株主資本主義(英:Shareholder Capitalism)とは、企業の経営に関する思想の1つであり、国家の経済体制に関する思想の1つである。株主至上主義(英:Shareholder Supremacy)ともいう。
反対の概念はステークホルダー資本主義である。
概要
定義
株主資本主義については2つの定義をすることができる。
性質その1 財産権の尊重
株主資本主義は、企業の税引後当期純利益を最大限にする思想であり、企業が倒産して株式が無価値になる可能性を減らす思想であり、株主が株式に対して持つ財産権を尊重する思想である。
財産権とは日本国憲法第29条で保障されている基本的人権であり、経済的自由権の中核を成すものである。ちなみに財産権には物権と債権と知的財産権の3種類があるが、株主が行使している財産権は物権であり、物権のなかの所有権である。
性質その2 税引後当期純利益を増やして配当金の増加を追求する
株主資本主義は企業の経営をするにあたって税引後当期純利益の最大化を追求すべきと考える思想である。
ある期の企業において税引後当期純利益が○円発生すると、期末の貸借対照表において純資産の部の中の「その他利益剰余金」の数字が○円増え、資産の部の数字が増えたり負債の部の数字が減ったりする。資産の部の増加分と負債の部の減少分の合計額が○円になる。
企業の「その他利益剰余金」が増えると、株主への配当が増えやすくなる。企業は「その他利益剰余金の見合いとなる資産」を原資として株主への配当金を出すことが通常であるからである。企業が資産の部の銀行預金の数字と純資産の部の「その他利益剰余金」の数字を同じ額だけ減らして[1]、銀行振り込みで株主に配当金を支払う。
性質その3 税引後当期純利益を増やして株価の上昇を追求する
株主資本主義によって企業の「その他利益剰余金」が増えると、「あの企業の株式は安定的な配当をもたらす」と投資家に思われるようになり、長期金融市場の中の株式市場においてその企業の株式への買い注文が増える可能性が高まり、その企業の株式の価格(株価)が上がる可能性が高まる。
もし株価が上がったら、その株式を保有している株主の利益が増える。株主が時価会計主義で財務諸表を作っている場合、期末において保有する株式の株価が購入価額よりも上がっていたら、有価証券評価益という収益を計上し[2]、貸借対照表で資産の部における有価証券の金額を増やすので、「株主が利益を得て富を増やした」と表現することができる。株主が簿価会計主義で財務諸表を作る場合、期末において保有する株式の株価が購入価額よりも上がっていたとしても、収益を計上するわけではなく、貸借対照表において資産の部における有価証券の金額を増やすわけでもないが、「株主が含み益を得て実質的に富を増やした」と表現される。
このため「株主資本主義というのは企業の経営をするにあたって株価の上昇を追求する思想である」と言い換えることもできる。株主資本主義・株主至上主義は、株価資本主義とか株価至上主義ということもある。
株主資本主義が幅をきかせる国では政治家がそれに染まり、株価の上昇を最優先するようになり、株価が上昇すると「経済が成長して発展し、すべてが良くなった」と満足する傾向にある。株価というのは経済の様子を示す指標のうちの1つに過ぎないのだが、とにかく株価に偏重して株価に一喜一憂する。
株主資本主義が幅をきかせる国では市場関係者もやたらと強気になり、「政府というのは株価を上げるために存在する」と本気で考えるようになる。従業員に対する給与が増えて企業の税引後当期純利益が減って株主の配当金が減って株価が下がっていくように誘導する政策を政府が提案したら、「そんなことをしたら株価が下がる!そんな政策をする国がどこにあるのか」と市場関係者が猛抗議する。
経済学者が経済の状況を測定するときに最も頻繁に使う経済統計は、実質GDPとインフレ率と失業率の3つである[3]。そして経済学者はその3種類の中でも実質GDPを最も重視する[4]。つまり、株主資本主義に染まって株価を最も重視する政治家や市場関係者は、経済学の基本を完全に無視しているわけである。
性質その4 「倒産しにくく永続しやすい企業」の出現
A期において税引後当期純利益を○円発生させた企業は、A期末の貸借対照表において資産の部の数字を増やしたり負債の部の数字を減らしたりしつつ純資産の部の「その他利益剰余金」を○円増やし、自己資本比率を高め、「倒産しにくく永続しやすい企業」に近づいていく。
企業は、A期において稼ぎ出した「その他利益剰余金」の全額を翌B期において株主に対する配当金にして自己資本比率を元通りに下げてしまうこともあるが、そこまでする企業は少数派といえる。多くの企業は、A期において稼ぎ出した「その他利益剰余金」の一部だけを翌B期における株主に対する配当金にして、自己資本比率がA期末よりも高い状態を維持する。
このため、「株主資本主義とは、企業の経営をするにあたって自社を『倒産しにくく永続しやすい企業』に近づけていくべきと考える思想である」と理解することはおおむね正しいと言える。
やや大袈裟な表現にすると「株主資本主義というのは企業に永遠の生命を吹き込もうとする思想である」となる。秦の始皇帝は自らを不老不死の生命体にしようとしたが、株主資本主義者も企業を不老不死の存在にしようとする。
株主資本主義を弱体化させるような政策を耳にしたときの株主資本主義者は、「そんなことをしたら投資家が日本の株式市場から資金を引き揚げ、株価が下がる!」と猛抗議するのが常である。この抗議をさらに詳しく分析すると「そんなことをしたら投資家が日本の株式市場から資金を引き揚げ、株価が下がり、企業が公募増資で『返済が不要な資金』を調達することが難しくなり、銀行からの借り入れや社債の発行で『返済が必要な資金』を調達するはめになり、企業の負債が増え、自己資本比率が下がり、債務超過リスクや倒産リスクが高まる!」ということになる。
企業の負債が増えることや倒産リスクが高まることを極端に恐れる心理のことを負債恐怖症とか倒産恐怖症という。そうした負債恐怖症や倒産恐怖症が株主資本主義を生み出す。
株主資本主義を貫徹して企業の倒産が少なくなった社会は労働者の賃金が少ない社会であり、企業の売上が伸びにくい社会であり、企業が創業しにくい社会であり、企業が滅びにくく企業が生まれにくい社会である。
一方でステークホルダー資本主義を貫徹して企業の倒産が多くなった社会は労働者の賃金が多い社会であり、企業の売上が伸びやすい社会であり、企業が創業しやすい社会であり、企業が滅びやすく企業が生まれやすい社会である。そういう対比の視点を持つと負債恐怖症や倒産恐怖症を解消することができ、株主資本主義が生まれにくくなる。
性質その5 企業を宗教法人に近づける
株主資本主義を支持する企業経営者が目標とする「倒産しにくく永続しやすい企業」は、宗教法人とよく似ている。
日本を含む多くの国々において宗教法人は、宗教活動で得られる法人所得に対して法人税0%の優遇措置を受けていて、宗教活動に伴って作成する損益計算書[5]の税引後当期純利益を増やしやすい存在になっており、宗教活動に伴って作成する貸借対照表の資産の部の数字と純資産の部の数字を同時に増やして自己資本比率を高めやすい存在になっており、「倒産しにくく永続しやすい団体」になっている。
株主資本主義が徹底されて法人税が0%になった国における企業と、多くの国々における宗教法人は、全く同一の存在ではないが[6]、倒産しにくく永続しやすいという点で非常によく似た存在である。
つまり、株主資本主義というのは、企業を宗教法人に近づけようという思想である。
宗教法人というのは神秘的な存在で、人々の心のよりどころになり得る存在である。世界各国で宗教法人の「宗教活動で得られる法人所得」が非課税になっている理由の1つは、「宗教法人を倒産しにくく永続しやすい団体にすれば、人々の心のよりどころが社会の中で生き続けるので人心が安定する」というものである。
一方で、企業というのは特に神秘的なところがなく極めて世俗的な存在で、人々の心のよりどころになることが少ない存在である。
本来の性質から考えると、宗教法人と企業は全く似ておらず、遠く離れた存在である。株主資本主義の支持者の行動は無理で不自然な行動といえる。
性質その6 「カリスマ経営者」の出現
株主資本主義が主導権を握る国では、成功した企業経営者を神か仏のように褒め讃えて神格化して「カリスマ経営者」に祭り上げる社会的風潮が定着する[7]。
そういう風潮が定着することにより、もともと神秘性をもっていない企業に神秘性が強引に付加され、企業を宗教法人のように扱うことが許される世相になり、株主資本主義がさらに広まっていく。
ちなみに、反・株主資本主義の支持者は、つまりステークホルダー資本主義の支持者は、企業経営者を神格化して「カリスマ経営者」に祭り上げることを好まず、「企業が上手くいくのは経営者と労働者のチームワークのおかげだ。経営者を『カリスマ経営者』と扱って過剰にもてはやすのは良くないことだ」と苦言を呈する傾向がある。
性質その7 法人税の間接税化
株主資本主義が極めて優勢な国において法人税を増税すると、企業が税引後当期純利益を確保することを最優先するようになり、法人税の分を上乗せした価格で商品を販売して消費者に負担を転嫁したり、法人税の分だけ賃金を減らして労働者に負担を転嫁したり、法人税の分だけ「協力企業に払う費用」を減らして協力企業に負担を転嫁したりする。つまり、株主資本主義が極めて優勢な国では法人税が直接税ではなく間接税になる。このことについて詳しくは直接税の記事を参照のこと。
性質その8 業務の量的改善や費用を減らすことを好む
株主資本主義は企業の経営をするにあたって税引後当期純利益の最大化を追求すべきと考える思想である。そして、企業の税引後当期純利益を増やす方法として次の6つが考えられる。
企業会計をごく簡単に説明すると次のようになる。商品を消費者に売って売上金という収益を稼ぎ、収益から労働者に払う費用や協力企業に払う費用といった様々な費用を引いて税引前当期純利益を出す。税引前当期純利益から法人税を引いて税引後当期純利益を出す。
1.を追求するには、開発部門における商品の斬新な設計とか、生産部門における優秀な工具の調達とか、営業部門における効果的な広告宣伝のノウハウといった専門的な知識が必要である。「経営と所有の分離」が行われた企業において1.を追求すると、株主にとって何が何だかわからないレベルの話になりがちであり、株主は黙って経営者のいうことを聞くしかなく、「物言わぬ株主」「黙りこくった株主」になるしかない。
1.は、株主資本主義者にとって非常に好ましくない方法である。1.を追求する場面では専門的な知識を持っている労働者たちが主導権を握るようになり、労働者の発言力が上がってしまう。そして、労働者が「我々には経営に口出しする資格があるのだ」と自信を持つようになり、労働者が「労働三権を行使し、経営の管理と運営について意見を出そう」と考えるようになり、「物言う労働組合」が出現してしまい、株主の発言権が弱体化してしまう。
3.や6.は株主資本主義者にとって好ましいものだが、なかなか簡単に実現できない。3.は独占の地位を築いてある場合なら容易であるが、そうでない場合なら難しい。6.はいわゆるレントシーキングであるが、多くの国会議員を説得せねばならず、難しい。
2.や4.や5.は株主資本主義者にとって非常に好ましい方法である。2.や4.や5.を追求するときはたいして専門的な知識を必要としない。「経営と所有の分離」が行われた企業において2.や4.や5.を追求するとき、株主にとって十分について行けるレベルの話になりがちであり、株主は大いに発言権を行使することができ、「物言う株主(アクティビスト activist)」になることができる。
以上のことを踏まえつつ、企業の税引後当期純利益を出す6つの方法を分類すると次のようになる。
方法 | 性質 | 方針 |
1.商品価格を維持しつつ業務の質的な改善をして多くの消費者に商品を売って収益を増やす | 株主にとって理解しにくい話になりがちである。労働者の発言力を高めて「物言う労働組合」を生みだしてしまう危険がある | 株主にとってできれば回避したい |
2.商品価格を維持しつつ業務の量的な改善をして多くの消費者に商品を売って収益を増やす | 株主にとって理解しやすい。「物言う株主」を生みやすい | 株主にとって優先的に実践したい |
3.商品価格を釣り上げて売上金という収益を稼ぐ | 独占の体制を築き上げることが難しく、実現が難しい | 株主にとって実践したいが困難である |
4.労働者に払う費用を減らす | 株主にとって理解しやすい。「物言う株主」を生みやすい | 株主にとって優先的に実践したい |
5.協力企業に払う費用を減らす | 株主にとって理解しやすい。「物言う株主」を生みやすい | 株主にとって優先的に実践したい |
6.国会議員に影響力を与えて法人税を減税する法律を立法させる | 多くの国会議員を動かすことが難しく、実現が難しい | 株主にとって実践したいが困難である |
株主資本主義者の得意技である2.や4.や5.については、本記事において章を設けて詳細に解説する。業務の量的な改善をして収益を増やすの章と、労働運動を抑制して労働者に払う費用を減らすの章と、公務員の人数や給与を減らして労働者に払う費用を減らすの章と、協力企業に払う費用を減らすの章を参照のこと。
性質その9 「今日の費用は明日の収益」という発想をしない
株主資本主義者は企業の経営において労働者に払う費用や協力企業に払う費用を削ろうとする傾向が非常に強く、費用というものを毛嫌いする傾向がある。
株主資本主義者は「今日の費用は明日の収益」という発想をしない。「労働者に給料を払うと、その労働者が我が社の商品を買って、我が社の収益が上がる」とか「協力企業に給料を払うと、その企業の労働者の給料が増え、その企業の労働者が我が社の商品を買って、我が社の収益が上がる」という発想をしない。
株主資本主義者は長期的な視野でものごとを考えるのが苦手な傾向にある。
1970年代にアメリカ合衆国で台頭
株主資本主義は1970年代頃になってアメリカ合衆国で台頭した思想である。「1960年代までのアメリカ合衆国において株主資本主義は一般的ではなかった」と指摘されることがある[8]。
ときおり「株主資本主義は所有権の絶対性を尊重するので資本主義の本来の姿である。欧米では株主資本主義が一般的なのに、日本は株主資本主義を受け入れていない。ゆえに、欧米は資本主義を理解していて優れており、日本は資本主義を理解せず劣っている」という煽りをして、日本人の欧米コンプレックスを上手に刺激しつつ株主資本主義を賞賛する者が現れるが[9]、その主張は疑わしい。
親和性の高い思想
新自由主義(市場原理主義)という経済思想がある。新自由主義で絶対的に尊重される自由貿易に対応するためには株主資本主義を導入して企業の体力を高めて安価な製品を生産できるようにする必要がある。また、株主資本主義を貫徹するには自由貿易をすることが好都合であり、新自由主義が流行することを必要とする。つまり新自由主義の国では株主資本主義を必要とするし、株主資本主義の国では新自由主義を必要とするのであり、株主資本主義と新自由主義は一体不可分の間柄である。
成果主義や能力主義という賃金体系に関わる思想がある。これらの思想は使用者の権力を大きく高めて労働者の相対的立場を低下させる効果がある。株主という使用者の権力を重視する株主資本主義とは非常に親和性が高い。
