に誤りはありません。だいいち他のだと、もし実戦テスト失敗したらどんな難をつけられるか、わかったものではありません」
     EDF長官が「それもそうだ」と頷くのを確かめてから、秘書官はそれまで円らだったを必要以上に細めて言葉を続けた。
    「それに、次は例の“核の代用品”をテストするが必要です。ここで“慣例”を用意しておけば日本政府も応じやすいと思われます」
    「それこそロシアイスラエルやらせたかったのだが……」
    閣下お気持ちわたしも同じです。しかし連中から寄こせと言われているのは、完成後の現物だけです。実戦テストとは言え、彼らを開発に携わらせてはデータの保全を案じねばなりませんし、見返りをめられるかもしれません。文句を言うだけの連中に、です。それは面くありません。とても、面くありません。……違いますか?」
    「いや! 君の言う通りだ!」
     大きく頷いた長官は椅子を蹴るように立ち上がった。
    「まったく! 嘆かわしいことだ!」
     大に竦められた肩と、その腕の筋肉の盛り上がりは軍服の上からでも明らかであり、50歳代には見えなかった。厚い胸の前で片方の拳がギリギリと音を立てて握り締められるのを、秘書官は満足そうに眺める。
    地球のために――この理念だけで万難に立ち向かうことのできる高潔なの持ちは、遺憾ながら、私のようなガッツのある“生”のアメリカ人を除けば日本人くらいだ!」
     「さすがニンジャだな!」と続けられた言葉に、日本史を学んだことのある秘書官は努めてな微笑みを返した。
    女王女王と口煩いライミーや、反論ばかりするフレンチ×××野郎にも、あれくらいガッツがあれいいのだが…………おっと! 今の発言は私個人の感想であって、EDF長官としての見解ではないぞ」
    「ご安心を、閣下。全ての回線はオフラインです」
     若い女性秘書官の知性と性を兼ね備えた円らな瞳に、EDF長官は「うむ」と強く頷き、席に着いた。
    博士からの報告が楽しみだ」
     EDF兵器開発チームが「新爆弾」の実戦テストを申し込み、日本列島戦線での実戦テスト実施が“即決”されたのは、僅か一週間後のことだった。
     もともとEDF戦隊工兵隊用という名大量破壊兵器制限条約を拡大解釈したメディアや“自称平和主義団体からの脅迫的非難を防ぐための方策である)開発されていた爆弾「Cシリーズ」は、開戦後はあらゆる非難を一蹴して猛然と高威力化を推し進めており、C26爆弾MOAB Massive Ordnance Air Blast bomb:大規模爆爆弾兵器に匹敵する威力を有していた。
     新となるC70爆弾はC20系統とは異なる方式を用いており、さらに強力であった。
     軍事機密のため詳細は不明だが、爆弾を構成する7本のダイナマイト状の筒のうち、中心の1本が高性爆薬であり、周囲の6本は爆縮用のものである。爆縮と言っても炸ではなく、フォーリナー圧縮技術が用いられていると噂されており、それによって起爆時のエネルギー高密度に圧縮し、従来と同量の爆薬で桁違いの威力を実現したと言われている。
     なお導火線に見えるに色づけされた紐は最終安全装置となる反応抑制剤であり、これを抜かない限りは起爆しない。
     起爆は時限式ではなく、フォーリナー技術の解明によって実用化された量子通信回線で行われる。論、量子物理学を応用した通信技術は未だ全ではなく、通常の通信には用いられていないEDFの通常通信は従来の電波通信であったため、中継機器の故障やジャミングによる信頼性の低下が著しく、大戦中は陸戦隊の戦術揮に支障をきたす場面が多々あったと言われている)が、起爆信号の送受信(正確な表現ではないが)には充分であり、起爆コード暗号化についても安心できるものであった。
     このため通信妨下はもちろん、地中の洞窟深くでも有線に頼らない確実な遠隔起爆が可であり、C70爆弾とその技術を再応用したCシリーズは大戦を通して数多の戦場で活躍した。
     とくにC70爆弾は最も多くの巨大生物を殺した英雄爆弾と称えられており、MOABの別称である「Mother Of All Bombs:すべての爆弾」にかけて「ビッグ・マム」の愛称現在しまれている。
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  • Y11対インパルス
     戦争が懐かしい。
     この大戦が始まる前に、人類同士で戦った経験がある者なら、でも思っただ。
     中東砂漠で、南欧で。世界のあらゆる場所で々は戦争に明け暮れた。
     確かに、戦争は悲惨だった。
     具という体外器官と言うべき装置を生み出し、それだけを発達させてきた人間という動物が、あらゆる種類の飢餓に突き動かされて争っていたのだ。政治義といった精神的な飢餓もあったし、純体的な飢餓もあったが、どちらにせよ、根本的に人間満足というものを知らない――そういう機麻痺したか、あるいは欠落した動物だ。丸々と肥えて太った者と、枯れ木のように痩せ衰えた者が、互いに正義しながら卑劣な手段で糧食やエネルギーを奪い合う場面が当たり前にあった。
     も、自らが訴える飢餓の正当性を見直そうとはしなかった。問題にされていたのは、せいぜい飢餓を満たす手段が合法か否かという程度だ。
     餓に堕ちた己を悔い改めたところで、が救ってくれるというのだ――あるかどうかも分からない救済を待つよりも、隣人を殺してを食った方がいではないか――人を説くなら、先に自らがを切って差し出してみせろ――そう吼え立てて同族で殺し合い食らい合う……そんな救い難いが何十億という数に膨れ上がり、国家という群をなして大地を覆っていた。
