ここでは地球防衛軍3の兵器のうち「特殊武器」について記述する。
・他の兵器については「地球防衛軍3の兵器(ネタ記事)」の総目録を参照とする。
目次
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- 概要
なぜEDFに勤めているのかと、未だに訊かれることがある。
企業の方が環境も報酬もいいだろうと、面と向かって言われたことさえあった。
「同じ技術なら、平和利用された方がいいと思うがね」
その様に揶揄を含んだ問いも少なくはなかった。戦後だから、ではない。大戦の前から、そうだった。
EDFは西暦2015年に“宇宙規模の有事”に備えて結成されたが、当時から世間の風当りは厳しいものだった。
あの頃は大手メディアが――有象無象の商業主義者どもが、やがてやって来るフォーリナーを「思慮と博愛にあふれた賢者である」と根拠もなく宣伝し、それに沿った内容である「未知との遭遇」や「E.T.」といった20世紀のSF映画をリメイクし、商売に明け暮れていた。
大衆もそれに流され、愛好家から蛇蠍のごとく嫌われたリメイク作品群は、世間一般では好評を博していた。
そして同時に「インディペンデンス・デイ」や「プレデター」など彼らが言うところの“好戦的な映画”は批判され、映像ソフトを焼却する様子をパフォーマンスとして喧伝する輩が現れる始末だった(稚拙な二元論を振りかざしておきながら「2001年宇宙の旅」を無視したことに、つまり宇宙人は“友”ではあっても“神”であってはならないというところに、彼らの宗教的、あるいは心理的限界が見てとれたものだ)。
そこには、ある種の狂気さえ漂っていたように思える。
現実に目を向ければ、世界は文字通りの病巣と化していた。
中国を中心として致命的となりつつあった自然環境の破壊。終わりなき民族衝突とそれに付け込んだ経済戦争。大国の中枢は多国籍企業の傀儡と化し、装いや飾りを変えるばかりで旧態依然としたままの経済原理は格差を拡大し続けていた。情報産業の発達は無知を救いようのない混沌へと陥れ、世界を征服した筈の民主主義とその政治体制は崩壊寸前だった。さらにエネルギーや食糧といった文明の根幹に関わる問題も、解決の糸口すら掴めないでいた。
誰もが救済を、メシアの到来を待ち望んでいた。己が罪人であることを忘れ、その罪業にすら気付かない人々が、歩くことを止めて膝を着いて拝んでいた。
――救済を。
――人類に免罪を。有史以来の負債を全て……。
そのような迷妄(無神論者の私でも、自らを省みず、利益を求めるだけのそれを祈りと呼ぶことは憚られる)に惑わされて現実から逃避する人々の目と耳にとって、EDFとそこに集った人々が発する冷厳とした意思はあまりにも眩しく、そして鋭かったのだろう。
「War Dog!」
火薬の臭いに狂った犬だと、戦士たちは罵られた。戦争病の末期患者。古い人類とも。
確かに、太古から軍備は示威の根拠として政治の場で折衝に利用され、兵器は殺人と破壊のための効率を追求して進化し、使用されてきた。それは何のためだったのか。世界各地で幾度となく繰り返された虐殺と略奪の歴史は、しかし、それが全ての目的だったのだろうか。敵を殺し、異民族の女を犯し、文明を破壊する。その先に人間は何を求めていたのだろう。
そして未知の相手と対等の立場で交渉の席に着くために、無礼は決して許さないという意思の顕れとして傍らに剣を置く。話し合うか、殺し合うか、その境界を定めた厳しい掟は、疑心暗鬼を捨てられない野蛮人の愚かしい習慣だったのだろうか。
大戦前にEDFを否定していた人々の根拠は、好意的に表現しても「夢想」に過ぎなかった。曖昧で何の証しもない世迷い言に、己や血族の生命を預けられるだろうか。
私には無理だ。今でも。
EDF構想の真の意味を理解し、参加した人々は、虐殺も略奪も望んではいなかった。
ただ、日々の平穏な暮らしを守りたいと願い、行動した。それだけだ。
あの大戦で、我々は宇宙の現実を知った。
人類が築いた文明は泡のように小さく脆いものであり、広大な宇宙は弱肉強食の原理が支配する荒野に過ぎないのだと。
近年は、その荒野を征服し、人類の、人類による、人類のための秩序を築かなければならないと主張する人々も少なくない。それは地球上で繰り返してきた同種族との内輪揉めとは違う、より厳しい生存競争と言うべきものだ。
おそらく、遠からず人類は宇宙へと進出し、フォーリナー以外にも数多くの脅威と戦うだろう。正しいことなのか、それとも過ちなのか……それすら考える間もなく、戦い続けるだろう。
その果てに、滅ぶことなく突き進んだ最果ての刻に至らなければ、我々は答えを知ることも、救済を得ることもできないのだろうか。
それは……誰にも分からない。人間には知り得ないことなのだろう。
あの男のように、歩み続けるしかないのだ。泣きごとを言わず、歯を食い縛って。
そうするための意思と勇気を、あの男の――英雄の背中が教えてくれた。他にも多くの戦士たちが、命の灯をもって示してくれた。
同じ人間として、EDFの旗の下で戦った者として、彼らを裏切ることはできない。
私はEDF先進技術開発研究所で武器の開発に携わっている。私や同僚をマッドサイエンティストと呼ぶ者もいるが、誰が何と言おうと、これからも研究を続けるつもりだ。フォーリナーの再来に備えて、厳しい眼差しで宇宙を見詰める戦士たちがいる限り。
・・・
2017年当時、政治的要因によってEDFの戦力は全世界でたった30万人余りであり、空軍の壊滅によって陸戦隊によるゲリラ戦を強いられたことで、人員不足は深刻な事態に陥った。
第2世代アーマースーツに度重なる改良が施されようとも、巨大生物との戦いにおいては攻撃こそが最大の防御策であり、EDF上層部は限られた予算に悩まされながらも、より強力な武器を求め続けた。
米国ロスアラモスのEDF先進技術開発研究所では既存装備の強化に加えて新兵器の開発も積極的に行われ、それまでの常識を覆す数々の試作兵器が生み出された。中には珍兵器としか言いようのない奇妙奇天烈な代物もあったが、多くは有効な装備として陸戦隊の活躍を後押しした。
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- アシッド・ガン(CvmaT72wBUさん原案・トウフウドン加筆)
以下の文章には全編に渡って重度のネタが含まれています
読むことによってゲーム中のイメージを損なう怖れがあります
以上をご了解いただける方のみ、ご覧ください
・・・