優生学(優生思想)という思想があり、優れた者の生殖を奨励して劣った者の生殖を奨励しないという内容を持つ思想である。この優生学は成果主義や能力主義の終着点と言うべき思想である。成果主義や能力主義の極端な例は、劣った労働者にごくわずかな給料を与えて結婚できないほどの生活に追い込み、優れた労働者に高額の給料を与えて結婚を奨励するというものである。そして株主資本主義の国では成果主義・能力主義の賃金体系を導入することが大いに肯定される。ゆえに優生学は株主資本主義との親和性が高いと言える。
自助論という論理がある。その論理を主張する書籍で最も有名なものは自助論(サミュエル・スマイルズ)である。自助論というのは「人には自助ができる能力がある」という論理であるが、その論理から「人は貧しくても自助をすることで十分に生きていける」という気分が派生する。そして、そうした気分は、労働者の賃下げを実現したがっている株主資本主義者にとって極めて好都合なものである。株主資本主義者の中には自助論(サミュエル・スマイルズ)を絶賛するものがいる。
自然率仮説という経済学の仮説がある。「需要を増やしたら短期的に実質GDPが増えるが長期的には実質GDPが増えない」という内容の仮説であり、政府が公務員を増やして需要を増やす景気刺激を否定する効果がある。政府が公務員の雇用を増やすことで労働需要を増やして労働者の賃金を高めることを否定したい株主資本主義者にとって、自然率仮説はとても都合の良い仮説である。
業務の量的な改善をして収益を増やす
管理職労働者に長時間労働を要求する
株主資本主義者は、企業経営者などの管理職労働者に対して長時間労働を要求することを好む。
労働基準法第32条で労働者の法定労働時間が定められ、同法第34条で労働者の法定休憩が定められ、同法第35条で労働者の法定休日が定められている。しかし、同法第41条第2号で「管理職労働者には法定労働時間・法定休憩・法定休日が適用されない」としている。
株主資本主義者が管理職労働者に対して「もっと長時間労働をしろ。さもないと自由貿易で敗北してしまうぞ」と上から目線で長時間労働を要求するのは見慣れた光景である。
管理職労働者に同一の賃金を払いつつ長時間労働を強いることは、管理職労働者の時間あたり給料を削減することになり、実質的な賃下げとなる。
株主資本主義者は「長時間労働の鞭」を擬人化したような存在である。株主資本主義者が歩くところは長時間労働の嵐が激しく吹き荒れる。
株主資本主義が優勢となる時代では、狂ったように長時間労働をする管理職労働者が出現する[10]。
株主資本主義者は「我慢して長時間労働の痛みに耐える管理職労働者」を心から愛する傾向にある[11]。
外発的動機付けで労働意欲を刺激し、管理職労働者を長時間労働に向かわせる
株主資本主義者が管理職労働者に対して長時間労働を要求するときは、成果主義・能力主義の賃金体系を導入したり、所得税・相続税・贈与税の累進課税を弱体化させたり、相続税・贈与税を無税にさせたりして、外発的動機付けを掛けてインセンティブを与えることが常である。
株主資本主義が盛んな国では相続税や贈与税が無税になった国も多い。そうなると世の中の父親・母親が「子どもに多くのお金を相続させるため、目一杯働いて高額所得を得よう」と考えるようになり、世の中の父親・母親の労働意欲が強烈に刺激される[12]。
株主資本主義者は、「長時間労働をして成果が上がれば金銭が転がり込む」と管理職労働者に訴えかけて管理職労働者の労働意欲を刺激することを好む。「才能を発揮すればするほどガッポガッポと稼げる夢のある社会を作り上げる」「才能を発揮する人に夢を見せる」といったふうに才能や夢という綺麗な言葉を織り交ぜて語りかけ、管理職労働者の金銭欲を強烈に刺激し、労働意欲を刺激する。
株主資本主義者の中には、「所得税累進課税や年功序列の給与体系によって、頑張った人が痛めつけられている」とか「頑張った人が報われていない現状を変えて、頑張った人が報われる社会を作ろう」とか「頑張る人が足を引っ張られている現状を変えて、頑張る人が足を引っ張られない社会を作ろう」という言い回しを非常に好む。いずれのスローガンも、「自分は頑張っている」と信じている人の被害者意識を強く刺激するものであり、わりと扇情的な言い回しである。このような扇情的な言い回しをして人々を感情的にさせ、人々が感情の赴くままに所得税累進課税や年功序列の給与体系を弱体化させていくように誘導する。
「怠け者」とレッテル張りして罵倒し、管理職労働者を長時間労働に向かわせる
株主資本主義者が管理職労働者に対して長時間労働を要求するときは、長時間労働を拒否したときに「怠け者」と罵倒して相手の名誉を破壊して負の外発的動機付けを掛けて負のインセンティブを与えることも行う。
株主資本主義者は勤勉を深く愛するがゆえに「とことん」「徹底」「どこまでも頑張る」という言い回しを非常に好み、怠惰を激しく憎むがゆえに「ほどほど」「適度」「無理のない範囲で」という言い回しを非常に嫌う。
そして株主資本主義者は労働意欲を抑制する人に対して「衰退する、ダメになる、発展途上国に追い抜かれる、先進国から脱落する」といった警告をして、「君は衰退の原因を作る怠け者である」と述べ、名誉を破壊する。
人は1日24時間のなかの3分の1にあたる8時間程度を睡眠にあてる生物であり、本質的に「怠惰」を必要とする生物なのだが、論戦に臨む株主資本主義者はそのことを都合良く忘れて「自分は勤勉であり全く怠惰ではない」という態度で振る舞う。
管理職労働者を長時間労働に向かわせることで平社員にも長時間労働をさせる
株主資本主義者は管理職労働者に長時間労働を強いる。そうなると、その企業において平社員(非管理職労働者)も管理職労働者の影響を受け、長時間労働に付き合わされることになる。
どの企業であっても、上司が長時間労働すると自然に部下もその長時間労働に巻きこまれてしまう。
株主資本主義の国においては労働者の賃金が下げられるので、平社員に対して残業を依頼しやすい状況となっている。株主資本主義の国では、企業側が平社員に対して気軽に残業を依頼し、平社員が「給料が安すぎるので残業をして稼がないと食っていけない」と判断してその依頼を受け入れ、長時間労働が増えていく。
長時間労働の短所を意識せず、長時間労働を肯定する
株主資本主義者が好む長時間労働には短所がある。
外発的動機付けを掛けて労働意欲を刺激して「仕事すればするほど、お金が儲かる」と思いこませると、「休暇を取っている場合ではない、空いた時間をすべて仕事に注ぎ込もう」という仕事中毒(ワーカホリック)の心理状態となり、長時間労働が増えていく。そうなるとその労働者は過労となって健康を害することになるし、その労働者の家庭崩壊を招く危険もある。
株主資本主義者は長時間労働の欠点を意識することを苦手としており、「労働しすぎたら疲労が蓄積して肉体や精神が壊れてしまう」と考えることを苦手としている[13]。
覚醒剤を使用すると疲労が解消し、どれだけ長時間労働しても疲労を感じなくなる[14]。長時間労働の副作用を意識することが苦手な株主資本主義者と、覚醒剤を使用する人には、共通するところがある。
内発的動機付けで労働意欲を刺激して長時間労働に従事させることは行わない
株主資本主義者は、内発的動機付けで労働者の労働意欲を刺激して長時間労働に従事させることを行わない傾向にある。内発的動機付けとは、相手に「○×という行為をしたら他の誰かに感謝されて自分の有能さを実感できる」と確信させて、相手が○×という行為をするように誘導することをいう。
企業の管理職労働者や平社員に対して内発的動機付けを掛けるには、その企業の営業部門の労働者の力が必要である。つまり、営業部門の労働者が顧客のところに通い、顧客の感謝の発言をしっかりと収集して、そうした情報を管理職労働者や平社員に対して報告することで、内発的動機付けが掛かる。
一方で株主は企業の顧客のところに足繁く通う能力が無く、企業の顧客が発する感謝の声を収集する能力が無く、企業の労働者に内発的動機付けを掛ける能力が無い。特に経営と所有が分離した企業における株主は、内発的動機付けを掛ける能力が非常に弱い。
企業の労働者に内発的動機付けを掛けるという手法をとると、営業部門の労働者の発言力が増し、株主の発言力が減る。ゆえに株主資本主義者は内発的動機付けという手段をとって企業労働者に長時間労働をさせることができない。
労働運動を抑制して労働者に払う費用を減らす
株主資本主義者は、労働運動を抑制して労働者に払う費用を減らすための手段を豊富に持っている。
ここでの労働運動は労働者が使用者に賃上げを要求する行為のすべてを指し、労働三権を行使する本格的なものも含むし、上司に給料の安さを愚痴るという簡易的なものも含む。
1. 労働者を罵倒して労働者の自信を破壊して労働運動を抑制する
株主資本主義者が労働者に支払う人件費を削るときに真っ先に行うことの1つは、労働者を罵倒して労働者の自信を破壊し、労働者が賃上げを要求する気持ちを起こさないようにすることである。
人というのは自信を持つと賃上げを要求するようになる。株主資本主義者にとって、労働者の自信を破壊するのは重要な課題である。
株主資本主義者が労働者の自信を破壊する時に使う言い回しの1つは「株主や経営者はリスクを負っており、檻の外で剥き出しの自然に立ち向かっており、勇気があり、優秀な存在である。一方で労働者はリスクを負っておらず、安全な檻の中で餌をもらってる家畜で、勇気がなく、劣った連中である」というものである。労働者への軽蔑感情を全開にした言い回しであり、階級社会の意識が強く表れた言い回しであり、階級闘争そのままの言動である。
労働者に対して「君たちは株主や経営者とは身分が違うのであり、対等に話をする権利がない」という言動をすることもある。2004年日本プロ野球再編問題の際に渡邉恒雄が「ふん、無礼な事を言うな。分をわきまえなきゃいかんよ。たかが選手が。『たかが選手』ったって立派な選手もいるけどね。オーナーとね、対等に話する協約上の根拠が一つも無い」と言い放った(動画)。渡邉恒雄の「たかが選手が」という言葉は、株主資本主義者の「たかが労働者が」という心理を代弁するような言葉である。
株主資本主義者はTPPやRCEPのような自由貿易協定を締結して自由貿易を促進することがある。自由貿易により、高賃金の国の企業は低賃金の国の企業との競争にさらされることになり、高賃金の国の企業において経営者が労働者に対して「君たちは低賃金の国の労働者と同じ仕事をしているのに高賃金をもらっている」と罵倒することが可能になる。つまり自由貿易によって労働者を罵倒して労働者の自信を破壊することができる。
2. 労働組合を罵倒して労働三権の行使を抑制する
株主資本主義者が人件費を削ろうとするとき、常に激しく抵抗するのが労働組合(労組 ろうそ ろうくみ)である。株主資本主義者にとって労働組合というのは目の上のたんこぶのように邪魔な存在である。
株主資本主義と労働組合は水と油のように相性が悪いので、「株主資本主義が勃興する時代では労働組合が弱体化し、株主資本主義が抑制される時代では労働組合が強力化する」という関係性がある[15]。株主資本主義が隆盛を誇る時代で急速に発展した巨大IT企業4社のGoogle、Amazon、Facebook、AppleをGAFAと呼ぶが、2020年12月の時点でどこも労働組合を持っていなかった[16]。
株主資本主義を信奉する企業経営者が労働者に対して「もし労働組合を結成したら職場において不利益を与える」と脅して労働組合を結成することを妨害したら、日本国憲法第28条や労働組合法第7条に違反したことになり、労働委員会の救済命令を受けることになる[17]。こうした手段は不法な行為と言える。
このため株主資本主義者は、労働組合に対して罵倒の限りを尽くし、労働組合に対して汚いイメージをなすりつけ、人々が労働組合を嫌悪するように誘導し、労働者が労働組合を結成する気を起こさないようにする傾向がある。そうした手段なら合法である。
株主資本主義者は「労働組合を結成して労働組合の助けを得て労働するのは自立しておらず、依存心が強く、寄生しており、スネかじりであり、甘ったれである」とか「労働組合を結成せず労働組合の助けを得ずに労働するのは自立しており、依存心が少なく、自活しており、自分の足で立ち上がっており、自分に厳しくて立派である」と言うことがある。これは、甘ったれへの軽蔑心を持つ人や、「自立している人と思われたい」という名誉欲を持っている人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。特に、「親から自立したい」という願望が強い傾向のある10代の若者によく効く。
株主資本主義者は「労働組合を結成して1つの企業にしがみつくのは格好悪い生き方で、みっともない生き方で、往生際が悪い生き方で、見苦しい生き方で、ダサい生き方である」とか「労働組合を結成せず他の企業に転職するのは格好いい生き方で、体裁がよい生き方で、いさぎよい生き方で、見ていてすがすがしい気分になる生き方で、イケている生き方である」と言うことがある。これは、「格好いい人と思われたい」という名誉欲を持つ人や美意識を持つ人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。体裁ばかり考えてダサい者を嫌悪する傾向がある10代~20代の若者によく効く。
株主資本主義者は「労働組合の主張に従うと日本の国際競争力が落ち、日本が発展途上国に転落する」と言うことがある。これは、社内などで競争に明け暮れていて敗北や転落を恐れる心を抱えている人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。特に、組織の中で出世競争に明け暮れている傾向がある30代~40代の者によく効く。
株主資本主義者は「労働組合を結成するのは時代の流れに合っておらず、時流に乗ることができておらず、古い時代の感覚に凝り固まっており、時代遅れであり、新しい時代に対応できていない」とか「労働組合を結成せず一人で生きるのは時代の流れに合っており、時流に乗っており、古い時代の感覚からしっかり脱却しており、最先端の生き方であり、新しい時代に対応できている」と言うことがある。これは、時代遅れの生き方をする人への軽蔑心を持つ人や、「時流に乗っている優秀な人と思われたい」という名誉欲を持つ人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。特に、時代遅れと言われると傷つく傾向がある50代~60代の者によく効く。
株主資本主義者は「労働組合は正社員の既得権益なので打破すべきだ」と言うことがある。これは、経済的な苦境に陥って既得権益への嫉妬心が増幅している人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。
株主資本主義者は「労働組合は『働かざる者食うべからず』の格言に反する存在で、生産力よりも多くの消費をしようとする怠け者の溜まり場であり、高望みをしようとするワガママな人たちの集団であり、享楽にふける不道徳な者たちの団体である」と言うことがある。これは、道徳論を気にして怠け者を軽蔑する気持ちを持つ人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。また、「現代の日本の庶民は昔よりも生活水準が向上していて、江戸時代や明治時代の大富豪と同程度の生活をしている」などと述べてから、「それなのに彼らは、きわめて恵まれていることに気付かず、ただひたすら高望みをしようとしていて、もの凄くワガママである」と述べて、「彼らは高望みしている」という言葉をさらに引き立たせる工夫をすることもある。