     なるほど、人間の住まうこの世界こそが地獄なのだなと、たいした感動絶望もなく納得したものだ。異人がいたとしても、こんな物騒なには絶対に関わらないだろうと。
     だからだろうか、フォーリナーが襲来して巨大生物市民を食い殺した時、自分でも奇妙なほど腑に落ちた。
     コイツらこそ、人間の敵に相応しい悪魔だと。
    「……調子こき過ぎたなぁ」
     今となっては、自嘲せざるを得ない。
     巨大生物に挟撃され、追いたてられ、台地状の丘陵に孤立して包囲された状況では。
    「こちらレンジャー6-1! 本部、応答を! 本部!」
    「どうせ通じやしないだろ……ティータイムじゃないか?」
    「ここへの撃要請なら、応答があるかもな」
     救援要請を試みる若い隊員に、古参兵が冗談を投げかける。実際のところ、丘の周囲を取り囲む巨大生物の大群……らが一定数以上集まったことで、巨大生物モーターセルが発する電磁波が共鳴してジャミングとして機している。スーツの通信機ではどうしようもない。
    「……ら、襲って来ないな」
     包囲されてから十数分、理由は分からないが、巨大生物は丘の周りで蠢くばかりで一滴のも飛ばしてこない。
    「お仲間をディナーに招待している最中なのさ」
    「なるほど、メインディッシュがお前で、デザートか」
    「不味いデザートがあったもんだな。を壊すぞ」
     冗談を言い合う彼らが、無表情の下にどんな感情を隠しているかは想像に難しくない。
     フォーリナーは捕虜を取らない。
     強液を浴びて溶かされるか、強で生きたまま食われるかの違いはあったが、らを撃破して退路を切り開くことができなければ、一人として生き残ることはできないのだ。
     人間との戦争が懐かしい。
     職業軍人だろうと民兵だろうと、相手は人間だった。虐殺や収容所での不幸な死の心配はあったが、降すれば命が助かる性はあったのだ。
    畜生!」
     ずっと通信を試みていた若い隊員が叫んで立ちあがる。
    もう嫌だ! なんでこんなことになっちまったんだ!? 帰してくれ! に帰してくれよ!」
    「騒ぐなッ!
     さきほど冗談を言っていた古参兵がライフル床を突き出し、若い隊員のを打つ。防弾性のアーマースーツの上からでは怪にもならないが、若い隊員はよろめき、もちをついた。
    「くそ……!」
     に濡れたで睨みつける新兵に、古参兵は父親のような微笑みを返した。
    「新入り。上を見てみな、綺麗だぜ」
     言われてを丸くした新兵ばかりでなく、全員を上げた。
     一つない青空が、視界を覆った。
     はどこまでも高く、澄み渡り、のように深い頂へと続いている。
     幼き日の想い出――亡きの姿――邪気に過ごしたの日々――淡い記憶――の哀しみ――
     平和だった日々の出来事が走馬灯のように裏を駆け巡り、知らずにがこぼれていた。
     確かに大戦前世界も、結構な地獄だった。人間は救われない動物で、憎しみと悲しみに苛まれ、殺し合っていた。
     だが、幸せな時間もあったのだ。不毛の荒野に咲く一輪のように。
     大戦前のあの日も、それを守りたくてを取ったのだ。南欧のあので。相手も同じ想いを抱き、それを奪われることに怯えていただけの、に映った己だとは考えもせずに……。血に汚れた手を見た間から、忘れてしまっていた。
    「久し振りに……よく晴れているな」
     ガンシップはもちろん、陥落して火災を起こしている地から流れてくる煙もない。
     完璧蒼空だ。
    「まったく、絶好の日和だ。こんな日は海岸線バイクをカッ飛ばしたもんだ」
    独りで、か?」
    「うるせぇよ」
    家族河原バーベキューだったな。高いを焦がして親父に怒られたよ」
    「こういう暑い日はも悪くないですよ。火照った体で食べるカキ氷が美味かった」
     戦場であることを忘れたかのように、一人一人が過去想い出に浸り、い笑みを口許に浮かべる。
     何のために戦うのか。
     その意味を、理由を、戦士たちは己の心に尋ね、言の内に頷いていた。
     しばらくの後、ヘルメット隊長が「さて」と言って余韻を打ち切る。
    「小休止は終わりだ。全員聞け。状況は最悪だ。々は包囲されて孤立し、救援の見込みもない。敵は襲って来ないが、々を見逃すとは考え難い。増援を待っているのかもしれない。このまま現状を維持しても事態は好転しないと私は判断する。全員、装備の状態と残弾数を報告しろ」
     隊員達は素く装備を点検し、残弾を確認する。先ほどの新兵も引き締まった表情でロケットランチャーを調べている。次々に報告が上がった。
    「よし。聞いた通り、が隊の戦力バランスは保たれている。々は、まだ充分に、戦える。プランは単純だ。集中火でもって敵の包囲網を一点突破、戦域を離脱、帰還する」
    「今から帰れば夕食には間に合うな」
    「確か、今カレーだ!」
    「ヒャッホゥ!」
     悲愴感を漂わす者は一人もなく、出撃前の適度な緊感を伴った空気が満ちていた。「よし!」と頷いた隊長が号をかけ、全員の底からを出して答える。
    野郎ども! たちは何だ!?
    無敵地球防衛軍! どんな敵も恐れない!』
     ライフルに弾倉が装填される。
    たちの敵は何だ!?
    『根性なしの宇宙人! ケツを蹴って叩き出せ!』
     ショットガンポンプ・アクションが小気味の良い音を立てた。
    どもが好きか!?
    『死んだが大好きだ!』
     ロケットランチャーの発射口からカバーが外される。
    「最後まで戦うか!?