研究、開発、改造……それら何かを創り出す過程において、本来の目的からは外れるものの、予期せぬ形で有益な物が生み出されることは、さほど珍しいことではない。例えば史上初の抗生物質ペニシリンは、細菌の養殖中に青カビが偶然紛れ込み、その周囲に細菌が繁殖しないことから発見された。ましてや異星人の戦闘機械の残骸を調査し、異形の(外見はともかく、体内構造は人類の知る地球起源昆虫類とはかけ離れている)巨大生物の死骸を解剖する者たちが、そういった代物に遭遇するのは時間の問題と言えた。
中でも大戦を通して数々の偉業を成し遂げたEDF先技研(先進技術開発研究所)と衛生局(星間防疫特化衛生局)は有力候補であったが、マッドサイエンティストという“称賛”を誇りとしていた彼らでさえ、公表はおろか、報告することをも逡巡し、深く長い葛藤の末に「存在しない」という結論を選んだという事例が、近年になって確認された。
開発計画コードEDF-NAGHBA-YXW42-SASA002(地球防衛軍-北米総司令部基地工廠製-試作兵器四拾弐号-強酸噴射兵装弐式)……Acid-Gunである。
それ自体はアシッド・ショット試作型(黒蟻型巨大生物の強酸弾を……最終的には女王体の「酸の霧」の再現を目指した兵器であり、強酸液を巨大生物の死骸から直接採取することによる省資源性と優れた継戦性を兼ね備えていた。狭い空間で使用しても――噴霧対象物によっては有毒ガスが発生する危険もあるが――酸欠の心配がなく、地底進攻作戦における近接戦闘用のスタンダード・ウェポンとして考案された)の改良型として設計されたものであり、当初はライフルよりも火炎放射器の代用品として、より女王体の「酸の霧」に近いものを目指していた。
アシッド・ショット試作型においては、添加した薬品(本来は巨大生物自身には無害な強酸液の成分を致死的なそれに変質させるためのものであり、国際的に劇物指定されている複数の猛毒を調合している。なお、理屈としては巨大生物の甲殻皮を装甲に用いれば強酸液を完全に無力化できる筈であるが、実際には成功しなかった。これは巨大生物の甲殻皮表面に寄生している異星細菌が関係しており、この細菌……と言うよりは外環境適応性を高める分子機械群を研究、模倣することで抗酸性マイクロマシン塗装技術が確立された)の作用によって強酸液は変質しており、やや粘度を有し、空気に触れると表面が瞬時に乾燥して薄い皮膜を形成する特性を有していた。これによって図らずも巨大生物が投射する強酸弾(黒蟻型巨大生物の腹部の先端にある分泌口は粘着性の体液で覆われており、内部から分泌される強酸液が押し広げることで粘着性の膜は水風船のように膨らみ、腹部の動きに合わせて分泌口がシャッターのように閉じることで“弾”として投擲される)に酷似した状態が再現されていた。
この速乾性という特質は、強酸弾として撃ち出すには有効であったが、霧状にするためには妨げとなっていた。言うまでもなく、強酸液を本当に霧として粒子サイズで噴霧すると、粒子の一つ一つが瞬時に乾燥してしまって砂粒を撒いているのと変わらなくなってしまう(しかも、この乾燥粒子を吸入すると粘膜の水分によって酸としての作用が復活し、隊員の呼吸器系を著しく害してしまう)。
そこで巨大生物の甲殻皮を溶かす性質を維持したまま、速乾性を廃するという研究が進められた(弾として投射する機能を高めた方がという意見は、EDF先技研内の絶対的不文律である“知的好奇心”の前に粉砕された)。
添加薬品の改良という形で始まった研究は順調に進み、予定よりも早く試作品となる“新薬”が完成し、噴霧実験が行われることとなった。
実験には、かつてアシッド・ショット試作型の開発に携わり、実際に戦場でも度々使用した経験のある陸戦隊員が協力した。
宇宙服に近い完全防護服を着た彼は、慣れた手つきで“新薬”の錠剤をタンクに入れてガン・タイプの噴射ユニットに装着、数時間前に戦場から送られてきた黒蟻型巨大生物の切り取られた腹部に噴射ユニットを突き刺した。搾液モード起動。モーター音とともに吸い出された強酸液がタンクに満ち、薬品と反応、変質する。
「搾液完了。噴射モードに切り替え、完了。噴射実験、準備よし」
静かに見つめる監視カメラの向こう側……隔絶されたモニタールームで開発関係者が頷き、女性オペレーターが実験の開始を告げる。
「標的を設置する」
白一色の壁で構成された30メートル四方のBC(生物化学兵器)用実験室の床が開き、灰色の巨大な金属の塊が迫り出してきた。十数メートルの立方体だ。
「カバーを外す、注意せよ」
電子音とともに金属面が割れ、内部が露わになる。
巨大な影が、蠢いていた。
「標的はH級の赤蟻。固定されているが、安全のため、5メートル以上の距離を取れ」
オペレーターの言う通り、赤蟻はその全身を高分子ワイヤーで束縛されていた。牙は抜かれ、触覚と全ての脚は根元の関節から焼き切られている。頭部と胸部と腹部だけの芋虫のような姿だが、それでも束縛から逃れようと全身を動かしていた。白光を反射する複眼には憎悪の炎が灯っているように見える。
防護服のフルフェイス・バイザーの奥で、陸戦隊員の口許に微かな笑みが浮かぶ。
「いいザマだな」
この捕われの身となった赤蟻が人類を憎んでいるなら、そんな高等な感情があるなら、殺し甲斐があるというものだ。ただの機械のように壊れられては、割が合わない。敵を憎悪し、そして恐怖して死んで貰わなければ…………この害虫が食い殺してきたのは、人間だったのだから。
「攻撃を許可する。噴射実験を開始しろ。人類の敵に死の制裁を」
「ラジャー。人類の敵に――」
安全装置を解除し、噴射ユニットを構える。スペック通りなら霧上の強酸液が赤蟻を包み、跡形もなく溶かす筈だ。
「――死の制裁を」
一瞬の躊躇いもなく、ある種の歓喜とともにトリガーを搾り込んだ。
薬品によって赤色から深い緑色になった強酸液が、完全に液体状態を保ったまま噴射ユニットの先端から噴き出す。
死を予感したのか、赤蟻が一際大きく四肢なき体を蠢かした。
――無駄だ。
高圧噴射された強酸液の霧は大気と反応することなく、赤蟻の全身を包み込んだ。
――苦しみながら、怖れながら、死ぬがいい。
もしも赤蟻の口に捕食以外の機能、つまり発声が可能であれば、絶叫をあげていただろう。霧状の強酸液は赤蟻の甲殻皮に付着するとすぐさま反応を開始し、白煙をあげて溶かし始めた。痛覚を伴う神経が通っているなら、炎に焼かれるよりも辛い、地獄の苦しみを味わっている筈だ。
「当然の報いだ、フォーリナー」
若い女性オペレーターの声は冷たく、一片の慈悲も感じさせなかった。
この実験は、言わば敵の捕虜を使った生体実験だ。もしもフォーリナーが、敵が禍々しい姿の巨大生物ではなく、人間のような生き物だったらどうだろう。悲鳴をあげ、泣いて命乞いをする相手だったら。
躊躇いはあっただろうか? 慈悲は?