株主資本主義者は「労働組合の参加者は極左で、革マル派・中核派といった極左暴力集団とつながりがある過激派であり、反日で、中国・韓国とつながりがある卑劣な売国奴であり、日本の名誉と尊厳を傷つけて日本を破壊している」と言うことがある。これは、愛国心を持つ人や国家の敵に対する憎悪心をもつ人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。
株主資本主義者は「労働組合を放置すると日本が共産化する」などと言うことがある。これは、共産主義への嫌悪感を持つ人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。
ちなみに労働組合は構成員の数を増やしたり維持したりすることが組織としての大目標である[18]。労働組合が過剰に政治思想を打ち出すと組織の分裂に行き着いてしまい大目標を達成できない。ゆえに労働組合は政治思想の過剰な表明を控える傾向がある。だから「労働組合を放置すると日本が共産化する」というのは、あまり現実的ではない。
株主資本主義者は「労働組合は順法闘争をするような連中で、極めて迷惑な存在である」と言うことがある。これは、時間厳守が大好きなすべての日本人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。さらには1970年代国鉄における労働組合の順法闘争を憶えている世代の人々に対して労働組合を激しく憎悪させる効果がある[19]。
労働組合を罵倒するときの株主資本主義者は、多彩な表現を駆使して人々の嫌悪感情・憎悪感情をとても上手に刺激する。
3. 「自由及び権利には責任及び義務が伴う」と労働者に言い聞かせて労働三権の行使を抑制する
株主資本主義者は労働者が労働三権を行使することを恐れており、どうにかしてそれを阻止しようと考えている。
株主資本主義者は「自由及び権利には責任及び義務が伴う」と労働者に言い聞かせることがある。この言葉を聞かされた労働者は、「労働三権を行使したら責任を取らされたり義務を課せられたりする。自分たちはただの労働者なので責任を果たしたり義務を実行したりする経済的実力がない」と考えて萎縮するようになり、労働三権を行使しなくなる可能性がある。
ちなみに「自由及び権利には責任及び義務が伴う」という思想は欠点が見受けられる思想である。詳しくは当該記事を参照のこと。
4. マネーゲームなどの副業を解禁して、労働組合を弱体化させる
株主資本主義者は労働者が労働三権を行使することを恐れており、どうにかしてそれを阻止しようと考えている。
株主資本主義者は、労働者に対して副業を解禁することがある。株主資本主義が流行る国では、直接金融や商品投資[20]でお金を儲けるマネーゲームを副業とすることや、動画を配信して投げ銭をもらうなどの業務を副業とすることが流行することになる。
副業が解禁されると、労働者が副業に熱中するようになり、「労働組合の運動は自分の副業の邪魔である」と考えるようになり、「労働組合に入りたくない」と考えるようになり、労働組合が弱体化する。これは株主資本主義者が心から望むことである。
また副業が解禁されると、企業経営者は労働者に対して「給料が少なくて困っているのなら副業をしてお金を増殖しろ」という態度をとりやすくなり、心理的に賃下げしやすくなる。このことも株主資本主義者が心から望むことである。
株主資本主義が広まった国では労働者の賃下げが進んで労働者の生活が苦しくなっていき、労働組合を結成しての賃上げ運動が盛り上がらない。このため株主資本主義のもとで低賃金に苦しむ労働者にとって、副業は生活の糧を得るための救世主となる。
株主資本主義が広まって労働者の賃下げが進み、苦境に陥った労働者が副業として株式投資に手を出すと、その労働者は「企業はもっと労働者を賃下げして税引後当期純利益をひねり出して配当金をよこせ。政府は労働者の賃下げが進むような政策を実行しろ。政府系の公的職場の労働者を賃下げして世の中の賃下げの気運を作れ」と心から願うようになる。賃下げに苦しむ労働者が、労働者の賃下げを望むようになる。こういう姿は被虐主義(マゾヒズム)と表現することができる。または、肉屋を支持する豚と表現することもできる。
株主資本主義者は、数ある業務の中でもマネーゲーム(直接金融や商品投資)を副業として労働者に対して奨める傾向がある。マネーゲームは射幸心を強く煽ることができ、いったんハマると夢中になるからである。
株主資本主義者がマネーゲームを推奨するときは「個人が努力して金儲けすることを奨励すべきだ。努力している人の足を引っ張るべきではない。個人投資家を増やそうとしないのは成功者に対する醜い嫉妬心が原因だ」という言い回しを使い、「マネーゲームに反対する者は嫉妬に狂っているだけだ」とレッテル貼りをしていく。
また株主資本主義者がマネーゲームを推奨するときは「間接金融を支持して銀行預金を持っているだけの人は、ボーッと生きているのであり、時代の流れに対して鈍感であり、世間の動向に対してアンテナを張っておらず、怠け者である。一方、マネーゲームを支持して銀行預金以外の資産を持っている人は、シャキッと生きているのであり、時代の流れに対してとても敏感であり、世間の動向に対してアンテナを張っていて、勤勉である」という風に語り、「マネーゲームに反対する者はボケーッとした怠け者だ」とレッテル貼りをしていく。
そもそもマネーゲームというのは、利益が全く保証されておらず不安定で不確実なものであり、射幸心を強く煽るものであり、パチンコやパチスロや競馬や競輪や競艇といった賭博(ギャンブル)と同じ性質を持つものであり、推奨しにくいものである。このためマネーゲームを推奨するときは、「マネーゲームをしない者は嫉妬している怠け者だ」などとレッテル貼りして罵倒するという過激な手段を使わないと上手くいかない。
副業を解禁してしまうと、労働者が職務専念義務を遂行しなくなる危険がある。「ラーメン屋の従業員が動画編集に熱中してラーメンの味が落ちる」「パソコンを使って仕事をしている人がスマホでFX取引(外国為替証拠金取引)の様子を観察することに熱中してパソコンへの入力を間違える」というようなことが起こりやすくなってしまう。職務専念義務を遂行しない人の割合が少しずつ増え、企業の実力が落ち、文明の発展に陰りがみられるようになる。
特にマネーゲームを副業にすることを解禁すると、労働者が職務専念義務を遂行しなくなる可能性が高くなる。労働者が勤務時間中に職場を抜け出してパチンコやパチスロをすることは難しいが、マネーゲームなら勤務時間中の労働者もスマホを操作するだけで簡単に参加できる。労働者が勤務時間中にスマホを操作して競馬や競輪や競艇に参加することと労働者が勤務時間中にスマホを操作してマネーゲームをすることの難易度は同じぐらいだが、競馬や競輪や競艇の開催頻度は比較的に少なくて散発的であるのに対しマネーゲームの開催頻度は極めて多くて恒常的である。以上のことをまとめると、マネーゲームは参加するのが容易であり、世界中の市場でマネーゲームが行われているので開催頻度が極めて多く、パチンコやパチスロや競馬や競輪や競艇といった賭博よりも労働者の職務専念義務の遂行を妨害する効果が高い。
また副業を解禁してしまうと、労働者が貴重な余暇を副業に費やすことになり、消費を冷え込ませる危険がある。
特にマネーゲームを副業にすることを解禁すると、それを副業にする労働者は情報を豊富に収集して入念に分析してから決断を下すようになり、大量の時間を費すようになり、余暇を削るようになり、金稼ぎに忙殺される人生を送るようになる。
「寝ても覚めてもお金を増やすことばかり考える」「10万円をもらったら消費に回さずに投資に使う」「100万円を稼いだら消費に回さずにさらに投資の勉強をする」という労働者が増える危険があり、消費を冷え込ませる危険がある。
マネーゲームを行いながらそれらについてTwitterでお喋りする人がいる。そういう人たちの集団は「株クラスタ」とか「株クラ」と呼ばれる。株クラの人たちが投資に関する情報収集や情報分析に明け暮れている様子は、Twitterを通じていくらでも観察することができる。
マネーゲームに関する情報収集と情報分析は、経済の躍動を実感できる体験であり、刺激に満ちあふれて楽しいという好ましい一面がある。しかし、余暇を削って人々の消費を抑制するという好ましくない一面がある。
マネーゲームのために労働者が余暇を削って消費を減らすようになると、労働者が自己決定権(人生の設計をする権利)の一部を回復不可能なほど永続的に喪失する危険が発生する。簡単な例を挙げると、「金儲けに夢中になりすぎて、友達・家族を回復不可能なほど永続的に失って、人生の設計をする権利の一部を回復不可能なほど永続的に失う」ということである。
株主資本主義が抑制される国では、人々が自己決定権の一部を回復不可能なほど永続的に喪失することを防ぐために、人々が保有する基本的人権を制限することがある。これを「限定されたパターナリスチックな制約」という。つまり、政府が「人々が余暇を喪失して友達・家族を回復不可能なほど永続的に失うことを防ぐため、マネーゲームに規制を掛ける」という政策を実行して、人々の経済活動の自由を制限する可能性がありうる。
株主資本主義が抑制される国では間接金融が主力となり、それと同時にマネーゲームに対して様々な規制が掛けられる。そのため個人が財テクする手段は、銀行への定期預金ぐらいに限られており、選択肢が狭い。しかし、銀行は金融庁の厳しい監督を受けている団体であり、財務体質が良好であることが非常に多い団体であり、預金者に定期預金を返済できなくなる危険が非常に少ない団体である。個人にとって、銀行の経営状況についての情報を収集する必要が少なく、余暇が十分に残りやすい。
5. 成果主義・能力主義を導入し、労働組合を弱体化させる
株主資本主義者は、成果主義・能力主義を導入した給与体系を支持する傾向がある。成果主義や能力主義を導入した給与体系をごく簡単に表現すると、「優秀で成果を出している人を賃上げして、無能で成果を出していない人を賃下げする制度」となる。
劣った人ほど自己評価が高く、「自分は優秀で能力が高いのでいくらでも成果を出すことができる」と思い込む傾向がある。そうした心理傾向をダニング=クルーガー効果という。このため劣った人は、株主資本主義者が「成果主義・能力主義を導入して優秀で成果を出している人を賃上げする」と語ると「自分が賃上げされる」と信じ込んで大喜びする傾向があり、株主資本主義者の口車に乗る傾向がある。
優秀な人ほど自己評価が低く、「自分は劣っていてまだ努力が必要な存在であり、さしたる成果を出していない」と思い込む傾向がある。この心理傾向もダニング=クルーガー効果という。優秀な人は「自分は優秀で成果を出している」と言い出さない傾向があり、あまり熱心に賃上げを要求しない傾向がある。そして優秀な人を雇用している経営者は、優秀な人の謙虚な心理を利用する傾向があり、優秀な人に対して欠点を指摘して反省させ、優秀な人が賃上げを要求しないように釘を刺し、賃上げしないで済むように仕向ける傾向がある。このため成果主義や能力主義によって優秀な人が賃上げされるとは限らない。
成果主義や能力主義を導入して「優秀で成果を出している人を賃上げして、無能で成果を出していない人を賃下げする制度」を導入すると、優秀で成果を出している人の賃金がさほど伸びず、無能で成果を出していない人の賃金がはっきりと下落し、全体として賃下げが進む。優秀で失敗を全く犯さない人に対しては「自分は優秀でないかもしれない」という謙虚な心を利用して賃上げを抑制し、無能で失敗をポロポロと犯す人に対しては失敗したことを叩いて賃下げする。
人は1日24時間のなかの3分の1にあたる8時間程度を睡眠にあてる生物であり、「無能になる時間」を大量に必要とする生物であり、本質的に「無能」な存在である。そのため無能で成果を出していない人を賃下げする制度を導入してしまえば、どのような人に対しても賃下げの圧力を強く加えることができる。
株主資本主義者は「人間が本質的に『無能』な存在であるという現実」と、「成果主義や能力主義を導入した給与体系」という、2つの強力な武器を利用して賃下げに励んでいる。
株主資本主義者が好む成果主義や能力主義を採用すると、労働者の間で「労働組合に入りたくない」という気持ちを持つ者が発生する。労働組合というのは「労働組合に加入する労働者の一律のベア(ベースアップ・基本給賃上げ)を達成しよう」と意気込む団体であり、組合員の間で一種の平等主義がある。このため「成果主義・能力主義の給与体系が導入されたので、頑張って働いて他の人よりも多い給与をもらおう」などと思うようになった者は、平等主義を掲げる労働組合に対して否定的になる傾向が強い。つまり、成果主義・能力主義は労働組合を弱体化させる効果がある。
株主資本主義者が好む成果主義や能力主義を採用すると、企業の人事部(総務部)や経営者が「この従業員は無能である」と認定するだけで従業員の給料を下げることができるようになる。従業員の成果や能力を評価する人事部・経営者の権力が非常に強くなり、従業員の誰もが人事部・経営者の顔色をうかがう社風になり、従業員が萎縮するようになり、自由な社風からほど遠い状態になる。さらには労働者が使用者の顔色をうかがうようになって職務専念義務を遂行しなくなり、企業の生産性が落ちていく。
株主資本主義者というと新自由主義を信奉していることが多く、「全体主義国では自由が封殺される。そんなことが起こってはならず、自由を守り抜かねばならない。そのために政府の権力を最小限にするべきだ」といったことを唱え、自由を尊重して権力を制限することを声高らかに主張する。
口先ではそのようなことをいうのだが、実際の株主資本主義者・新自由主義者は従業員の自由を制限して経営者の権力を増大させる成果主義・能力主義を好む。
成果主義や能力主義の対極に位置する給与体系というと年功主義(年功序列)である。新自由主義の支持者は年功主義の長所を一切認めず、年功序列を徹底的に批判する傾向がある。
年功主義の長所を1つだけ挙げると、経営者の権力を制限して恣意的な賃下げを防止できるところである。経営者が「こいつは気に入らないので『成果を挙げていない』と認定して賃下げしてやれ」と行動することができなくなる。
そもそも成果主義や能力主義というものは、「労働者に支払う賃金」を決める方法に関する思想である。その「労働者に支払われる賃金」というものには2通りの定義を与えることができる。
1つは「労働者から提供された労働力に支払われる対価」という定義であり、株主資本主義者が好む定義である。労働力を商品として扱い、賃金を商品価格と見なすので、商業的な感覚が色濃い定義である。労働力という商品の良し悪しによって賃金が変わるという考え方であり、成果主義・能力主義を生み出す定義である。
もう1つは「『労働者から時間と生命力を奪い取る』という加害行為を懲罰して抑制するための罰金」という定義であり、労働組合の参加者や反・株主資本主義者が好む定義である。商業的な思想ではなく、社会規律の維持を優先する思想であり、成果主義・能力主義の思想を生み出さない思想である。
6. 解雇規制の緩和をして非正規雇用を増やし、労働者の消費意欲を破壊し、労働運動を抑制する