    地獄の底まで付き合います!』
     手榴弾を握った拳が掲げられた。
    「よしッ! レンジャー6-1! 戦闘準備!」
    『サー! イエッサー!』
     脱出する方位に向けて突撃隊形が組まれ、整列する。
    「時限式グレネード、投擲準備よし!」
    ランチャー射撃準備よし!」
    「よし、敵先端をグレネードで吹き飛ばした後、脱出路の両側にランチャーを斉射、蜘蛛を掃討しろ。その後、斜面を一気に駆け降りる。ライフルを、ショットガンを狙え。駄弾は使うな、進路を塞ぐ敵だけを狙え。殿しんがりは置き土産の時限グレネードを忘れるな」
    『イエッサー!』
    「負傷者は見捨てるな。しかし速度も落とすな。でも遠慮せず引きずって構わん」
    『サー! イエッサー!』
    「……GO!
     号に従い、隊形の前衛が時限式グレネードを手放した。
     着色煙を引いて斜面を転がった数個の爆裂焼夷手榴弾が一斉に起爆、丘を取り巻く巨大生物の群の一端を吹き飛ばした。の四肢と胴体がバラバラになって飛び散り、包囲の輪が途切れる。
    「次、撃てぇ!」
     脱出路の近辺にいる蜘蛛巨大生物へ向けてロケット弾が撃ち込まれる。十数メートルの殺傷範囲を持つ多ロケット弾の一発蜘蛛部を直撃。内部からの爆発蜘蛛は跡形もなく四散し、それでも勢いを落とさない弾片が周囲の蜘蛛を切り裂いた。
    「総員、突撃ッ!
    『うおおおぉ!!!』
     戦士たちが哮し、駆け出した。数の撃音がき渡る。
    「おい! まだこんなにいるのかよ!」
     を落として急斜面を滑り降る隊員のライフルが火を噴き、高速弾の一群が強液を投射しようとしていた部を切り刻む。
    「まったくだ! をつぶってても当たるぜ!」
     斜面を駆け上がって来たを、ショットガンから放たれた散弾が出迎える。は悲鳴――被弾の衝撃んだモーターセルの不協和とともに仰け反り、坂を転げ落ちて後続のを巻き込んだ。
    EDFの勇猛さを見せる時だ!」
    どもに思い知らせろ!」
     チームは一つの生き物――のように巨大生物の群に襲いかかり、く間に包囲網を食い破った。全員が丘陵を降り、隊形を維持したまま脱出へと移る。
    「特製デザートだ……喰らいな!」
     最後尾の隊員が時限式グレネードを後ろに転がした。彼の背中に喰いつこうと追って来ていた下で手榴弾爆発――粉砕したが、その死骸を踏み越えて新たなが迫る。
     続けて落としたグレネードも、同様に一匹のを吹き飛ばすだけで終わった。
    ら、になってやがる!」
     偶然ではない。他の巨大生物うように、転がるグレネードに一匹のが覆いかぶさり、被害と遅滞効果を最小限度に抑えている。その後ろで、態勢を整えた数のが一斉に部を振り上げた。
    が来るぞーッ!
     言い終わる前に、い強液を満たしたゼリー状の球体が数に降り注いだ。大半は地面に落ちて弾け、障りな音とともに煙を昇らせたが、幾つかは隊員を襲った。背中ならばアーマーの剥離で事なきを得たが、腕や脚にを受けた場合……抗塗装を施されているとは言え、既に戦闘で傷ついたアーマースーツでは負傷を免れなかった。
    「ぐっ!」
     最後尾にいた隊員も右足首にを受け、倒れた。即座にアーマースーツから鎮痛剤が投与されたが、その顔は苦痛にんでいた。
    「なに寝てやがる! 行くぞ!」
     同じく殿を務めていた古参の隊員が肩を貸そうとするが、彼は手を払い除け、迫るの群にショットガンを撃ち続ける。規則正しいポンプ・アクション射撃の音とともに、一匹、また一匹とが胸部――脚の接合部を砕かれて崩れ落ちる。
     慣れた手つきでチュー弾倉にショットシェルを込めながら、彼は言った。
    隊長はああ言ったが……二人ともやられる。地獄でもお前とペアを組むのはゴメンだ。残りの武器を渡すから先に行け」
     相棒の性格を知っている隊員は「わかった」と一言だけき、武器を受け取った。ありったけのショットガンの弾と、一個の手榴弾を残して。
    「新兵を頼むぜ」
    「わかっている。じゃあな」
     互いに見向きもせず、彼らは別れた。残った者がショットガンを退け、離れていく者が後退しながらライフルを狙い撃つ。
    「次から次へと……!」
     ショットガンを撃つ度に築きあげられる死骸の山が、少しずつ、彼の方に近寄ってくる。そして数メートルを切った時、一気に飛び出したが彼を突き飛ばし、ショットガンを踏み潰して組みせた。すぐに数のが集まり、彼の姿を隠す。
     一番近いゆっくりと体を折り曲げ、頭部を、その先端のを彼に向けた。
     の切れた機械むような異音を立てて、牙が左右に開かれる。そののすり鉢状の咥内には数の鋭いが不規則に並んでいた。牙に挟まれれば人間の頭などトマトのように易々と噛み砕かれてしまうだろう。
    「酷ぇ臭いだな……口臭ぐらい気にしたらどうだ?」
     答える訳もなく、を近づけてくる。
    「ふん、を壊しやがれ」
     の前に迫ったの咥内に向けて、彼は既に着色煙を噴いていた手榴弾を押しこんだ。
     集まっていたの群の内部で、爆発が起こる。
    「報告……1人やられました」
     静かにいた隊員のは細められていたが、ライフルの狙いは正確だった。
     彼と同じく、先に逝った隊員をよく知っていた隊長が「野郎ども!」とをあげる。
    「生きて帰ったら、いつもの店で一杯奢ってやるぞ!」
    「おおおーッ!