――まさかな。
どんな相手だろうと、変わらない。
罪には罰が必要なのだ。
そして人類とフォーリナー。この二つの異なる種族の間のコミュニケートは単純明快にして、ただ一つしかない。
――お前を殺して、俺は生き残る。
つまり、殺し合いというコミュニケーションだ。今実験しているこの武器にしても、その意思を相手に伝えるための道具に過ぎない。未だにフォーリナーとの和平を望み、交渉手段を模索している連中がいるが、お笑いだ。
――これで充分だ。これで……。
もはや原型を留めていない赤蟻の死骸を見詰めながら、陸戦隊員は戦意が高揚していくのとは裏腹に、心が冷えていくのを感じていた。
大戦前、彼は北米の田舎町で暮らしていた。
学校の成績は悪くなかったが、都会に出る気はなかった。彼は古き良きアメリカの生活を愛していたし、そうでなくても数字の勝ち負けに一喜一憂して人生を消耗する生き方は、いくら収入が良くとも面倒の方が多いように思えたし、結果として自分が損なわれるような気がして好きになれなかった。
だからハイスクール卒業後は地元の工場に技術者として就職した。収入はそれほど良くなかったが、それに見合った余暇を手に入れることができた。そして馬鹿ではないが高慢でもない年下の女と結婚すると、もう欲しいものは何もなかった。
真面目に働き、週末は中古のホンダ・アコードを走らせて湖畔に出向き、読書をする妻の隣で釣りを楽しむ。それだけで満足だった。
2017年の、あの日までは。
「実験は成功だ」
オペレーターの声に、意識が現実に回帰する。
「ご苦労だったな、ソルジャー。心拍数が上がっているが、大丈夫か」
「ああ、大丈夫だ」
――なぜ、俺はこんなところにいるんだ。
「早く……早くコイツを実戦で使いたいのさ」
――どうして、あの日、俺は彼女を……。
「わかった。貴官の部隊への配備を優先するよう上申しておこう」
――戦っても、戦っても、帰っては来ないのに。
「それは、どうも。ありがたいね」
――戦争が終わったら、
「博士が夕食を一緒しないかと言っているが、どうする?」
――仇を取ったら、俺は何をすればいいんだ。
「君も来るのなら、悪くないね」
――空虚だ。
自分でも、意識が分裂しているのが分かった。好戦的な戦士と厭世的な敗北者が頭の中の舞台で必死に役を演じ、それを眺めている自分がいる。思考が安定しない。オペレーターが秘匿回線を通じて艶やかな声で何か言っているが、遠くに聞こえる。自分の喋っていることが、意識を擦り抜けていく。
早く戦場に戻りたかった。何も考えず、敵を殺していたい。
――俺こそ、お笑いだな。
「オーケー、ソルジャー。最後に連続噴射性能を確かめたいとのことだ。残っている強酸液を全て使い切れ」
「……標的は?」
「無い。だが、赤蟻の残骸を狙え。後片付けが楽になる」
「言えてるな」
再び噴射ユニットを構え、二段トリガーを一気に引き搾る。連続噴射モード。コンプレッサーが震え、勢いよく強酸液の霧が噴き出す。残りの量を全て浴びせれば、本当に跡形も残らないだろう。
――それがいいかもしれないな。
「戦争が終わったら……」
――俺も跡形もなく……。
消えてしまえばいい。
思い出も絶望も、悲しみも怒りも、愛も憎しみも。何もかも……。
「待て……様子が変だ!」
「――!」
訓練の賜物か。オペレーターの叫びに意識が一瞬で切り替わり、“脅威”を探し出そうと反射的に視界を探る――探すまでもなかった。赤蟻が、赤蟻の残骸が蠢いていた。強酸液を浴びた甲殻皮が緑色の煙をあげている。
「何が起こっている!? 観測班、報告しろ!」
「熱量が発生して、増大しています! バ、バイオセンサーにも反応が!」
「馬鹿な! 赤蟻は溶けただろうが!」
モニタールームの混乱がそのまま伝わって来る。馬鹿げた話だ。バイオセンサーが反応したということは、巨大生物のモーターセルが動いているということだ。跡形もなく溶けた筈のものが……。
「間違いありません! 再構築されています! 黒蟻の標本にも同様の反応が!」
「冗談ではないぞ!」
確かに、冗談では済みそうになかった。
搾液のために用意した黒蟻の腹部も、緑色の煙をあげて震えている。防護服のフルフェイス・バイザーの透過率を上げて眼を凝らすと、切断面で肉塊らしきものが盛り上がり、不気味に蠢いていた。
「赤蟻が!」
狂ったように警報が鳴り響く中、緑色の煙の中から、赤い刃が……牙を生やした赤蟻の頭部が現れる。続く胴体からは脚が生えており、モーターセルの甲高い駆動音を響かせて動いていた。
「……よう、元気そうだな」
皮肉が通じたのか、赤蟻が対の牙を勢いよく噛み鳴らす。まるで哄笑するかのように。
赤蟻と睨み合いながら、ゆっくりと後退さる。この距離で背中を見せれば、一気に食いつかれて終わりだ。
「ソルジャー……強酸液は残っているか」
監視カメラで間近に見ているからだろうか、オペレーターも声をひそめていた。
「いいや、ご命令通り、全部出しちまったな。残っていても、使う気にはならないが」
「同感だ。原因は不明だが、新薬を投じた強酸液で赤蟻が復活したと思われる」
「ああ、見れば分かる」
赤蟻も混乱しているのか、忙しなく触覚を動かしているが、いつ飛びかかられても不思議ではない。そして、おそらくあと数分もすれば黒蟻も全身を再生するだろう。
「……どう掃除すればいい」
「その部屋には4基のセントリーガンが格納されている。それを使う」
「そりゃ、よかった。部屋ごと焼却されると思ったよ」
「本来はそうするところだが、私も博士も君を死なせたくない。個人的に、ディナーの後の約束も楽しみにしているんだ」
「はは、嬉しいね……」
先の会話のことか。なにをどう約束したのか全く憶えてないが、まぁ、いいだろう。
――生きていれば、どうにでもなる。
心に浮かんだその言葉に、自嘲的な笑みが漏れた。
「甘ったれだな……」
「どうした」
「いや、なんでもない。さて、どうすればいい」
赤蟻は近寄るのを止めたが、牙を噛み鳴らして威嚇している。腹の底にまで響く、嫌な音だ。おそらく、黒蟻が再生するまでの時間を稼いでいるのだろう。やはり、こいつらには知性がある。