株主資本主義者は解雇規制の緩和と終身雇用の破壊を好む。その理由は「不景気の時に人件費を急減させて税引後当期純利益を確保できるようにするため」というものがあるが、それ以外には「労働者の消費意欲を破壊して、労働者が賃上げを志向しなくなるようにするため」というものがある。
企業が労働者を簡単に解雇できるようにすることを「解雇規制の緩和」という。株主資本主義者はこの政策を大いに支持する。解雇規制の緩和の具体例は、アルバイト・パート・派遣社員・契約社員といった非正規雇用の形態で従業員を雇用することを解禁する政策である。
解雇規制を緩和するだけではなく、官公庁や学校のような非現業の公的職場が率先して非正規雇用をする。そうすることで世の中の企業に「政府や地方公共団体を見習ってどんどん非正規雇用を拡大すべきだ」とメッセージを送る。これを官製ワーキングプア(官製ワープア)という。日本政府は教育分野でそうした政策を実行しており、2012年の時点で非正規教員の割合が全体の16.1%になっている(記事)。
解雇規制を緩和すると、不景気で業績不振に陥って収益を低下させた企業が、人件費を一気に削減して税引後当期純利益を確保し、倒産を簡単に回避するようになる。つまり、企業が人件費を「景気に対応する調整弁」として使うようになる。
株主資本主義者の言うとおりに解雇規制を緩和して、それから不景気になると、企業がしっかり生き残って従業員が路頭に迷うことになり、まさしく滅私奉公を絵に描いたような社会になる。
株主資本主義者というと小さな政府の信奉者であり、強大な政府を批判することに余念が無く、「戦前の軍国主義日本では自由が封殺され、滅私奉公が強制され、『お国のために命を捨てて奉公せよ』という社会になった。そんなことを繰り返してはならず、政府の権力を制限して小さな政府を実現せねばならない」と熱心に主張するのが常である。
表向きはそのようなことをいうのだが、実際の株主資本主義者は「企業栄えて従業員滅ぶ」の滅私奉公を非常に好み、「企業のために『解雇されずに済む権利』を捨てて奉公せよ」という社会を理想とし、解雇規制をひたすら緩和しようとする。
「一将功成りて万骨枯る」ということわざがあり、1人の将軍に手柄をもたせるため数万の兵士が犠牲になる、という戦争の現実を捉えた表現である(資料)。株主資本主義者の言うとおりに解雇規制を緩和して、それから不景気になると、「企業生き残りて万骨枯る」といった社会になる。
株主資本主義に従って解雇規制を緩和すると、「ひたすら労働強化して従業員を酷使し、過酷な労働の結果として従業員が『疲れ果てた抜け殻』になったら従業員を解雇する」という企業経営が可能になる。良心のタガが外れた企業経営者が増え[21]、人から効率的に労働を絞り取る企業経営の手法が世の中に広がっていく。
解雇規制の緩和で解雇されるリスクが増えて将来の給料の不確実性が増大した労働者は、給料の不確実性に備えるため貯蓄に励むようになり、消費を嫌がるようになり、倹約・節約志向になり、結婚・子作りを避けるようになる[22]。
消費意欲が消え失せた労働者は、「消費のために給与を何が何でも増やさねばならない」と考えることがなく、企業に対して賃上げを求めない。世の中がそういう労働者ばかりになったら、賃上げの気運が育たなくなり、株主資本主義者にとって理想の楽園となる。
解雇規制を緩和して終身雇用を破壊すると、労働者が「上司のご機嫌伺いをして解雇されないようにしよう」と考えるようになり、労働者が職務専念義務を遂行しなくなり、企業の生産性が落ちていく。
また、解雇規制を緩和して終身雇用を破壊すると、企業が「解雇の権限を持つ使用者」と「解雇されるがままの労働者」で構成される階級社会となり、企業の中で「階級が異なる人に話しかけることは止めておこう」という気運が広がり、労働者が使用者に対して積極的情報提供権(表現の自由)を行使することをためらうようになり、風通しが悪くなる。企業の中で情報の流通が阻害され、欠点がいつまで経っても残り続けるようになり、発展せずに停滞するようになる。
7. 観光業を重視して国内の非正規雇用を増し、労働者の消費意欲を破壊し、労働運動を抑制する
株主資本主義が盛んになる国で重視されるのは観光業である。「観光立国」という看板を掲げ、インバウンド(外国人観光客)をひたすら呼び込もうとする。
株主資本主義が勢いを持つ日本では、2006年に観光立国推進基本法が可決された。そして2016年にIR推進法が可決され、2018年にIR実施法が可決され、IR(統合型リゾート)を整備する法律が作られた。これらの法律によって、カジノなどの施設を作って外国人観光客を呼び込もうとする政策が推進される。
観光業というのは、株主資本主義者にとって非常に好ましい産業である。観光業というのは正規雇用が少なくて非正規雇用が多いことで有名である[23]。観光業は繁忙期と閑散期の波が激しく、正規雇用して正社員を増やすことが難しく、アルバイト・パート・派遣社員・契約社員といった非正規雇用の形態で従業員を雇用せざるをえないのが実情である。
株主資本主義者は解雇規制の緩和を目指しており、「正社員は解雇しにくく、まさに既得権益である。正社員という雇用形態を消滅させて、全ての労働者を解雇しやすい非正規雇用にしてしまおう」と論ずることが多い[24]。そうした株主資本主義者にとって、非正規雇用が多い観光業はまさしく理想の業種である。
非正規雇用の割合が多い観光業を増やすことで、観光業以外の業種に勤める人々に対して「観光業の人たちが非正規雇用で生活しているのだから、君たちも非正規雇用で生活できるはずだ」と同調圧力を掛ける。これが株主資本主義者の目標の1つである。そのように非正規雇用を増やせば、労働者が給料の不確実性に備えて貯蓄するようになって消費を嫌がるようになり、労働者の消費意欲が消え失せ、労働者が使用者に賃上げを求めなくなる。
反・株主資本主義者(ステークホルダー資本主義の支持者)は、「正規雇用が多い業種を育成し、給料の確実性・安定性に恵まれた労働者を増やすべきだ」と論じるのが常である。そして「観光業を重視すると世の中の非正規雇用が増えてしまい、給料の不確実性・不安定性に悩まされる労働者が増えてしまう」と論じ、観光立国の政策に対して反対の立場を取ることが多い[25]。
株主資本主義者は観光業を重視するので、休日分散についても賛成する傾向がある。
休日分散とは、1つの国をいくつかの地域に分け、地域ごとに大型連休をずらして取得させることをいう。例えば、「5月1日~5日に北海道・東北・関東甲信越が休暇に入り、5月6日~10日に東海・関西・中国・四国・九州・沖縄が休暇に入る」といった具合に休暇を分散させる。
休日分散の利点は、道路の渋滞や新幹線・飛行機の混雑が減り、宿泊施設の宿泊代も安くなり、観光業にとっての閑散期が減って観光業の企業の売上が増える、といったところである。従来どおりに全国一斉に休暇を取ると、道路の渋滞や新幹線・飛行機の混雑が強烈になり、宿泊施設の宿泊代も高くなり、観光業にとっての閑散期が発生して観光業の企業の売上が低いままになる。
休日分散の大きな欠点は、遠隔地に住む友人・家族と同時に休暇を取ることができず、人々の間で分断が進んでしまうところである。先ほどの例のように「5月1日~5日に北海道・東北・関東甲信越が休暇に入り、5月6日~10日に東海・関西・中国・四国・九州・沖縄が休暇に入る」という制度を導入すると、「北海道で就職した人が5月3日になって関西に帰省しても、関西に住んでいる友人・家族は休暇期間に入っておらず、会えない」というような、非常に残酷なことになる。
株主資本主義者というのは成果主義・能力主義を推進するところがあり、格差社会・階級社会の出現を望むところがあり、階級社会の意識が強い。階級社会の意識が強くなると「階級が異なる人と情報を交換して仲良くしよう」という気運が薄れ、「みんな一斉に休日をとって同窓会などを開いて交流しよう」という気運が薄れ、社会の分断を肯定する気持ちが生じ、休日分散に賛成する気持ちが生じるようになる。
8. 消費税を増税したり社会保険料を増額したりして労働者の消費意欲を破壊し、労働運動を抑制する
株主資本主義が主導権を握る国では、消費税が増税されていく傾向にある。
消費税が増税されると、買い物に対して巨額の罰金が発生するようになり、労働者を含むすべての人の消費意欲が薄れ、すべての人が消費を嫌がるようになり、倹約・節約志向になり、買い物を楽しみにしなくなる。消費税10%の国で110万円の物品を購入すると領収書に「物品100万円 消費税10万円」と記載されるのだが、こういう数字を見る消費者は「消費は悪いことである」という思想を持つようになり、倹約好みの性格に変貌していく。
消費意欲が消え失せた労働者は、「消費のために給与を何が何でも増やさねばならない」と考えることがなく、企業に対して賃上げを求めない。世の中がそういう労働者ばかりになったら、賃上げの気運が育たなくなり、株主資本主義者にとって理想の楽園となる。
株主資本主義者のほとんどすべてが小さな政府の支持者である。小さな政府の支持者というと「政府の規制や税金を最小限にして自由な経済活動を促進しよう」と言って法人税・所得税・相続税・贈与税を減税するように訴えるのがいつもの姿であるが、消費税に対しては妙におとなしくなってあまり抵抗しないことが多い。株主資本主義や新自由主義が盛んな国では消費税が増税されていくという傾向が見られる。
また、株主資本主義者が主導権を握る国では、政府が国債を発行して資金を得た上で社会保険制度の維持にその資金を使うということが徹底的に忌避され、社会保険料が増額され、労働者の可処分所得が減らされていく傾向にある。そうしておけば、労働者が消費をしなくなり、労働者が「もっと消費をしたいので給料を増やしてほしい」と言い出さなくなり、労働運動を抑制することができる。
9. 年金を削減して労働者の消費意欲を破壊し、労働運動を抑制する
加齢によって成果を出せなくなったり能力を喪失したりした老人に対して政府がお金を給付する制度を年金という。
株主資本主義者は、年金を削減して労働者に将来不安を与え、労働者が将来に備えて貯蓄をして消費を中止するように誘導し、労働者の消費意欲を減退させ、労働者が賃上げを求めなくなるように誘導する傾向がある。
「年金を削減すると労働者が賃上げ闘争に突き進むようになる」という要素もあるが、「年金を削減すると労働者が将来に備えて倹約家になって消費をしなくなって賃上げ闘争に突き進まなくなる」という要素の方が大きい。ゆえに株主資本主義者は年金の削減を平気で主張する。
株主資本主義に染まって成果主義・能力主義を支持する人は老人に対する年金制度を嫌い、「既得権益者の老人が社会保険料を課すという手段で若者を痛めつけている」などと老人に対する憎悪を煽る論説をしたり、あるいは「現行の年金制度は制度疲労を起こしていて将来の破綻が考えられるので今すぐに改革すべきだ」などと不安を煽る論説をしたりして、老人に対する年金支給額を減らそうとする。
株主資本主義者は老人への支援を重視する政治を嫌っており、そうした政治をシルバー民主主義(シルバーデモクラシー)と呼び、「シルバー民主主義を否定するべきだ」と激しく訴え、「若者の投票率を上げつつ『老人を憎悪する若者』が増えればシルバー民主主義を打破できる」と考え、若者に選挙の投票へ行くことを勧めつつ「老人が社会保険料の賦課という手段で若者を痛めつけている」というヘイトスピーチに近い言動をすることがある。
年金の財源は、①人々に課する社会保険料や、②政府が日銀法第4条を堅持しつつ年金特例国債を発行して得る資金である。①は政府が関与しない財源で、②は政府が関与する財源である。
株主資本主義は強力な労働組合の出現を非常に恐れる思想であり、国の現業が創設されて国内の労働運動が活発化することを非常に恐れる思想であり、大きな政府を非常に嫌がる思想であり、日本政府が日銀法第4条を堅持しつつ日本円建て国債を発行して日本円の形態の資金を獲得する方法を強硬に否定する思想である。このため株主資本主義者は、政府が日銀法第4条を堅持しつつ日本円建て年金特例国債を発行して日本円の形態の資金を調達することに対して猛烈に反対する傾向があるし、年金の財源に政府が関与することを絶対的に反対する傾向がある。
そして株主資本主義者は、生産能力が低い老人に対する医療費を徹底的に削減することを主張しがちである。「生産能力が低い老人に対して資金と人員を配置するのは無駄であって効率的でないので、老人を世話する産業を縮小して廃れさせ、もっと効率的に富を生み出す産業へ資金と人員を移動すべきだ」などと主張する。
株主資本主義者のそういう主張に対して、「医療器具の加工は非常に難しい[26]。老人に対する医療費を拡大することで医療器具の加工という困難な作業に挑む企業が増え、国内の企業が高性能な工作機械を購入するという設備投資をするようになり、国家の将来の資本ストックが増え、国家が将来において供給を増やすことができる。老人に対する医療費は一種の産業振興費である」という反論が寄せられることがある。
医療器具の産業というのは、医者などの医療関係者や患者の家族が「できるだけ良い医療器具を作ってくれ。さもないと患者が死んでしまう!」といった具合に鬼気迫る表情で内発的動機付けを強く掛ける産業であるので、賃上げを求める労働運動がやや起こりにくいという短所がある。しかし、先述のように医療器具の産業は高性能な工作機械を必要とするので国家の技術を伸ばしやすいという長所がある。
ちなみに余談ながら、医療器具産業に匹敵するほどに産業を振興する効果が高いのは軍事産業である。軍事産業では高性能の製品を作るための高性能な工作機械を必要とするので国家の技術を伸ばしやすいという長所がある。軍人が「できるだけ良い兵器を作ってくれ。さもないと味方が死んでしまう!」といった具合に鬼気迫る表情で内発的動機付けを強く掛ける産業であるので、賃上げを求める労働運動がやや起こりにくいという短所があるが、その短所を補うほどの長所がある。
日本は憲法で平和国家であることを定められている。そして、エネルギーや食糧といった資源の自給率が非常に低い国家なので、すべての国家と仲良くする全方位外交を維持する必要があり、軍事行動を起こすことが難しく、外国の恨みを買うような兵器輸出が難しい。ゆえに日本が「兵器に対する需要」を大幅に増やして技術を進歩させるという国策をとるのはあまり現実的ではない。
株主資本主義者が好む言葉は「効率」である。その株主資本主義者が政府による社会保障や年金給付を目にすると「ロクな生産力もない老人にお金を注ぎ込んで人を張り付かせるのは無駄で非効率的だ」と猛反発する傾向がある。政府による社会保障や年金給付を大々的に行う政策を確定させたのは田中角栄であるので[27]、株主資本主義者は田中角栄を徹底的に敵視する傾向がある。
株主資本主義者は老人に対する年金や医療費を削減したがる傾向がある。「老人は生産能力が低く社会やGDPへの貢献を行っていないので、さっさと逝去してくれたら良い」とか「老人は穀潰し(ごくつぶし)であり、姥捨て山[28]に放置して口減らしして、社会の人件費(コスト)を削減した方が良い」という思想が言動の節々からにじみ出てくる傾向がある。
それに対してステークホルダー資本主義者は老人に対する年金や医療費を重視する。「老人が逝去せずに踏ん張ると、老人に対する医療器具を大量かつ高品質に作ることになり、医療器具を作る製造業を鍛え上げる効果が生まれ、製造業の技術水準を押し上げる効果が生まれる」とか「老人は病気になりやすい存在で、病気になることで『作るのが難しい医療器具』に対する需要を作り出す存在であり、製造業が難しい加工に挑戦するきっかけを作り出す存在であり、製造業の技術水準をグイグイ押し上げるモーターでありエンジンであるので、簡単に逝去してもらったら困る」という思想を持つ傾向がある。