    「今が楽しみで――た、隊長!」
     隊形の前衛を務めていた隊員が叫び、彼の視線の先を追った全員が悪態を吐いた。
    だろ……! ヘクトルだ!」
     の木々を押し倒し、全高数十メートルに達する銀色巨人が姿を現した。腕と足を構成する円形の駆動ユニットが鈍い音をかせ、大気を震わせる。
    「迎撃しろ! 近寄られたら終わりだぞ!」
    がやります!」
     ロケットランチャーを担いだ新兵が膝を着いて狙いを定める。
    「ま、待て!」
     ヘクトルの足元に蠢くを見つけた隊員が制止するが、遅かった。
     新兵がランチャーの安全装置を解除し、まさにトリガーを絞った間――100メートル以上を一気に跳躍した蜘蛛が、彼のの前に音もなく着地した。
    「う、うわ――」
     悲鳴は爆音に掻き消され、新兵の姿は一で爆炎にみ込まれた。発射器から照射される測距兼安全装置用の不可視レーザーは至近距離に現れた蜘蛛巨大生物を認識したが、コンマ数前にロケット弾は射出されており、起爆中止信号の発信も間に合わなかった。よくあるケース自爆事故だ。
     第2世代のアーマースーツなら至近距離爆発でも命だけは……その希望を打ち砕くように、舞い上がった土煙の中へ向けてヘクトルビームブラスターから熱弾が撃ち込まれる。
    「くそがッ!
    隊長! 後ろからも回り込んできます! このままでは!」
     ヘクトルの登場によって部隊速度が落ちた一の隙を突いて、巨大生物の群が左右に回り込み、さらにヘクトルに随伴して来た巨大生物の群も展開し、部隊の退路は断たれようとしていた。
     ヘクトルの胸部上面装甲が展開し、頭部が現れる。を発する大きな単眼の下に、三日月の発部分があるからだろうか。嗤っているように見える。
     カラシニコフ自動小銃に似た形状の、全長20メートル以上のパルスビームマシンガンが持ち上げられ、陸戦隊に向けられる。毎分数千発の発射速度を誇る短照射兵器で一掃されれば、全滅は免れない。
    「これまでか……!」

     ――最後まで諦めるな。

     全員が死を覚悟した時、ヘクトルの頭部で手な火が散り、巨体が後退さった。
     遅れていた発音がく。
    「この音……MMF200か!」
     最新の中距離狙撃スナイパーライフルだ。
    「援軍か!? どこだ!」
    「…………あ、あそこだ!」
     数メートル離れた田園地帯に立ち並ぶ鉄塔に……発電所が破壊されて今は用の長物となった送電線の鉄塔の上に小さな人と、ライフルスコープが反射する陽の煌めきが見てとれた。
     姿勢を崩して大きく揺らめくヘクトルの頭部へ、さらに二発、正確に弾丸が撃ち込まれた。単眼を撃ち抜かれたヘクトルは頭部を収納し、巨体を狙撃者の方へと向ける。蜘蛛といった巨大生物も次々と向かっていく。
     あたかも敵を挑発するかのように、反射が何度もいた。
    馬鹿な! 囮になる気か!」
     そうとしか思えなかった。鉄塔の人逃げようともせず、スナイパーライフルを連射している。数メートル距離などすぐに詰められてしまうし、鉄塔でも巨大生物は苦もなく登るだろう。そしてヘクトルの攻撃で……。
    「援護しましょう! 隊長!」
    「あれは……あの人は……!」
     双眼鏡で人を確認した隊長は震えていた。
    「……全員ヘクトルの後方に回り込みつつ周囲の巨大生物を掃討する」
    「それでは逆方向です! 鉄塔が孤立してしまいます!」
    「命だ! 彼の作戦を邪魔する訳にはいかん! ヘクトルには攻撃するな!」
    「ラ、ラジャー!」 
     全員鉄塔の反対方向へと移動し始めたが、ヘクトルに続いて巨大生物の大半も鉄塔に向かっており、陸戦隊レンジャー6-1はほぼ傷で包囲網を脱することができた。
    おいおい、どうなってんだ? どもに無視されてるぞ!」
    「……フォーリナーも知っているんだ」
    「どういうことですか、隊長
    が丘陵で々を襲わなかった理由が分かった。々は餌だったんだ。あの人を誘き出すためのな」
    「あの人……?」
    「見ていれば、分かる」
     既に部隊の周辺に巨大生物の姿はなく、全員が呆然と鉄塔狙撃者の戦いを見守っていた。
     孤高の狙撃者の攻撃は怯む様子を見せなかったが、数が違い過ぎた。鉄塔の周囲は既に巨大生物に取り込まれ、が登り始めている。
    「どうしてヘクトルを潰さないんだ! MMF200なら……」
     一人の隊員が言いかけた時だった。
     鉄塔で変化が起こった。
     鉄塔の根元から頂上部まで、のあちらこちらで小さな爆発が連続して起こり――次の間には鉄塔り付いていたも、鉄塔の周囲にいたも、跳躍して中にいた蜘蛛さえも、ほぼ全ての巨大生物い体液を撒き散らして死滅し、粉々の断片となって散した。
     そしてヘクトルが、機体の中央に数千発の弾丸を受けたかのように、左右にっ二つに割れ爆発する。
    「何が起こったんだ……」
    クソッタレどもが一全滅したぞ」
     遅れていた遠雷を思わせる音に、もが慄き、同じ疑問を抱いた。
    隊長、いったい何が……」
    「Y11対インパルスだ」
     然とする隊員たちへ言い聞かせるように、隊長ヘルメットを外してを拭いながら語る。
    クレイモアを原にした対巨大生物用の向性スマート地雷インパルス。あれのY11は縦方向にボールベアリングを撒き散らす。鉄塔のあちこちと……おそらく周囲にも仕掛けておいたんだろう。鉄塔の周りにいた巨大生物は、あらゆる方向から一で迫った粒弾のに巻き込まれてミンチになったという訳だ」
    「そんな……鉄塔自体は然と建ってますよ! あの人も!」
     鉄塔は先ほどと変わらず健在であり、その上では武器ライフルに持ち替え、まさしくの息となった巨大生物の生き残りに射撃を加えている者がいた。の上から、まるで裁きを下すかのように。
    「あの人には、それができる。ヘクトルも進行ルートを予まれ……あるいは誘導されて、正面から多重攻撃を受けたんだ」
    「いったい……何者なんですか」
    「遊撃隊、ストームチームの一員だ。かなりの高齢らしいが……」
    「今、なんと?」
    「いや、何でもない……帰還するぞ! 総員、整列!」
     隊長ヘルメットを被り、生き残った隊員を鉄塔に向かって横一列に並ばせた。
    敬礼ッ!