「その状況で後ろを見せれば、間違いなく君は殺される。またセントリーガンは赤蟻の背後の壁面に格納されている。今起動すれば、君も被弾を免れないだろう」
「なるほど、分かりやすい説明だ。でも今は、結論から言ってくれないか」
「ふむ……赤蟻に突っ込め」
「……悪かった、説明してくれ」
「赤蟻の行動統計に基づけば、10メートル以内の近接戦においては突進の準備動作を省くために脚を屈折させるらしい。確認しろ」
「ああ、確かに……」
言われて見れば、赤蟻は脚の関節を曲げてやや前傾姿勢を構えている。
「つまり、今は咄嗟に退くことができない。君がうまく赤蟻の懐に飛び込み、腹の下をかい潜ることができれば、セントリーガンの射界を脱することができるだろう」
「わかった。それでいこう」
「セントリーガンの展開と発砲はこちらで行う。何か質問はあるか」
「お嬢さん、名前を聞いていいか」
「ふ……」
微笑の響きとともに、ロシア系の美しい響きの名が告げられる。
「幸運を祈る、ソルジャー」
「ああ」
短く答えて、赤蟻と向き合う。戦車の装甲を食い千切る牙と顎が、ほんの数メートル先で揺れている。
「どう考えても、お前に喰われるのだけはゴメンだな」
少なくとも今は、自分を必要としてくれる人々がいる。
――身の振り方なんて、戦争に勝ってから考えればいい。
「さてと…………」
タイミングなど計りようがなかった。
「おらよッ!」
赤蟻めがけて噴射ユニットを投げつけ、駆け出す。赤蟻の牙が噴射ユニットを掴み、一瞬で噛み砕いたのと、その懐に飛び込んだのは同時だった。勢いに任せてスライディングするが、防護服は重く、思ったほど床を滑らない。
「転がれ!」
オペレーターの声に突き動かされ、形振り構わず床を転がる。赤蟻の腹の下を抜けた。顔を上げると、前方の壁が開いて4基のセントリーガンが並んでいる。
「走るんだ!」
立ち上がるのももどかしく、転がるように走り出す。視界をかすめた黒蟻は胸部まで再生されていた。
「跳べ!」
「くっ!」
アメフト選手のごとく、セントリーガンの列に向かって飛び込む。三脚で支えられた自動射撃兵器の合間をすり抜けると同時に空薬莢が降り注ぎ、背後からモーターセルが軋む異常音――赤蟻の断末魔が聞こえた。セントリーガン4基の集中射撃に曝され、甲殻皮が砕け、肉が切り裂かれ、体液が飛び散る。
その始まりと同じく、銃撃は一斉に止んだ。
「……これは、掃除が大変だな」
振り返ると、赤蟻はもちろん再生しかけていた黒蟻も、弾丸の暴風によって文字通り粉々に粉砕されていた。
「ソルジャー、無事か」
「ああ、ご覧の通り……ディナーの前にシャワーを浴びるよ」
硝煙まみれの防護服はサウナスーツ状態だった。
・・・
「再生促進剤?」
「声が大きい」
鋭い碧眼で睨んで、オペレーターは周囲を見渡した。不夜城と呼ばれるEDF北米総司令部地下基地の大食堂も、さすがに午前2時半は人気も疎らだ。
「あの強酸液は、最初は確かに赤蟻を溶かした。それがなんで」
「わからない」
オペレーターは静かに首を振る。光の加減によっては銀髪にも見える、色の薄い金髪が流れるように揺れた。
「ただ、“新薬”の調合に問題があったのは間違いない。もともと強酸液は巨大生物自身には無害だ。それを致死的な性質に変えることができるのなら、その逆も不可能ではないだろう」
無言で肩を竦め、スティック状に成型された合成食品をかじる。驚くほど苦いのに異常なまでに甘い……酷い味だった。
「死骸であれほど再生するなら、甲殻皮を素材にしたアーマーの修復に使えるという思い付きは当然だった」
「アーマーリペアか……。再生はしたんだろ?」
「ああ、見事に元の巨大生物の姿へと戻ろうとした。途中で焼き払ったが。人間が着用していれば串刺しにされるだろうな」
「フォーリナーから勲章を貰えそうな代物って訳だ」
「そうだ。この技術をフォーリナーが獲得すれば、人類に勝利はない」
おぞましい光景が脳裏に浮かんだ。戦場に現れた空母型円盤が緑色の再生促進剤を噴霧すると、何千何万という巨大生物が蘇るという悪夢が。
「そんなものは戦争とすら呼べない。破綻したゲームだ」
オペレーターは目を細め、長い睫毛を揺らして沈黙する。……大戦が始まったあの日、テレビに映る地獄のような光景を見て、妻もこんな顔をしていた。
「……結局、全てを無かったことにするのが最良と判断された。実験は失敗。“新薬”によって強酸液は液体状態で安定し、噴霧することもできたが、有効な溶解性は認められなかった。よって“新薬”の調合は見直され、今回のデータは破棄される。アシッドガンも噴霧型ではなく、強酸弾の投射兵器として開発されるだろう。また強酸液の溶解性を保ったまま速乾性を抑える目途がついたことで、アシッド・ショットの開発も……」
「まぁ、待てよ」
懐から6オンスのスキットルを取り出し、オペレーターに差し出す。
「君と俺は今日のことについて口を噤む。それだけで充分さ」
「しかし……」
「コーン・リカーじゃ、ウォッカの代わりにはならないか?」
「……いや、頂くよ」
雪原に光が射すように、オペレーターは微笑む。
「ウィスキーも嫌いじゃない」
彼女はチタン製のボトルを受け取ると親指でキャップを弾き外し、一気に呷った。白く細い喉が鳴り、アルコール度40%の蒸留酒が瞬く間に飲み干される。
「はぁ……!」
雪のように白い肌が、瞬く間に赤みをさしていく。
「私の家系は酷いアル中ばかりでね。酒に頼るのは嫌いなんだが、気が楽になったよ。ありがとう、ソルジャー。……どうした?」
「最後の酒だったんだ」
「ふむ…………いや、心配しなくても部屋に“私物”がある。約束通り、行こうか」
「約束?」
「酒を奢る約束だ。博士の分も飲んでもらうぞ」
「Oh、my……」
竦めようとした肩を掴まれ、オペレーターに連行される。
――何を浮かれている。
まだ、頭の中で声がする。
――手に入れても、また、失うだけだ。
そうかもしれない。
――だったら!