10. 国や地方の現業を民営化して国内の労働運動を弱体化させる
株主資本主義者が天下国家を語るとき、小さな政府を志向し、かつての三公社五現業のような国の現業や地方の現業を消滅させる民営化を推進する傾向がある。「官から民へ」「民間にできることは民間に」というスローガンを繰り返して[29]、国や地方の現業を完全消滅させるのが株主資本主義者である。
現業というのは、政府や地方公共団体の一部門や公共企業体(公社)が議会に議決された予算に基づいて権力を行使せずに財・サービスの提供をすることである。日本を始めとして様々な国で財政民主主義が導入されているが、そういう国で現業をすると、「我々の職場は国会に支持されており、絶対に倒産しない」とか「我々が活発に労働運動をしても、我々の職場は決して倒産しない」と確信して安心する労働者が非常に多く発生し、国内の労働運動を引っ張っていく労働者が非常に多く発生し、国内の労働運動が活発化して賃上げが基調となる国になる。
民間企業の労働組合というのは御用組合になることが多く、「我々が活発に労働運動をすると我々の職場が倒産してしまう」と不安に思って恐怖する労働者ばかりで構成されており、国内の労働運動を引っ張っていく力を持っていない。
このため、株主資本主義者は国や地方の現業を敵視し、民営化を推進する。国内の労働運動を引っ張るような強力な労働組合を消滅させ、国内の労働運動を引っ張れない軟弱な御用組合だけにするのが株主資本主義者の理想である。
また、国や地方の現業を創設して労働者を大量に雇用すると、労働市場において労働需要が増えて賃金が上昇する。労働市場に参加する民間企業は「国や地方の現業と同じぐらいの待遇にしないと、国や地方の現業に労働者を奪われてしまう」と焦るようになり、待遇を向上させる。
以上のことをまとめると、国や地方の現業というのは一種の装置であり、「労働運動支援装置」「労働待遇向上装置・賃上げ装置・公益装置」という性質がある。
「国や地方の現業」の短所というのは、民間企業に比べて比較的にコスト意識・効率化意識が低く、進取の精神が比較的に薄く、サービス精神も比較的に低いところである。
一方で民間企業の長所と短所は「国や地方の現業」と全く逆となる。民間企業の長所は「国や地方の現業」に比べて比較的にコスト意識・効率化意識が高く、進取の精神が比較的に濃く、サービス精神も比較的に高いところである。民間企業の短所は「人件費を削減して税引後当期純利益と利益剰余金を作り出そう」という欲が強く、労働者の待遇を悪化させたがる癖があるところである。
「国や地方の現業」と民間企業の違いを表にまとめると次のようになる。
民間企業 | 国や地方の現業 | |
長所 | コスト意識・効率化意識が高く、進取の精神が濃く、サービス精神が高い | 労働待遇向上装置・賃上げ装置・労働規制装置である。戦闘的な労働組合を生み出して労働運動を牽引させる。労働市場で労働者を奪い合っている民間企業に「労働者の待遇を向上させないと官営事業に労働者を奪われてしまう」と考えさせ、民間企業の労働者待遇の向上に貢献する |
短所 | 御用組合ばかりを生み出し、労働運動を作り出すことができない。労働者の待遇を悪化させて人件費を削減し、税引後当期純利益や利益剰余金を稼ごうとする傾向がある | コスト意識・効率化意識が低く、進取の精神が薄く、サービス精神が低い |
このように「国や地方の現業」と民間企業は一長一短であり、どちらも国家の発展にとって必要な存在である。しかし株主資本主義者はそうした現実を直視せず、ひたすら「国や地方の現業」の欠点をあげつらい、民間企業の欠点をひた隠しにして、民尊官卑の言動を繰り返して、「国や地方の現業」を叩き潰そうとする。
株主資本主義者は「国や地方の現業は不採算部門そのものであり、利益を食いつぶしていて、赤字垂れ流しの状態なので、国や地方の現業を削減するのが当然のことだ」と主張する。「垂れ流し」とは汚水を排出する公害企業を連想させるネガティブな表現である。株主資本主義者は、相手のイメージを悪くさせるネガティブ表現を駆使するのが上手い。
ちなみに、現業には「国の現業」と「地方の現業」の2種類があるが、「国の現業」の方が「地方の現業」よりも大規模な事業になりやすい。日銀は不換銀行券を通貨として発行しており、さらに「不換銀行券に交換できる中央銀行預金」を通貨と同等のものとして発行しており、つまり通貨や「通貨と同等のもの」を全く負担無しに発行できる存在である。そして政府というのは日銀法第4条に基づいて日銀に影響を与えることができ、国会の議決を受けたあとに国債を発行して日銀が発行する通貨や「通貨と同等のもの」を好きなだけ獲得できる。一方で地方公共団体は日銀に影響を与えることができず、地方議会の議決を受けた後に地方債を発行して日銀が発行する通貨や「通貨と同等のもの」を獲得するということを円滑に行えない。
このため株主資本主義者が最も敵視するのは「国の現業」である。「地方の現業」は大規模な事業になりにくく、株主資本主義者にとって大きな脅威ではない。
11. 夜警国家にして国内の労働運動を弱体化させる
株主資本主義者は小さな政府を理想視しており、「国や地方の現業」を民営化して「国や地方の非現業」の予算を削減することを好む。しかし、株主資本主義者の中にも例外があり、自衛隊・海上保安庁・刑務所・警察・消防といった治安部門に対して特別に優しい態度になる者がいる。小さな政府を志向しつつ治安部門を特別に優遇することを夜警国家という。
自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は、法律によって労働三権をすべて否定されていて、上司が無茶な労働強化の要求をしてきても反抗せずに従う存在である。政府や地方公共団体に直接雇用されて安定した給与を得ているが、労働組合を結成することができず、世の中の労働組合運動に参加することができず、労働弱化や賃上げの気運を世の中に広めることができない。
自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は政府や地方公共団体に直接雇用されることで給料の安定性・確実性に恵まれているので、その部分は株主資本主義者にとって気に入らない。しかし自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は労働組合を作らないので、その部分は株主資本主義者にとって歓迎できる。
ちなみに、株主資本主義者が最も理想とする労働者は「民間企業に雇用されることで給料の不安定性・不確実性に悩まされていて、なおかつ労働組合に参加しない労働者」である。給料の不安定性・不確実性に悩まされているという部分が株主資本主義者にとって素晴らしいことだし、労働組合活動をしないという部分も株主資本主義者にとって大歓迎である。
他方で、「自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士以外の非現業公務員」や現業労働者は、労働三権のうち団結権と団体交渉権を認められており、上司が無茶な労働強化の要求をしてきたら労働組合を通じて反抗する存在である。政府や地方公共団体に直接雇用されることで給料の安定性・確実性に恵まれており、そしてなおかつ労働組合の活動をすることができるので、世の中の労働組合活動の先頭に立つことが多く、労働弱化と賃上げの気運を世の中に広める可能性が極めて高い。株主資本主義者にとって「理想から最もかけ離れた労働者」であり、永遠の敵であり、不倶戴天の敵である。
以上のことを表にまとめると次のようになる。
民間企業に雇用されることで給料の不安定性・不確実性に悩まされていて、なおかつ労働組合に参加しない労働者 | 政府・地方公共団体に直接雇用されることで給料の安定性・確実性に恵まれているが、労働組合に参加しない労働者 | 政府・地方公共団体に直接雇用されることで給料の安定性・確実性に恵まれていて、なおかつ労働組合に参加する労働者 | |
代表例 | 2020年12月以前のGAFA(米国巨大IT企業4社)の従業員 | 自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士 | 官公庁職員、郵便局員、国鉄職員 |
国内における労働組合の運動に対して | 「我関せず」「自分には関係ない」という態度をとる | 「我関せず」「自分には関係ない」という態度をとる | 積極的に参加し、主導していく |
株主資本主義者にとって | 理想の労働者 | 半分理想、半分気に入らない | 永遠の敵、不倶戴天の敵 |
株主資本主義者にとって国内の労働組合の活発化を抑え込むことは最大の課題である。夜警国家を採用して治安部門の雇用を増やすことは国内の労働組合の活発化に直結しないので、株主資本主義者にとって許容範囲内の政策である。
先述のように、自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士というのは株主資本主義者にとって「半分理想、半分気に入らない」という存在であるが、反・株主資本主義の支持者(ステークホルダー資本主義の支持者)にとっても「半分理想、半分気に入らない」という存在である。
自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は政府・地方公共団体に直接雇用されることで給料の安定性・確実性に恵まれているので、世の中の民間企業に「我が社も従業員に給料の安定性・確実性を保障しよう。そうしないと労働者が自衛隊・海上保安庁・刑務所・警察・消防に流出する」と考えさせる存在であり、その部分は反・株主資本主義者にとって好ましい。しかし自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は労働組合を結成できず、世の中の労働組合活動に参加できない存在であり、その部分は反・株主資本主義者にとって好ましくない。
12. 財政破綻論や「日本円建て日本国債は子孫を苦しめる」という論理を語り、労働者の消費意欲を破壊し、労働運動を抑制する
株主資本主義者にとって小さな政府というのが理想である。株主資本主義者はその理想を達成するため、財政破綻論や「日本円建て日本国債は子孫を苦しめる」という論理を繰り返し語って人々の不安と恐怖を煽る。
①日本には日銀法第4条があり、日本銀行に対して日本政府の経済政策の基本方針と整合的な金融政策をとるように義務づけている。そして②日本政府が通貨として採用しているのは日本銀行が発行する不換銀行券であり、日本銀行が全く負担無しで発行できるものである。以上の①と②から、日本政府は日本円建ての国債をどれだけ発行しても決して返済不可能に陥らず、財政破綻しない。また日本政府は日本円建ての国債をどれだけ発行しても日銀の支援を得て返済できるのであって子孫への増税に頼る必要が発生しない。
株主資本主義者は以上の①と②を意図的に忘却し、「日本政府は日本円建て日本国債を返済しきれずに財政破綻する」とか「日本円建て日本国債は子孫の負担を増やして子孫を苦しめる」と繰り返し語っている。②を意図的に忘却するときの株主資本主義者は商品貨幣論の支持者になる傾向がある。
株主資本主義者は「日本政府は日本円建て国債を返済しきれず、財政破綻するか、もしくは将来に増税をする」と不安を煽りつつ「日本政府はこれ以上日本円を借金できるわけがない」と論じ、「日本政府は緊縮財政や小さな政府を目指すしかなく、積極財政や大きな政府を目指すことなどありえない」という結論を導こうとする。
株主資本主義者の語る財政破綻論は、人々の不安と恐怖を煽り、人々の「意思決定の自由」を阻害し、人々を困惑させるものである。そうした姿はカルト宗教団体と酷似している。カルト宗教団体は、人々の不安と恐怖を煽り、人々の「意思決定の自由」を阻害し、人々を困惑させることを常習とする団体である。
「日本円建て日本国債は子孫を苦しめる」と主張するときの株主資本主義者に最もよく似ているカルト宗教団体というと統一教会である。統一教会は「あなたの行いであなたの子孫は地獄に堕ちて苦しむことになる」と言って信者の不安と恐怖を煽ることを得意としている。ハッキリ宣教師の「あなたの行いであなたの子孫が苦しむ」という説法はその好例である。
株主資本主義者は財政破綻論を述べたり「日本円建て日本国債は子孫を苦しめる」という論理を語るのだが、それには2つの理由がある。1つは政府の財源を否定して、政府が公務員を積極的に雇って労働市場の需要を増やして労働者の賃金を高めることを実行させなかったり、政府が労働者に給付金を渡して労働者の消費を増やすことを実行させなかったり、政府が国や地方の現業を維持して戦闘的な労働組合を出現させることを実行させなかったりすることである。もう1つは心理的なもので、労働者に「自分は借金持ちで、負債を抱えている」と考えさせて、労働者の消費意欲を打ち砕いて、労働者が賃上げを求めないように誘導することである。
人間は「自分は借金持ちである」と感じれば「消費などしている場合ではない」という気分になり、激しい消費を伴う結婚や出産という行動に突き進まなくなる。結婚や出産をしない人は消費意欲が乏しく、労働運動をしない。
13. 議員歳費を削って非・富裕層議員の出現を防ぎ、労働者保護政策を支持する民意が反映されないようにする
株主資本主義者は国会議員や地方議員の給料(議員歳費)を削減することを好む。
株主資本主義者が最も恐れることは、「解雇規制を強化してほしい」「国や地方の現業を復活させて労働者の経済的地位を安定させてほしい」といった労働者保護の民意を受け取る国会議員が出現することである。それを防ぐために最も有効なことは議員歳費の削減である。議員歳費を削減すれば、労働者からの民意を吸収することを得意とする非・富裕層議員が政治活動しにくくなる。
一方、事業で大成功を収めた企業経営者から政治家に転身した成金議員や、先代からの資産を大量に相続した世襲議員のような富裕層議員は、議員歳費を減らされても簡単に政治活動を行うことができる。
議員歳費をゼロにすると、非・富裕層議員が政治活動を行えなくなる。選挙に立候補して当選しても議員歳費をもらえず極貧の生活に転落することが予測できるので、非・富裕層から選挙に立候補することを誰も行わなくなる。非・富裕層の被選挙権を実質的に制限して富裕層の被選挙権のみを実質的に認める制限選挙になる。
株主資本主義者は議員歳費の支給を嫌い、成金議員・世襲議員を好み、普通選挙を嫌い、制限選挙を好み、民主主義を嫌い、エリート主義を好むという傾向がある。「制限選挙だったころのA国は栄えていたが、普通選挙を取り入れて民衆の意見を取り入れるようになってから没落していった」などと語るのがおなじみの姿である[30]。
株主資本主義者は民意を嫌っており、「大衆は愚かで馬鹿なので、大衆の言うことなど聞くべきではない」と断言して、民意を軽視する風潮を作り出そうとする傾向がある。民意を吸収する政治に対して「衆愚政治であり、ポピュリズムであり、大衆迎合である」というレッテル貼りをし、民意を吸収する政治家に対して「あのようなポピュリスト政治家を台頭させると、政府の財政が破綻するかハイパーインフレになるかのどちらかになり、経済が荒廃し、1990年代初頭のソ連のようになる」という極論を浴びせて攻め潰しにかかる。そして「民意を吸収する政治家の言うことは、まことに甘い誘惑であるが、身を滅ぼすものである。決してそういう危険な誘惑に負けてはいけない」と言う傾向がある。