     負傷者も含めて、々は一糸乱れぬ最敬礼を孤高の戦士に送った。
     遠く青空背景に、陽の中で、戦士の返礼を見たような気がした。
    「あの人は伝説になる」
     隊長いた言葉の意味を、私が知ることになるのは終戦後のことだった。
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  • P78バウンドガン(o0PpVnrRyHさん原案・トウフウドン加筆
    開戦時、AF14ライフル2011年開発スティングレイM12008年開発といった“戦前装備”でも巨大生物を殺傷できたことは、人類に少なからず希望を与えた。
     ……空母円盤から投下される巨大生物の量が、尽蔵だと知れるまでは。
     フォーリナー最大の武器、それは数である。
     中でも日本列島戦線は、戦力の数的劣勢が最も問題視された地域であった。
     日本国の有事体制は様々な問題日本国憲法第9条に起因する政治問題であり、・中・露の緩衝地帯に位置するという歴史的かつ地政学的な条件を顧みれば、21世紀初頭の同防体制とその意識は末期的様相を呈していた)を抱えており、同JSDFJapan Self Defense Force日本自衛隊においては弾薬や燃料といった戦略物資の備蓄量が数週間分に過ぎず、状況によっては有事の際の戦争遂行力が僅か数日間という試算さえ存在した。EDF日本支部も同様であり、巨大生物の出現数に例して増え続ける日々の弾薬消費量を前に、兵站の破綻による連鎖的な戦線の瓦解が懸念された(そうでなくても道路鉄道の破壊による物流網の寸断、備蓄施設への襲撃によって兵站体制の崩壊は時間の問題であった)
     また世界各地で巣(地下数メートルまでり巡らされた巨大生物コロニーであり、ハイブネストとも呼ばれている。間構造はの巣と同様に洞と通路で構成されているが、洞の大きさは一定ではなく、例えば女王体が産卵を行う最深部の“寝室”の高さは100メートルに達する場合もある。強大な圧力がかかる地下においてこのような構造が成り立つのは、掘削した面を粘着性の体液で凝固させているからであり、その強度はコンクリートかに駕し、ロケット弾の直撃にも耐えられる。なお掘削作業は強を持ち、体力に優れた巨大生物が行うと考えられており、の出現時期が遅かったのは巣の建造に従事していたためと言われている)の存在が確認されたことで、彼優勢の条件はさらに厳しさを増した。
     人類全体に共通するこの問題(連鎖崩壊論……つまり巨大生物増殖数が人類の工業生産力と戦闘力を上回った時点から、巨大生物の数が指数関数的に増加、戦線と兵站が連鎖的に崩壊し、一気に人類は敗北に追い込まれるという理論である)は、EDF日本支部はもちろん、その上位機関である極東方面軍部および北米部も把握しており、協議の機会が設けられることなった。
     いわゆる遠隔通信会議は大戦初期においては可であり、立体映像とは言え、EDFの各地域方面軍の官が軒並み顔をえ、さらに各の代表者も参加していた。
    「……マザーシップへの攻撃が失敗した今、短期決着を望むのは難しい」
     最初に口を開いたのは、老傑と呼ぶに相応しい貌と経歴を持つEDF欧州方面軍の官だった。
    航空戦力の喪失は想定されていたが、ガンシップ襲は尋常ではない。欧州地域の資備蓄量はこの1週間で30%も減少した。この意味がお分かりか?」
     老人は鋭い眼差しで周囲を見渡す。暗闇の中に浮かぶ立体映像のようにも見えたが、その双に宿る理智のの冷やかさが強現実感を与えている。
    「消費したのではない。消滅したのだ。数万匹のどもを殺すだった弾丸、数輌の戦車を全力稼働させるだった燃料、数千万人の市民を救うだった……全てがに帰したのだ」
    書きはいい」
     ロシア連邦軍将軍が苛立ちを隠しもせずに口を挟む。
    「つまり、このまま“普通戦争”をしていては負けるということだ。そうだろう。10万発の弾丸では100万匹のバグを退けることはできない」
    「まるでの常套戦術だな……。子供だったが、よく憶えているよ」
     深い皺をませて老人が嗤う。まだ50代の将軍無視して続けた。
    「だから今こそ核を――」
    「熱核兵器復活は認められない」
     EDF長官に視線が集まった。彼の言葉を、傍に立つ女性秘書官が引き継ぐ。
    「先日の会議開したデータの通り、戦術核レベルの試作弾頭を搭載したスーパートマホークでさえマザーシップに損を与えられませんでした。また巨大生物の巣の多くは大都市や穀倉地帯の下にあります。単純に核で薙ぎ払う訳にはいきません。そして、今回の議題は人類全体の兵站問題です。EDF北米部の大規模地下工の稼働は本格化しましたが、そこまで材料となる資を運び、また生産した武器弾薬を各地に送る手段が……」