いいや、もう決めたんだ。
「悲しみに甘えるのは、やめるよ」
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- Y11対空インパルス
戦争が懐かしい。
この大戦が始まる前に、人類同士で戦った経験がある者なら、誰でも思った筈だ。
中東の砂漠で、南欧の市街で。世界のあらゆる場所で我々は戦争に明け暮れた。
確かに、戦争は悲惨だった。
道具という体外器官と言うべき装置を生み出し、それだけを発達させてきた人間という動物が、あらゆる種類の飢餓に突き動かされて争っていたのだ。政治や主義といった精神的な飢餓もあったし、純粋に肉体的な飢餓もあったが、どちらにせよ、根本的に人間は満足というものを知らない――そういう機能が麻痺したか、あるいは欠落した動物だ。丸々と肥えて太った者と、枯れ木のように痩せ衰えた者が、互いに正義を主張しながら卑劣な手段で糧食やエネルギーを奪い合う場面が当たり前にあった。
誰も、自らが訴える飢餓の正当性を見直そうとはしなかった。問題にされていたのは、せいぜい飢餓を満たす手段が合法か否かという程度だ。
餓鬼道に堕ちた己を悔い改めたところで、誰が救ってくれるというのだ――あるかどうかも分からない救済を待つよりも、隣人を殺して肉を食った方が早いではないか――人道を説くなら、先に自らが肉を切って差し出してみせろ――そう吼え立てて同族で殺し合い食らい合う……そんな救い難い獣が何十億という数に膨れ上がり、国家という群をなして大地を覆っていた。
なるほど、人間の住まうこの世界こそが地獄なのだなと、たいした感動も絶望もなく納得したものだ。異星人がいたとしても、こんな物騒な星には絶対に関わらないだろうと。
だからだろうか、フォーリナーが襲来して巨大生物が市民を食い殺した時、自分でも奇妙なほど腑に落ちた。
コイツらこそ、人間の敵に相応しい悪魔だと。
「……調子こき過ぎたなぁ」
今となっては、自嘲せざるを得ない。
巨大生物に挟撃され、追いたてられ、台地状の丘陵に孤立して包囲された状況では。
「こちらレンジャー6-1! 本部、応答を! 本部!」
「どうせ通じやしないだろ……ティータイムじゃないか?」
「ここへの砲撃要請なら、応答があるかもな」
救援要請を試みる若い隊員に、古参兵が冗談を投げかける。実際のところ、丘の周囲を取り囲む巨大生物の大群……奴らが一定数以上集まったことで、蟻型巨大生物のモーターセルが発する電磁波が共鳴してジャミングとして機能している。スーツの通信機能ではどうしようもない。
「……奴ら、襲って来ないな」
包囲されてから十数分、理由は分からないが、巨大生物は丘の周りで蠢くばかりで一滴の酸も飛ばしてこない。
「お仲間をディナーに招待している最中なのさ」
「なるほど、メインディッシュがお前で、俺はデザートか」
「不味いデザートがあったもんだな。奴ら腹を壊すぞ」
冗談を言い合う彼らが、無表情の下にどんな感情を隠しているかは想像に難しくない。
フォーリナーは捕虜を取らない。
強酸液を浴びて溶かされるか、強靭な顎で生きたまま食われるかの違いはあったが、奴らを撃破して退路を切り開くことができなければ、一人として生き残ることはできないのだ。
人間との戦争が懐かしい。
職業軍人だろうと民兵だろうと、相手は人間だった。虐殺や収容所での不幸な死の心配はあったが、降伏すれば命が助かる可能性はあったのだ。
「畜生!」
ずっと通信を試みていた若い隊員が叫んで立ちあがる。
「もう嫌だ! なんでこんなことになっちまったんだ!? 帰してくれ! 俺を家に帰してくれよ!」
「騒ぐなッ!」
さきほど冗談を言っていた古参兵がライフルの銃床を突き出し、若い隊員の腹を打つ。防弾性のアーマースーツの上からでは怪我にもならないが、若い隊員はよろめき、尻もちをついた。
「くそ……!」
涙に濡れた目で睨みつける新兵に、古参兵は父親のような微笑みを返した。
「新入り。上を見てみな、空が綺麗だぜ」
言われて目を丸くした新兵ばかりでなく、全員が顎を上げた。
雲一つない青空が、視界を覆った。
夏の空はどこまでも高く、澄み渡り、海のように深い紺碧の天頂へと続いている。
幼き日の想い出――亡き父母の姿――無邪気に過ごした夏の日々――淡い恋の記憶――愛の哀しみ――
平和だった日々の出来事が走馬灯のように脳裏を駆け巡り、知らずに涙がこぼれていた。
確かに大戦前の世界も、結構な地獄だった。人間は救われない動物で、憎しみと悲しみに苛まれ、殺し合っていた。
だが、幸せな時間もあったのだ。不毛の荒野に咲く一輪の花のように。
大戦前のあの日も、それを守りたくて銃を取ったのだ。南欧のあの街で。相手も同じ想いを抱き、それを奪われることに怯えていただけの、鏡に映った己だとは考えもせずに……。血に汚れた手を見た瞬間から、忘れてしまっていた。
「久し振りに……よく晴れているな」
ガンシップはもちろん、陥落して火災を起こしている市街地から流れてくる黒煙もない。
完璧な蒼空だ。
「まったく、絶好の日和だ。こんな日は海岸線でバイクをカッ飛ばしたもんだ」
「独りで、か?」
「うるせぇよ」
「俺は家族と河原でバーベキューだったな。高い肉を焦がして親父に怒られたよ」
「こういう暑い日は海も悪くないですよ。火照った体で食べるカキ氷が美味かった」
戦場であることを忘れたかのように、一人一人が過去の想い出に浸り、儚い笑みを口許に浮かべる。
何のために戦うのか。
その意味を、理由を、戦士たちは己の心に尋ね、無言の内に頷いていた。
しばらくの後、赤いヘルメットの隊長が「さて」と言って余韻を打ち切る。
「小休止は終わりだ。全員聞け。状況は最悪だ。我々は包囲されて孤立し、救援の見込みもない。敵は襲って来ないが、我々を見逃すとは考え難い。増援を待っているのかもしれない。このまま現状を維持しても事態は好転しないと私は判断する。全員、装備の状態と残弾数を報告しろ」
隊員達は素早く装備を点検し、残弾を確認する。先ほどの新兵も引き締まった表情でロケットランチャーを調べている。次々に報告が上がった。
「よし。聞いた通り、我が隊の戦力バランスは保たれている。我々は、まだ充分に、戦える。プランは単純だ。集中砲火でもって敵の包囲網を一点突破、戦域を離脱、帰還する」
「今から帰れば夕食には間に合うな」
「確か、今夜はカレーだ!」
「ヒャッホゥ!」
悲愴感を漂わす者は一人もなく、出撃前の適度な緊張感を伴った空気が満ちていた。「よし!」と頷いた隊長が号令をかけ、全員が腹の底から声を出して答える。
「野郎ども! 俺たちは何だ!?」
『無敵の地球防衛軍! どんな敵も恐れない!』
ライフルに弾倉が装填される。
「俺たちの敵は何だ!?」
『根性なしの宇宙人! ケツを蹴って叩き出せ!』
ショットガンのポンプ・アクションが小気味の良い音を立てた。
「糞蟲どもが好きか!?」
『死んだ糞蟲が大好きだ!』
ロケットランチャーの発射口からカバーが外される。
「最後まで戦うか!?」
『地獄の底まで付き合います!』
手榴弾を握った拳が掲げられた。
「よしッ! レンジャー6-1! 戦闘準備!」
『サー! イエッサー!』