株主資本主義に好意的な経済学者の書く教科書では、「社会的分業こそが人類の発展をもたらしたのだ」と熱っぽく述べる文章がしばしば見られる[31]。その論理からすると、「面倒で難しい政治のことは成金議員や世襲議員などの少数の知的エリートに任せておき、その他大勢は政治のことを考えずに生産に打ち込めばよろしい」ということになり、制限選挙や階級社会を大いに肯定することになる。制限選挙を導入して階級社会が出現すると、民意が政治に反映されず、統治される人々から統治者への情報伝達が行われず、情報の流通が阻害され、社会が停滞しやすくなる。
公務員の人数や給与を減らして労働者に払う費用を減らす
1. 小さな政府にして非現業公務員の人数を削減する
株主資本主義者が天下国家を語るとき、小さな政府を志向し、非現業に従事する公務員を削減することを主張する傾向がある。「小さくてスリムで賢く効率的で無駄がない政府」というスローガンを繰り返して、非現業公務員を徹底的に少数にするのが株主資本主義者である。
非現業というのは、政府や地方公共団体が議会に議決された予算に基づいて権力を行使する業務を行うことである。日本を始めとして様々な国で財政民主主義が導入されているが、そういう国において非現業公務員は「我々の職場は議会に支持されており、絶対に倒産しない」と安心することになる。
非現業公務員は、現業公務員よりも、数が少なく、また争議行為に対する罰則が重いので[32]、労働運動をする力が弱い。しかし、非現業公務員も現業公務員も「職場が絶対に倒産しない」という安心感を抱いていることは共通している。
非現業の公的職場というのは民間企業と一緒になって労働市場に参加して労働者を奪い合っている。非現業の公的職場が雇用を減らすと、民間企業は「安心感を与えるような好待遇を労働者に約束しなくても、非現業の公的職場に労働者が流れない」と安心するようになり、その結果として、世の中において労働者の待遇が悪化するようになり、株主資本主義者にとって理想の社会になる。
株主資本主義者が主張するとおりに政府の人員を極限まで減らし、「一切の無駄がない小さな政府」にすると、コロナ禍のような有事に対する対応力が急激に低下する。「平時の無駄は有事の余裕」という格言が示すように、無駄をそぎ落とした状態の政府は有事に対してとても脆弱になる。
株主資本主義者は、非現業公務員の人員を削減するとき「有事が全く発生せず平時が永遠に続くことを大前提としていて、一種の平和ボケである」という批判を浴びて名誉を失うことになる。しかし、株主資本主義者は自らの名誉を失うことをしっかり耐え抜き、世の中の非現業公務員を1人でも減らして自らの利益を増やすことを優先している。
株主資本主義が主導権を握る国では政府の予算が減らされて政府が人手不足になる。そのため政府がボランティア頼みとなり、民間人をタダ働きさせることが恒例となる。政府高官が「皆さんの協力がないと○×というイベントが成功しません」と宣言し、民間人の「自分たちが協力しないと○×というイベントが失敗してしまう。もし○×というイベントが失敗したらそれは自分たちのせいである」という責任感や罪悪感を刺激し、民間人の労務を無料で享受し[33]、やりがい搾取を行っていく。
政府のそういう姿を見て、ブラック企業の経営者が「我々も政府の真似をしよう」と考えるようになり、従業員に向かって「君たちのサービス残業がないと会社が倒産します」と宣言し、従業員の「自分たちがサービス残業しないと会社が倒産してしまう。もし会社が倒産したらそれは自分たちのせいである」という責任感や罪悪感を刺激し、従業員の労務を無料で享受し、やりがい搾取を行っていく。
株主資本主義の国では政府が率先垂範してブラック企業にやりがい搾取の手本を示すので、国内のブラック企業が大いに勇気づけられて勢いよく躍動し、不道徳な社会になる。
2. 小さな政府にして規制緩和して、規制に対応するための人件費を減らす
株主資本主義者は、小さな政府にして非現業公務員の人員を減らし、国や地方の規制を実質的に緩和することを好む。厳密に法律を制定して規制を掛けても、その規制を実現する非現業公務員が不足していれば、自然と規制が緩和されていく。規制緩和をすることで、企業は規制に対応するための人員を確保しなくて済むようになり、人件費を大いに減らすことが可能になる。
企業に対する規制が強い国では、規制を実施する監督官庁の退職者を企業が雇用する現象が多く発生する。つまり天下りの受け入れが多く発生する。退職者を雇用することで監督官庁との人脈を構築できるし、監督官庁の組織風土を把握することもできるからである。しかし、こういうことは人件費が増えることにつながるので、株主資本主義者がひどく嫌うことである。
3. 非現業公務員の給与を削減する
株主資本主義者が天下国家を語るとき、緊縮財政を志向し、「身を切る改革」「構造改革」「行財政改革」「行政改革」「財政改革」と称して非現業への予算を縮小することを主張し、非現業公務員の人数を減らすだけではなくその給与を削減することを主張する傾向がある。
株主資本主義者は「改革」という好ましいイメージが付着した言葉を使って自らの支持する政策のイメージを向上させる傾向がある。
公務員の給与を削減するときは人事院の勧告~内閣の法案提出~国会による法案議決という手順をたどる[34]。
非現業公務員の給料を引き下げることで優秀な人材が民間企業へ流れるようになり、官公庁の士気と実力が低下する。また、非現業公務員の給料を引き下げることで、労働市場において政府・地方公共団体と労働者を奪い合っている民間企業が「労働者の給料を引き下げても政府や地方公共団体に労働者を奪われない」と安心するようになり、労働者への給料を引き下げるようになり、世の中全体の賃下げが進む。
4. 政府を罵倒して、非現業公務員の人数と給与を削減する
株主資本主義者にとって小さな政府にして非現業公務員の人数と給与を削減するのが理想である。株主資本主義者はその理想を達成するため、政府というものをあらゆる手段で徹底的に罵倒して、人々が政府を嫌悪するように仕向けていく。
株主資本主義者は、政府の権力を強化して大きな政府を目指そうとする政治勢力に対して、「彼らは共産主義者・社会主義者であり、彼らのいうとおりにするとソ連や北朝鮮や毛沢東時代の中国のようになる」とか「彼らはファシスト・全体主義者であり、彼らのいうとおりにすると戦前戦中の軍国主義日本やナチス・ドイツのようになる」といった具合にレッテル張りをして、猛烈に批判する。このように聞く人々の恐怖心を煽って「意思決定の自由」を侵害して困惑させる株主資本主義者の姿は、カルトとよく似ている。
株主資本主義者の中には、冷戦時代・昭和時代まで反共の闘士だった人がいる。そうした人にとって反共の思想を織り交ぜつつ政府を罵倒することは手慣れたものである。
株主資本主義者は、公務員のスキャンダルや不祥事を大いに話題にして、「公務員はたるんでいる」とみんなが糾弾するように仕向けて、民尊官卑の風潮を作りあげる。
株主資本主義者はときおり租税財源説を語り、「税金は財源」と語る。租税財源説の特徴の1つは、「政府は他者加害原理に基づかずに人々の財産権を侵害している」と論じて人々が政府を嫌悪するように煽る性質がある点である。
協力企業に払う費用を減らす
協力企業に払う費用の例
株式投資をしてA社の株を所有したうえで株主資本主義に染まると、A社の「協力企業に払う費用」が削られることを非常に喜ぶようになる。
「協力企業に払う費用」は、A社が小売業・卸売業なら「商品を仕入れる仕入れ費用」となり、製造業なら「原材料を購入する原材料費」や「労務を購入する外注費」となる。そのほか、「会社の昼食を提供する弁当屋に払う費用」や「銀行や社債購入者に支払う利子」も含まれる。
解雇規制を緩和して市場占有率が高い企業を出現させる
株主資本主義は解雇規制の緩和を望む傾向がある。その理由としては、①不景気になって収益が急減しても人件費を急減させて税引後当期純利益を確保できる企業を作ることと、②労働者の「解雇されるリスク」を高めて労働者を不安にさせて労働者の消費意欲を破壊して労働者が賃上げを求めないように誘導することが挙げられる。そして、それ以外に、③企業の市場占有率を高めて協力企業に対して高圧的に接することができるようにして企業が「協力企業に払う費用」を削減しやすくすることも挙げることができる。
解雇規制が緩和されて企業が労働者を自由に解雇できるようになると、企業は「労働者をいくら雇っても好きなときに解雇できる」と考えるようになって極めて積極的に雇用するようになり、市場占有率を拡大する機会が巡ってきたときに一気に雇用を拡大するようになり、企業が市場占有率を伸ばしやすくなる。
市場占有率を伸ばして寡占に近い状態になった企業は、協力企業に対して「君たちは私たちの要求を呑まねばならない」と高圧的に接しやすくなり、「協力企業に払う費用」を削減しやすくなる。
新自由主義と株主資本主義は一体不可分であり、その両者は同時に国家に浸透していく。新自由主義が優勢になる国では、自由貿易の促進に伴う安価な外国製品の流入に対抗するために企業の合併が進んでいく。株主資本主義が優勢になる国では、解雇規制の緩和などを原因として企業の合併が進んでいく。
こうして、新自由主義と株主資本主義が優勢な国では、1つの市場を数社で占有する寡占の状態や、1つの市場を1社で占有する独占の状態になりやすくなり、市場占有率が高い企業が出現しやすくなる。つまり、企業間の格差が広がっていく。そうなると、大企業が中小企業の協力企業に対して値引きを要求しやすくなるのである。
株主資本主義が優勢な国では、「原材料の価格が高騰して資源インフレが発生しているのに、仕入れ価格の値上がり分を価格に転嫁できない中小企業が多い」というニュースが多く流れるようになる[35]。
そうしたニュースに接した株主資本主義者は「世の中に協力会社へ支払う費用を低く維持する流れが起こっている。立場の強い大企業が立場の弱い中小企業へ威圧的に接して値上げを許さない弱肉強食の社会になっている。ゆえに自分が株式を保有しているA社も、協力会社へ支払う費用も低く維持されるだろう」と考えて喜ぶ。
株主資本主義者は弱肉強食という四文字熟語を好み、「弱いものが強いものにおとなしく従って食い物にされるのは極めて当然だ。それが人類社会の掟であり、自然界の真理というものだ」と語ることが多く、強いものが上に立って弱いものが下に回る階級社会を好む。
直接金融を採用して、無駄な利払いを減らす
株主資本主義者は、企業を経営するにあたって、間接金融で資金調達することを嫌い、直接金融で資金調達することを大いに好む。
間接金融の代表例は、銀行による証書貸付・手形貸付である。直接金融の代表例は、社債やCPを短期金融市場・長期金融市場に売り出してそれらの市場参加者からお金を借りることである。
銀行による証書貸付・手形貸付を繰り返すと、融資担当の銀行員に温情を感じるようになってしまう。その銀行員が「私もノルマを課されているんです。どうか借り入れして利子を払っていただけませんか」と泣きついてくると、どうしても温情を殺しきれず、必要も無いのに銀行から借り入れをする羽目になる。結果として、企業は銀行に無駄な利子を払う羽目になり、「協力企業に払う費用」を無駄に払う羽目になる。
社債やCPを短期金融市場・長期金融市場に売り出して資金調達することを続けていれば、市場参加者とはドライな関係であるので、借りたくもないときに無駄に借り入れすることにならず、「協力企業に払う費用」を無駄に払わなくて済む。
株主資本主義が優勢な国では、バーゼル合意(BIS規制)が強化されて銀行の信用創造が制限され、銀行の経営が苦しくなり、間接金融が衰えていく。
そして株主資本主義が優勢な国では直接金融が賛美される。政府が「貯蓄から投資へ」とか「貯蓄から資産形成へ」という標語を打ち出しつつ[36]、「間接金融から直接金融への転換を目指すべきだ」と主張するようになる。
直接金融に参加する企業は「経営状況を常に良好にして、財務諸表を常に良好なものにしよう」と考えるようになる。短期金融市場・長期金融市場の参加者は企業の財務諸表を見てその企業の社債やCPを買うかどうかを決めるからである。そのため、直接金融に参加する企業は非常に短期的な視野で企業経営するようになり、「ある期でいったん損失を出すが、その10年後に大きな収益を上げる」というような長期的視野を持つ経営計画を立てられなくなる。これが直接金融の短所である。
また、直接金融だけで資金調達する企業は、貸し手と市場で接するだけであり、貸し手との距離が遠いままになる。そうなると貸し手から良質な情報を入手して自らを成長させることが難しくなる。これも直接金融の短所である。
一方で間接金融には、企業が銀行員から良質な情報を収集できるようになって成長しやすくなるという長所がある。
自由貿易を促進して原材料費を減らす
株主資本主義者は新自由主義者を兼任することがほとんどである。
新自由主義者はTPPやRCEPのような自由貿易協定を締結して自由貿易を促進することがある。自由貿易により、企業は、高賃金の国で製造される商品を購入せずに低賃金の国で製造される商品を購入できるようになり、原材料費などの費用を削減できるようになる。
株主資本主義を弱体化させる方法
保護貿易の導入
株主資本主義を弱体化させるためには保護貿易の導入が効果的である。
保護貿易にすると、企業は安価な外国製品と競争するために企業体力を向上させることから解放され、株主資本主義を採用する必要性が薄れる。
国の現業の創設
株主資本主義を弱体化させるためにはかつての三公社五現業のような国の現業を創設することが有効である。
国の現業を創設すると、それに従事する労働者が熱心に労働運動を行うようになり、世の中の労働運動が活発化し、賃上げの気運が生まれる。各企業の経営者は株主に対し「国の現業の労働組合が作り出す労働運動の勢いが強いので、株主の皆さんの『人件費を削れ』という要求には応じられません」と拒絶できるようになり、各企業において株主の発言力が急激に低下し、株主が「物言わぬ株主」「黙りこくった株主」というべき存在になり、株主資本主義が弱体化していく。
解雇規制の強化
株主資本主義を弱体化させるためには解雇規制を強化することが有効である。
解雇規制を強化することで、不景気になったときも各企業が雇用を維持するようになり、「労働者に払う費用」を簡単に削れなくなる。
解雇規制を強化することで、企業が雇用の拡大を積極的に行わなくなり、企業の市場占有率が伸びにくくなり、大企業と中小企業の格差が縮小し、各企業が「協力企業に払う費用」を簡単に削れなくなる。
このため解雇規制を強化することで、各企業の経営者は株主に対し「解雇規制があるので株主の皆さんの要求には応じられません」と拒絶できるようになり、各企業において株主の発言力が急激に低下し、株主が「物言わぬ株主」「黙りこくった株主」というべき存在になり、株主資本主義が弱体化していく。
法人税の強化
株主資本主義を弱体化させるためには法人税の強化が有効である。
法人税を増税すると各企業が「法人税を節税するために法人所得を圧縮しよう」と考えるようになる。なぜなら、法人税は法人所得に法人税率を掛けて徴税額を計算するからである。