    「足の遅い輸送機や輸送は格好の餌食だからなぁ……」
    はい。北米からの輸出については面往還ロケットの転用やマスドライバー開発による直射運搬の確立、また大潜水艦による中輸送の実施を連合海軍と検討中です。しかし……」
    「資そのものについては採掘自体が困難だ」
     EDF中東方面軍の官が応じた。通信状態が悪いのか、時折ノイズが混じっている。
    サウジだけで田の8割が壊滅した。ほとんどが現在炎上中だが、消火途すら立っていない。アフリカ鉱物生産力は……まぁ、欧の方々は既にご存じだと思うが……皆無に等しい。各政府はもちろん、各企業の現地法人とも連絡がつかない有様だ」
    戦場に届ける弾どころか、それを作る金属にすら事欠くということか」
    「とにかく弾丸くらいは……」
    「では、ここで――」
     再びEDF長官のく。
    EDF日本支部の意見を聞こうと思う。データ上、最も兵站力に欠ける戦域が、その戦力にべて最も高い戦果を出している」
    「噂によればニンジャ部隊がいるとか?」
     フランス軍人の冗談に何人かが失笑を漏らしたが、EDF日本支部の官は「いいえ」と答えながら立ち上がり――立体映像の撮範囲から出たため胸から上は映らなかったが――力強いで続けた。
    忍者はいませんが、陸戦隊の勇士たちはもがの心を持っています。いわゆる武士道精神です」
    Oh……」
    「その……サムラーイのブシドー兵站問題にどうするのかね?」
    「自らを節すること厳しく……つまり自給自足です!」
    「…………What?
    戦闘食がなければ閉鎖されたコンビニINDEX PLAZA)から“接収”し、エアーバイクが壊れれば放置自転車(接収時にEDF統一軍票を発行済み)で帰還し、アーマーが欠ければ巨大生物の外皮で修理する。弾薬が尽きればヤリで戦う覚悟です」
    「それだ!」
     EDF長官が勢いよく腕を突き出し、日本支部官をさす。
    「いえ、ヤリはものの例えであって、まだ実際に使ったことはありませんが」
    「違う。巨大生物の外皮だ。らの甲殻で弾丸を作ればいい」
     一同が、感嘆の息を洩らした。
    「確かに、らの死骸なら腐る程ある。加工が可なら幾らでも現地調達できるな」
     この時、既にEDF間防疫特化衛生局によって巨大生物研究は行われており死骸解剖はもちろん、捕獲した生体への実験も頻繁に行われたが、あくまでも学術的側面が強く、強液の兵器転用などはEDF先進技術研究所で行われた)巨大生物の甲殻皮をアーマーの素材として利用することも検討されていたため、甲殻皮を資化するための設備体制は速やかに整備され、同時に生体素材弾の研究EDF研で行われた。
     様々な加工手段が試みられた結果、甲殻皮をダイヤモンドカッターで切断、高圧処理したものを研磨加工によって弾丸形状に削り出し、真空加熱で硬化させることでEDF正式採用5.56mmアサルトライフルSS190Smart-Shoot-One-Ninety:対人戦闘を基準に製造された弾丸であり、巨大生物に対しては非力であったが、第1世代ボディアーマーを貫通するだけの威力と充分なストッピングパワーを有し、跳弾や貫通による付随被害を出しにくいという高性なものであった)の“代用弾”として実用に耐えられる物が完成。弾丸以外にも装甲材や建築用資材など、様々な分野で大戦を通して活用された。
     こうして甲殻皮の資化技術と生産体制が確立して間もなく、EDF日本支部から先研に通信フォーリナーの手によってあらゆる通信網が破壊されていく中、飛翔体軍事人工衛星と軍用統合ネットワークを介することで機する一の大陸間通信回線であり、当時の携帯端末レベルの映話であっても通信量当りのコストは十数倍から数十倍に達したと言われている)があった。
    「あー、もしもし?」
    Yes……EDF-ATL-Level8
     画面の中で怪訝そうに――眠たそうな無表情だったが――応じたのは若い白人女性研究員だった。たまたま通りかかったところを映話に出たらしく、手に取った有線受話器を肩に挟み、もう片方の手に摘まんでいたドーナツを口に運んだ。
    「先日、ようやく例の生体なんとか弾が届いたんだが……不良品の交換はできるかね?」
    「……What say?」
    不良品だ。ふ、りょ、お、ひ、ん」
    「Wu? …………ああ、日本語ね」
     女研究員は紛らわしいと言わんばかりにを細め、ドーナツる。
    「それで?
    「だから! 生体なんとか弾だ。いったいどういうことだ」
    「なにが?」
    跳弾だ!」
    うん?
     話を聞こうというに、彼女コーヒーを啜った。
     20分後。
    「……という訳で、射撃場がだらけだ。死者こそ出なかったが、弾が通路を跳ね回って危うく弾薬庫に飛び込むところだった。もし爆発していたら――」
    「話を聞く限り、通常の跳弾とは異なるようね。現象としては反射と言ってもいいわ」
    「そうだ。とんでもない不良品だ」
    Interesting…………Hay! Call GHQ . SayFrom ATL-Level8” . Now」
    もしもし?」
    「ああ、こちらの話。調するから問題の弾を全て回収して送ってちょうだい。今すぐに」
    「うむ……まぁ、構わないが、代わりの弾丸は支給されるのか?」
    「ええ、あげるわ」
     が獲物を見定めるかのように、女のがすっと細められる。
    「もっといいものを、ね」
     僅かに現れた微笑みを官が確かめる前に、映話は一方的に切られた。官は再度通信を試みたが、呼び出そうにも女の名前を聞いていなかった。
    「まぁ、いいか。一件落着だ」
     不良品は交換されるのだ――そう納得し、自分のと同じく何を考えているか分からない印の女研究員のことを含めて、日本支部の官はこの事を忘れた(後日、二人はグレネードに関する件で映話を交わすことになるが、通話記録を聞く限りは、女研究員も同様だったと思われる)
     回収され、EDF研に届けられた生体素材弾は、確かに不良品であった。最終工程である真空加熱による硬化が不十分であり、結果として顕著な弾力伸縮性……硬い物に当たれば跳ね返るという性質を有していた。
     正確には、標的に着弾した時の反作用が、撃ち出された際に与えられた運動エネルギーを越える場合(つまり衝撃をほとんど吸収しない極めて硬質の物体に着弾した際)運動エネルギー素材の膨という形で吸収し――変形に伴う熱エネルギーへの変換率は極めて高く――反動収縮作用によって熱エネルギーが再び運動エネルギーへと変換され、射撃時の初速に匹敵する速度で跳ね返るのである。
     便宜的に「バウンド弾」と名付けられたこの偶然の産物は素材化され、優れた衝撃吸収材としてアーマースーツに組み込まれ(被弾衝撃によって発生した熱は別の構成素材によって吸収される)、同時に特殊弾としても正式採用された。
     当初はAF14アサルトライフル射撃な特殊弾として弾丸のみが支給されるだったが、閉鎖間で誤用した際の付随被害が甚大であるため、新たにバウンドガンというカテゴリーが設けられた(外見はAF14ライフルとほとんど変わらないが、弾倉規格が異なる)
     第1弾であるP(Prance78バウンドガンはAF14にべて射程距離火力若干増しているが、跳弾という特殊効果を戦術的に活用して戦功をあげることができたのは極一部の隊員に限られており、ほとんどの部隊では室内や巣など狭間への突入前に事前制圧兵器として用いるに留まった。
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  • P89バウンドガンCvmaT72wBUさん原案・トウフウドン加筆
     巨大生物の強な甲殻皮をアーマーや弾丸の材料に利用する試みは、本来は「巨大生物死骸による環境汚染の軽減」と「金属の調達や輸送が困難となった地域における代用資の確保、兵器製造における低コスト化と省資化」という的で始まったものであり、製造不良という形で生み出されたバウンド材は偶然の産物であった
     この極めて高い伸縮性を有する機素材を採用した特殊跳躍弾、通称「バウンド弾」を発射するバウンドガンは、本体も低コスト・省資化に重点を置いており、構成部品の9割以上にAFアサルトライフル棄品(新造モデルの配備や性の陳腐化によって退役した装備)を使用している。
     本体が“再利用品”であることや、バウンド弾のの強さが倦厭されたこともあって、バウンドガンはAFライフルの代用品と受け取られることが多く、物資や装備の豊富北米戦線などでは「Poor-man’s Gun」という不当な評価を受けた。
     確かに統合性ではAFアサルトライフルに劣るバウンドガンであるが、複数回跳弾しても威力が失われない弾丸は、閉所間への突入前の予備制圧に(少なからず危険であったが)有効であった。
     基本性においては、同クラスのAFアサルトライフルの約2倍近くの有効射程を示している。これは機構に特別な働きがある訳でも炸が強力な訳でもなく、バウンド素材が有する「受けた運動エネルギーを、材質の膨によって高効率で熱エネルギーに変換する」という性質によるものである(なお、発時の熱をバウンド弾が奪っていくため、バウンドガンは通常のライフルべて加熱による身の損耗が抑えられている)
    「高速で硬質の物体に衝突すると、受けた運動エネルギーを熱に変換・蓄積して急に膨し、一で伸長限界に達した後に収縮、衝突した物体に強反動を与える」というのがバウンド弾の跳ねる仕組みであるが、この特性は弾丸の飛翔についてもを及ぼすものである。
     大気中を移動する物体は、進行方向から抵抗を受ける。この抵抗を減ずるために弾丸の弾頭は円錐形をしており(先端を鋭くすることで貫通力が増すという経験則は矢の時代から存在したが、大砲は長らく大口径化……質量弾の大化で破壊力を増すという思想に囚われており、速度と破壊力の相関性が重視されるまでに時間を要した。このを受けて15世紀のハンドキャノン以降、19世紀半ばに開発されたミニエー弾に至るまで長らく弾も球形であった)、当然のことながらバウンド弾の弾頭もライフル弾同様の細長い円錐形をしているが、この弾丸は形状の変化によって飛翔を増すことが確認されている。
     発時、炸の燃焼ガスによって撃ち出される過程でバウンド弾は熱を蓄積して膨し始め、身の内径に達した後、前方に伸び始める爆発の圧力によって膨するのは通常弾も同様であり、身の内径に密着することでライフリングが機して旋回運動が発生する。ただしバウンド弾の場合は膨率と圧力が非常に高く、製造の性質上、品質も一定ではないため、バウンドガンの身内径には余裕がもたされ、ライフリングの溝は通常よりも深くなっている。滑腔であるバウンドショットも同様であり、燃焼ガスの漏失によって威力は低下するが、最悪の場合、身の破裂によって射手が死傷する恐れがあるため、バウンド弾の加工精度が向上した現在でも同様の措置が取られている)。これに旋回運動遠心力が加わることで弾丸は中程から尾部にかけてより膨らみ、先端部が鋭く伸長していく。この時点でバウンド弾は管楽器の先端を逆さまにしたような、内孤を描いた円錐形に変化しているが、口を出て後方からの燃焼ガスの圧力が消えると、円く拡がっていた尾部が収縮し、正面からの空気抵抗によって側面部が押し潰されて細長い形へと姿を変える。
     これは戦車の滑腔から撃ち出されたAPFSDSArmor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot装弾筒付翼安定徹甲弾が装弾筒を脱ぎ捨てるのと同じで、口径相当の射出力を確保しながら、最少の空気抵抗飛翔することができる。
     また発時の高熱高圧に曝されたバウンド弾の内部では一部が流体化しており、段階的な形状変化が起こるにも関わらず重心と中心線は安定し、ヨーイングの発生が抑制されるため、同クラスライフル弾にべて直進飛翔距離――射程が飛躍的に向上している(ただし口を出た直後の形状変化によって進行ベクトルが変化することは抑えられず、その方位も一定ではないことから集弾性は低下しており、本体の改良による精度の改善も困難となっている)
    ・・・
     以上のバウンド弾の特性からすれば、P89バウンドガンに使用されているB08弾は例外中の例外であり、詳細に述べれば全く別種の弾丸と言うべきものである。
     P89バウンドガンはAF20の部品を使用しておい同様の連射性を有するが、射程は半分の90メートルであり、それまでのバウンドガンの均射程約260メートルの3分の1程度に留まっている。 
     なによりも、速2メートル程度の極“低”速性が特徴である。
     「飛ぶ」というよりは「漂う」と表現すべき前代未聞の特殊弾は、もとは決戦要塞X3の近接防御兵装の1つとして開発されたものである(大量の低速炸裂弾を全方位に撃ち出して弾幕るというものだが、ガンシップを撃ち落とすというよりは、接近を阻む“”の構築を的とした装備であり、発想としては機雷や阻塞気球に近いものであった)
     B08弾に使われているバウンド素材B08は他とは異なり、の甲殻皮のみを使い、さらにマイロマシンによる分子レベルでの合成デザインが施されており、製造コストは増しているものの、さらに特殊な機を獲得している。
     B08は、従来のバウンド素材べて運動エネルギーの熱エネルギー変換効率および蓄積容量が大幅に増しているのである。
     具体的にはSTAFアサルトライフル専用の高性の燃焼エネルギーをほぼ全に吸収する程である(かのAF99STの緩衝装置の一部にB08が使用されているのはこのためである)。また弾丸内部の流体化を促進することで伸縮作用の遅延にも成功しており、受けた運動エネルギーを長時間に渡って熱エネルギーとして蓄えることができる。
     そして添加剤を加えたことで弾丸内部の流体層には水素ガスが発生しており、僅かながら浮力が発生している。これによって約11グラムのB08弾は口を出た後に緩やかに漂うことなる(浮力は極めて微小のものであり、気温や気圧といった気条件に左右されるものの、基本的にB08弾は撃ち出される際の余剰圧力――吸収し切れなかった僅かな力によって直進する)
     淡いを発して漂う楕円形の弾丸は、一見して中を泳いでいるかのようであり、風船のごとくに見えるが、一発当りMG10と同等の破壊力を有する致死性兵器である。言わば高エネルギーを蓄えた爆弾のようなものであり、そのままでは跳ね返ることなく触れただけで破裂してしまうが、この問題は弾殻層にスマートスキンを使用することで解決している。
     マイクロマシンで構成された厚さ2マイクロミリのスマートスキンは、本来はバウンド弾がヘクトルのような硬質の標に跳ね返るのを防ぐための起爆装置として開発されたものであり、接触した対の分子構造パターンを識別して機する(これによって他のバウンド弾と同じく、B08弾も地形に反射し、閉所では秩序軌が交錯する“”を作ることができる。ただしアーマーの一部に巨大生物の甲殻やガンシップヘクトルフォーリニウムを用いた装備や施設に対しては敵味方識別が機しないため、誤射の危険に注意を払う必要がある)
     標に着弾するとスマートスキンマイクロマシンが接触面を一で浸食し、甲殻皮や活性状態フォーリニウムの対熱衝撃防御性を著しく低下させる。そして弾殻の固体バウンド材は弾丸の中心部に向けて収縮するように設計されており、この圧力と蓄えていた熱エネルギーの開放によって、高熱の流体を標の内部に高速で噴出して加する。AF20で使用されているR3F高速徹甲弾の2倍以上の破壊力は、このHEAT弾成形炸薬弾頭弾)に似た効果によるものである(半ばジェット流となって侵入した流体は急速に固体化し、バウンド材の断片となってあらゆる方向に跳ね回り、体組織を修復不可能な状態にまで切り刻む。MG10手榴弾が内部で爆発するようなものであり、生身の人体を直撃した場合は極めて凄惨な様相を呈するため、大戦後EDF以外の警察および軍組織では使用を規制されている)
     一時はR3F弾に匹敵する高性弾薬として注され、上位級標に対しても通用するように高速化を……つまりさらに強い力を加えて通常弾と同程度の速度で発射し、運動エネルギーと内包した熱エネルギーの相乗効果で威力の倍増を試みられたが、発時に一定以上の圧力が加わるとスマートスキンの働きも虚しく身内で破裂してしまうという結果に終わり、実現されなかった。
     大戦後期の開発ということもあり、少数精鋭部隊のための兵器の製造が優先されたこともあって生産数は少なく、大戦後の人工バウンド材においては甲殻皮の再現コストが高く、2018年EDF再建計画では一部の特殊作戦班に配備されるに留まった。
     特殊素材B08自体は、高性ライフルの緩衝装置やアーマースーツ素材として研究が続けられ、大戦後は高く安定した衝撃および熱吸蔵力が注されて大深度地下施設の建材や航宙機のデブリバパーとして活用されている。
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