脱出する方位に向けて突撃隊形が組まれ、整列する。
「時限式グレネード、投擲準備よし!」
「ランチャー、射撃準備よし!」
「よし、敵先端をグレネードで吹き飛ばした後、脱出路の両側にランチャーを斉射、蜘蛛を掃討しろ。その後、斜面を一気に駆け降りる。ライフルは黒蟻を、ショットガンは赤蟻を狙え。無駄弾は使うな、進路を塞ぐ敵だけを狙え。殿(しんがり)は置き土産の時限グレネードを忘れるな」
『イエッサー!』
「負傷者は見捨てるな。しかし速度も落とすな。俺でも遠慮せず引きずって構わん」
『サー! イエッサー!』
「……GO!」
号令に従い、隊形の前衛が時限式グレネードを手放した。
着色煙を引いて斜面を転がった数個の爆裂焼夷手榴弾が一斉に起爆、丘を取り巻く巨大生物の群の一端を吹き飛ばした。黒蟻や赤蟻の四肢と胴体がバラバラになって飛び散り、包囲の輪が途切れる。
「次、撃てぇ!」
脱出路の近辺にいる蜘蛛型巨大生物へ向けてロケット弾が撃ち込まれる。十数メートルの殺傷範囲を持つ多目的ロケット弾の一発が蜘蛛の腹部を直撃。内部からの爆発で蜘蛛は跡形もなく四散し、それでも勢いを落とさない弾片が周囲の蜘蛛を切り裂いた。
「総員、突撃ッ!」
『うおおおぉ!!!』
戦士たちが咆哮し、駆け出した。無数の銃撃音が響き渡る。
「おい! まだこんなにいるのかよ!」
腰を落として急斜面を滑り降る隊員のライフルが火を噴き、高速弾の一群が強酸液を投射しようとしていた黒蟻の腹部を切り刻む。
「まったくだ! 目をつぶってても当たるぜ!」
斜面を駆け上がって来た赤蟻を、ショットガンから放たれた散弾が出迎える。赤蟻は悲鳴――被弾の衝撃で軋んだモーターセルの不協和とともに仰け反り、坂を転げ落ちて後続の赤蟻を巻き込んだ。
「EDFの勇猛さを見せる時だ!」
「糞蟲どもに思い知らせろ!」
チームは一つの生き物――狼のように巨大生物の群に襲いかかり、瞬く間に包囲網を食い破った。全員が丘陵を降り、隊形を維持したまま脱出へと移る。
「特製デザートだ……喰らいな!」
最後尾の隊員が時限式グレネードを後ろに転がした。彼の背中に喰いつこうと追って来ていた赤蟻の真下で手榴弾が爆発――粉砕したが、その死骸を踏み越えて新たな赤蟻が迫る。
続けて落としたグレネードも、同様に一匹の赤蟻を吹き飛ばすだけで終わった。
「奴ら、盾になってやがる!」
偶然ではない。他の巨大生物を庇うように、転がるグレネードに一匹の赤蟻が覆いかぶさり、被害と遅滞効果を最小限度に抑えている。その後ろで、態勢を整えた無数の黒蟻が一斉に腹部を振り上げた。
「酸が来るぞーッ!」
言い終わる前に、赤い強酸液を満たしたゼリー状の球体が無数に降り注いだ。大半は地面に落ちて弾け、耳障りな音とともに白煙を昇らせたが、幾つかは隊員を襲った。背中ならばアーマーの剥離で事なきを得たが、腕や脚に酸を受けた場合……抗酸性塗装を施されているとは言え、既に戦闘で傷ついたアーマースーツでは負傷を免れなかった。
「ぐっ!」
最後尾にいた隊員も右足首に酸を受け、倒れた。即座にアーマースーツから鎮痛剤が投与されたが、その顔は苦痛に歪んでいた。
「なに寝てやがる! 行くぞ!」
同じく殿を務めていた古参の隊員が肩を貸そうとするが、彼は手を払い除け、迫る赤蟻の群にショットガンを撃ち続ける。規則正しいポンプ・アクションと射撃の音とともに、一匹、また一匹と赤蟻が胸部――脚の接合部を砕かれて崩れ落ちる。
慣れた手つきでチューブ型弾倉にショットシェルを込めながら、彼は言った。
「隊長はああ言ったが……二人ともやられる。地獄でもお前とペアを組むのはゴメンだ。残りの武器を渡すから先に行け」
相棒の性格を知っている隊員は「わかった」と一言だけ呟き、武器を受け取った。ありったけのショットガンの弾と、一個の手榴弾を残して。
「新兵を頼むぜ」
「わかっている。じゃあな」
互いに見向きもせず、彼らは別れた。残った者がショットガンで赤蟻を退け、離れていく者が後退しながらライフルで黒蟻を狙い撃つ。
「次から次へと……!」
ショットガンを撃つ度に築きあげられる赤蟻の死骸の山が、少しずつ、彼の方に近寄ってくる。そして数メートルを切った時、一気に飛び出した赤蟻が彼を突き飛ばし、ショットガンを踏み潰して組み伏せた。すぐに無数の赤蟻が集まり、彼の姿を隠す。
一番近い赤蟻がゆっくりと体を折り曲げ、頭部を、その先端の顎を彼に向けた。
油の切れた機械が軋むような異音を立てて、牙が左右に開かれる。その奥のすり鉢状の咥内には無数の鋭い歯が不規則に並んでいた。牙に挟まれれば人間の頭などトマトのように易々と噛み砕かれてしまうだろう。
「酷ぇ臭いだな……口臭ぐらい気にしたらどうだ?」
答える訳もなく、赤蟻は顎を近づけてくる。
「ふん、腹を壊しやがれ」
目の前に迫った赤蟻の咥内に向けて、彼は既に着色煙を噴いていた手榴弾を押しこんだ。
集まっていた赤蟻の群の内部で、爆発が起こる。
「報告……1人やられました」
静かに呟いた隊員の目は細められていたが、ライフルの狙いは正確だった。
彼と同じく、先に逝った隊員をよく知っていた隊長が「野郎ども!」と声をあげる。
「生きて帰ったら、いつもの店で一杯奢ってやるぞ!」
「おおおーッ!」
「今夜が楽しみで――た、隊長!」
隊形の前衛を務めていた隊員が叫び、彼の視線の先を追った全員が悪態を吐いた。
「嘘だろ……! ヘクトルだ!」
森の木々を押し倒し、全高数十メートルに達する銀色の巨人が姿を現した。腕と足を構成する円形の駆動ユニットが鈍い音を響かせ、大気を震わせる。
「迎撃しろ! 近寄られたら終わりだぞ!」
「俺がやります!」
ロケットランチャーを担いだ新兵が膝を着いて狙いを定める。
「ま、待て!」
ヘクトルの足元に蠢く影を見つけた隊員が制止するが、遅かった。
新兵がランチャーの安全装置を解除し、まさにトリガーを絞った瞬間――100メートル以上を一気に跳躍した蜘蛛が、彼の目の前に音もなく着地した。
「う、うわ――」
悲鳴は爆音に掻き消され、新兵の姿は一瞬で爆炎に呑み込まれた。発射器から照射される測距兼安全装置用の不可視レーザーは至近距離に現れた蜘蛛型巨大生物を認識したが、コンマ数秒前にロケット弾は射出されており、起爆中止信号の発信も間に合わなかった。よくあるケースの自爆事故だ。
第2世代のアーマースーツなら至近距離の爆発でも命だけは……その希望を打ち砕くように、舞い上がった土煙の中へ向けてヘクトルのビームブラスターから熱弾が撃ち込まれる。
「くそがッ!」
「隊長! 後ろからも回り込んできます! このままでは!」
ヘクトルの登場によって部隊の速度が落ちた一瞬の隙を突いて、巨大生物の群が左右に回り込み、さらにヘクトルに随伴して来た巨大生物の群も展開し、部隊の退路は断たれようとしていた。
ヘクトルの胸部上面装甲が展開し、頭部が現れる。赤い光を発する大きな単眼の下に、三日月型の発光部分があるからだろうか。嗤っているように見える。
カラシニコフ自動小銃に似た形状の、全長20メートル以上のパルス・ビーム・マシンガンが持ち上げられ、陸戦隊に向けられる。毎分数千発の発射速度を誇る短照射光学兵器で一掃されれば、全滅は免れない。
「これまでか……!」
――最後まで諦めるな。
全員が死を覚悟した時、ヘクトルの頭部で派手な火花が散り、巨体が後退さった。
遅れて乾いた発砲音が響く。
「この音……MMF200か!」
最新の中距離狙撃用スナイパーライフルだ。
「援軍か!? どこだ!」
「…………あ、あそこだ!」
数百メートル離れた田園地帯に立ち並ぶ鉄塔に……発電所が破壊されて今は無用の長物となった送電線の鉄塔の上に小さな人影と、ライフルのスコープが反射する陽光の煌めきが見てとれた。
姿勢を崩して大きく揺らめくヘクトルの頭部へ、さらに二発、正確に弾丸が撃ち込まれた。単眼を撃ち抜かれたヘクトルは頭部を収納し、巨体を狙撃者の方へと向ける。蜘蛛や黒蟻といった巨大生物も次々と向かっていく。
あたかも敵を挑発するかのように、反射光が何度も瞬いた。
「馬鹿な! 囮になる気か!」
そうとしか思えなかった。鉄塔の人影は逃げようともせず、スナイパーライフルを連射している。数百メートルの距離などすぐに詰められてしまうし、鉄塔でも巨大生物は苦もなく登るだろう。そしてヘクトルの攻撃で……。
「援護しましょう! 隊長!」
「あれは……あの人は……!」
双眼鏡で人影を確認した隊長の声は震えていた。
「……全員、ヘクトルの後方に回り込みつつ周囲の巨大生物を掃討する」
「それでは逆方向です! 鉄塔が孤立してしまいます!」
「命令だ! 彼の作戦を邪魔する訳にはいかん! ヘクトルには攻撃するな!」
「ラ、ラジャー!」
全員が鉄塔の反対方向へと移動し始めたが、ヘクトルに続いて巨大生物の大半も鉄塔に向かっており、陸戦隊レンジャー6-1はほぼ無傷で包囲網を脱することができた。
「おいおい、どうなってんだ? 糞蟲どもに無視されてるぞ!」
「……フォーリナーも知っているんだ」
「どういうことですか、隊長」
「奴らが丘陵で我々を襲わなかった理由が分かった。我々は餌だったんだ。あの人を誘き出すためのな」
「あの人……?」
「見ていれば、分かる」
既に部隊の周辺に巨大生物の姿はなく、全員が呆然と鉄塔の狙撃者の戦いを見守っていた。
孤高の狙撃者の攻撃は怯む様子を見せなかったが、数が違い過ぎた。鉄塔の周囲は既に巨大生物に取り込まれ、赤蟻が登り始めている。
「どうしてヘクトルを潰さないんだ! MMF200なら……」
一人の隊員が言いかけた時だった。
鉄塔で変化が起こった。
鉄塔の根元から頂上部まで、鉄骨のあちらこちらで小さな爆発が連続して起こり――次の瞬間には鉄塔に張り付いていた赤蟻も、鉄塔の周囲にいた黒蟻も、跳躍して空中にいた蜘蛛さえも、ほぼ全ての巨大生物が赤い体液を撒き散らして死滅し、粉々の断片となって霧散した。
そしてヘクトルが、機体の中央に数千発の弾丸を受けたかのように、左右に真っ二つに割れて爆発する。
「何が起こったんだ……」
「クソッタレどもが一瞬で全滅したぞ」
遅れて響いた遠雷を思わせる轟音に、誰もが慄き、同じ疑問を抱いた。
「隊長、いったい何が……」
「Y11対空インパルスだ」
唖然とする隊員たちへ言い聞かせるように、隊長が赤いヘルメットを外して汗を拭いながら語る。
「クレイモアを原型にした対巨大生物用の指向性スマート地雷インパルス。あれのY11型は縦方向にボールベアリングを撒き散らす。鉄塔のあちこちと……おそらく周囲にも仕掛けておいたんだろう。鉄塔の周りにいた巨大生物は、あらゆる方向から一瞬で迫った粒弾の嵐に巻き込まれてミンチになったという訳だ」
「そんな……鉄塔自体は平然と建ってますよ! あの人影も!」
鉄塔は先ほどと変わらず健在であり、その上では武器をライフルに持ち替え、まさしく蟲の息となった巨大生物の生き残りに射撃を加えている者がいた。塔の上から、まるで裁きを下すかのように。
「あの人には、それができる。ヘクトルも進行ルートを予まれ……あるいは誘導されて、真正面から多重攻撃を受けたんだ」
「いったい……何者なんですか」
「遊撃隊、ストームチームの一員だ。かなりの高齢らしいが……」
「今、なんと?」
「いや、何でもない……帰還するぞ! 総員、整列!」
隊長はヘルメットを被り、生き残った隊員を鉄塔に向かって横一列に並ばせた。
「敬礼ッ!」
負傷者も含めて、我々は一糸乱れぬ最敬礼を孤高の戦士に送った。
遠く青空を背景に、陽光の中で、戦士の返礼を見たような気がした。
「あの人は伝説になる」
隊長が呟いた言葉の意味を、私が知ることになるのは終戦後のことだった。
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- P89バウンドガン(CvmaT72wBUさん原案・トウフウドン加筆)
巨大生物の強靭な甲殻皮をアーマーや弾丸の材料に利用する試みは、本来は「巨大生物の死骸による環境汚染の軽減」と「金属資源の調達や輸送が困難となった地域における代用資源の確保、兵器製造における低コスト化と省資源化」という目的で始まったものであり、製造不良という形で生み出されたバウンド材は偶然の産物であった
この極めて高い伸縮性を有する機能素材を採用した特殊跳躍弾、通称「バウンド弾」を発射するバウンドガンは、銃本体も低コスト・省資源化に重点を置いており、構成部品の9割以上にAFアサルトライフルの廃棄品(新造モデルの配備や性能の陳腐化によって退役した装備)を使用している。
銃本体が“再利用品”であることや、バウンド弾の癖の強さが倦厭されたこともあって、バウンドガンはAFライフルの代用品と受け取られることが多く、物資や装備の豊富な北米戦線などでは「Poor-man’s Gun」という不当な評価を受けた。
確かに統合性能ではAFアサルトライフルに劣るバウンドガンであるが、複数回跳弾しても威力が失われない弾丸は、閉所空間への突入前の予備制圧に(少なからず危険であったが)有効であった。
基本性能においては、同クラスのAFアサルトライフルの約2倍近くの有効射程を示している。これは銃機構に特別な働きがある訳でも炸薬が強力な訳でもなく、バウンド素材が有する「受けた運動エネルギーを、材質の膨張によって高効率で熱エネルギーに変換する」という性質によるものである(なお、発砲時の熱をバウンド弾が奪っていくため、バウンドガンは通常のライフルに比べて加熱による銃身の損耗が抑えられている)。
「高速で硬質の物体に衝突すると、受けた運動エネルギーを熱に変換・蓄積して急激に膨張し、一瞬で伸長限界に達した後に収縮、衝突した物体に強烈な反動を与える」というのがバウンド弾の跳ねる仕組みであるが、この特性は弾丸の飛翔性能についても影響を及ぼすものである。
大気中を移動する物体は、進行方向から抵抗を受ける。この抵抗を減ずるために弾丸の弾頭は円錐形をしており(先端を鋭くすることで貫通力が増すという経験則は弓矢の時代から存在したが、大砲は長らく大口径化……質量弾の大型化で破壊力を増すという思想に囚われており、速度と破壊力の相関性が重視されるまでに時間を要した。この影響を受けて15世紀のハンドキャノン以降、19世紀半ばに開発されたミニエー弾に至るまで長らく銃弾も球形であった)、当然のことながらバウンド弾の弾頭もライフル弾同様の細長い円錐形をしているが、この弾丸は形状の変化によって飛翔性能を増すことが確認されている。
発砲時、炸薬の燃焼ガスによって撃ち出される過程でバウンド弾は熱を蓄積して膨張し始め、銃身の内径に達した後、前方に伸び始める(爆発の圧力によって膨張するのは通常弾も同様であり、銃身の内径に密着することでライフリングが機能して旋回運動が発生する。ただしバウンド弾の場合は膨張率と圧力が非常に高く、製造の性質上、品質も一定ではないため、バウンドガンの銃身内径には余裕がもたされ、ライフリングの溝は通常よりも深くなっている。滑腔砲であるバウンドショットも同様であり、燃焼ガスの漏失によって威力は低下するが、最悪の場合、銃身の破裂によって射手が死傷する恐れがあるため、バウンド弾の加工精度が向上した現在でも同様の措置が取られている)。これに旋回運動の遠心力が加わることで弾丸は中程から尾部にかけてより膨らみ、先端部が鋭く伸長していく。この時点でバウンド弾は管楽器の先端を逆さまにしたような、内孤を描いた円錐形に変化しているが、銃口を出て後方からの燃焼ガスの圧力が消えると、円く拡がっていた尾部が収縮し、正面からの空気抵抗によって側面部が押し潰されて細長い形へと姿を変える。
これは戦車の滑腔砲から撃ち出されたAPFSDS(Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot:装弾筒付翼安定徹甲弾)が装弾筒を脱ぎ捨てるのと同じで、口径相当の射出力を確保しながら、最少の空気抵抗で飛翔することができる。
また発砲時の高熱高圧に曝されたバウンド弾の内部では一部が流体化しており、段階的な形状変化が起こるにも関わらず重心と中心線は安定し、ヨーイングの発生が抑制されるため、同クラスのライフル弾に比べて直進飛翔距離――射程が飛躍的に向上している(ただし銃口を出た直後の形状変化によって進行ベクトルが変化することは抑えられず、その方位も一定ではないことから集弾性は低下しており、銃本体の改良による精度の改善も困難となっている)。
・・・
以上のバウンド弾の特性からすれば、P89バウンドガンに使用されているB08弾は例外中の例外であり、詳細に述べれば全く別種の弾丸と言うべきものである。
P89バウンドガンはAF20の部品を使用しておい同様の連射性能を有するが、射程は半分の90メートルであり、それまでのバウンドガンの平均射程約260メートルの3分の1程度に留まっている。
なによりも、秒速2メートル程度の極超“低”速性が特徴である。
「飛ぶ」というよりは「漂う」と表現すべき前代未聞の特殊弾は、もとは決戦要塞X3の近接防御兵装の1つとして開発されたものである(大量の低速炸裂弾を全方位に撃ち出して弾幕を張るというものだが、ガンシップを撃ち落とすというよりは、接近を阻む“壁”の構築を目的とした装備であり、発想としては機雷や阻塞気球に近いものであった)。
B08弾に使われているバウンド素材B08は他とは異なり、赤蟻の甲殻皮のみを使い、さらにマイロマシンによる分子レベルでの合成デザインが施されており、製造コストは増しているものの、さらに特殊な機能を獲得している。
B08は、従来のバウンド素材に比べて運動エネルギーの熱エネルギー変換効率および蓄積容量が大幅に増しているのである。
具体的にはST型AFアサルトライフル専用の高性能炸薬の燃焼エネルギーをほぼ完全に吸収する程である(かのAF99STの緩衝装置の一部にB08が使用されているのはこのためである)。また弾丸内部の流体化を促進することで伸縮作用の遅延にも成功しており、受けた運動エネルギーを長時間に渡って熱エネルギーとして蓄えることができる。
そして添加剤を加えたことで弾丸内部の流体層には水素ガスが発生しており、僅かながら浮力が発生している。これによって約11グラムのB08弾は銃口を出た後に緩やかに漂うことなる(浮力は極めて微小のものであり、気温や気圧といった気象条件に左右されるものの、基本的にB08弾は撃ち出される際の余剰圧力――吸収し切れなかった僅かな力によって直進する)。
淡い光を発して漂う楕円形の弾丸は、一見して空中を泳いでいるかのようであり、風船のごとく無害に見えるが、一発当りMG10と同等の破壊力を有する致死性兵器である。言わば高エネルギーを蓄えた爆弾のようなものであり、そのままでは跳ね返ることなく触れただけで破裂してしまうが、この問題は弾殻層にスマートスキンを使用することで解決している。
マイクロマシンで構成された厚さ2マイクロミリのスマートスキンは、本来はバウンド弾がヘクトルのような硬質の目標に跳ね返るのを防ぐための起爆装置として開発されたものであり、接触した対象の分子構造パターンを識別して機能する(これによって他のバウンド弾と同じく、B08弾も地形に反射し、閉所では無秩序軌道が交錯する“壁”を作ることができる。ただしアーマーの一部に巨大生物の甲殻やガンシップやヘクトルのフォーリニウムを用いた装備や施設に対しては敵味方識別が機能しないため、誤射の危険に注意を払う必要がある)。
目標に着弾するとスマートスキンのマイクロマシンが接触面を一瞬で浸食し、甲殻皮や活性状態フォーリニウムの対熱衝撃防御性を著しく低下させる。そして弾殻の固体バウンド材は弾丸の中心部に向けて収縮するように設計されており、この圧力と蓄えていた熱エネルギーの開放によって、高熱の流体を目標の内部に高速で噴出して加害する。AF20で使用されているR3F高速徹甲弾の2倍以上の破壊力は、このHEAT弾(成形炸薬弾頭弾)に似た効果によるものである(半ばジェット流となって侵入した流体は急速に固体化し、バウンド材の断片となってあらゆる方向に跳ね回り、体組織を修復不可能な状態にまで切り刻む。MG10手榴弾が内部で爆発するようなものであり、生身の人体を直撃した場合は極めて凄惨な様相を呈するため、大戦後もEDF以外の警察および軍組織では使用を規制されている)。
一時はR3F弾に匹敵する高性能弾薬として注目され、上位級目標に対しても通用するように高速化を……つまりさらに強い力を加えて通常弾と同程度の速度で発射し、運動エネルギーと内包した熱エネルギーの相乗効果で威力の倍増を試みられたが、発砲時に一定以上の圧力が加わるとスマートスキンの働きも虚しく銃身内で破裂してしまうという結果に終わり、実現されなかった。
大戦後期の開発ということもあり、少数精鋭部隊のための主力兵器の製造が優先されたこともあって生産数は少なく、大戦後の人工バウンド材においては赤蟻甲殻皮の再現はコストが高く、2018年のEDF再建計画では一部の特殊作戦班に配備されるに留まった。
特殊素材B08自体は、高性能ライフルの緩衝装置やアーマースーツの素材として研究が続けられ、大戦後は高く安定した衝撃および熱吸蔵力が注目されて大深度地下施設の建材や航宙機のデブリバンパーとして活用されている。
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