そして企業が「法人所得を圧縮するために損金を増やそう」と考えるようになり、「間接金融や社債発行で資金調達しよう。つまり銀行から借り入れて銀行に利子を払うか、社債を発行して社債保有者に利子を払うか、どちらかにしよう。銀行や社債保有者に支払う利子は、企業会計における費用であり、税務における損金である」と考えるようになり、「株式発行で資金調達するのは止めておこう。株主へ支払う配当は企業会計における費用ではないし、税務における損金でもない」と考えるようになる。
その結果として、各企業が公募増資を減らすようになり、株主資本主義が弱体化していく。
ちなみに法人税を強化すると社会の構造が大きく変わり、中小企業への銀行融資が増えて中小企業に優しい社会になり、中小企業と大企業の格差が多少なりとも縮小する。
法人税を強化すると各企業の税引後当期純利益が減ることになり、各企業の利益剰余金が減ることになる。
企業は借り入れするときに利子を支払いつつ元金を返済するのだが、元金の返済は「その他利益剰余金の見合いとなる銀行預金」を原資としている。そのため、法人税が強化されて企業の「その他利益剰余金の見合いとなる銀行預金」が減ると、企業は元金を短期で返済しにくくなり、元金を長期にわたって返済するように変化していく。つまり法人税を強化すると企業が短期借り入れから長期借り入れに移行していくのである。
企業が短期借り入れから長期借り入れに移行すると、短期金融市場での需要が減って短期金利が下落し、長期金融市場での需要が増えて長期金利が上昇する。つまり法人税を強化すると長期金利と短期金利の差が拡大し、長短金利差が拡大するのである。
ごく一般的にいうと、長期金利と短期金利の差が拡大すると、すなわち長短金利差が拡大すると、銀行の経営が良好になる。そうなると銀行は「経営に余裕が出てきたことだし、なんだか怪しい中小企業にも融資をしてみよう」と考えるようになり、中小企業への融資を積極的に行うようになる。つまり法人税を強化すると、中小企業が銀行から融資を受けやすくなり、中小企業の経営が比較的に容易になり、中小企業と大企業の格差が多少なりとも縮小する。
金融所得税の強化
株主資本主義を弱体化させるためには金融所得税の強化が有効である。
株式等の譲渡で発生する株式譲渡益に掛ける株式等譲渡益課税(キャピタルゲイン税)や、株式の配当に掛ける株式等配当課税(インカムゲイン税)を累進課税にする。こうすることで「大金持ちの投資家」が出現しにくくなり、各企業が「大金持ちの投資家に当社の株式を買ってもらおう。彼らが気に入るような株主資本主義の企業経営をしよう」と考えなくなり、株主資本主義が弱体化する。
2021年12月31日の時点において、日本の株式等譲渡益課税(キャピタルゲイン税)や株式等配当課税(インカムゲイン税)は一律課税であり、一律で20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)となっており、累進課税が導入されていない。そして高額所得者ほど株式譲渡や株式配当で得られる収入の割合が多い。このため申告納税者の所得税負担率を見てみると、所得金額が1億円までは所得税負担率が右肩上がりの累進課税となっているが、所得金額が1億円を超えると所得税負担額が右肩下がりになっている(記事)。このことを1億円の壁という。
2021年8月26日になって自民党総裁選挙に出馬した岸田文雄は、「株式等譲渡益課税(キャピタルゲイン税)や株式等配当課税(インカムゲイン税)の一律課税を見直す。1億円の壁を打破する」と発言し、9月29日になって総裁選に勝利して10月4日に首相へ就任したが、10月10日になって「金融課税について、当面、見直しをしない」という発言をした(記事)。つまり、岸田文雄は株主資本主義の弱体化をしようとしたが、あっさり断念した。
株主資本主義で発生する格差社会・階級社会
株主資本主義によって格差社会になる
株主資本主義の国では、労働者への人件費を削って株主への配当金を増やすことを目指す企業が主流となる。
株主の意向に従って労働者への人件費をひたすら削る経営者が「V字回復の救世主」「信念の人」などと口を極めて賛美され、そうした経営者には株主たちから褒美として高額の役員報酬が与えられる[37]。このため株主と「株主の手先となって人件費の削減に励む経営者」が高額所得者となり、企業経営に関与しない平社員が低額所得者になっていく。
さらには所得税累進課税が弱体化され、株主と「株主の手先となってコストカットに励む経営者」が高額所得を得る現象が法律によって強く肯定される。
こうして所得格差が広がり、貧富の差が広がり、格差社会になっていく。株主資本主義が席巻する国では格差の拡大が顕著であり、ごく少数の人たちが勝ち組となって富を独占するようになり、大多数の人たちが負け組となって貧困生活になる。「人口の1%の人々が国富の99%を所有する」といった状態が普通のことになる[38]。
平等にも機会平等と条件平等と結果平等の3種類があるが[39]、株主資本主義者が優先的に潰しにかかるのは結果平等である。「いくら頑張っても結果が平等になるという社会を作れば、人々の労働意欲が蒸発して社会が停滞し、共産主義の国のように経済が麻痺する」と主張し、所得税累進課税を徹底的に否定する。
株主資本主義者の望むように結果平等を潰してしまえば、自然と条件平等も崩れていく。大金持ちの子どもは高額の謝礼を払って塾に通って高学歴を得るのに対し、貧乏人の子どもは塾に通えず低学歴になる。子どもたちが社会に参加するときには学歴格差が大きく開いており、条件平等が完全に崩れることになる。条件平等が崩れてしまえば実質的に機会平等が崩れることになる。
さらに株主資本主義者は条件平等を直接的に潰そうとする。「親から子へ遺産とともに知恵が継承されていくことで社会が興隆する」と主張し、相続税や贈与税を必死になって否定する[40]。
平等を破壊するときの株主資本主義者は、日本国憲法第29条の「財産権の不可侵」を根拠にして、それを錦の御旗にする。「財産権を否定した共産主義国は、経済麻痺を起こして滅んだ」などと主張する。
株主資本主義によって階級社会になる
株主資本主義者の手によって平等を破壊して格差社会にすると、次第に階級社会になる。
階級社会の悪いところは、人が人に気軽に話しかける雰囲気が失われ、情報の流通が阻害され、社会が停滞するところである。階級社会の典型例というとスクールカーストであるが、スクールカーストが異なっている子ども同士は全く交流せず、お互いに話しかけない。
階級社会になると、上流階級のものは「下流階級の連中に話しかけると『あいつは下流階級の仲間だ』と思われて上流階級から追い出されてしまう」と考えて、下流階級に話しかけることをためらうようになる。下流階級のものは「上流階級の人は自分とは住む世界が違う」と考えて、上流階級に話しかけることをためらうようになる。人が人に気軽に話しかける雰囲気が失われ、人々積極的情報提供権(表現の自由)を自ら封印するようになり、情報の流通が阻害され、社会が発展せずに停滞する。
平等社会を作り出す所得税累進課税の根拠の1つは、日本国憲法第21条の表現の自由である。人が人に気軽に話しかける雰囲気を作り出して、人々が持つ表現の自由を尊重し、社会の中の情報流通を促進して社会の発展を目指すために、所得税累進課税や相続税を課税し、富裕層や貴族の出現を防止し、結果平等・条件平等・機会平等が保障される平等社会を作りあげる。
逆に言うと、平等意識が芽生えて人々がお互いに話しかけやすい雰囲気を作り出せる程度の結果平等にすればいいのであって、「すべての労働者を年収700万円にして完璧な結果平等にする」のようなことを実現する必要は無い、ということになる。
株主資本主義者は日本国憲法第29条の「財産権の不可侵」を尊重して累進課税を否定するし、ステークホルダー資本主義者は日本国憲法第21条の表現の自由を尊重して累進課税を肯定する。両者にはこうした違いがある。
「あいつは嫉妬しているだけだ」と言って格差社会・階級社会の批判を潰す
「日本国憲法第21条を遵守して『表現の自由』を尊重し人々の積極的情報提供権という基本的人権を保障しよう。そのために所得税累進課税を掛けて結果平等の平等社会にして無階級社会にしよう」と提案する人に対して株主資本主義者が投げかける言葉は「あいつは嫉妬しているだけだ、あいつは成功者の足を引っ張っているだけだ」というものである[41]。
基本的人権の尊重を求める人に対して「あいつは嫉妬しているだけだ、あいつは成功者の足を引っ張っているだけだ」とレッテル貼りして名誉を破壊するのが株主資本主義者が行いがちな行動である。
トリクルダウン理論の宣伝をして格差社会を肯定する
株主資本主義によって格差社会になることが批判されたら、株主資本主義者は次のような論理展開を行う。
まず、「人というものは所得が伸びればそれに比例して消費を伸ばす」と主張する。続いて「高額所得者を増やせば、その高額所得者が必ず高額の消費をする」と主張し、そして「高額所得者が高額の消費をすることで各企業の売上高が伸び、経済発展する」と主張していく。これがいわゆるトリクルダウン理論である。
また、「人というものは所得が伸びればそれに比例して消費を伸ばす」と主張してから、「高額所得者は頭が良くて優秀で商品に付加価値が付いているかどうかを見定める能力が高い」と高額所得者を崇拝するがごとく褒め讃え、そして「高額所得者は付加価値の高い商品を買う消費をして、『付加価値が高い商品を作る立派な産業』を育成している」と述べていく。「フランス料理は王侯貴族という高額所得者に提供する宮廷料理が基礎となっているし、ウィーンのオーケストラはハプスブルグ家という高額所得者の王族に提供する宮廷音楽が基礎となっている」などと例を挙げ、「高額所得者が付加価値の高い産業を必ず生み出すのだ」と主張していく。これもトリクルダウン理論の一形態と言える。
こうしたトリクルダウン理論の出発点となるのは、常に「人というものは所得が伸びればそれに比例して消費を伸ばす」という主張である。この主張にはあまり説得力がなく、「アメリカ合衆国の大富豪であるウォーレン・バフェットは倹約家であって消費を盛んに行っていない[42]」という反論を浴びることが多い。
ウォーレン・バフェットは株主資本主義の時代に生まれた大富豪であり、「株主資本主義が作り出した大富豪」と言っていいような存在であるが、その彼が株主資本主義者の好むトリクルダウン理論にとって皮肉にも天敵となっている。
大金持ちへの崇拝をして格差社会を肯定する
株主資本主義によって格差社会になることが批判されたら、株主資本主義者は「大金持ちを人為的に作りだし、その大金持ちに国際的な大活躍をしてもらって国内に富を呼び込んでもらえばいい。優秀な大金持ちに経済を引っ張ってもらい、そのおこぼれをコバンザメのごとく拾っていけばいい」と論じることもある。この主張には「金持ちへの期待感と依存心」を見てとることができる。
株主資本主義者は所得税の累進課税に反対することが多いが、そのことを主張するとき、「大金持ちは頭が良くて優秀で生産力が高い存在である」と信仰するがごとく褒め称え、そして「大金持ちの足を引っ張らずに放置しておけば自動的に国家の富を増産してくれる」と語り、「大金持ちへの所得税累進課税を弱体化させることで効率的に経済発展することができる」と述べていく。大金持ちを万能の神であるかのように扱う株主資本主義者の姿は、敬虔な信仰をする宗教者といった観がある。
「大金持ちが働けば働くほど富が生まれる」と信仰する株主資本主義者の姿が多く見られるが、現実は必ずしもそうなっているわけではない。大金持ちが間違った働きをして巨額の損失を出す現象はしばしば見られる。「高額所得の企業経営者が、海外進出をして工場を建設することを決断したが、どうにも上手くいかず、巨額の損失を出しながら撤退した」という現象はたまに報じられる。
このように、大金持ちは決して全知全能ではないが、それでも株主資本主義者は「大金持ちが働けば働くほど富が生まれる」と熱心に信仰する。
株主資本主義は企業を「倒産しにくく永続しやすい団体」に近づけることを目指している。そして「倒産しにくく永続しやすい団体」というと、その代表例は宗教法人なのである。宗教法人は宗教活動で得た法人所得に法人税が課されないので倒産しにくく永続しやすい。このため株主資本主義は宗教法人を理想視して企業を宗教法人に近づけようとする思想と言える。株主資本主義者からどことなく宗教の雰囲気を感じるのはこのためである。
株主資本主義と宗教団体
株主資本主義の国では宗教団体が躍動する
株主資本主義の国では長時間労働が横行し、労働者は疲れ果てて政治のことなど考えられなくなる。また株主資本主義の国では労働組合が弱体化し、労働組合がしつこく労働者に対して投票を呼びかけることが少なくなる。
こうしたことが重なり、株主資本主義の国では投票率が下がる。投票率が下がった国では組織票がものをいう選挙が行われるようになり、巨大な組織票を持つ宗教団体が政権与党に食い込むようになる。日本では創価学会が公明党や自民党を支持している。
株主資本主義の企業と宗教団体の共通点
株主資本主義の企業と宗教団体は似たところがあり、いくつかの共通点がある。
下意上達(ボトムアップ)が行われず上意下達(トップダウン)ばかりが行われる軍隊風の組織であること、組織に尽くすための長時間労働を構成員に要求すること、といったところである。
株主資本主義の企業と宗教団体の相違点
株主資本主義の企業と宗教団体は、明確に相違している点が1つある。
株主資本主義の企業は長時間労働を労働者に課すときに外発的動機付けを掛けることが多いが、内発的動機付けを掛けることが少ない。「長時間労働をして成果を出せば高給を与える」と正の外発的動機付けを掛けたり、「長時間労働を拒否したら怠け者と呼ぶ」と負の外発的動機付けを掛けたりするが、「長時間労働をすれば顧客に感謝されるだろう」と労働者に訴えて内発的動機付けを掛けることは少ない。
なぜなら、株主は、特に経営と所有が分離した企業においては、会社の業務をよく知らず、営業に関わることがなく、顧客の感謝の声を収集することができないからである。経営と所有が分離した企業の株主が内発的動機付けをするには営業部門の労働者の手を借りねばならないが、そうすると営業部門の労働者が自信を持ってしまうので、株主資本主義者としては望ましいことではない。
一方で宗教団体は、長時間労働を信者に課すときに内発的動機付けを掛けることが多いが、外発的動機付けを掛けることが少ない。宗教団体は信者に「長時間労働をしてわが教団を巨大化させれば、わが教団により救われる人が増え、君も感謝されるだろう」と訴えて内発的動機付けを掛けるのが非常に上手い。しかし宗教団体は総じて信者に対してケチであり、「長時間労働をして成果を出せば高給を与える」ということを全く行わないことが多い。
関連項目
- ロナルド・レーガン - 1980年代における株主資本主義・新自由主義の推進者
- マーガレット・サッチャー - 1980年代における株主資本主義・新自由主義の推進者
- 中曽根康弘 - 1980年代における株主資本主義・新自由主義の推進者
- 小泉純一郎 - 2000年代における株主資本主義・新自由主義の推進者
- ステークホルダー資本主義 - 反対語
脚注
- *このことは「借方 その他利益剰余金(純資産)、貸方 銀行預金(資産)」と仕訳される。ただし、配当を支払ったことを記録に残すため、「借方 その他利益剰余金(純資産)、貸方 未払配当金(負債)」といったん仕訳しておき、その次に「借方 未払配当金(負債)、貸方 銀行預金(資産)」と仕訳するという手法を用いることがある。
- *期末において「借方 有価証券(資産)、貸方 有価証券評価益(収益)」と仕訳する。
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』5ページ、26ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』65ページ
- *「宗教活動に伴って作成する損益計算書」のことを正確に言うと「収益事業以外の事業にかかわる損益計算書」となる。宗教法人は「収益事業にかかわる財務諸表」と「収益事業以外の事業にかかわる財務諸表」を作る必要がある(国税庁資料15ページ)。
- *「法人所得に対して法人税が課税されない株式会社」と、「宗教活動だけを行っていて法人所得に対して法人税が課税されない宗教法人」は、厳密に言うと異なる存在である。前者は出資者の株主に利益を配分することを予定しているが、後者は公益法人等に属するので出資者に利益を配分することを予定していない。前者は解散したときに株主という個人が残余財産を勝手に受け取ってよいが、後者は公益法人等に属するので解散したときに個人が残余財産を勝手に受け取ることができない。(『税のタブー(集英社インターナショナル)三木義一 19ページ』)
- *所得税累進課税を弱体化させると「カリスマ経営者」が出現することは、トマ・ピケティが『21世紀の資本』の532ページで、ポール・クルーグマンが『格差はつくられた』の101~104ページで、それぞれ指摘している。そして株主資本主義は所得税累進課税を弱体化させる傾向にあるから、「株主資本主義の国家では『カリスマ経営者』が多く出現するようになる」ということが可能である。
- *森生明は『会社の値段(ちくま新書)』の第二章の58ページあたりにおいて「1960年代頃までのアメリカ合衆国には『株主は黙って経営者のいうことを聞いていればよい』という風潮があった」と指摘している。また、アドルフ・バーリとガーディナー・ミーンズが1932年に発表した『現代株式会社と私有財産』という論文を紹介していて、「現代の大企業を支配しているのは雇われ経営者であり、株主は会社の所有者であるにもかかわらず会社の支配とは無縁な存在になる」と論文の内容を要約している。
- *この典型が小室直樹であり、『日本人のための経済原論』などの著作で熱心に「日本人は株主資本主義と所有権の絶対性を理解していない」と主張していた。
- *テスラやTwitterの経営者であるイーロン・マスクは長時間労働を好むことで有名である。
- *「我慢して痛みに耐える管理職労働者」を心から愛する株主資本主義者というと小泉純一郎が筆頭格である。小泉純一郎は2001年4月26日になって首相に就任し、2001年5月5日の国会における所信表明演説で「痛み」という言葉を3回使用しつつ(資料)、「構造改革で国民に痛みを強いることになるが、しかし、国民が痛みに耐えることで日本の国際競争力が向上するのだ」という内容の演説をしており、それ以外の場所でもそうした内容の演説を繰り返していた。また小泉純一郎は、2001年5月27日の大相撲夏場所優勝決定戦で勝利した貴乃花に向かって「痛みに耐えてよく頑張った!感動した!おめでとう!」と叫んでいた(この動画の3分30秒あたり)。この小泉純一郎の姿は、ただ単に怪我の痛みをこらえて頑張ったスポーツ選手へ賛辞を送っただけに過ぎないのだが、我慢して長時間労働の痛みに耐える管理職労働者を好む株主資本主義を象徴する姿であるとも言える。
- *人は息子や娘にお金などの資産を渡すことに情熱を注ぐ傾向がある。ある大学教授は「娘が重病になったら臓器でも目玉でも何でも提供します。でも妻が重病になったら絶対に提供したくない(笑)」といった発言を大学受験用参考書の中で行っていた(本人の名誉のため名前を伏せておく)。この発言は、人が「息子や娘のためならあらゆる努力をする」という心情を抱えがちであることの一例になり得る。
- *株主資本主義の信奉者とされる竹中平蔵や小泉純一郎が愛読して絶賛する『自助論(サミュエル・スマイルズ)』には、人が労働を積み重ねて成果を得る姿を紹介する文章が頻繁に現れるが、「労働をしすぎると肉体や精神が疲労してしまう」と危惧する文章が全く現れない。「長時間労働の副作用に悩まされる人など存在しない」といった雰囲気で進んでいく書物である。
- *覚醒剤を使用すると疲労感を感じなくなり、何日も不眠不休で働くことが可能になる。長時間にわたって労働や受験勉強をするために覚醒剤を利用する例がある(資料)。
- *1980年代日本の株主資本主義・新自由主義の旗手というと中曽根康弘首相である。中曽根康弘首相は国鉄の民営化を実行し、当時の日本で最大最強とされた国鉄の労働組合を弱体化させた。国鉄の労働組合の弱体化を目指していたことを各種のインタビューで語っている(記事1、記事2)。
- *Googleの社内に初めて労働組合が作られたのが2021年1月である(記事)。Amazonの社内において長年にわたって企業側の圧力により労働組合が結成されなかったが、2022年4月になって史上初めて労働組合が結成された(記事1、記事2)。AppleやFacebookには労働組合が2023年5月の時点で存在しない。
- *裁判所が確定判決によって救済命令を支持しているのに企業経営者が救済命令を無視したら、企業経営者は労働組合法第28条により一年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金又はその両方という刑事罰を課される。
- *『NHKスペシャル 戦後50年その時日本は 第5巻(日本放送出版協会)NHK取材班』252ページにおいて、国労(国鉄労働組合)の幹部だった細井宗一が「組織が崩されるというのは、労働組合にとっては致命傷だからね」「労働組合の目標は何かというと、二つある」「一つは、組織の人たちの“生首”を絶対に切られないこと。もう一つは自分たちの組織を守るということなんです。組織があれば運動ができるわけです」と語っており、労働組合が構成員の数の維持を重視する組織であることを語っている。
- *2023年7月の時点で内閣総理大臣を務める岸田文雄の生年月日は1957年7月29日であり、スト権ストが発生した1975年頃は18歳で、国鉄の労働組合の順法闘争をよく知っている世代である。「岸田文雄よりも年上の人たちは国鉄の労働組合の順法闘争をよく知っていて、『労働組合は順法闘争をする悪い連中だ』という煽りがよく効く」と認識しておいてよさそうである。
- *商品投資とは「コモディティ投資」とも呼ばれるもので、投資家が金・銀・白金(プラチナ)・アルミニウム・銅・鉄鉱石・ダイヤモンド・原油・ガソリン・石炭・小麦・大豆・トウモロコシ・暗号資産・外貨などを現物取引または先物取引の形態で売買して利益を追求することである。
- *タガは箍と書き、桶(おけ)や樽(たる)の外側にはめて締める輪のことをいう(画像)。「良心のタガが外れる」とは、悪行を制止する良心の働きが弱まることを示す慣用句である。
- *不確実性に備えて通貨を貯蓄することを予備的貯蓄という。「不確実性が強まるほど人は通貨を予備的貯蓄したがるようになり、消費を避けるようになる」と指摘したのはジョン・メイナード・ケインズである。
- *「観光業 非正規雇用」で検索するだけで、観光業において非正規雇用の割合の多さを指摘する学術論文がいくつもヒットする。
- *株主資本主義の旗手として知られる竹中平蔵は、2015年1月1日にテレビ朝日の「朝まで生テレビ」に出演し、「正社員をなくしてしまえばいい」と発言した(記事)。
- *沖縄県の経済は観光業に依存している(資料)。観光業は第3次産業に分類されるのだが、沖縄県は第3次産業の割合が全国で一番高いレベルである(資料1、資料2)。そして沖縄県は非正規雇用の割合が全国で一番高く、正規雇用の割合が全国で一番低く、県民1人あたり所得の額が全国で一番低い(資料)。こうした事実と反・株主資本主義者の主張は一致している。
- *医療器具の加工は非常に難しい。切削しにくい難切削材の素材であることが多く、切削しにくい複雑な形状であることが多く、切削しにくい微小な形状であることが多いためである。医療器具を上手く加工するには、切削工具、切削油、工作機械、CADソフト、CAMソフトといったすべての要素を改良する必要がある。切削工具のメーカーや工作機械のメーカーが自社の商品を売り込むときの定番文句の1つは「我が社の商品は医療器具の加工に使われております」である(記事1、記事2、記事3)。
- *田中角栄が首相に就任していたのは1972年7月7日から1974年12月9日までだが、1973年になって「福祉元年」と宣言し、老人医療の無料化や老人に対する年金支給額の大幅引き上げを実行した。このため、田中角栄こそが日本を福祉国家に変貌させた政治家だと言える。
- *姥捨て山(うばすてやま)とは江戸時代の日本の中の貧困地帯で存在したとされる風習で、生産能力が低くなった老人を人里離れた山に放置して絶命させ、その共同体の人件費を削減することをいう。ちなみに、共同体の構成員を追放したり殺害したりすることで人件費を削減することを口減らし(くちべらし)という。
- *「官から民へ」や「民間でできることは民間に」は、株主資本主義・新自由主義の信奉者とされる小泉純一郎首相が好んで使った言い回しである。
- *この典型例が渡部昇一で、『歴史の鉄則―税金が国家の盛衰を決める(PHP研究所)1993年初版』の151ページで普通選挙を敵視する文章を書いている。
- *N・グレゴリー・マンキューは『マンキュー経済学Ⅱマクロ編[第4版](東洋経済新報社)』の87ページで「セリーナ・ウィリアムズという超一流のスポーツ選手は、庭の芝刈りを自分で行わず、近所の少年を雇ってその少年にやらせるべきである。時間を庭の芝刈りに費やさずにテレビ広告の収録に回せば、テレビ広告の報酬を稼ぐことができる」と述べている。つまり「セリーナ・ウィリアムズはテレビ広告の仕事をして、近所の少年は芝刈りをする、という社会的分業をすべきだ」と主張している。
- *日本において国や地方の非現業公務員が争議行為をすると最高で懲役3年の刑罰が課される。一方で日本において国や地方の現業公務員が争議行為をしても解雇の報復をされるだけである。詳しくは日本国憲法第28条の記事を参照のこと。
- *2020年東京オリンピックでは観光客向け案内人や医師や看護師をボランティアで募集した。
- *日本において国家公務員の給料を引き下げる現象の代表例が2021年8月~2022年6月に発生したので紹介しておきたい。まず、人事院が2021年8月10日に国家公務員の賞与を引き下げることを政府に対して勧告した(記事)。人事院勧告を受け入れるか拒否するかは日本政府が自由に決めることができるのだが、岸田文雄首相が率いる日本政府は2021年11月24日に人事院勧告を受け入れることを決め(記事)、2022年1月17日から始まった通常国会に給与法改正案を提出した。同法案は2022年3月10日に衆議院本会議で可決され、同年4月6日に参議院本会議で可決され(記事)、同年6月30日に支給される国家公務員の賞与が減らされた(記事)。
- *帝国データバンクが2022年1月後半に実施した価格転嫁の実態調査(1万1981社回答)では、約8割の企業が自社の商品やサービスに原材料価格高騰などの影響があると回答し、さらに36.3%は「価格転嫁が全くできていない」と答えた。時事ドットコムニュース2022年02月10日20時33分
- *「貯蓄から投資へ」とか「貯蓄から資産形成へ」は日本政府が好む標語である。1990年代後半の金融ビッグバンの頃から日本政府が「貯蓄から投資へ」という標語を使うようになり、2001年~2006年の小泉純一郎内閣も「貯蓄から投資へ」という標語を好んで使っていた(資料)。金融庁ウェブサイトのこのページにも「貯蓄から投資へ」の標語がある。また、2016年の金融庁は「貯蓄から資産形成へ」という標語を掲げている(資料)。2021年に発足した岸田文雄内閣は、「新自由主義からの脱却を目指す」と宣言しているが(記事)、その一方で「『貯蓄から投資へ』を大胆かつ抜本的に進めて『資産所得倍増プラン』を推進する」と宣言し(記事)、新自由主義・株主資本主義の中核である直接金融を推進する構えを見せている。さらにいうと岸田文雄首相は2022年5月5日に英国金融街のシティで講演し、「Invest in Kishida」と述べて「岸田文雄率いる日本に投資をしてください」といった意味の語りかけをして、直接金融を重視する姿勢を鮮明にした(記事)。
- *一例を挙げると、カルロス・ゴーンは人件費を削減するコストカッターとして有名であるが、日産自動車CEOの地位を解任されるまで日産自動車から高額の役員報酬を受け取り続けていた(記事)。「役員報酬が高すぎる」と言われると世界各国の自動車会社における役員報酬を調べ上げて「日産と同規模の自動車会社では日産よりも多くの報酬を役員に支払っている」と反論していた(記事)。
- *イギリスの非政府組織(NGO)「オックスファム(Oxfam)」は、2016年1月18日に、「世界の最富裕層1%が保有する資産の総額が、残る最富裕層以外の99%が保有する資産の総額を上回った」と発表した(記事)。
- *機会平等の例は「最終学歴が中卒の人にも最終学歴が大卒の人にも公務員試験の受験資格を与える」というものである。条件平等の例は「世の中のすべての人々の最終学歴を大卒にして、そうした上で世の中のすべての人々に公務員試験の受験資格を与える」というものである。結果平等の例は「所得税累進課税を掛けて世の中のすべての人々の年収を500万円~2000万円の幅に収める」というものである。
- *所得税累進課税を否定して所得税一律課税を肯定し、相続税を廃止することを主張した株主資本主義者というと、渡部昇一である。
- *2006年2月1日参議院予算委員会で小泉純一郎首相が「私は格差が出るのは別に悪いこととは思っておりません。今まで悪平等だということの批判が多かったんですね。能力のある者が努力すれば報われる社会、これは総論として、与野党を問わずそういう考え方は多いと思います」「成功者をねたむ風潮とか、能力のある者の足を引っ張るとか、そういう風潮は厳に慎んでいかないとこの社会の発展はないんじゃないかと。できるだけ成功者に対するねたみとかそねみという感情を持たないで、むしろ成功者なり才能ある者を伸ばしていこうという、そういう面も必要じゃないかと」と答弁した(資料1、資料2)。株主資本主義の支持者である竹中平蔵も「頑張って成功した人の足を引っ張るな」というのが定番の語りである(記事)。株主資本主義の支持者である渡部昇一も「所得税累進課税は成功者への嫉妬である」と繰り返し主張していた。英国の首相を務めたマーガレット・サッチャーは演説で「金持ちを貧乏にすることはできても、貧乏人を金持ちにすることはできない(The poor will not become rich even if the rich are made poor.)」と語ったが、これは「成功者に嫉妬して成功者の足を引っ張るな」と主張する人々によってしばしば引用される言葉である。
- *ウォーレン・バフェットはアメリカ合衆国の大富豪で、株式投資によって巨万の富を稼ぎ出した。彼の私生活は非常に質素であり、こぢんまりとした小さな住居に住み、一般市民が飲むようなチェリーコークを愛飲し、年会費無料のごく一般的なクレジットカードを使っている。
- 3
- 0pt
- ページ番号: 5678052
- リビジョン番号: 3266627
- 編集内容についての説明/コメント: