株主資本主義(英:Shareholder Capitalism)とは、企業の経営に関する思想の1つであり、国家の経済体制に関する思想の1つである。株主至上主義(英:Shareholder Supremacy)ともいう。
反対の概念はステークホルダー資本主義である。
概要
定義
株主資本主義については2つの定義をすることができる。
性質その1 税引後当期純利益を増やして配当金の増加を追求する
株主資本主義は企業の経営をするにあたって税引後当期純利益の最大化を追求すべきと考える思想である。
ある期の企業において税引後当期純利益が○円発生すると、期末の貸借対照表において純資産の部の中の「その他利益剰余金」の数字が○円増え、資産の部の数字が増えたり負債の部の数字が減ったりする。資産の部の増加分と負債の部の減少分の合計額が○円になる。
企業の「その他利益剰余金」が増えると、株主への配当が増えやすくなる。企業は「その他利益剰余金の見合いとなる資産」を原資として株主への配当金を出すことが通常であるからである。企業が資産の部の銀行預金の数字と純資産の部の「その他利益剰余金」の数字を同じ額だけ減らして[1]、銀行振り込みで株主に配当金を支払う。
性質その2 税引後当期純利益を増やして株価の上昇を追求する
株主資本主義によって企業の「その他利益剰余金」が増えると、「あの企業の株式は安定的な配当をもたらす」と投資家に思われるようになり、長期金融市場の中の株式市場においてその企業の株式への買い注文が増える可能性が高まり、その企業の株式の価格(株価)が上がる可能性が高まる。
もし株価が上がったら、その株式を保有している株主の利益が増える。株主が時価会計主義で財務諸表を作っている場合、期末において保有する株式の株価が購入価額よりも上がっていたら、有価証券評価益という収益を計上し[2]、貸借対照表で資産の部における有価証券の金額を増やすので、「株主が利益を得て富を増やした」と表現することができる。株主が簿価会計主義で財務諸表を作る場合、期末において保有する株式の株価が購入価額よりも上がっていたとしても、収益を計上するわけではなく、貸借対照表において資産の部における有価証券の金額を増やすわけでもないが、「株主が含み益を得て実質的に富を増やした」と表現される。
このため「株主資本主義というのは企業の経営をするにあたって株価の上昇を追求する思想である」と言い換えることもできる。株主資本主義・株主至上主義は、株価資本主義とか株価至上主義ということもある。
株主資本主義が幅をきかせる国では政治家がそれに染まり、株価の上昇を最優先するようになり、株価が上昇すると「経済が成長して発展し、すべてが良くなった」と満足する傾向にある。株価というのは経済の様子を示す指標のうちの1つに過ぎないのだが、とにかく株価に偏重して株価に一喜一憂する。
株主資本主義が幅をきかせる国では市場関係者もやたらと強気になり、「政府というのは株価を上げるために存在する」と本気で考えるようになる。労働者に対する賃金が増えて企業の税引後当期純利益が減って株主の配当金が減って株価が下がっていくように誘導する政策を政府が提案したら、「そんなことをしたら株価が下がる!そんな政策をする国がどこにあるのか」と市場関係者が猛抗議する。
経済学者が経済の状況を測定するときに最も頻繁に使う経済統計は、実質GDPとインフレ率と失業率の3つである[3]。そして経済学者はその3種類の中でも実質GDPを最も重視する[4]。つまり、株主資本主義に染まって株価を最も重視する政治家や市場関係者は、経済学の基本を完全に無視しているわけである。
性質その3 「倒産しにくく永続しやすい企業」の出現
A期において税引後当期純利益を○円発生させた企業は、A期末の貸借対照表において資産の部の数字を増やしたり負債の部の数字を減らしたりしつつ純資産の部の「その他利益剰余金」を○円増やし、自己資本比率を高め、「倒産しにくく永続しやすい企業」に近づいていく。
企業は、A期において稼ぎ出した「その他利益剰余金」の全額を翌B期において株主に対する配当金にして自己資本比率を元通りに下げてしまうこともあるが、そこまでする企業は少数派といえる。多くの企業は、A期において稼ぎ出した「その他利益剰余金」の一部だけを翌B期における株主に対する配当金にして、自己資本比率がA期末よりも高い状態を維持する。
このため、「株主資本主義とは、企業の経営をするにあたって自社を『倒産しにくく永続しやすい企業』に近づけていくべきと考える思想である」と理解することはおおむね正しいと言える。
やや大袈裟な表現にすると「株主資本主義というのは企業に永遠の生命を吹き込もうとする思想である」となる。秦の始皇帝は自らを不老不死の生命体にしようとしたが、株主資本主義者も企業を不老不死の存在にしようとする。
株主資本主義を弱体化させるような政策を耳にしたときの株主資本主義者は、「そんなことをしたら投資家が日本の株式市場から資金を引き揚げ、株価が下がる!」と猛抗議するのが常である。この抗議をさらに詳しく分析すると「そんなことをしたら投資家が日本の株式市場から資金を引き揚げ、株価が下がり、企業が公募増資で『返済が不要な資金』を調達することが難しくなり、銀行からの借り入れや社債の発行で『返済が必要な資金』を調達するはめになり、企業の負債が増え、自己資本比率が下がり、債務超過リスクや倒産リスクが高まる!」ということになる。
企業の負債が増えることや倒産リスクが高まることを極端に恐れる心理のことを負債恐怖症とか倒産恐怖症という。そうした負債恐怖症や倒産恐怖症が株主資本主義を生み出す。
株主資本主義を貫徹して企業の倒産が少なくなった社会は労働者の賃金が少ない社会であり、企業の売上が伸びにくい社会であり、企業を創業しにくい社会であり、企業が滅びにくく企業が生まれにくい社会である。
一方でステークホルダー資本主義を貫徹して企業の倒産が多くなった社会は労働者の賃金が多い社会であり、企業の売上が伸びやすい社会であり、企業を創業しやすい社会であり、企業が滅びやすく企業が生まれやすい社会である。そういう対比の視点を持って経済を語ると、聞く人の負債恐怖症や倒産恐怖症を治療することができ、株主資本主義の流行を押さえ込むことができる。
性質その4 企業を宗教法人に近づける
株主資本主義を支持する企業経営者が目標とする「倒産しにくく永続しやすい企業」は、宗教法人とよく似ている。
日本を含む多くの国々において宗教法人は、宗教活動で得られる法人所得に対して法人税0%の優遇措置を受けていて、宗教活動に伴って作成する損益計算書[5]の税引後当期純利益を増やしやすい存在になっており、宗教活動に伴って作成する貸借対照表の資産の部の数字と純資産の部の数字を同時に増やして自己資本比率を高めやすい存在になっており、「倒産しにくく永続しやすい団体」になっている。
株主資本主義が徹底されて法人税が0%になった国における企業と、多くの国々における宗教法人は、全く同一の存在ではないが[6]、倒産しにくく永続しやすいという点で非常によく似た存在である。
つまり、株主資本主義というのは、企業を宗教法人に近づけようという思想である。
宗教法人というのは神秘的な存在で、人々の心のよりどころになり得る存在である。世界各国で宗教法人の「宗教活動で得られる法人所得」が非課税になっている理由の1つは、「宗教法人を倒産しにくく永続しやすい団体にすれば、人々の心のよりどころが社会の中で生き続けるので人心が安定する」というものである。
一方で、企業というのは特に神秘的なところがなく極めて世俗的な存在で、人々の心のよりどころになることが少ない存在である。
本来の性質から考えると、宗教法人と企業は全く似ておらず、遠く離れた存在である。株主資本主義の支持者の行動は無理で不自然な行動といえる。
性質その5 「カリスマ経営者」の出現
株主資本主義が主導権を握る国では、成功した企業経営者を神か仏のように褒め讃えて神格化して「カリスマ経営者」に祭り上げる社会的風潮が定着する[7]。
そういう風潮が定着することにより、もともと神秘性をもっていない企業に神秘性が強引に付加され、企業を宗教法人のように扱うことが許される世相になり、株主資本主義がさらに広まっていく。
ちなみに、反・株主資本主義の支持者は、つまりステークホルダー資本主義の支持者は、企業経営者を神格化して「カリスマ経営者」に祭り上げることを好まず、「企業が上手くいくのは経営者と労働者のチームワークのおかげだ。経営者を『カリスマ経営者』と扱って過剰にもてはやすのは良くないことだ」と苦言を呈する傾向がある。
性質その6 法人税の間接税化
株主資本主義が極めて優勢な国において法人税を増税すると、企業が税引後当期純利益を確保することを最優先するようになり、法人税の分を上乗せした価格で商品を販売して消費者に負担を転嫁したり、法人税の分だけ賃金を減らして労働者に負担を転嫁したり、法人税の分だけ「協力企業に払う費用」を減らして協力企業に負担を転嫁したりする。つまり、株主資本主義が極めて優勢な国では法人税が直接税ではなく間接税になる。このことについて詳しくは直接税の記事を参照のこと。
性質その7 業務の量的改善や費用を減らすことを好む
株主資本主義は企業の経営をするにあたって税引後当期純利益の最大化を追求すべきと考える思想である。そして、企業の税引後当期純利益を増やす方法として次の6つが考えられる。
企業会計をごく簡単に説明すると次のようになる。商品を消費者に売って売上金という収益を稼ぎ、収益から労働者に払う費用や協力企業に払う費用といった様々な費用を引いて税引前当期純利益を出す。税引前当期純利益から法人税を引いて税引後当期純利益を出す。
1.を追求するには、開発部門における商品の斬新な設計とか、生産部門における優秀な工具の調達とか、営業部門における効果的な広告宣伝のノウハウといった専門的な知識が必要である。「経営と所有の分離」が行われた企業において1.を追求すると、株主にとって何が何だかわからないレベルの話になりがちであり、株主は黙って経営者のいうことを聞くしかなく、「物言わぬ株主」「黙りこくった株主」になるしかない。
1.は、株主資本主義者にとって非常に好ましくない方法である。1.を追求する場面では専門的な知識を持っている労働者たちが主導権を握るようになり、労働者の発言力が上がってしまう。そして、労働者が「我々には経営に口出しする資格があるのだ」と自信を持つようになり、労働者が「労働三権を行使し、経営の管理と運営について意見を出そう」と考えるようになり、「物言う労働組合」が出現してしまい、株主の発言権が弱体化してしまう。
3.や6.は株主資本主義者にとって好ましいものだが、なかなか簡単に実現できない。3.は独占の地位を築いてある場合なら容易であるが、そうでない場合なら難しい。6.はいわゆるレントシーキングであるが、多くの国会議員を説得せねばならず、難しい。
2.や4.や5.は株主資本主義者にとって非常に好ましい方法である。2.や4.や5.を追求するときはたいして専門的な知識を必要としない。「経営と所有の分離」が行われた企業において2.や4.や5.を追求するとき、株主にとって十分について行けるレベルの話になりがちであり、株主は大いに発言権を行使することができ、「物言う株主(アクティビスト activist)」になることができる。
以上のことを踏まえつつ、企業の税引後当期純利益を出す6つの方法を分類すると次のようになる。
方法 | 性質 | 方針 |
1.商品価格を維持しつつ業務の質的な改善をして多くの消費者に商品を売って収益を増やす | 株主にとって理解しにくい話になりがちである。労働者の発言力を高めて「物言う労働組合」を生みだしてしまう危険がある | 株主にとってできれば回避したい |
2.商品価格を維持しつつ業務の量的な改善をして多くの消費者に商品を売って収益を増やす | 株主にとって理解しやすい。「物言う株主」を生みやすい | 株主にとって優先的に実践したい |
3.商品価格を釣り上げて売上金という収益を稼ぐ | 独占の体制を築き上げることが難しく、実現が難しい | 株主にとって実践したいが困難である |
4.労働者に払う費用を減らす | 株主にとって理解しやすい。「物言う株主」を生みやすい | 株主にとって優先的に実践したい |
5.協力企業に払う費用を減らす | 株主にとって理解しやすい。「物言う株主」を生みやすい | 株主にとって優先的に実践したい |
6.国会議員に影響力を与えて法人税を減税する法律を立法させる | 多くの国会議員を動かすことが難しく、実現が難しい | 株主にとって実践したいが困難である |
株主資本主義者の得意技である2.や4.や5.については、本記事において章を設けて詳細に解説する。業務の量的な改善をして収益を増やすの章と、労働運動を抑制して労働者に払う費用を減らすの章と、協力企業に払う費用を減らすの章と、実質利子率を下げて協力企業に払う利払い費用を減らすの章を参照のこと。
性質その8 「今日の費用は明日の収益」という発想をしない
株主資本主義者は企業の経営において労働者に払う費用や協力企業に払う費用を削ろうとする傾向が非常に強く、費用というものを毛嫌いする傾向がある。
株主資本主義者は「今日の費用は明日の収益」という発想をしない。「労働者に賃金を払うと、その労働者が我が社の商品を買って、我が社の収益が上がる」とか「協力企業に代金を払うと、その企業の労働者の賃金が増え、その企業の労働者が我が社の商品を買って、我が社の収益が上がる」という発想をしない。
株主資本主義者は長期的な視野でものごとを考えるのが苦手な傾向にある。
性質その9 財産権の尊重
株主資本主義は、企業が税引後当期純利益の最大化を追求することを是認する思想であり、企業が倒産して株式が無価値になる可能性を減らすことを優先する思想であり、株主が株式に対して持つ財産権を尊重する思想である。
財産権とは日本国憲法第29条で保障されている基本的人権であり、経済的自由権の中核を成すものである。ちなみに財産権には物権と債権と知的財産権の3種類があるが、株主が行使している財産権は物権であり、物権のなかの所有権である。
性質その10 実質利子率の引き下げの重視
株主資本主義の支持者がマクロ経済の政策を語るときは、国債を発行してプライマリーバランスを赤字にしつつ歳入を増やして政府購入を増やしたり消費を促進したりする積極財政に反対することが非常に多く、国債を発行せずプライマリーバランスを均衡や黒字にしつつ政府購入や消費を抑制する緊縮財政を主張することが非常に多い。
政府が積極財政を実行するとクラウディングアウトとなり、実質利子率が上昇し、企業がお金を借り入れるときの実質利子率が上がって企業の費用が増加し、企業が税引後当期純利益を増やしにくくなり、企業が「実質利子率税」というべき負担を強いられる。
政府が緊縮財政を支持するとクラウディングアウトの逆となり、実質利子率が下落し、企業がお金を借り入れるときの実質利子率が下がって企業の費用が減少し、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなり、企業が「実質利子率税」というべき負担から解放される。
このため、株主資本主義者が企業経営から一歩外に踏み出して国家のマクロ経済政策を語るときは、必ずといっていいほど緊縮財政を主張するようになる。そうすることで実質利子率を引き下げることができ、銀行という協力企業に支払う費用をさらに削減できる。
以上のことは本記事の『実質利子率を下げて協力企業に払う利払い費用を減らす』の項目でさらに解説する。
性質その11 投資の長所を強調し短所を強調しない
前項目で述べたように、株主資本主義者は財政政策を変更して実質利子率を引き下げて企業の税引後当期純利益を増やそうとする傾向がある。そして、財政政策を変更して実質利子率を引き下げると国内で投資が拡大することが常である。そのため株主資本主義者は投資についてその長所をひたすら強調してその短所をあまり強調しないという傾向を持っている。
投資と政府購入と消費と純輸出は実質GDPを構成する4要素である。そのなかの投資は、それを行うと将来の資本量が増え、将来において国家の供給能力が高くなって実質GDPが増えやすくなるという長所がある[8]。しかし投資が多くなりすぎると、需要も無いのに需要が有るかのように見せかけて投資家から融資を騙し取る投資詐欺を行う知能犯罪者が増え、過剰投資と呼ばれる状態になって不良債権が増え、バブル景気とバブル崩壊の両方を作り出し、強烈な負の需要ショックを作り出し、長期にわたる深刻な不景気を発生させるという短所がある。このため、投資というものは薬にも毒にもなり得るものであって、少なすぎても多すぎても望ましくなく、財政政策によって政府購入や消費を調整して適度にクラウディングアウトを起こすことで適切な水準を保たねばならない。
株主資本主義者は、投資の長所ばかり強調して、投資の短所をあまり強調しない。株主資本主義者が「投資が多いほど国家が発展する」とか「クラウディングアウトを起こして投資を減らすことは絶対的な悪であり、クラウディングアウトの逆を起こして投資を増やすことは絶対的な善である」といった具合に投資の長所を強調する光景がしばしば見られる。そして、株主資本主義者が「投資詐欺という知能犯罪と過剰投資と不良債権は何よりも恐ろしい」とか「投資というのは少なすぎても多すぎても望ましくなく、適切な水準を保つべきである」という具合に投資の短所を指摘することは非常に少ない。
新自由主義者は自由貿易を絶対的に支持して自由貿易の長所を強調する。一方で株主資本主義者は投資を絶対的に支持して投資の長所を強調する傾向が強い。何かを絶対的に支持するという点で新自由主義と株主資本主義は一致したところがある。
性質その12 自国通貨安の肯定
繰り返しになるが、株主資本主義の支持者がマクロ経済の政策を語るときは、企業の利払い費を引き下げて株主の利益を増やすために実質利子率を引き下げる財政政策を支持する傾向がある。
そして、実質利子率が低い国はキャリートレードのキャリー元になりやすくなり、自国通貨売り・外国通貨買いが盛んになり、自国通貨安になりやすくなる。このため、株主資本主義者が主導権を握って実質利子率が低くなった国は自国通貨安になりやすくなる。そして、そうした国では、自分を原因として発生した自国通貨安を肯定するために株主資本主義者が「弱い自国通貨は輸出企業の利益を生むので国益にかなう」などと語ることが多い。
一方で、実質利子率が高い国はキャリートレードのキャリー先になりやすくなり、自国通貨買い・外国通貨売りが盛んになり、自国通貨高になりやすくなる。このため、反・株主資本主義者が主導権を握って実質利子率が高くなった国は自国通貨高になりやすくなる。そして、そうした国では、自分を原因として発生した自国通貨高を肯定するために反・株主資本主義者が「強い自国通貨は国益にかなう」などと語ることが多い。
ちなみに、日本は「強い円は国益にかなう」という考えがなかなか台頭しない国であり、「弱い円は輸出企業が儲かるので国益となる」という考えが根強く、実質利子率の低さと自国通貨安を歓迎する勢力が一定の力を持ち続けている国である。このことから「日本は株主資本主義者の勢いが強い国のようだ」と推測することも可能である。
また、アメリカ合衆国は1980年代のロナルド・レーガン政権の頃から2020年代の現在に至るまで「強いドルは国益にかなう(A strong dollar is in the national interest.)」という考えが根強く、実質利子率の高さと自国通貨高を歓迎する勢力が一定の力を持ち続けている国である。このことから「アメリカ合衆国は反・株主資本主義者の勢いが強い国のようだ」と推測することも可能である。
性質その13 政府購入と消費を減らして投資と純輸出を増やすことを目標とする
経済学者が国家の経済の状況を測定するときに最も頻繁に使う経済統計は実質GDPである。その実質GDPを需要の面から見ると、政府購入と消費と投資と純輸出の4つに分類することができる。
株主資本主義者が主導権を握った国は、政府購入と消費が減り、実質利子率が下がって投資が増える。そして実質利子率が下がって自国発のキャリートレードが発生しやすくなり、自国通貨安(名目為替レートの上昇)になりやすくなる。自国通貨安になると物価が一定の短期において実質為替レートが上昇して純輸出が増える。以上をまとめると、株主資本主義者が主導権を握った国は、政府購入と消費が減り、投資と純輸出が増える。
反・株主資本主義者が主導権を握った国は、政府購入と消費が増え、実質利子率が上がって投資が減る。そして実質利子率が上がって自国向けのキャリートレードが発生しやすくなり、自国通貨高(名目為替レートの下落)になりやすくなる。自国通貨高になると物価が一定の短期において実質為替レートが下落して純輸出が減る。以上をまとめると、反・株主資本主義者が主導権を握った国は、政府購入と消費が増え、投資と純輸出が減る。
主な支持者
株主資本主義の主な支持者は企業の株主である。そして、市場経済が発達した国なら証券会社を通じて株式を購入することで誰でも簡単に企業の株主になれる。このため、市場経済が発達した国なら誰でも株主資本主義の支持者になる可能性がある。
企業の株主と一緒の学閥(学歴で作られる集団)や閨閥(血縁で作られる集団)やSNSグループに入って親交を深める人は、企業の株主から発せられる株主資本主義の思想に染まって株主資本主義の支持者になることがある。学閥や閨閥やSNSグループというのは一種の閉鎖空間であってエコーチェンバー現象が起きやすく、その内部で一定の思想が広まりやすい。
1970年代にアメリカ合衆国で台頭
株主資本主義は1970年代頃になってアメリカ合衆国で台頭した思想である。「1960年代までのアメリカ合衆国において株主資本主義は一般的ではなかった」と指摘されることがある[9]。
ときおり「株主資本主義は所有権の絶対性を尊重するので資本主義の本来の姿である。欧米では株主資本主義が一般的なのに、日本は株主資本主義を受け入れていない。ゆえに、欧米は資本主義を理解していて優れており、日本は資本主義を理解せず劣っている」という煽りをして、日本人の欧米コンプレックスを上手に刺激しつつ株主資本主義を賞賛する者が現れるが[10]、その主張は疑わしい。
親和性の高い思想
新自由主義(市場原理主義)という経済思想がある。新自由主義で絶対的に尊重される自由貿易に対応するためには株主資本主義を導入して企業の体力を高めて安価な製品を生産できるようにする必要がある。また、株主資本主義を貫徹するには自由貿易をすることが好都合であり、新自由主義が流行することを必要とする。つまり新自由主義の国では株主資本主義を必要とするし、株主資本主義の国では新自由主義を必要とするのであり、株主資本主義と新自由主義は一体不可分の間柄である。
成果主義や能力主義という賃金体系に関わる思想がある。これらの思想は使用者の権力を大きく高めて労働者の相対的立場を低下させる効果がある。株主という使用者の権力を重視する株主資本主義とは非常に親和性が高い。
優生学(優生思想)という思想があり、優れた者の生殖を奨励して劣った者の生殖を奨励しないという内容を持つ思想である。この優生学は成果主義や能力主義の終着点と言うべき思想である。成果主義や能力主義の極端な例は、劣った労働者にごくわずかな賃金を与えて結婚できないほどの生活に追い込み、優れた労働者に高額の賃金を与えて結婚を奨励するというものである。そして株主資本主義の国では成果主義・能力主義の賃金体系を導入することが大いに肯定される。ゆえに優生学は株主資本主義との親和性が高いと言える。
自助論という論理がある。その論理を主張する書籍で最も有名なものは自助論(サミュエル・スマイルズ)である。自助論というのは「人には自助ができる能力がある」という論理であるが、その論理から「人は貧しくても自助をすることで十分に生きていける」という気分が派生する。そして、そうした気分は、労働者の賃下げを実現したがっている株主資本主義者にとって極めて好都合なものである。株主資本主義者の中には自助論(サミュエル・スマイルズ)を絶賛するものがいる。
自然率仮説という経済学の仮説がある。「需要を増やしたら短期的に実質GDPが増えるが長期的には実質GDPが増えない」という内容の仮説であり、政府が公務員を増やして需要を増やす景気刺激を否定する効果がある。政府が公務員の雇用を増やすことで労働需要を増やして労働者の賃金を高めることを否定したい株主資本主義者にとって、自然率仮説はとても都合の良い仮説である。
業務の量的な改善をして収益を増やす
管理監督労働者や役員に長時間労働を要求する
株主資本主義者は、管理監督労働者[11]や役員[12]に対して長時間労働を要求することを好む。
労働基準法第32条で労働者の法定労働時間が定められ、同法第34条で労働者の法定休憩が定められ、同法第35条で労働者の法定休日が定められている。しかし、同法第41条第2号で「監督若しくは管理の地位にある労働者(管理監督労働者)には法定労働時間・法定休憩・法定休日が適用されない」としている。また役員は、株式会社と労働契約を交わして賃金を受け取る労働者ではなく、会社法第330条に基づき株式会社と委任契約を交わして役員報酬を受け取る存在であって労働者ではないので、労働基準法で保護されない。
株主資本主義者が管理監督労働者や役員に対して「もっと長時間労働をしろ。さもないと自由貿易で敗北して倒産してしまうぞ」といった調子で倒産の不安を煽って長時間労働を要求するのは見慣れた光景である。
管理監督労働者に同一の賃金を払いつつ長時間労働を強いることは、管理監督労働者の時間あたり賃金を削減することになり、賃下げとなる。
株主資本主義が優勢となる時代では、狂ったように長時間労働をする管理監督労働者や役員が出現する[13]。
正の外発的動機付けで管理監督労働者や役員を長時間労働に向かわせる
株主資本主義者が管理監督労働者や役員に対して長時間労働を要求するときは、成果主義・能力主義の賃金体系を導入したり、所得税・相続税・贈与税の累進課税を弱体化させて一律課税(フラットタックス)に近づけたりして、正の外発的動機付けを掛けてインセンティブを与えることが常である。
株主資本主義が盛んな国では相続税や贈与税が無税になった国も多い。そうなると世の中の父親・母親が「子どもに多くのお金を相続させるため、目一杯働いて高額所得を得よう」と考えるようになり、世の中の父親・母親の労働意欲が強烈に刺激される[14]。
株主資本主義者は、「長時間労働をして成果が上がれば金銭が転がり込む」と管理監督労働者や役員に訴えかけて管理監督労働者や役員の労働意欲を刺激することを好む。「才能を発揮すればするほどガッポガッポと稼げる夢のある社会を作り上げる」「才能を発揮する人に夢を見せる」といったふうに才能や夢という綺麗な言葉を織り交ぜて語りかけ、管理監督労働者や役員の金銭欲を強烈に刺激し、労働意欲を刺激する。
株主資本主義者の中には、「所得税累進課税や年功序列の賃金体系によって、頑張った人が痛めつけられている」とか「頑張った人が報われていない現状を変えて、頑張った人が報われる社会を作ろう」とか「頑張る人が足を引っ張られている現状を変えて、頑張る人が足を引っ張られない社会を作ろう」という言い回しを非常に好む。いずれのスローガンも、「自分は頑張っている」と信じている人の被害者意識を強く刺激するものであり、わりと扇情的な言い回しである。このような扇情的な言い回しをして人々を感情的にさせ、人々が感情の赴くままに所得税累進課税や年功序列の賃金体系を弱体化させていくように誘導する。
負の外発的動機付けで管理監督労働者や役員を長時間労働に向かわせる
株主資本主義者が管理監督労働者や役員に対して長時間労働を要求するときは、長時間労働を拒否したときに「怠け者」と罵倒して相手の名誉を破壊して負の外発的動機付けを掛けて負のインセンティブを与えることも行う。
株主資本主義者は勤勉を深く愛するがゆえに「とことん」「徹底」「どこまでも頑張る」という言い回しを非常に好み、怠惰を激しく憎むがゆえに「ほどほど」「適度」「無理のない範囲で」という言い回しを非常に嫌う。
そして株主資本主義者は労働意欲を抑制する人に対して「衰退する、ダメになる、発展途上国に追い抜かれる、先進国から脱落する」といった警告をして、「君は衰退の原因を作る怠け者である」と述べ、名誉を破壊する。
人は1日24時間のなかの3分の1にあたる8時間程度を睡眠にあてる生物であり、本質的に「怠惰」を必要とする生物なのだが、論戦に臨む株主資本主義者はそのことを都合良く忘れて「自分は勤勉であり全く怠惰ではない」という態度で振る舞う。
平社員にも長時間労働をさせる
株主資本主義者は管理監督労働者や役員に長時間労働を強いる。そうなると、その企業において平社員(非管理監督労働者)も長時間労働に付き合わされることになる。どの企業であっても、上司が長時間労働すると自然に部下もその長時間労働に巻きこまれてしまう。
株主資本主義の国においては労働者の賃金が下げられるので、平社員に対して残業を依頼しやすい状況となっている。株主資本主義の国では、企業側が平社員に対して気軽に残業を依頼し、平社員が「賃金が安すぎるので残業をして稼がないと食っていけない」と判断してその依頼を受け入れ、長時間労働が増えていく。
株主資本主義者は「長時間労働の鞭」を擬人化したような存在である。株主資本主義者が歩くところは長時間労働の嵐が激しく吹き荒れる。
株主資本主義者は「我慢して長時間労働の痛みに耐える労働者」を心から愛する傾向にある[15]。
長時間労働の短所を意識せず、長時間労働を肯定する
株主資本主義者が好む長時間労働には短所がある。
外発的動機付けを掛けて労働意欲を刺激して「仕事すればするほど、お金が儲かる」と思いこませると、「休暇を取っている場合ではない、空いた時間をすべて仕事に注ぎ込もう」という仕事中毒(ワーカホリック)の心理状態となり、長時間労働が増えていく。そうなるとその労働者は過労となって健康を害することになるし、その労働者の家庭崩壊を招く危険もある。
株主資本主義者は長時間労働の欠点を意識することを苦手としており、「労働しすぎたら疲労が蓄積して肉体や精神が壊れてしまう」と考えることを苦手としている[16]。
覚醒剤を使用すると疲労が解消し、どれだけ長時間労働しても疲労を感じなくなる[17]。長時間労働の副作用を意識することが苦手な株主資本主義者と、覚醒剤を使用する人には、共通するところがある。
内発的動機付けで労働意欲を刺激して長時間労働に従事させることは行わない
株主資本主義者は、内発的動機付けで労働者の労働意欲を刺激して長時間労働に従事させることを行わない傾向にある。内発的動機付けとは、相手に「○×という行為をしたら他の誰かに感謝されるなどして自分の有能さを実感できる」と確信させて、相手が○×という行為をするように誘導することをいう。
企業の管理監督労働者や役員や平社員に対して内発的動機付けを掛けるには、その企業の営業部門の労働者の力が必要である。つまり、営業部門の労働者が顧客のところに通い、顧客の感謝の発言をしっかりと収集して、そうした情報を管理監督労働者や役員や平社員に対して報告することで、内発的動機付けが掛かる。
一方で株主は企業の顧客のところに足繁く通う能力が無く、企業の顧客が発する感謝の声を収集する能力が無く、企業の労働者に内発的動機付けを掛ける能力が無い。特に経営と所有が分離した企業における株主は、内発的動機付けを掛ける能力が非常に弱い。
企業の労働者に内発的動機付けを掛けるという手法をとると、営業部門の労働者の発言力が増し、株主の発言力が減る。ゆえに株主資本主義者は内発的動機付けという手段をとって労働者に長時間労働をさせることができない。
労働運動を抑制して労働者に払う費用を減らす
労働運動の定義
株主資本主義者は、労働運動を抑制して労働者に払う費用を減らすための手段を豊富に持っている。
ここでいう労働運動は、労働者が使用者に対して賃上げを要求する行為のすべてを指し、労働者が使用者に対して賃金の最低額を労働市場で形成される均衡水準よりも高く設定して構造的失業の発生を甘受しつつ労働者の生活水準の向上をもたらすように要求する行為のすべてを指す。「労働者が労働三権を行使して使用者と労働協約を結ぶ」という本格的なものも含むし、「労働者が使用者に聞こえるように賃金の安さを愚痴って使用者が効率賃金仮説に基づいて賃上げをするように誘導する」という簡易的なものも含む。
1. 労働者を罵倒して労働者の自信を破壊して労働運動を抑制する
株主資本主義者が労働者に支払う人件費を削るときに真っ先に行うことの1つは、労働者を罵倒して労働者の自信を破壊し、労働者が賃上げを要求する気持ちを起こさないようにすることである。
人というのは自信を持つと賃上げを要求するようになる。株主資本主義者にとって、労働者の自信を破壊するのは重要な課題である。
株主資本主義者が労働者の自信を破壊する時に使う言い回しの1つは「株主や経営者はリスクを負っており、檻の外で剥き出しの自然に立ち向かっており、勇気があり、優秀な存在である。一方で労働者はリスクを負っておらず、安全な檻の中で餌をもらってる家畜で、勇気がなく、劣った連中である」というものである。労働者への軽蔑感情を全開にした言い回しであり、階級社会の意識が強く表れた言い回しであり、階級闘争そのままの言動である。
労働者に対して「君たちは株主や経営者とは身分が違うのであり、対等に話をする権利がない」という言動をすることもある。2004年日本プロ野球再編問題の際に渡邉恒雄が「ふん、無礼な事を言うな。分をわきまえなきゃいかんよ。たかが選手が。『たかが選手』ったって立派な選手もいるけどね。オーナーとね、対等に話する協約上の根拠が一つも無い」と言い放った(動画)。渡邉恒雄の「たかが選手が」という言葉は、株主資本主義者の「たかが労働者が」という心理を代弁するような言葉である。
株主資本主義者はTPPやRCEPのような自由貿易協定を締結して自由貿易を促進することがある。自由貿易が進展すると国際的資本移動の自由化が進み、多国籍企業が出現するようになり、さらに多国籍企業の経営者が「発展途上国の労働者と先進国の労働者に同じ賃金を与えると発展途上国の労働者の方がずっと熱心に働く」などと語って先進国の労働者を罵倒するようになり、労働者の自信が破壊されていく。つまり自由貿易によって先進国の労働者を罵倒してその自信を破壊することができる。
日本政府は2024年6月21日の閣議で2024年版の「こども白書」を決定した。その中で、日本、米国、ドイツ、フランス、スウェーデンの5ヶ国の13歳から29歳の人を対象に行ったアンケートの結果を掲載したが、「自分自身に満足しているか」の質問に「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と答えた割合は日本が最も低かった(記事1、記事2)。また、こども家庭庁は2024年7月に15歳から39歳の未婚の男女1万8000人と既婚の男女2000人の合わせて2万人を対象にインターネットでアンケート調査を行ったが、未婚の人に「結婚相手を見つけることについてどのような意識があるか」と尋ねたら「自分に自信がなく、何か行動したところで見つけられると思えない」と答えた人が66%にのぼった(記事)。日本におけるこのような状況は、労働者が自信を失って労働運動をしなくなることにつながるので、株主資本主義者が大いに支持して喜ぶことである。
2. 労働組合を罵倒して労働三権の行使を抑制する
株主資本主義者が人件費を削ろうとするとき、常に激しく抵抗するのが労働組合(労組 ろうそ ろうくみ)である。株主資本主義者にとって労働組合というのは目の上のたんこぶのように邪魔な存在である。
株主資本主義と労働組合は水と油のように相性が悪いので、「株主資本主義が勃興する時代では労働組合が弱体化し、株主資本主義が抑制される時代では労働組合が強力化する」という関係性がある[18]。株主資本主義が隆盛を誇る時代で急速に発展した巨大IT企業4社のGoogle、Amazon、Facebook、AppleをGAFAと呼ぶが、2020年12月の時点でどこも労働組合を持っていなかった[19]。
株主資本主義を信奉する企業経営者が労働者に対して「もし労働組合を結成したら職場において不利益を与える」と脅して労働組合を結成することを妨害したら、日本国憲法第28条や労働組合法第7条に違反したことになり、労働委員会の救済命令を受けることになる[20]。こうした手段は不法な行為と言える。
このため株主資本主義者は、労働組合に対して罵倒の限りを尽くし、労働組合に対して汚いイメージをなすりつけ、人々が労働組合を嫌悪するように誘導し、労働者が労働組合を結成する気を起こさないようにする傾向がある。そうした手段なら合法である。
株主資本主義者は「労働組合を結成して労働組合の助けを得て労働するのは自立しておらず、依存心が強く、寄生しており、スネかじりであり、甘ったれである」とか「労働組合を結成せず労働組合の助けを得ずに労働するのは自立しており、依存心が少なく、自活しており、自分の足で立ち上がっており、自分に厳しくて立派である」と言うことがある。これは、甘ったれへの軽蔑心を持つ人や、「自立している人と思われたい」という名誉欲を持っている人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。特に、「親から自立したい」という願望が強い傾向のある10代の若者によく効く。
株主資本主義者は「労働組合を結成して1つの企業にしがみつくのは格好悪い生き方で、みっともない生き方で、往生際が悪い生き方で、見苦しい生き方で、ダサい生き方である」とか「労働組合を結成せず他の企業に転職するのは格好いい生き方で、体裁がよい生き方で、いさぎよい生き方で、見ていてすがすがしい気分になる生き方で、イケている生き方である」と言うことがある。これは、「格好いい人と思われたい」という名誉欲を持つ人や美意識を持つ人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。体裁ばかり考えてダサい者を嫌悪する傾向がある10代~20代の若者によく効く。
株主資本主義者は「労働組合の主張に従うと日本の国際競争力が落ち、日本が発展途上国に転落する」と言うことがある。これは、社内などで競争に明け暮れていて敗北や転落を恐れる心を抱えている人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。特に、組織の中で出世競争に明け暮れている傾向がある30代~40代の者によく効く。
株主資本主義者は「労働組合を結成するのは時代の流れに合っておらず、時流に乗ることができておらず、古い時代の感覚に凝り固まっており、時代遅れであり、新しい時代に対応できていない」とか「労働組合を結成せず一人で生きるのは時代の流れに合っており、時流に乗っており、古い時代の感覚からしっかり脱却しており、最先端の生き方であり、新しい時代に対応できている」と言うことがある。これは、時代遅れの生き方をする人への軽蔑心を持つ人や、「時流に乗っている優秀な人と思われたい」という名誉欲を持つ人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。特に、時代遅れと言われると傷つく傾向がある50代~60代の者によく効く。
株主資本主義者は「労働組合は正社員の既得権益なので打破すべきだ」と言うことがある。これは、経済的な苦境に陥って既得権益への嫉妬心が増幅している人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。
株主資本主義者は「労働組合は『働かざる者食うべからず』の格言に反する存在で、生産力よりも多くの消費をしようとする怠け者の溜まり場であり、高望みをしようとするワガママな人たちの集団であり、享楽にふける不道徳な者たちの団体である」と言うことがある。これは、道徳論を気にして怠け者を軽蔑する気持ちを持つ人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。また、「現代の日本の庶民は昔よりも生活水準が向上していて、江戸時代や明治時代の大富豪と同程度の生活をしている」などと述べてから、「それなのに彼らは、きわめて恵まれていることに気付かず、ただひたすら高望みをしようとしていて、もの凄くワガママである」と述べて、「彼らは高望みしている」という言葉をさらに引き立たせる工夫をすることもある。
株主資本主義者は「労働組合の参加者は極左で、革マル派・中核派といった極左暴力集団とつながりがある過激派であり、反日で、中国・韓国とつながりがある卑劣な売国奴であり、日本の名誉と尊厳を傷つけて日本を破壊している」と言うことがある。これは、愛国心を持つ人や国家の敵に対する憎悪心をもつ人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。
株主資本主義者は「労働組合を放置すると日本が共産化する」などと言うことがある。これは、共産主義への嫌悪感を持つ人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。
ちなみに労働組合は構成員の数を増やしたり維持したりすることが組織としての大目標である[21]。労働組合が過剰に政治思想を打ち出すと組織の分裂に行き着いてしまい大目標を達成できない。ゆえに労働組合は政治思想の過剰な表明を控える傾向がある。だから「労働組合を放置すると日本が共産化する」というのは、あまり現実的ではない。
株主資本主義者は「労働組合は順法闘争をするような連中で、極めて迷惑な存在である」と言うことがある。これは、時間厳守が大好きなすべての日本人に対して労働組合を嫌悪させる効果がある。さらには1970年代国鉄における労働組合の順法闘争を憶えている世代の人々に対して労働組合を激しく憎悪させる効果がある[22]。
労働組合を罵倒するときの株主資本主義者は、多彩な表現を駆使して人々の嫌悪感情・憎悪感情をとても上手に刺激する。
3. 「自由及び権利には責任及び義務が伴う」と労働者に言い聞かせて労働三権の行使を抑制する
株主資本主義者は労働者が労働三権を行使することを恐れており、どうにかしてそれを阻止しようと考えている。
株主資本主義者は「自由及び権利には責任及び義務が伴う」と労働者に言い聞かせることがある。この言葉を聞かされた労働者は、「労働三権を行使したら責任を取らされたり義務を課せられたりする。自分たちはただの労働者なので責任を果たしたり義務を実行したりする経済的実力がない」と考えて萎縮するようになり、労働三権を行使しなくなる可能性がある。
ちなみに「自由及び権利には責任及び義務が伴う」という思想は欠点が見受けられる思想である。詳しくは当該記事を参照のこと。
4. マネーゲームなどの副業を解禁して、労働組合を弱体化させる
株主資本主義者は労働者が労働三権を行使することを恐れており、どうにかしてそれを阻止しようと考えている。
株主資本主義者は、労働者に対して副業を解禁することがある。株主資本主義が流行る国では、直接金融や商品投資[23]でお金を儲けるマネーゲームを副業とすることや、動画を配信して投げ銭をもらうなどの業務を副業とすることが流行することになる。
副業が解禁されると、労働者が副業に熱中するようになり、「労働組合の運動は自分の副業の邪魔である」と考えるようになり、「労働組合に入りたくない」と考えるようになり、労働組合が弱体化する。これは株主資本主義者が心から望むことである。
また副業が解禁されると、企業経営者は労働者に対して「賃金が少なくて困っているのなら副業をしてお金を増殖しろ」という態度をとりやすくなり、心理的に賃下げしやすくなる。このことも株主資本主義者が心から望むことである。
株主資本主義が広まった国では労働者の賃下げが進んで労働者の生活が苦しくなっていき、労働組合を結成しての賃上げ運動が盛り上がらない。このため株主資本主義のもとで低賃金に苦しむ労働者にとって、副業は生活の糧を得るための救世主となる。
株主資本主義が広まって労働者の賃下げが進み、苦境に陥った労働者が副業として株式投資に手を出すと、その労働者は「企業はもっと労働者を賃下げして税引後当期純利益をひねり出して配当金をよこせ。政府は労働者の賃下げが進むような政策を実行しろ。政府系の公的職場の労働者を賃下げして世の中の賃下げの気運を作れ」と心から願うようになる。賃下げに苦しむ労働者が、労働者の賃下げを望むようになる。こういう姿は被虐主義(マゾヒズム)と表現することができる。または、肉屋を支持する豚と表現することもできる。
株主資本主義者は、数ある業務の中でもマネーゲーム(直接金融や商品投資)を副業として労働者に対して奨める傾向がある。マネーゲームは射幸心を強く煽ることができ、いったんハマると夢中になるからである。
株主資本主義者がマネーゲームを推奨するときは「個人が努力して金儲けすることを奨励すべきだ。努力している人の足を引っ張るべきではない。個人投資家を増やそうとしないのは成功者に対する醜い嫉妬心が原因だ」という言い回しを使い、「マネーゲームに反対する者は嫉妬に狂っているだけだ」とレッテル貼りをしていく。
また株主資本主義者がマネーゲームを推奨するときは「間接金融を支持して銀行預金を持っているだけの人は、ボーッと生きているのであり、時代の流れに対して鈍感であり、世間の動向に対してアンテナを張っておらず、怠け者である。一方、マネーゲームを支持して銀行預金以外の資産を持っている人は、シャキッと生きているのであり、時代の流れに対してとても敏感であり、世間の動向に対してアンテナを張っていて、勤勉である」という風に語り、「マネーゲームに反対する者はボケーッとした怠け者だ」とレッテル貼りをしていく。
そもそもマネーゲームというのは、利益が全く保証されておらず不安定で不確実なものであり、射幸心を強く煽るものであり、パチンコやパチスロや競馬や競輪や競艇といった賭博(ギャンブル)と同じ性質を持つものであり、推奨しにくいものである。このためマネーゲームを推奨するときは、「マネーゲームをしない者は嫉妬している怠け者だ」などとレッテル貼りして罵倒するという過激な手段を使わないと上手くいかない。
副業を解禁してしまうと、労働者が職務専念義務を遂行しなくなる危険がある。「ラーメン屋の労働者が動画編集に熱中してラーメンの味が落ちる」「パソコンを使って仕事をしている人がスマホでFX取引(外国為替証拠金取引)の様子を観察することに熱中してパソコンへの入力を間違える」というようなことが起こりやすくなってしまう。職務専念義務を遂行しない人の割合が少しずつ増え、企業の実力が落ち、文明の発展に陰りがみられるようになる。
特にマネーゲームを副業にすることを解禁すると、労働者が職務専念義務を遂行しなくなる可能性が高くなる。労働者が勤務時間中に職場を抜け出してパチンコやパチスロをすることは難しいが、マネーゲームなら勤務時間中の労働者もスマホを操作するだけで簡単に参加できる。労働者が勤務時間中にスマホを操作して競馬や競輪や競艇に参加することと労働者が勤務時間中にスマホを操作してマネーゲームをすることの難易度は同じぐらいだが、競馬や競輪や競艇の開催頻度は比較的に少なくて散発的であるのに対しマネーゲームの開催頻度は極めて多くて恒常的である。以上のことをまとめると、マネーゲームは参加するのが容易であり、世界中の市場でマネーゲームが行われているので開催頻度が極めて多く、パチンコやパチスロや競馬や競輪や競艇といった賭博よりも労働者の職務専念義務の遂行を妨害する効果が高い。
Twitterで「株 仕事が手に付かない」とか「ビットコイン 仕事が手に付かない」とか「相場 仕事が手に付かない」とか「暴落 仕事が手に付かない」とか「高騰 仕事が手に付かない」などと検索すると、マネーゲーム系の副業をすることで職務専念義務を果たさなくなった労働者の声を多く聞くことができる。そうした労働者が増えると、国家全体の生産技術が劣化し、実質GDPと実質資本レンタル料と実質賃金が下がり、国家が没落していく。そのことはコブ=ダグラス生産関数を見れば明らかである。
また副業を解禁してしまうと、労働者が貴重な余暇を副業に費やすことになり、消費を冷え込ませる危険がある。
特にマネーゲームを副業にすることを解禁すると、それを副業にする労働者は情報を豊富に収集して入念に分析してから決断を下すようになり、大量の時間を費すようになり、余暇を削るようになり、金稼ぎに忙殺される人生を送るようになる。
「寝ても覚めてもお金を増やすことばかり考える」「10万円をもらったら消費に回さずに投資に使う」「100万円を稼いだら消費に回さずにさらに投資の勉強をする」という労働者が増える危険があり、消費を冷え込ませる危険がある。
マネーゲームを行いながらそれらについてTwitterでお喋りする人がいる。そういう人たちの集団は「株クラスタ」とか「株クラ」と呼ばれる。株クラの人たちが投資に関する情報収集や情報分析に明け暮れている様子は、Twitterを通じていくらでも観察することができる。
マネーゲームに関する情報収集と情報分析は、経済の躍動を実感できる体験であり、刺激に満ちあふれて楽しいという好ましい一面がある。しかし、余暇を削って人々の消費を抑制するという好ましくない一面がある。
マネーゲームのために労働者が余暇を削って消費を減らすようになると、労働者が自己決定権(人生の設計をする権利)の一部を回復不可能なほど永続的に喪失する危険が発生する。簡単な例を挙げると、「金儲けに夢中になりすぎて、友達・家族を回復不可能なほど永続的に失って、人生の設計をする権利の一部を回復不可能なほど永続的に失う」ということである。
株主資本主義が抑制される国では、人々が自己決定権の一部を回復不可能なほど永続的に喪失することを防ぐために、人々が保有する基本的人権を制限することがある。これを「限定されたパターナリスチックな制約」という。つまり、政府が「人々が余暇を喪失して友達・家族を回復不可能なほど永続的に失うことを防ぐため、マネーゲームに規制を掛ける」という政策を実行して、人々の経済活動の自由を制限する可能性がありうる。
株主資本主義が抑制される国では間接金融が主力となり、それと同時にマネーゲームに対して様々な規制が掛けられる。そのため個人が財テクする手段は、銀行への定期預金ぐらいに限られており、選択肢が狭い。しかし、銀行は金融庁の厳しい監督を受けている団体であり、財務体質が良好であることが非常に多い団体であり、預金者に定期預金を返済できなくなる危険が非常に少ない団体である。個人にとって、銀行の経営状況についての情報を収集する必要が少なく、余暇が十分に残りやすい。
5. 成果主義・能力主義を導入し、労働組合を弱体化させる
株主資本主義者は、成果主義・能力主義を導入した賃金体系を支持する傾向がある。成果主義や能力主義を導入した賃金体系をごく簡単に表現すると、「優秀で成果を出している人を賃上げして、無能で成果を出していない人を賃下げする制度」となる。
劣った人ほど自己評価が高く、「自分は優秀で能力が高いのでいくらでも成果を出すことができる」と思い込む傾向がある。そうした心理傾向をダニング=クルーガー効果という。このため劣った人は、株主資本主義者が「成果主義・能力主義を導入して優秀で成果を出している人を賃上げする」と語ると「自分が賃上げされる」と信じ込んで大喜びする傾向があり、株主資本主義者の口車に乗る傾向がある。
優秀な人ほど自己評価が低く、「自分は劣っていてまだ努力が必要な存在であり、さしたる成果を出していない」と思い込む傾向がある。この心理傾向もダニング=クルーガー効果という。優秀な人は「自分は優秀で成果を出している」と言い出さない傾向があり、あまり熱心に賃上げを要求しない傾向がある。そして優秀な人を雇用している経営者は、優秀な人の謙虚な心理を利用する傾向があり、優秀な人に対して欠点を指摘して反省させ、優秀な人が賃上げを要求しないように釘を刺し、賃上げしないで済むように仕向ける傾向がある。このため成果主義や能力主義によって優秀な人が賃上げされるとは限らない。
成果主義や能力主義を導入して「優秀で成果を出している人を賃上げして、無能で成果を出していない人を賃下げする制度」を導入すると、優秀で成果を出している人の賃金がさほど伸びず、無能で成果を出していない人の賃金がはっきりと下落し、全体として賃下げが進む。優秀で失敗を全く犯さない人に対しては「自分は優秀でないかもしれない」という謙虚な心を利用して賃上げを抑制し、無能で失敗をポロポロと犯す人に対しては失敗したことを叩いて賃下げする。
人は1日24時間のなかの3分の1にあたる8時間程度を睡眠にあてる生物であり、「無能になる時間」を大量に必要とする生物であり、本質的に「無能」な存在である。そのため無能で成果を出していない人を賃下げする制度を導入してしまえば、どのような人に対しても賃下げの圧力を強く加えることができる。
株主資本主義者は「人間が本質的に『無能』な存在であるという現実」と、「成果主義や能力主義を導入した賃金体系」という、2つの強力な武器を利用して賃下げに励んでいる。
株主資本主義者が好む成果主義や能力主義を採用すると、労働者の間で「労働組合に入りたくない」という気持ちを持つ者が発生する。労働組合というのは「労働組合に加入する労働者の一律のベア(ベースアップ・基本給賃上げ)を達成しよう」と意気込む団体であり、組合員の間で一種の平等主義がある。このため「成果主義・能力主義の賃金体系が導入されたので、頑張って働いて他の人よりも多い賃金をもらおう」などと思うようになった者は、平等主義を掲げる労働組合に対して否定的になる傾向が強い。つまり、成果主義・能力主義は労働組合を弱体化させる効果がある。
株主資本主義者が好む成果主義や能力主義を採用すると、企業の人事部(総務部)や経営者が「この労働者は無能である」と認定するだけで労働者の賃金を下げることができるようになる。労働者の成果や能力を評価する人事部・経営者の権力が非常に強くなり、労働者の誰もが人事部・経営者の顔色をうかがう社風になり、労働者が萎縮するようになり、自由な社風からほど遠い状態になる。さらには労働者が使用者の顔色をうかがうようになって職務専念義務を遂行しなくなり、企業の生産性が落ちていく。
株主資本主義者というと新自由主義を信奉していることが多く、「全体主義国では自由が封殺される。そんなことが起こってはならず、自由を守り抜かねばならない。そのために政府の権力を最小限にするべきだ」といったことを唱え、自由を尊重して権力を制限することを声高らかに主張する。
口先ではそのようなことをいうのだが、実際の株主資本主義者・新自由主義者は労働者の自由を制限して経営者の権力を増大させる成果主義・能力主義を好む。
成果主義や能力主義の対極に位置する賃金体系というと年功主義(年功序列)である。新自由主義の支持者は年功主義の長所を一切認めず、年功序列を徹底的に批判する傾向がある。
年功主義の長所を1つだけ挙げると、経営者の権力を制限して恣意的な賃下げを防止できるところである。経営者が「こいつは気に入らないので『成果を挙げていない』と認定して賃下げしてやれ」と行動することができなくなる。
そもそも成果主義や能力主義というものは、「労働者に支払う賃金」を決める方法に関する思想である。その「労働者に支払われる賃金」というものには2通りの定義を与えることができる。
1つは「労働者から提供された労働力に支払われる対価」という定義であり、株主資本主義者が好む定義である。労働力を商品として扱い、賃金を商品価格と見なすので、商業的な感覚が色濃い定義である。労働力という商品の良し悪しによって賃金が変わるという考え方であり、成果主義・能力主義を生み出す定義である。
もう1つは「『労働者から時間と生命力を奪い取る』という加害行為を懲罰して抑制するための罰金」という定義であり、労働組合の参加者や反・株主資本主義者が好む定義である。商業的な思想ではなく、社会規律の維持を優先する思想であり、成果主義・能力主義の思想を生み出さない思想である。
6. 国や地方の現業を民営化して国内の労働運動を弱体化させる
株主資本主義者が天下国家を語るとき、小さな政府を志向し、かつての三公社五現業のような国の現業や地方の現業を消滅させる民営化を推進する傾向がある。「官から民へ」「民間にできることは民間に」というスローガンを繰り返して[24]、国や地方の現業を完全消滅させるのが株主資本主義者である。
現業というのは、政府や地方公共団体の一部門や公共企業体(公社)が議会に議決された予算に基づいて権力を行使せずに財・サービスの提供をすることである。日本を始めとして様々な国で財政民主主義が導入されているが、そういう国で現業をすると、「我々の職場は国会に支持されており、絶対に倒産しない」とか「我々が活発に労働運動をしても、我々の職場は決して倒産しない」と確信して安心する労働者が非常に多く発生し、国内の労働運動を引っ張っていく労働者が非常に多く発生し、国内の労働運動が活発化して賃上げが基調となる国になる。
民間企業の労働組合というのは御用組合になることが多く、「我々が活発に労働運動をすると我々の職場が倒産してしまう」と不安に思って恐怖する労働者ばかりで構成されており、国内の労働運動を引っ張っていく力を持っていない。
このため、株主資本主義者は国や地方の現業を敵視し、民営化を推進する。国内の労働運動を引っ張るような強力な労働組合を消滅させ、国内の労働運動を引っ張れない軟弱な御用組合だけにするのが株主資本主義者の理想である。
また、国や地方の現業を創設して労働者を大量に雇用すると、労働市場において労働需要が増えて賃金が上昇する。労働市場に参加する民間企業は「国や地方の現業と同じぐらいの待遇にしないと、国や地方の現業に労働者を奪われてしまう」と焦るようになり、待遇を向上させる。
以上のことをまとめると、国や地方の現業というのは一種の装置であり、「労働運動支援装置」「労働待遇向上装置・賃上げ装置・公益装置」という性質がある。
「国や地方の現業」の短所というのは、民間企業に比べて比較的にコスト意識・効率化意識が低く、進取の精神が比較的に薄く、サービス精神も比較的に低いところである。
一方で民間企業の長所と短所は「国や地方の現業」と全く逆となる。民間企業の長所は「国や地方の現業」に比べて比較的にコスト意識・効率化意識が高く、進取の精神が比較的に濃く、サービス精神も比較的に高いところである。民間企業の短所は「人件費を削減して税引後当期純利益と利益剰余金を作り出そう」という欲が強く、労働者の待遇を悪化させたがる癖があるところである。
「国や地方の現業」と民間企業の違いを表にまとめると次のようになる。
民間企業 | 国や地方の現業 | |
長所 | コスト意識・効率化意識が高く、進取の精神が濃く、サービス精神が高い | 労働待遇向上装置・賃上げ装置・労働規制装置である。戦闘的な労働組合を生み出して労働運動を牽引させる。労働市場で労働者を奪い合っている民間企業に「労働者の待遇を向上させないと官営事業に労働者を奪われてしまう」と考えさせ、民間企業の労働者待遇の向上に貢献する |
短所 | 御用組合ばかりを生み出し、労働運動を作り出すことができない。労働者の待遇を悪化させて人件費を削減し、税引後当期純利益や利益剰余金を稼ごうとする傾向がある | コスト意識・効率化意識が低く、進取の精神が薄く、サービス精神が低い |
このように「国や地方の現業」と民間企業は一長一短であり、どちらも国家の発展にとって必要な存在である。しかし株主資本主義者はそうした現実を直視せず、ひたすら「国や地方の現業」の欠点をあげつらい、民間企業の欠点をひた隠しにして、民尊官卑の言動を繰り返して、「国や地方の現業」を叩き潰そうとする。
株主資本主義者は「国や地方の現業は不採算部門そのものであり、利益を食いつぶしていて、赤字垂れ流しの状態なので、国や地方の現業を削減するのが当然のことだ」と主張する。「垂れ流し」とは汚水を排出する公害企業を連想させるネガティブな表現である。株主資本主義者は、相手のイメージを悪くさせるネガティブ表現を駆使するのが上手い。
ちなみに、現業には「国の現業」と「地方の現業」の2種類があるが、「国の現業」の方が「地方の現業」よりも大規模な事業になりやすい。日銀は不換銀行券を通貨として発行しており、さらに「不換銀行券に交換できる中央銀行預金」を通貨と同等のものとして発行しており、つまり通貨や「通貨と同等のもの」を全く負担無しに発行できる存在である。そして政府というのは日銀法第4条に基づいて日銀に影響を与えることができ、国会の議決を受けたあとに国債を発行して日銀が発行する通貨や「通貨と同等のもの」を好きなだけ獲得できる。一方で地方公共団体は日銀に影響を与えることができず、地方議会の議決を受けた後に地方債を発行して日銀が発行する通貨や「通貨と同等のもの」を獲得するということを円滑に行えない。
このため株主資本主義者が最も敵視するのは「国の現業」である。「地方の現業」は大規模な事業になりにくく、株主資本主義者にとって大きな脅威ではない。
7. 夜警国家にして国内の労働運動を弱体化させる
株主資本主義者は小さな政府を理想視しており、「国や地方の現業」を民営化して「国や地方の非現業」の予算を削減することを好む。しかし、株主資本主義者の中にも例外があり、「国や地方の非現業」の中で自衛隊・海上保安庁・刑務所・警察・消防といった治安部門に対して特別に優しい態度になる者がいる。小さな政府を志向しつつ「国や地方の非現業」の中の治安部門を特別に優遇することを夜警国家という。
自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は、法律によって労働三権をすべて否定されていて、上司が無茶な労働強化の要求をしてきても反抗せずに従う存在である。政府や地方公共団体に直接雇用されて安定した賃金を得ているが、労働組合を結成することができず、世の中の労働組合運動に参加することができず、労働弱化や賃上げの気運を世の中に広めることができない。
自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は政府や地方公共団体に直接雇用されることで賃金の安定性・確実性に恵まれているので、その部分は株主資本主義者にとって気に入らない。しかし自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は労働組合を作らないので、その部分は株主資本主義者にとって歓迎できる。
ちなみに、株主資本主義者が最も理想とする労働者は「民間企業に雇用されることで賃金の不安定性・不確実性に悩まされていて、なおかつ労働組合に参加しない労働者」である。賃金の不安定性・不確実性に悩まされているという部分が株主資本主義者にとって素晴らしいことだし、労働組合活動をしないという部分も株主資本主義者にとって大歓迎である。
他方で、「自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士以外の非現業公務員」や現業労働者は、労働三権のうち団結権と団体交渉権を認められており、上司が無茶な労働強化の要求をしてきたら労働組合を通じて反抗する存在である。政府や地方公共団体に直接雇用されることで賃金の安定性・確実性に恵まれており、そしてなおかつ労働組合の活動をすることができるので、世の中の労働組合活動の先頭に立つことが多く、労働弱化と賃上げの気運を世の中に広める可能性が極めて高い。株主資本主義者にとって「理想から最もかけ離れた労働者」であり、永遠の敵であり、不倶戴天の敵である。
以上のことを表にまとめると次のようになる。
民間企業に雇用されることで賃金の不安定性・不確実性に悩まされていて、なおかつ労働組合に参加しない労働者 | 政府・地方公共団体に直接雇用されることで賃金の安定性・確実性に恵まれているが、労働組合に参加しない労働者 | 政府・地方公共団体に直接雇用されることで賃金の安定性・確実性に恵まれていて、なおかつ労働組合に参加する労働者 | |
代表例 | 2020年12月以前のGAFA(米国巨大IT企業4社)の労働者 | 自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士 | 官公庁職員、郵便局員、国鉄職員 |
国内における労働組合の運動に対して | 「我関せず」「自分には関係ない」という態度をとる | 「我関せず」「自分には関係ない」という態度をとる | 積極的に参加し、主導していく |
株主資本主義者にとって | 理想の労働者 | 半分理想、半分気に入らない | 永遠の敵、不倶戴天の敵 |
株主資本主義者にとって国内の労働組合の活発化を抑え込むことは最大の課題である。夜警国家を採用して治安部門の雇用を増やすことは国内の労働組合の活発化に直結しないので、株主資本主義者にとって許容範囲内の政策である。
先述のように、自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士というのは株主資本主義者にとって「半分理想、半分気に入らない」という存在であるが、反・株主資本主義の支持者(ステークホルダー資本主義の支持者)にとっても「半分理想、半分気に入らない」という存在である。
自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は政府・地方公共団体に直接雇用されることで賃金の安定性・確実性に恵まれているので、世の中の民間企業に「我が社も労働者に賃金の安定性・確実性を保障しよう。そうしないと労働者が自衛隊・海上保安庁・刑務所・警察・消防に流出する」と考えさせる存在であり、その部分は反・株主資本主義者にとって好ましい。しかし自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は労働組合を結成できず、世の中の労働組合活動に参加できない存在であり、その部分は反・株主資本主義者にとって好ましくない。
8. 議員歳費を削って非・富裕層議員の出現を防ぎ、労働者保護政策を支持する民意が反映されないようにする
株主資本主義者は国会議員や地方議員の歳費(議員歳費)を削減することを好む。
株主資本主義者が最も恐れることは、「国や地方の現業を復活させて戦闘的な労働組合を出現させて国内の労働運動を活発化させて労働者の経済的地位を安定させてほしい」といった労働者保護の民意を受け取る国会議員が出現することである。それを防ぐために最も有効なことは議員歳費の削減である。議員歳費を削減すれば、労働者からの民意を吸収することを得意とする非・富裕層出身の議員が政治活動しにくくなる。
一方、事業で大成功を収めた企業経営者から政治家に転身した成金議員や、先代からの資産を大量に相続した世襲議員のような富裕層出身の議員は、議員歳費を減らされても簡単に政治活動を行うことができる。
議員歳費をゼロにすると、非・富裕層出身の議員が政治活動を行えなくなる。選挙に立候補して当選しても議員歳費をもらえず極貧の生活に転落することが予測できるので、非・富裕層から選挙に立候補することを誰も行わなくなる。非・富裕層の被選挙権を実質的に制限して富裕層の被選挙権のみを実質的に認める制限選挙になる。
株主資本主義者は議員歳費の支給を嫌い、金持ちが無給で議員を務める体制を好み、非・富裕層出身の議員を嫌い、成金議員・世襲議員を好み、普通選挙を嫌い、制限選挙を好み、民主主義を嫌い、エリート主義を好むという傾向がある。「制限選挙だったころのA国は栄えていたが、普通選挙を取り入れて民衆の意見を取り入れるようになってから没落していった」などと語るのがおなじみの姿である[25]。
株主資本主義者は民意を嫌っており、「大衆は愚かで馬鹿なので、大衆の言うことなど聞くべきではない」と断言して、民意を軽視する風潮を作り出そうとする傾向がある。民意を吸収する政治に対して「衆愚政治であり、ポピュリズムであり、大衆迎合である」というレッテル貼りをし、民意を吸収する政治家に対して「あのようなポピュリスト政治家を台頭させると、政府の財政が破綻するかハイパーインフレになるかのどちらかになり、経済が荒廃し、1990年代初頭のソ連のようになる」という極論を浴びせて攻め潰しにかかる。そして「民意を吸収する政治家の言うことは、まことに甘い誘惑であるが、身を滅ぼすものである。決してそういう危険な誘惑に負けてはいけない」と言う傾向がある。
新自由主義や株主資本主義に好意的な経済学者の書く教科書では、「社会的分業こそが人類の発展をもたらしたのだ」と熱っぽく述べる文章がしばしば見られる[26]。その論理からすると、「面倒で難しい政治のことは成金議員や世襲議員などの少数の知的エリートに任せておき、その他大勢は政治のことを考えずに生産に打ち込めばよろしい」ということになり、制限選挙や階級社会を大いに肯定することになる。制限選挙を導入して階級社会が出現すると、民意が政治に反映されず、統治される人々から統治者への情報伝達が行われず、情報の流通が阻害され、社会が停滞しやすくなる。
9. 貧困を賛美して国内の労働運動を弱体化させる
株主資本主義者は貧困を賛美することがあるし、貧困を賛美する文章が書かれた書籍を愛読しつつ他の人に勧めることがある[27]。
労働運動の目的の大半は、労働者の賃金の最低額を労働市場で形成される均衡水準よりも高く設定して構造的失業の発生を甘受しつつ労働者の生活水準の向上をもたらそうというものである。そこで株主資本主義者は、貧困を賛美し、生活水準が低い状態そのものを肯定し、労働者が自らの生活水準を向上させようとしないような雰囲気を作り出そうとする傾向がある。
協力企業に払う費用を減らす
協力企業に払う費用の例
株式投資をしてA社の株を所有したうえで株主資本主義に染まると、A社の「協力企業に払う費用」が削られることを非常に喜ぶようになる。
「協力企業に払う費用」は、A社が小売業・卸売業なら「商品を仕入れる仕入れ費用」となり、製造業なら「原材料を購入する原材料費」や「労務を購入する外注費」となる。そのほか、「会社の昼食を提供する弁当屋に払う費用」や「銀行や社債購入者に支払う利子」も含まれる。
解雇規制を緩和して市場占有率が高い企業を出現させる
株主資本主義は解雇規制の緩和を望む傾向がある。その理由としては、①不景気になって収益が急減しても人件費を急減させて税引後当期純利益を確保できる企業を作ることと、②労働者の「解雇されるリスク」を高めて労働者を不安にさせて労働者の消費意欲を破壊して消費を減らしてクラウディングアウトの逆を発生させて実質利子率を下げて企業の利払い費を減らして企業の税引後当期純利益を増やすことが挙げられる。そして、それ以外に、③企業の市場占有率を高めて協力企業に対して高圧的に接することができるようにして企業が「協力企業に払う費用」を削減しやすくすることも挙げることができる。
解雇規制が緩和されて企業が労働者を自由に解雇できるようになると、企業は「労働者をいくら雇っても好きなときに解雇できる」と考えるようになって極めて積極的に雇用するようになり、市場占有率を拡大する機会が巡ってきたときに一気に雇用を拡大するようになり、企業が市場占有率を伸ばしやすくなる。
市場占有率を伸ばして寡占に近い状態になった企業は、協力企業に対して「君たちは私たちの要求を呑まねばならない」と高圧的に接しやすくなり、「協力企業に払う費用」を削減しやすくなる。
新自由主義と株主資本主義は一体不可分であり、その両者は同時に国家に浸透していく。新自由主義が優勢になる国では、自由貿易の促進に伴う安価な外国製品の流入に対抗するために企業の合併が進んでいく。株主資本主義が優勢になる国では、解雇規制の緩和などを原因として企業の合併が進んでいく。
こうして、新自由主義と株主資本主義が優勢な国では、1つの市場を数社で占有する寡占の状態や、1つの市場を1社で占有する独占の状態になりやすくなり、市場占有率が高い企業が出現しやすくなる。つまり、企業間の格差が広がっていく。そうなると、大企業が中小企業の協力企業に対して値引きを要求しやすくなるのである。
株主資本主義が優勢な国では、「原材料の価格が高騰して資源インフレが発生しているのに、仕入れ価格の値上がり分を価格に転嫁できない中小企業が多い」というニュースが多く流れるようになる[28]。
そうしたニュースに接した株主資本主義者は「世の中に協力会社へ支払う費用を低く維持する流れが起こっている。立場の強い大企業が立場の弱い中小企業へ威圧的に接して値上げを許さない弱肉強食の社会になっている。ゆえに自分が株式を保有しているA社も、協力会社へ支払う費用も低く維持されるだろう」と考えて喜ぶ。
株主資本主義者は弱肉強食という四文字熟語を好み、「弱いものが強いものにおとなしく従って食い物にされるのは極めて当然だ。それが人類社会の掟であり、自然界の真理というものだ」と語ることが多く、強いものが上に立って弱いものが下に回る階級社会を好む。
直接金融を採用して無駄な利払いを減らす
株主資本主義者が企業を経営するときは、間接金融で資金調達することを嫌い、直接金融で資金調達することを大いに好む。
間接金融の代表例は、銀行による証書貸付・手形貸付によってお金を借りることである。直接金融の代表例は、社債やCPを短期金融市場・長期金融市場に売り出してそれらの市場参加者からお金を借りることである。
銀行から証書貸付・手形貸付でお金を借りることを繰り返すと、融資担当の銀行員に温情を感じるようになってしまう。その銀行員が「私もノルマを課されているんです。どうか借り入れして利子を払っていただけませんか」と泣きついてくると、どうしても温情を殺しきれず、必要も無いのに銀行から借り入れをする羽目になる。結果として、企業は銀行に無駄な利子を払う羽目になり、「協力企業に払う費用」を無駄に払う羽目になる。
社債やCPを短期金融市場・長期金融市場に売り出して資金調達することを続けていれば、市場参加者とはドライな関係であるので、借りたくもないときに無駄に借り入れすることにならず、「協力企業に払う費用」を無駄に払わなくて済む。
株主資本主義が優勢な国では、バーゼル合意(BIS規制)が強化されて銀行の信用創造が制限され、銀行の経営が苦しくなり、間接金融が衰えていく。それはなぜかというと株主資本主義者は銀行の間接金融に対して好意的な印象を持っていないからである。
そして株主資本主義が優勢な国では直接金融が賛美される。政府が「貯蓄から投資へ」とか「貯蓄から資産形成へ」という標語を打ち出しつつ[29]、「間接金融から直接金融への転換を目指すべきだ」と主張するようになる。
直接金融に参加する企業は「経営状況を常に良好にして、財務諸表を常に良好なものにしよう」と考えるようになる。短期金融市場・長期金融市場の参加者は企業の財務諸表を見てその企業の社債やCPを買うかどうかを決めるからである。そのため、直接金融に参加する企業は非常に短期的な視野で企業経営するようになり、「ある期でいったん損失を出すが、その10年後に大きな収益を上げる」というような長期的視野を持つ経営計画を立てられなくなる。これが直接金融の短所である。
直接金融だけで資金調達する企業は、貸し手と市場で接するだけであり、貸し手との距離が遠いままになる。そうなると企業は貸し手から良質な情報を入手して自らを成長させることが難しい。これが直接金融の短所である。
一方で間接金融には、企業が銀行員から良質な情報を収集できて自らを成長させやすいという長所がある。
自由貿易を促進して原材料費を減らす
株主資本主義者は新自由主義者を兼任することがほとんどである。
新自由主義者はTPPやRCEPのような自由貿易協定を締結して自由貿易を促進することがある。自由貿易により、企業は、高賃金の国で製造される商品を購入せずに低賃金の国で製造される商品を購入できるようになり、原材料費などの費用を削減できるようになる。
実質利子率を下げて協力企業に払う利払い費用を減らす
株主資本主義者は、企業の経営というミクロ的(微視的)な話題から離れ、政府の財政政策というマクロ的(巨視的)なことを語ることがある。
そういうときの株主資本主義者は、政府購入や消費を減らす財政政策を一貫して主張する。そうすることでクラウディングアウトの逆を引き起こし、実質利子率を下げ、企業の利払い費用を減らし、企業が税引後当期純利益を増やせるようにする。
また株主資本主義者は、一定の思想を広めることで人々の消費を減らしてクラウディングアウトの逆を引き起こし、実質利子率を下げることもある。
実質利子率を下げるための株主資本主義者の手口はとても多彩である。この項目では書き切れないので、次の『実質利子率を下げて協力企業に払う利払い費用を減らす』の章で改めて解説する。
実質利子率を下げて協力企業に払う利払い費用を減らす
1. 政府を罵倒して政府購入を減らして実質利子率を下げる
株主資本主義者にとって政府購入を減らした状態が理想である。政府購入を減らせばクラウディングアウトの逆となって実質利子率が下落し、企業がお金を借り入れたときに発生する利払い費が減少し、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなる。
国債を発行してお金を借り入れてそのお金で政府購入するときは非常に強いクラウディングアウトとなり、租税でお金を徴収してそのお金で政府購入するときも一定のクラウディングアウトが発生する。つまり、政府購入はどういう財源であってもクラウディングアウトを発生させる。詳しくはクラウディングアウトの記事の『財政政策の4形態の比較』の項目を参照のこと。このため、政府購入そのものに対して株主資本主義者は常に否定的な態度をとる。
株主資本主義者は、政府購入を減らすという理想を達成するため、政府というものをあらゆる手段で徹底的に罵倒して、人々が政府を嫌悪するように仕向けていく。
株主資本主義者は、政府購入を増やして大きな政府を目指そうとする政治勢力に対して、「彼らは共産主義者・社会主義者・左派・左翼・極左・アカであり、彼らのいうとおりにするとソ連や北朝鮮や毛沢東時代の中国のようになる」とか「彼らはファシスト・全体主義者であり、彼らのいうとおりにすると戦前戦中の軍国主義日本やナチス・ドイツのようになる」といった具合にレッテル張りをして、猛烈に批判する。
株主資本主義者の中には、冷戦時代・昭和時代まで反共の闘士だった人がいるし、反共を主張するカルト宗教団体の信者もいる。そうした人たちにとって反共の思想を織り交ぜつつ政府を罵倒することは手慣れたものである。
株主資本主義者は、共産主義国の経済麻痺を繰り返し話題にして、「政府が経済に介入して統制経済になるとすべてが悪化する」「政府は企業の足を引っ張るだけの能無しである」と人々が思うように誘導して、民尊官卑の風潮を作りあげる。また株主資本主義者は、公務員のスキャンダルや不祥事を大いに話題にして、「公務員はたるんでいる」とみんなが糾弾するように仕向けて、民尊官卑の風潮を作りあげる。
「政府が国家の治安を作り出して、企業はその治安に大きく依存して生産活動を行う」というのが多くの国で見られる現象であるが、株主資本主義者はそうしたことに極力触れず、人々が政府を小馬鹿にするような風潮を作り出すことに余念がない。
株主資本主義が流行する国では同時に新自由主義が流行し、自由貿易が拡大していく。先進国でそのような状態になると、多国籍企業が出現するようになり、さらに多国籍企業の経営者が「発展途上国の労働者と先進国の労働者に同じ賃金を与えると発展途上国の労働者の方がずっと熱心に働く」などと語って先進国の労働者を罵倒するようになる。そういう罵倒の言葉を聞かされる先進国の労働者は自信を喪失し、失った自信を取り戻すために何かを攻撃することに夢中になる。そして、株主資本主義者の「公務員は怠け者であり、政府は民間の足を引っ張るだけの無能である」といった民尊官卑の言動を受け入れるようになり、公務員や政府を小馬鹿にするようになる。以上のように、株主資本主義や新自由主義が流行する国では、株主資本主義者や新自由主義者の躍動によって民尊官卑という職業差別が公然と行われるようになり、不道徳な社会になる。
株主資本主義者はときおり租税財源説を語り、「税金は財源」と語る。租税財源説の特徴の1つは、「政府は他者加害原理に基づかずに人々の財産権を侵害している」と論じて人々が政府を嫌悪するように煽る性質がある点である。
2. 国や地方の現業の赤字を減らして政府購入を減らして実質利子率を下げる
株主資本主義者は、国や地方の現業が作り出す赤字を徹底的に問題視し、そうした赤字を縮小するように激しく主張する。
世の中の人々は「赤字」という二文字を見ると恐怖と嫌悪の感情を抱く性質を持っている。このため株主資本主義者の「国や地方の現業の赤字を減らせ」という主張が通りやすい。
国(中央政府)や地方(地方公共団体)が現業をするために、ある企業の株式をすべて取得してその企業を公的企業に変貌させたとする。国や地方の現業は「住民に対して安定的に財・サービスを供給する」という目的のもとに行われるため、公的企業は、収益が少なくなりやすく、費用が多くなりやすく、「収益-費用=利益」で計算できる利益がマイナスになって赤字になりやすい。
公的企業の利益がマイナスになって赤字になると、中央政府や地方公共団体が赤字と同じ金額のお金を公的企業に注入して赤字の補填をするのだが、この赤字の補填は政府購入となる。「公的企業が株式を新規発行して政府に売り、政府が政府購入の一環としてその株式を買い、公的企業の株主割当増資となった。公的企業は得られた資本金を『その他利益剰余金』に変換して減資し、赤字になって発生した『その他利益剰余金』のマイナス数値を消した」と解釈してもよい。また、「政府が政府購入の一環として財・サービスを購入し、得られた財・サービスを公的企業に無償で譲渡し、公的企業の費用を削減し、公的企業の赤字を削減した」と解釈してもよい。
このため、国や地方の現業が作り出す赤字を削減すると政府購入を減らすことになり、「クラウディングアウトの逆」を発生させ、実質利子率の下落と企業の利払い費の削減をもたらし、企業の税引後当期純利益の増加を発生させ、株主資本主義者を満足させることになる。
国や地方の現業が作り出す赤字を削減するためには2つの方法がある。1つは、国や地方の現業を担当する公的企業に「民間企業の感覚」とか「費用対効果の意識」とか「コスト意識」などを持たせ、収益を増やして費用を減らすことを強制することである。しかし、国や地方の現業を担当する公的企業は法律によって住民に対して安定的に財・サービスを供給することを義務づけられているので、そうした公的企業に対して収益を増やして費用を減らすことを強制することが本質的に難しい。
もう1つの方法は、「官から民へ」や「民間でできることは民間に」という標語を連呼して国や地方の現業を支える法律を廃止し、中央政府や地方公共団体に課していた「財・サービスを住民へ安定的に供給する義務」を解除し、国や地方の現業を担当する公的企業の株式を政府や地方公共団体が売却するように仕向け、民営化を促進することである。そうすれば、国や地方の現業を担当する公的企業の赤字を政府や地方公共団体が補填することがなくなり、政府購入を減らすことができる。住民は「財・サービスを安定的に受け取る権利」を失うことになるので強く抵抗するが、それに対して株主資本主義者は愛用の武器である自助論を持ち出して「政府や地方公共団体に甘えるな」などと上から目線のお説教をして住民を黙らせる。こうした方法は1980年代以降の日本で盛んに実行されている。
3. 非現業公務員の数を減らして政府購入を減らして実質利子率を下げる
株主資本主義者は非現業公務員の数を減らして小さな政府を実現することを重視する。
非現業公務員の典型は官公庁や軍隊や警察に属する労働者である。
非現業の典型である官公庁や軍隊や警察は、収益が全く発生せず費用だけが発生し、費用と同額の赤字が発生する。そうした赤字を政府が補填するのだが、その赤字の補填は政府購入となる。「非現業部門を担当する企業が赤字を補填するために新規株式を発行し、政府がその新規発行株式を政府購入の一環として購入した」と解釈してもいいし、「政府が労働者の労務や資材を政府購入の一環として購入し、非現業部門を担当する企業に無償で与え、非現業部門を担当する企業の赤字を解消した」と解釈してもいい。
入門者向けの経済学の教科書において「政府購入は政府による財・サービスの購入だが、公務員の提供するさまざまなサービスも含まれる」という意味の文章が書かれ[30]、「政府が政府職員のサービスを購入することは政府購入の1つになるし、教師を雇うことは政府購入の1つになる」という意味の文章が書かれ[31]、「警官や消防士や国会議員の提供するサービスは、市場が存在しないために市場価格が存在せず、価値を計ることが難しい。そのため警官や消防士や国会議員を雇うための費用をサービスの価値とみなし、帰属計算を行い、政府購入としてGDPに加えている」という意味の文章が書かれている[32]。
いずれにせよ、典型的な非現業公務員の賃金は全額が政府購入となる。このため、典型的な非現業公務員を減らすことは政府購入を減らすことになり、クラウディングアウトの逆を引き起こすことになり、実質利子率の下落と企業の利払い費の削減をもたらすことになり、企業の税引後当期純利益の増加を発生させて株主資本主義者を喜ばせることになる。
株主資本主義者は、「小さくてスリムで賢く効率的で無駄がない政府を目指そう」というスローガンを繰り返して、非現業公務員の数を徹底的に削っていく。
株主資本主義者が主張するとおりに非現業公務員を極限まで減らして「一切の無駄がない小さな政府」にすると、コロナ禍のような有事に対する対応力が急激に低下する。「平時の無駄は有事の余裕」という格言が示すように、無駄をそぎ落とした状態の政府は有事に対してとても脆弱になる。
株主資本主義者は、非現業公務員の人員を削減するとき「有事が全く発生せず平時が永遠に続くことを大前提としていて、一種の平和ボケである」という批判を浴びて名誉を失うことになる。しかし、株主資本主義者は自らの名誉を失うことをしっかり耐え抜き、世の中の非現業公務員を1人でも減らして自らの利益を増やすことを優先している。
株主資本主義が主導権を握る国では政府の予算が減らされて政府が人手不足になる。そのため政府がボランティア頼みとなり、民間人をタダ働きさせることが恒例となる。政府高官が「皆さんの協力がないと○×というイベントが成功しません」と宣言し、民間人の「自分たちが協力しないと○×というイベントが失敗してしまう。もし○×というイベントが失敗したらそれは自分たちのせいである」という責任感や罪悪感を刺激し、民間人の労務を無料で享受し[33]、やりがい搾取を行っていく。
政府のそういう姿を見て、ブラック企業の経営者が「我々も政府の真似をしよう」と考えるようになり、労働者に向かって「君たちのサービス残業がないと会社が倒産します」と宣言し、労働者の「自分たちがサービス残業しないと会社が倒産してしまう。もし会社が倒産したらそれは自分たちのせいである」という責任感や罪悪感を刺激し、労働者の労務を無料で享受し、やりがい搾取を行っていく。
株主資本主義の国では政府が率先垂範してブラック企業にやりがい搾取の手本を示すので、国内のブラック企業が大いに勇気づけられて勢いよく躍動し、不道徳な社会になる。
ちなみに、非現業公務員を削減することはもう1つの効果を生み出す。その効果とは、実質的な規制緩和と企業人件費の削減である。
非現業公務員の人員を減らすと、国や地方の規制を実質的に緩和することになる。国や地方が法律や条例を制定して規制を掛けたとしても、その規制を実現する非現業公務員が不足していれば規制を徹底することができず、自然と規制が実質的に緩和されていく。
規制緩和をすることで、企業は規制に対応するための労働者を確保しなくて済むようになり、人件費を大いに減らすことが可能になり、税引後当期純利益を増やしやすくなる。
企業に対する規制が強い国では、規制を実施する監督官庁の退職者を企業が雇用する現象が多く発生する。つまり天下りの受け入れが多く発生する。退職者を雇用することで監督官庁との人脈を構築できるし、監督官庁の組織風土を把握することもできるからである。しかし、こういうことは人件費が増えて税引後当期純利益が減ることにつながるので、株主資本主義者がひどく嫌う。
4. 非現業公務員の賃金を減らして政府購入を減らして実質利子率を下げる
株主資本主義者が天下国家を語るとき、緊縮財政を志向し、「身を切る改革」「構造改革」「行財政改革」「行政改革」「財政改革」と称して非現業への予算を縮小することを主張し、非現業公務員の人数を減らすだけではなくその賃金を削減することを主張する傾向がある。
株主資本主義者は「改革」という好ましいイメージが付着した言葉を使って自らの支持する政策のイメージを向上させる傾向がある。
非現業公務員の賃金を削減するときは人事院の勧告~内閣の法案提出~国会による法案議決という手順をたどる[34]。
非現業公務員の賃金を引き下げることで優秀な人材が民間企業へ流れるようになり、官公庁の士気と実力が低下する。また、非現業公務員の賃金を引き下げることで、労働市場において政府・地方公共団体と労働者を奪い合っている民間企業が「労働者の賃金を引き下げても政府や地方公共団体に労働者を奪われない」と安心するようになり、労働者への賃金を引き下げるようになり、世の中全体の賃下げが進む。
人を政府が雇用して非現業公務員を増やすことはGDPの計算において政府購入の一部となる。このため非現業公務員の賃金を減らすことは政府購入を減らすことになり、クラウディングアウトの逆を引き起こすことになり、実質利子率の下落と企業の利払い費の削減をもたらすことになり、企業の税引後当期純利益の増加を発生させて株主資本主義者を喜ばせることになる。
5. 消費税を増税して消費を減らして実質利子率を下げる
株主資本主義が主導権を握る国では消費税が増税されていく傾向にある。
株主資本主義者のほとんどすべてが小さな政府の支持者であり、「税金を最小限にして自由な経済活動を促進しよう」と言って法人税・所得税・相続税・贈与税を減税するように訴えるのがいつもの姿である。しかし株主資本主義者は消費税に対しては妙におとなしくなってあまり抵抗しないことが多い。それどころか、株主資本主義者は「消費税は最も公平な税制である」と口を極めて賛美して消費税を増税する政治的気運を主導する傾向が見られる。
消費税が増税されると、買い物に対して巨額の罰金が発生するようになり、すべての人が消費を嫌がるようになって倹約・節約志向になり、すべての人の消費意欲が薄れる。消費税10%の国で110万円の物品を購入すると領収書に「物品100万円 消費税10万円」と記載されるのだが、こういう数字を見る消費者は「消費は悪いことである」という思想を持つようになり、倹約好みの性格に変貌していく。
人々の消費意欲が消え失せると、国家の限界消費性向MPCが減って限界貯蓄性向MPSが増え、消費が減って投資が増え、クラウディングアウトの逆が起こり、実質利子率が下落し、資金を借り入れた企業の利払い費用が減り、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなり、株主資本主義者にとって理想の楽園となる。
株主資本主義者が主導権を握る国では、法人税・所得税・相続税・贈与税が減税されて消費税が増税される傾向にあり、限界消費性向MPCを引き下げる効果が低い税金が減税されて限界消費性向MPCを引き下げる効果が高い税金が増税される傾向にある。そうなると、国家の限界消費性向MPCが減って限界貯蓄性向MPSが増え、消費が減って投資が増え、クラウディングアウトの逆が起こり、実質利子率が下落し、資金を借り入れた企業の利払い費用が減り、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなり、株主資本主義者にとって理想の楽園が出現する。
さらにいうと、株主資本主義者が主導権を握る国では、所得税・相続税・贈与税の累進課税が弱体化させられて富裕層に対する租税が減らされ、逆進性の高い消費税が増やされ、人頭税と酷似していて逆進性が高い社会保険料が増やされていく。そうした傾向により、国家の中の所得格差が拡大し、格差社会や階級社会が出現する。格差社会や階級社会には欠点があるが、それについては本記事の『株主資本主義で発生する格差社会・階級社会』の項目で解説する。
6. 解雇規制を緩和して労働者の賃金の確実性と消費を減らして実質利子率を下げる
株主資本主義者は解雇規制の緩和と終身雇用の破壊を好む。解雇規制の緩和とは、使用者が労働者を簡単に解雇できるようにすることである。
解雇規制の緩和の具体例は、アルバイト・パート・派遣社員・契約社員といった非正規雇用の形態で労働者を雇用することを解禁する政策である。使用者が労働者を非正規雇用するときは雇用期間の定めをして労働契約を結ぶので、労働契約が終了するときに再契約をしないことで使用者が実質的に労働者を解雇できる。
株主資本主義が席巻する国では官公庁や学校や図書館のような公的職場が率先して非正規雇用をする。これを官製ワーキングプア(官製ワープア)という。そうすることで政府が世の中の企業に「政府や地方公共団体を見習ってどんどん非正規雇用を拡大すべきだ」とメッセージを送る。日本政府は教育分野でそうした政策を実行しており、2012年の時点で非正規教員の割合が全体の16.1%になっている(記事)。
株主資本主義者が解雇規制の緩和を目指す理由は3つある。そのうちの1つは、人口の大部分を占める労働者の賃金の確実性と消費意欲を減らし、国家の限界消費性向MPCを減らして限界貯蓄性向MPSを増やし、消費を減らして投資を増やし、クラウディングアウトの逆を起こし、実質利子率を下落させ、資金を借り入れた企業の利払い費用を減らし、企業が税引後当期純利益を増やしやすくすることである。
解雇規制を緩和すれば労働者の賃金の確実性が低くなる。そうなると労働者は「自分は将来に解雇されるかもしれない」と思うようになって将来不安にさいなまれ、予備的貯蓄を優先するようになり[35]、消費嫌いで倹約好みの性格に変貌していく。さらには莫大な消費が予想される結婚・子作りを避けるようになり、結婚率を低下させていく。
株主資本主義が流行する国では解雇規制が緩和され、結婚率や出産率が低下していき、少子化が進み、激しく消費をする子どもという存在が減る。これによってGDPの中の消費の割合が減り、GDPの中の投資の割合が増え、実質利子率が低下していき、資金を借り入れた企業の利払い費用が減り、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなる。
株主資本主義者が解雇規制の緩和を目指す理由は3つある。そのうちの1つは、不景気で業績不振に陥って収益を低下させた企業が人件費を一気に削減して税引後当期純利益を確保して倒産を簡単に回避できるようにするためである。言い換えると、企業が人件費を「景気に対応する調整弁」として使えるようにするためである。
株主資本主義者の言うとおりに解雇規制を緩和して、それから不景気になると、企業がしっかり生き残って労働者が路頭に迷うことになり、まさしく滅私奉公を絵に描いたような社会になる。
株主資本主義者というと小さな政府の信奉者であり、強大な政府を批判することに余念が無く、「戦前の軍国主義日本では自由が封殺され、滅私奉公が強制され、『お国のために命を捨てて奉公せよ』という社会になった。そんなことを繰り返してはならず、政府の権力を制限して小さな政府を実現せねばならない」と熱心に主張するのが常である。
表向きはそのようなことをいうのだが、実際の株主資本主義者は「企業栄えて労働者滅ぶ」の滅私奉公を非常に好み、「企業のために『解雇されずに済む権利』を捨てて奉公せよ」という社会を理想とし、解雇規制をひたすら緩和しようとする。
「一将功成りて万骨枯る」ということわざがあり、「1人の将軍に手柄をもたせるため数万の兵士が犠牲になる」という戦争の現実を捉えた表現である(資料)。株主資本主義者の言うとおりに解雇規制を緩和して、それから不景気になると、「企業生き残りて万骨枯る」といった社会になる。
株主資本主義者が解雇規制の緩和を目指す理由は3つある。そのうちの1つは、市場占有率が高くて協力企業に対して高圧的に接することができる大企業を出現させ、そうした大企業が「協力企業に払う費用」を削減して税引後当期純利益を増やすことを助けるというものである。これについては本記事の『協力企業に払う費用を減らす』の項目を参照のこと。
解雇規制の緩和には欠点がある。
解雇規制を緩和して終身雇用を破壊すると、使用者の権力が一気に強くなり、企業が「解雇の権限を持つ強い使用者」と「解雇されるがままの弱い労働者」で構成される階級社会となる。そうなると労働者が「使用者のご機嫌伺いを優先しよう」と考えるようになり、労働者が労働に集中しなくなり、労働者が職務専念義務を遂行しなくなり、労働強化の逆となり、企業の生産性が落ちていき、国家全体の生産技術が劣化し、実質GDPが下がっていく。
また、解雇規制を緩和して終身雇用を破壊すると、使用者の権力が一気に強くなり、企業が「解雇の権限を持つ強い使用者」と「解雇されるがままの弱い労働者」で構成される階級社会となる。そうなると労働者の間で「使用者は自分と階級が異なっていて自分とは出来が違うのだから話しかけることは止めておこう」という気運が広がり、労働者が使用者に対して積極的情報提供権(表現の自由)を行使することをためらうようになり、風通しが悪い企業になる。上意下達(トップ・ダウン)だけが行われて下意上達(ボトム・アップ)がまるで行われない企業になり、企業の中で情報の流通が阻害され、欠点がいつまで経っても残り続ける企業になり、企業が発展せずに停滞するようになる。企業の生産性が落ちていき、国家全体の生産技術が劣化し、実質GDPが下がっていく。
7. 観光業を重視して非正規雇用を増やし労働者の賃金の確実性と消費を減らして実質利子率を下げる
株主資本主義が盛んになる国で重視されるのは観光業である。「観光立国」という看板を掲げ、インバウンド(外国人観光客)をひたすら呼び込もうとする。
株主資本主義が勢いを持つ日本では、2006年に観光立国推進基本法が可決された。そして2016年にIR推進法が可決され、2018年にIR実施法が可決され、IR(統合型リゾート)を整備する法律が作られた。これらの法律によって、カジノなどの施設を作って外国人観光客を呼び込もうとする政策が推進される。
観光業というのは、株主資本主義者にとって非常に好ましい産業である。観光業というのは正規雇用が少なくて非正規雇用が多いことで有名である[36]。観光業は繁忙期と閑散期の波が激しく、正規雇用して正社員を増やすことが難しく、アルバイト・パート・派遣社員・契約社員といった非正規雇用の形態で労働者を雇用せざるをえないのが実情である。
株主資本主義者は解雇規制の緩和を目指しており、「正社員は解雇しにくく、まさに既得権益である。正社員という雇用形態を消滅させて、全ての労働者を解雇しやすい非正規雇用にしてしまおう」と論ずることが多い[37]。そうした株主資本主義者にとって、非正規雇用が多い観光業はまさしく理想の業種である。
非正規雇用の割合が多い観光業を増やすことで、観光業以外の業種に勤める人々に対して「観光業の人たちが非正規雇用で生活しているのだから、君たちも非正規雇用で生活できるはずだ」と同調圧力を掛ける。これが株主資本主義者の目標の1つである。
観光業が増えることで世の中の非正規雇用が増えれば、賃金の確実性と消費意欲を失った労働者が増え、将来に解雇される可能性に備えて予備的貯蓄しようとして消費を嫌がる労働者が増える。それにより国家の限界消費性向MPCが減って限界貯蓄性向MPSが増え、消費が減って投資が増え、クラウディングアウトの逆が起こり、実質利子率が下落し、資金を借り入れた企業の利払い費用が減り、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなる。
ステークホルダー資本主義者(反・株主資本主義者)は、「正規雇用が多い業種を育成し、賃金の確実性・安定性に恵まれた労働者を増やすべきだ」と論じるのが常である。そして「観光業を重視すると世の中の非正規雇用が増えてしまい、賃金の不確実性・不安定性に悩まされる労働者が増えてしまう」と論じ、観光立国の政策に対して反対の立場を取ることが多い[38]。
株主資本主義者は、有力な産業に恵まれない田舎の地方において観光業を増やすことで産業を振興しようとする。一方でステークホルダー資本主義者(反・株主資本主義者)は、農林水産業の分野において関税を高めて保護貿易を導入して農林水産業で生活できる体制を整え、有力な産業に恵まれない田舎の地方において農林水産業を増やすことで産業を振興しようとする。農林水産業は気候変動のリスクにさらされているので工業よりも賃金の安定性が低いが、観光業よりは賃金の安定性が高いので、ステークホルダー資本主義者(反・株主資本主義者)が重視する産業である。
株主資本主義者は観光業を重視するので、休日分散についても賛成する傾向がある。
休日分散とは、1つの国をいくつかの地域に分け、地域ごとに大型連休をずらして取得させることをいう。例えば、「5月1日~5日に北海道・東北・関東甲信越が休暇に入り、5月6日~10日に東海・関西・中国・四国・九州・沖縄が休暇に入る」といった具合に休暇を分散させる。
休日分散の利点は、道路の渋滞や新幹線・飛行機の混雑が減り、宿泊施設の宿泊代も安くなり、観光業にとっての閑散期が減って観光業の企業の売上が増える、といったところである。従来どおりに全国一斉に休暇を取ると、道路の渋滞や新幹線・飛行機の混雑が強烈になり、宿泊施設の宿泊代も高くなり、観光業にとっての閑散期が発生して観光業の企業の売上が低いままになる。
休日分散の大きな欠点は、遠隔地に住む友人・家族と同時に休暇を取ることができず、人々の間で分断が進んでしまうところである。先ほどの例のように「5月1日~5日に北海道・東北・関東甲信越が休暇に入り、5月6日~10日に東海・関西・中国・四国・九州・沖縄が休暇に入る」という制度を導入すると、「北海道で就職した人が5月3日になって関西に帰省しても、関西に住んでいる友人・家族は休暇期間に入っておらず、会えない」というような、非常に残酷なことになる。
株主資本主義者というのは成果主義・能力主義を推進するところがあり、格差社会・階級社会の出現を望むところがあり、階級社会の意識が強い。階級社会の意識が強くなると「階級が異なる人と情報を交換して仲良くしよう」という気運が薄れ、「みんな一斉に休日をとって同窓会などを開いて交流しよう」という気運が薄れ、社会の分断を肯定する気持ちが生じ、休日分散に賛成する気持ちが生じるようになる。
8. 年金や医療費支援や介護費支援を削減して政府購入や消費を減らして実質利子率を下げる
加齢によって成果を出せなくなったり能力を喪失したりした老人に対して政府がお金を給付する制度を年金という。また政府は、医療サービスや介護サービスを享受した老人が支払うべき医療費や介護費に対して金銭的に支援することがある。
年金は政府から老人への給付金であり、経済学の中では減税の一種と扱われる[39]。給付金は政府から家計への送金であり、税金は家計から政府への送金なので、給付金は税金の正反対であり、減税に等しい。
政府による医療費や介護費の負担は政府購入の一種である。「政府が医療サービスや介護サービスの一部を政府購入の一環として買い取って、それを老人に無償で譲渡している」という解釈をしてよい。
年金や医療費支援や介護費支援の財源は、①政府が日銀法第4条を堅持しつつ国債を発行して借り入れる資金や、②人々に課する租税や、③人々に課する社会保険料のどれかである。そして、①の財源を採用しても、②や③の財源を採用しても、いずれにせよクラウディングアウトとなる。そのことはクラウディングアウトの記事の『財政政策の4形態の比較』の項目で確認できる。
国債を発行して金融市場から資金を借り入れて医療費支援や介護費支援をすることは、国債でA円を借り入れてA円の政府購入をすることに等しく、かなり強めのクラウディングアウトとなる。
国債を発行して金融市場から資金を借り入れて年金を支給することは、国債でA円を借り入れてA円の減税をすることに等しく、強めのクラウディングアウトとなる。
租税や社会保険料を徴収して医療費支援や介護費支援をすることは、租税でA円を徴収してA円の政府購入をすることに等しく、弱めのクラウディングアウトとなる。
租税や社会保険料を徴収して年金を支給することは、租税でA円を徴収してA円の減税をすることに等しく、本来ならまったくクラウディングアウトが発生しない。しかし、この場合は、限界消費性向MPCが低い現役世代から限界消費性向MPCが高い老人へお金が移転するので、消費が増えて投資が減り、クラウディングアウトになる。現役世代が持つ将来よりも老人が持つ将来の方が短いので、現役世代の方が限界貯蓄性向MPSが高くて限界消費性向MPCが低く、老人の方が限界貯蓄性向MPSが低くて限界消費性向MPCが高い。
クラウディングアウトになると実質利子率が上昇し、資金を借り入れた企業の利払い費用が増え、企業が税引後当期純利益を増やしにくくなるのだが、それは株主資本主義者が心から嫌がることである。このため株主資本主義者は年金や医療費支援や介護費支援に対して常に反対する。
株主資本主義者は、年金や医療費支援や介護費支援を削減したがる傾向にある。その理由は、上述のようにクラウディングアウトを阻止するためというものが挙げられるが、人々の収入の確実性と消費意欲を減少させることで国家全体の限界消費性向MPCを減少させてクラウディングアウトの逆を発生させるというものも挙げられる。
年金や医療費支援や介護費支援を削減すると、人々に「自分が老いたら政府が助けてくれない」と思わせることができ、人々に将来不安を与えることができ、人々が将来に備えて予備的貯蓄をして消費を抑制するように誘導することができ、国家全体の限界消費性向MPCを減退させることができる。そうなれば、クラウディングアウトの逆が起こって実質利子率が下がって企業が税引後当期純利益を増やしやすくなり、株主資本主義者が望む状態になる。
株主資本主義者は年金や医療費支援や介護費支援を徹底的に嫌い、そうした制度を潰すために様々な論説をする。「既得権益者の老人が社会保険料を課すという手段で若者を痛めつけている」などと老人に対する憎悪を煽る論説をしたり、あるいは「現行の年金制度は制度疲労を起こしていて将来の破綻が考えられるので今すぐに改革すべきだ」などと不安を煽る論説をしたり、「生産能力が低い老人に対して資金と人員を配置するのは無駄であって効率的でないので、医療産業や介護産業のような老人を世話する産業を縮小して廃れさせ、もっと効率的に富を生み出す産業へ資金と人員を移動すべきだ」などと軽蔑を煽る論説をしたりする。
株主資本主義者は老人への支援を重視する政治を嫌っており、そうした政治をシルバー民主主義(シルバーデモクラシー)と呼び、「シルバー民主主義を否定するべきだ」と激しく訴え、「若者の投票率を上げつつ『老人を憎悪する若者』が増えればシルバー民主主義を打破できる」と考え、若者に選挙の投票へ行くことを勧めつつ「老人が社会保険料の賦課という手段で若者を痛めつけている」というヘイトスピーチに近い言動をすることがある。
株主資本主義者が好む言葉は「効率」である。その株主資本主義者が政府による社会保障や年金給付を目にすると「ロクな生産力もない老人にお金を注ぎ込んで人を張り付かせるのは無駄で非効率的だ」と猛反発する傾向がある。政府による社会保障や年金給付を大々的に行う政策を確定させたのは田中角栄であるので[40]、株主資本主義者は田中角栄を徹底的に敵視する傾向がある。
ちなみに株主資本主義者は「国土の均衡ある発展」と呼ばれる地域振興政策を目にすると「ロクな生産力もない地方にお金を注ぎ込んで人を張り付かせるのは無駄で非効率的だ」と猛反発する傾向がある。そして、「国土の均衡ある発展」を大々的に行う政策を確定させたのは田中角栄であるので、株主資本主義者は田中角栄を徹底的に敵視する傾向がある。
株主資本主義者は老人を嫌う傾向が高く、「老人は生産能力が低く社会やGDPへの貢献を行っていないので、さっさと逝去してくれたら良い」とか「老人は穀潰し(ごくつぶし)であり、姥捨て山[41]に放置して口減らしして、社会の人件費(コスト)を削減した方が良い」という思想が言動の節々からにじみ出てくる傾向がある。
株主資本主義者のそういう主張に対して、「医療器具の加工は非常に難しい[42]。老人に対する医療費を拡大することで医療器具の加工という困難な作業に挑む企業が増え、国内の企業が高性能な工作機械を購入するという設備投資をするようになり、国家の将来の資本量が増え、国家が将来において実質GDPを増やすことができる。老人に対する医療費は一種の産業振興費である」という反論が寄せられることがある。
医療器具の産業というのは、医者などの医療関係者や患者の家族が「できるだけ良い医療器具を作ってくれ。さもないと患者が死んでしまう!」といった具合に鬼気迫る表情で内発的動機付けを強く掛ける産業であるので、賃上げを求める労働運動がやや起こりにくいという短所がある。しかし、先述のように医療器具の産業は高性能な工作機械を必要とするので国家の資本量を増やしやすいという長所がある。
ちなみに余談ながら、医療器具産業に匹敵するほどに産業を振興する効果が高いのは軍事産業である。軍事産業では高性能の製品を作るための高性能な工作機械を必要とするので国家の資本量を伸ばしやすいという長所がある。軍人が「できるだけ良い兵器を作ってくれ。さもないと味方が死んでしまう!」といった具合に鬼気迫る表情で内発的動機付けを強く掛ける産業であるので、賃上げを求める労働運動がやや起こりにくいという短所があるが、その短所を補うほどの長所がある。
日本は憲法で平和国家であることを定められている。そして、エネルギーや食糧といった資源の自給率が非常に低い国家なので、すべての国家と仲良くする全方位外交を維持する必要があり、軍事行動を起こすことが難しく、外国の恨みを買うような兵器輸出が難しい。ゆえに日本が「兵器に対する需要」を大幅に増やして技術を進歩させるという国策をとるのはあまり現実的ではない。
「老人が逝去せずに踏ん張ると、老人に対する医療器具を大量かつ高品質に作ることになり、医療器具を作る製造業を鍛え上げる効果が生まれ、製造業の技術水準を押し上げる効果が生まれる」とか「老人は病気になりやすい存在で、病気になることで『作るのが難しい医療器具』に対する需要を作り出す存在であり、製造業が難しい加工に挑戦するきっかけを作り出す存在であり、製造業の技術水準をグイグイ押し上げるモーターでありエンジンであるので、簡単に逝去してもらったら困る」という思想がある。そういう思想を持つ人は、株主資本主義者の「高齢者は逝去してしまえばいい」という主張に対して強硬に反論することになる。
9. 自助論や自己責任論を広めて政府購入や消費を減らして実質利子率を下げる
株主資本主義者の自助論・自己責任論の典型は「政府に保護されようと思うのは甘えであって国家衰退への道である」とか「親方日の丸の気持ちを抱いてぬくぬくとしていれば堕落する」というものであり、説教臭い道徳論になることが恒例である。
親方日の丸とは、公務員が「自分の勤める職場の経営者は日本国政府なので絶対に倒産しない」と信じる意識のことを指すが、ここでは人々が「自分が困ったら日本政府が必ず助けてくれる」と信じる意識のことも含む。
株主資本主義者の自助論・自己責任論は、人々に対して「皆さんは、困ったことが発生しても、政府に対して政府購入に基づく政府からのサービスの提供を請求する権利をもっていないし、政府に対して給付金や減税を請求する権利をもっていない。そういうことをするのなら我々が道徳論で罵倒する」と告げるものであり、困ったことが発生した人に対して日本国憲法第16条に基づく請願をすることを諦めさせたり、困ったことが発生した人に対して日本国憲法第21条に基づく「行政や立法や司法に影響を与える目的で行う表現」をすることを諦めさせたりするもので、人々の基本的人権を抑圧するものであり、日本国憲法の精神と一致しないものである。
株主資本主義者が熱心に自助論や自己責任論を語ることで、人々は「困ったことが発生しても、自分には政府に対して政府購入に基づく政府からのサービスの提供を請求する権利がないし、政府に対して給付金や減税を請求する権利がない」と思うようになり、困ったことが発生しても国会議員を通じて政府購入や減税を要求することを避けるようになる。そうなると政府購入や消費が減って投資が増え、クラウディングアウトの逆が発生し、実質利子率が下落し、企業が借り入れに伴う利払い費を削減できるようになり、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなる。
株主資本主義者が熱心に自助論や自己責任論を語ることで、人々は「困ったことが発生したら政府が助けてくれず収入が激減する」と思うようになり、将来不安に襲われるようになる。将来不安に悩まされた人々は、自らの収入の確実性が減少したと思い込んで予備的貯蓄を優先するようになって消費意欲を減退させ、激しい消費が予想される結婚や出産を諦めるようになり、少子化を進行させる要因を作り出す。そうなると国家の限界消費性向MPCが減って限界貯蓄性向MPSが増え、消費が減って投資が増え、クラウディングアウトの逆が発生し、実質利子率が下落し、企業が借り入れに伴う利払い費を削減できるようになり、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなる。
株主資本主義者は、自助論や自己責任論を語るときに「道徳を語る教師」といった立ち位置になり、「自分は道徳を理解している立派な存在なのだ」という思いを強くすることができ、満足することができる。そして株主資本主義者は、そうした満足感に酔いしれながら、実質利子率を引き下げて税引後当期純利益を増やす可能性を高めている。株主資本主義者にとって自助論や自己責任論を述べることは、自らの気分を良くすることができるし金儲けになるしで、とても満足できる楽しい行為である。
株主資本主義者は、「道徳論を語って道徳的に優れていると思われたい」という名誉欲と、「政府購入や消費を減らしてクラウディングアウトの逆を発生させて実質利子率を引き下げて企業が資金を借り入れる際に支払う利払い費を削減して企業の税引後当期純利益を増やして金儲けしたい」という金銭欲を両方とも持ち合わせている。株主資本主義者のそうした欲望を両方ともしっかり満たすのが自助論や自己責任論である。
株主資本主義者が自助論・自己責任論を語るとき、①まず「日本は世界最強の覇権国家であるアメリカ合衆国を見習わねばならない」と述べて、②続いて「アメリカ合衆国は自助論が浸透した自己責任の国であり、親方星条旗の生き方をする人がどこにもいない」と語り、③最終的に「日本人は自助論を受け入れ自己責任の意識を持たねばならず、親方日の丸の生き方を諦めねばならない」という結論を導く。つまり、強大なアメリカ合衆国に対する憧れの心を利用しつつ、三段論法を駆使して同調圧力を掛ける。株主資本主義に傾倒する政治家が著書でそのように三段論法を駆使して同調圧力を掛けることがある[43]。
強大な外国に対する憧れの心を利用して「強大な外国の人々は○×という行動をしているのだから、君も○×という行動をするべきだ」と語りかけて同調圧力を掛ける存在は、しばしば出羽守と言われる。
しかし、現実のアメリカ合衆国は軍事予算が巨大な国であり、軍人を非常に手厚く保護する国であり、親方星条旗の気持ちを抱いて生きる人が多く存在する国である。アメリカ合衆国で貧乏な家庭に生まれついた場合は、高校を卒業してから軍隊に入り、軍隊で2~3年ほど働いてから予備役になり、予備役の身分のまま軍人の学費をタダにする大学に通い、「元軍人を積極的に雇用していて社会と国家に貢献しております」とアピールしようとする企業に就職する、という選択肢を選ぶことができる。アメリカ合衆国の大学に留学すると「数年前まで軍隊で働いていた」という学生に出くわすことが珍しくないという。
株主資本主義者がアメリカ合衆国のことを語るとき、軍隊で数年働いてから大学に通う人々のことには決して触れようとせず、親方星条旗の生き方をする人々のことをひたすら黙殺する。それはなぜかというと、「世界最強の覇権国家であるアメリカ合衆国は自助論が浸透した自己責任の国であり、親方星条旗の生き方をする人がどこにもいない」というプロパガンダ(思想宣伝)の邪魔になるからである。
株主資本主義者が自助論や自己責任論を広めることを順調に行うと、有力な産業がない地方の住民が地方公共団体に対して「政府購入に基づく地方公共団体からのサービスの提供」や減税を請求しにくくなる。そうなると、有力な産業がない地方から有力な産業のある地方への移住が進み、「国土の均衡ある発展」という政策が失敗して「地方切り捨て」という事態となり、有力な産業がない地方に人口空白地域が出現し、凶悪犯罪者が凶悪犯罪の証拠品を捨てやすい状況となり、治安が悪化していく。治安が悪化すると世の中の労働者が労働に集中しにくくなり、職務専念義務を果たしづらくなり、労働強化の逆となり、労働時間が一定であっても生産量が減る事態となり、国家全体の生産技術が劣化し、実質GDPと労働生産性と資本生産性と実質賃金と実質資本レンタル料のすべてが減少し、国家が没落していく。そのことはコブ=ダグラス生産関数で簡単に計算できる。
株主資本主義と表裏一体の新自由主義が流行すると、自由貿易が推進され、国際的資本移動の自由化が進み、多国籍企業が出現する。そして多国籍企業の企業経営者は「発展途上国の労働者と先進国の労働者に同じ賃金を払うと発展途上国の労働者の方がずっと熱心に働く」と言って先進国の労働者を罵倒するようになる。自信を破壊された先進国の労働者は何かを罵倒したり軽蔑したりして自信を回復させることに夢中になる。そうした状況で株主資本主義者が自助論や自己責任論を広めるので、先進国の労働者は株主資本主義者を見習って「自助をせず自己責任を意識しない者」に対して自助論や自己責任論で罵倒して軽蔑するようになる。以上をまとめると、新自由主義者が先進国の労働者に対して誰かを罵倒して軽蔑したがる心理を植え付け、株主資本主義者が先進国の労働者に対して罵倒して軽蔑する手段を直接的に与えている。
10. 財政破綻論や「日本円建て日本国債は子孫を必ず苦しめる」という論理を語り消費や国債発行を減らして実質利子率を下げる
株主資本主義者は、財政破綻論や「日本円建て日本国債は子孫を必ず苦しめる」という論理を繰り返し語って人々の不安と恐怖を煽る習性を持っている。
①日本政府は経済政策の基本方針の1つとして「円建て日本国債の債務不履行を絶対に回避する」という方針を堅持している。②日本には日銀法第4条があり、日本銀行に対して日本政府の経済政策の基本方針と整合的な金融政策をとるように義務づけている。③日本政府が通貨として採用しているのは日本銀行が発行する不換銀行券であり、日本銀行が全く負担無しで発行できる。以上の①と②と③から、日本政府は日本円建ての国債をどれだけ発行しても決して返済不可能に陥らず、財政破綻しない。また日本政府は日本円建ての国債をどれだけ発行しても日銀の支援を得て返済できるのであって子孫への増税のみに頼る必要が発生しない。
株主資本主義者は以上の①と②と③を意図的に忘却し、「日本政府は日本円建て日本国債を返済しきれずに財政破綻する」とか「日本円建て日本国債は子孫の負担を増やして子孫を必ず苦しめる」と繰り返し語っている。③を意図的に忘却するときの株主資本主義者は商品貨幣論の支持者になる傾向がある。
株主資本主義者の語る財政破綻論は、人々の不安と恐怖を煽り、人々の「意思決定の自由」を阻害し、人々を困惑させるものである。財政破綻論を語る株主資本主義者の姿はカルト宗教団体と酷似している。カルト宗教団体は、人々の不安と恐怖を煽り、人々の「意思決定の自由」を阻害し、人々を困惑させることを常習とする団体である。
「日本円建て日本国債は子孫を必ず苦しめる」と主張するときの株主資本主義者に最もよく似ているカルト宗教団体というと統一教会である。統一教会は「あなたの行いであなたの子孫は地獄に堕ちて苦しむことになる」と言って信者の不安と恐怖を煽ることを得意としている。ハッキリ宣教師の「あなたの行いであなたの子孫が苦しむ」という説法はその好例である。
日本政府は2024年6月21日の閣議で2024年版の「こども白書」を決定した。日本、米国、ドイツ、フランス、スウェーデンの5ヶ国の13歳から29歳の人を対象にアンケートを行ったが「自国の将来は明るいと思うか」の質問に「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と答えた割合は日本が最も低かった(記事)。こうした状況の原因の1つとして、日本において株主資本主義者たちが精力的に財政破綻論を語り続けてきたことを挙げることができる。
株主資本主義者は財政破綻論を述べたり「日本円建て日本国債は子孫を必ず苦しめる」という論理を語ったりするのだが、それには3つの目的がある。そのうちの1つは、そうした論理を語ることで人々に「自分は借金持ちで負債を抱えている」と考えさせ、人々の消費意欲を打ち砕き、国家全体の限界消費性向MPCを減らして消費を減らし、国家全体の限界貯蓄性向MPSを増やして投資を増やし、クラウディングアウトの逆を発生させて実質利子率を下げ、企業が資金を借り入れる際に支払う利払い費を削減し、企業の税引後当期純利益を増やすという目的である。
人間は「自分は借金持ちである」と感じれば「消費などしている場合ではない」という気分になり、限界消費性向MPCを減らして消費を抑制する。このため株主資本主義者は「政府の借金は○兆円で、それは皆さんの借金ですから、皆さんは借金持ちなのです」とひたすらに人々に語りかけ、人々に「消費などしている場合ではない」という気分を持たせようと懸命になっている。
株主資本主義者は財政破綻論を述べたり「日本円建て日本国債は子孫を必ず苦しめる」という論理を語ったりするのだが、それには3つの目的がある。そのうちの1つは、そうした論理を語ることで人々に「将来において政府は国債を発行して資金を得ることができなくなるので年金や医療費支援や介護費支援といった社会保障が必ず破綻する」と考えさせ、人々の将来不安を煽って人々を絶望させ、人々の消費意欲を打ち砕いて人々の貯蓄意欲を煽り、国家全体の限界消費性向MPCを減らして消費を減らし、国家全体の限界貯蓄性向MPSを増やして投資を増やし、「クラウディングアウトの逆」を発生させて実質利子率を下げ、企業が資金を借り入れる際に支払う利払い費を削減し、企業の税引後当期純利益を増やすという目的である。
「人々を絶望させてその絶望の心を自らのエネルギーにしている」というと、ドラクエなどのRPG系のゲームの敵役にありがちな設定であるが、株主資本主義者はそれと似たような性質を持っている。株主資本主義者はまず株式を購入して企業の株主になり、財政破綻論を語って人々に「将来において政府は国債を発行して社会保障の資金を得ることができなくなるので社会保障が必ず破綻する」と絶望させ、人々が消費せずに予備的貯蓄をするように仕向け、国家の限界消費性向MPCを減らして限界貯蓄性向MPSを増やし、「クラウディングアウトの逆」を引き起こし、実質利子率を引き下げて企業が支払う利払い費を削減し、企業の税引後当期純利益を増やし、自らのエネルギーを高めている。
株主資本主義者は財政破綻論を述べたり「日本円建て日本国債は子孫を必ず苦しめる」という論理を語ったりするのだが、それには3つの目的がある。そのうちの1つは、プライマリーバランスの均衡や黒字を目指すよう国会議員や官僚や国民に強制し、クラウディングアウトを減らしたり「クラウディングアウトの逆」を発生させたりして実質利子率を下げ、企業が資金を借り入れる際に支払う利払い費を削減し、企業の税引後当期純利益を増やすという目的である。
プライマリーバランスが均衡していて限界消費性向MPCが0.7で限界貯蓄性向MPSが0.3の国家があるとする。その国家が1兆円の国債を発行してプライマリーバランスの赤字を1兆円だけ発生させて1兆円の政府購入をすると、1兆円の投資を減らすことになり、クラウディングアウトが非常に大きく発生する。一方で1兆円の増税をしてプライマリーバランスの均衡を保って1兆円の政府購入をすると、3000億円の投資を減らすことになり、クラウディングアウトが少なく発生する。詳しくはクラウディングアウトの記事の『財政政策の4形態の比較』の項目を参照のこと。ゆえに株主資本主義者は常に後者を選び、プライマリーバランスの赤字を否定してプライマリーバランスの均衡を目指し、国債を財源とする財政政策から租税を財源とする財政政策に変更しようとする。
プライマリーバランスが均衡していて限界消費性向MPCが0.7で限界貯蓄性向MPSが0.3の国家があるとする。その国家が1兆円の国債を発行してプライマリーバランスの赤字を1兆円だけ発生させて1兆円の減税をすると、7000億円の投資を減らすことになり、クラウディングアウトが大きく発生する。一方で1兆円の増税をしてプライマリーバランスの均衡を保って1兆円の減税をすると、全く投資を減らさず、クラウディングアウトが全く発生しない。詳しくはクラウディングアウトの記事の『財政政策の4形態の比較』の項目を参照のこと。ゆえに株主資本主義者は常に後者を選び、プライマリーバランスの赤字を否定してプライマリーバランスの均衡を目指し、国債を財源とする財政政策から租税を財源とする財政政策に変更しようとする。
プライマリーバランスが均衡していて限界消費性向MPCが0.7で限界貯蓄性向MPSが0.3の国家があり、過去に発行した1兆円の国債の償還をすることになったとする。その国家が1兆円の国債を発行して1兆円の国債の償還をして借り換えをすると、投資を一定に保ち、クラウディングアウトや「クラウディングアウトの逆」が全く発生しない。一方でその国家が1兆円の増税をしてプライマリーバランスの黒字を1兆円だけ発生させて1兆円の国債の償還をすると、投資を7000億円増やし、「クラウディングアウトの逆」を大きく発生させる。詳しくはクラウディングアウトの記事の『国債償還の2形態の比較』の項目を参照のこと。このため株主資本主義者は、租税を増やして政府購入や減税を減らしてプライマリーバランスを黒字にして税金で国債を償還することを常に目標とする。
ちなみに、株主資本主義者がプライマリーバランスを均衡や黒字に近づけるために増やす税金というと、消費税が定番である。消費税は人々から効率的に税金を吸い上げる性質があり、プライマリーバランスを黒字に近づける力が強く、株主資本主義者にとって愛用の武器といった存在である。
株主資本主義者のほとんどは「プライマリーバランスを黒字にすることでクラウディングアウトの逆を発生させ企業の借り入れ費用を減らして企業が税引後当期純利益を多く稼げるようにして企業の株主を喜ばせよう」と主張しない。そのような主張をすると、「金にがめつい欲深」「金儲けしか考えない企業株主の回し者」という印象を周囲に与えることになり、自らの不利益を招くからである。
一方で株主資本主義者のほとんどが「プライマリーバランスを黒字にすることで政府債務を減らして将来の子孫を借金地獄から解放しよう」と主張する。そのような主張をすれば「子孫のことを心から考える道徳家」「将来世代のことを考える聖人」という印象を周囲に与えることになり、自らの利益を招くからである。
つまり言い換えると、ほとんどの株主資本主義者は財政破綻論や「日本円建て日本国債は子孫を必ず苦しめる」という論理を語って「子孫のことを心から考える道徳家」「将来世代のことを考える聖人」という仮面をかぶる。
ちなみに、株主資本主義に反対する者たち、つまりステークホルダー資本主義者も「先進国でプライマリーバランスを赤字にしてクラウディングアウトを起こすことを適度に行えば、過剰投資を抑制でき、バブル経済による好景気とバブル崩壊による不景気を抑制でき、不良債権が大量に発生することを抑制でき、将来世代に不良債権というツケを回すことがなくなり、将来世代に安定した経済を引き渡せる」などと語って「子孫のことを心から考える道徳家」「将来世代のことを考える聖人」という仮面をかぶる。
経済政策の論争の場は、「子孫のことを心から考える道徳家」「将来世代のことを考える聖人」という仮面を上手にかぶる技術の競争の場でもある。先進国において株主資本主義者は「プライマリーバランスを赤字にして政府債務を増やすということは将来世代にツケを回すことになるので絶対にしてはならない」と述べて「将来世代のことを考える聖人」という仮面をかぶるし、ステークホルダー資本主義者は「プライマリーバランスを黒字にして過剰投資を増やして不良債権を増やすということは将来世代にツケを回すことになるので絶対にしてはならない」と述べて「将来世代のことを考える聖人」という仮面をかぶる。両者はそのようにして競争している。
11. 社会保障の分野でA円の政府購入をA円の減税に変更して実質利子率を下げる
社会保障を論ずる場において、株主資本主義者はA円の政府購入をゼロにすることをまずは主張する。そして、人々の抵抗が激しくてそうした主張が世間に受け入れられないことを悟ったときの株主資本主義者は、妥協案として、A円の政府購入をA円の減税に変更することを主張する。
たとえば、政府が医療費支援や介護費支援や教育費支援を行うことをすべてとりやめてそれにかかる経費のお金をすべて給付金とかベーシックインカムとして国民に支給することを主張する。
医療費支援や介護費支援や教育費支援は、政府がサービスを購入して家計に無償で譲渡することと同じであるから政府購入の一種である。給付金やベーシックインカムは経済学において減税として扱われる。言い換えると、政府が使い道を指定しつつお金を家計に給付することは政府購入になり、政府が使い道を指定せずにお金を家計に給付することは減税になる。
国債を発行してA円を金融市場から借り入れてそのA円で医療費支援や介護費支援や教育費支援といった政府購入を行う政策と、国債を発行してA円を金融市場から借り入れてそのA円で給付金やベーシックインカムといった減税を行う政策を比べると、後者の方がクラウディングアウトの度合いが弱く、実質利子率を引き上げる効果が弱く、企業が支払う利子を増やす効果が弱く、企業の税引後当期純利益を減らす効果が弱い。詳しくはクラウディングアウトの記事の『財政政策の4形態の比較』の項目を参照のこと。ゆえに株主資本主義者は常に後者を選ぶ。
租税を家計から徴収してA円を調達してそのA円で医療費支援や介護費支援や教育費支援といった政府購入を行う政策と、租税を家計から徴収してA円を調達してそのA円で給付金やベーシックインカムといった減税を行う政策を比べると、後者の方がクラウディングアウトの度合いが弱く、実質利子率を引き上げる効果が弱く、企業が支払う利子を増やす効果が弱く、企業の税引後当期純利益を減らす効果が弱い。詳しくはクラウディングアウトの記事の『財政政策の4形態の比較』の項目を参照のこと。ゆえに株主資本主義者は常に後者を選ぶ。
株主資本主義者のほとんどは「A円の政府購入をA円の減税に変更して実質利子率を下げて企業の借り入れ費用を減らして企業が税引後当期純利益を多く稼げるようにして企業の株主を喜ばせよう」と主張しない。そのような主張をすると、「金にがめつい欲深」「金儲けしか考えない企業株主の回し者」という印象を周囲に与えることになり、自らの不利益を招くからである。
そこで株主資本主義者は「政府の官僚は他人が稼いだお金を使う寄生虫のような存在であり、責任感を持たず頭をしっかり使わず馬鹿な判断をして無駄遣いばかりする」と言ったり「民間人は自分が稼いだお金を自分のお金として使う立派な存在であり、責任感を持って頭をしっかり使って賢く判断して効率的にお金を使う」と言ったりして、民尊官卑の言動を繰り返し、そうした上でA円の政府購入をA円の減税に変更することを主張する。
また株主資本主義者は「民間人が自分のお金という財産を自由に処分することを尊重すべきであって日本国憲法第29条に基づき民間人の財産権を尊重すべきである」と言い、憲法論や法律論の言動を繰り返し、そうした上でA円の政府購入をA円の減税に変更することを主張する。
株主資本主義を弱体化させる方法
保護貿易の導入
株主資本主義を弱体化させるためには保護貿易の導入が効果的である。
保護貿易にすると、企業は安価な外国製品と競争するために企業体力を向上させることから解放され、株主資本主義を採用する必要性が薄れる。
国の現業の創設
株主資本主義を弱体化させるためにはかつての三公社五現業のような国の現業を創設することが有効である。
国の現業を創設すると、それに従事する労働者が熱心に労働運動を行うようになり、世の中の労働運動が活発化し、賃上げの気運が生まれる。各企業の経営者は株主に対し「国の現業の労働組合が作り出す労働運動の勢いが強いので、株主の皆さんの『人件費を削れ』という要求には応じられません」と拒絶できるようになり、各企業において株主の発言力が急激に低下し、株主が「物言わぬ株主」「黙りこくった株主」というべき存在になり、株主資本主義が弱体化していく。
解雇規制の強化
株主資本主義を弱体化させるためには解雇規制を強化することが有効である。
解雇規制を強化することで、不景気になったときも各企業が雇用を維持するようになり、「労働者に払う費用」を簡単に削れなくなる。
解雇規制を強化することで、企業が雇用の拡大を積極的に行わなくなり、企業の市場占有率が伸びにくくなり、大企業と中小企業の格差が縮小し、各企業が「協力企業に払う費用」を簡単に削れなくなる。
このため解雇規制を強化することで、各企業の経営者は株主に対し「解雇規制があるので株主の皆さんの要求には応じられません」と拒絶できるようになり、各企業において株主の発言力が急激に低下し、株主が「物言わぬ株主」「黙りこくった株主」というべき存在になり、株主資本主義が弱体化していく。
法人税の強化
株主資本主義を弱体化させるためには法人税の強化が有効である。
法人税を増税すると各企業が「法人税を節税するために法人所得を圧縮しよう」と考えるようになる。なぜなら、法人税は法人所得に法人税率を掛けて徴税額を計算するからである。
そして企業が「法人所得を圧縮するために損金を増やそう」と考えるようになり、「間接金融や社債発行で資金調達しよう。つまり銀行から借り入れて銀行に利子を払うか、社債を発行して社債保有者に利子を払うか、どちらかにしよう。銀行や社債保有者に支払う利子は、企業会計における費用であり、税務における損金である」と考えるようになり、「株式発行で資金調達するのは止めておこう。株主へ支払う配当は企業会計における費用ではないし、税務における損金でもない」と考えるようになる。
その結果として、各企業が公募増資を減らすようになり、株主資本主義が弱体化していく。
ちなみに法人税を強化すると社会の構造が大きく変わり、中小企業への銀行融資が増えて中小企業に優しい社会になり、中小企業と大企業の格差が多少なりとも縮小する。
法人税を強化すると各企業の税引後当期純利益が減ることになり、各企業の利益剰余金が減ることになる。
企業は借り入れするときに利子を支払いつつ元金を返済するのだが、元金の返済は「その他利益剰余金の見合いとなる銀行預金」を原資としている。そのため、法人税が強化されて企業の「その他利益剰余金の見合いとなる銀行預金」が減ると、企業は元金を短期で返済しにくくなり、元金を長期にわたって返済するように変化していく。つまり法人税を強化すると企業が短期借り入れから長期借り入れに移行していくのである。
企業が短期借り入れから長期借り入れに移行すると、短期金融市場での需要が減って短期金利が下落し、長期金融市場での需要が増えて長期金利が上昇する。つまり法人税を強化すると長期金利と短期金利の差が拡大し、長短金利差が拡大するのである。
ごく一般的にいうと、長期金利と短期金利の差が拡大すると、すなわち長短金利差が拡大すると、銀行の経営が良好になる。そうなると銀行は「経営に余裕が出てきたことだし、なんだか怪しい中小企業にも融資をしてみよう」と考えるようになり、中小企業への融資を積極的に行うようになる。つまり法人税を強化すると、中小企業が銀行から融資を受けやすくなり、中小企業の経営が比較的に容易になり、中小企業と大企業の格差が多少なりとも縮小する。
金融所得税の強化
株主資本主義を弱体化させるためには金融所得税の強化が有効である。
株式等の譲渡で発生する株式譲渡益に掛ける株式等譲渡益課税(キャピタルゲイン税)や、株式の配当に掛ける株式等配当課税(インカムゲイン税)を累進課税にする。こうすることで「大金持ちの投資家」が出現しにくくなり、各企業が「大金持ちの投資家に当社の株式を買ってもらおう。彼らが気に入るような株主資本主義の企業経営をしよう」と考えなくなり、株主資本主義が弱体化する。
2021年12月31日の時点において、日本の株式等譲渡益課税(キャピタルゲイン税)や株式等配当課税(インカムゲイン税)は一律課税であり、一律で20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)となっており、累進課税が導入されていない。そして高額所得者ほど株式譲渡や株式配当で得られる収入の割合が多い。このため申告納税者の所得税負担率を見てみると、所得金額が1億円までは所得税負担率が右肩上がりの累進課税となっているが、所得金額が1億円を超えると所得税負担額が右肩下がりになっている(記事)。このことを1億円の壁という。
2021年8月26日になって自民党総裁選挙に出馬した岸田文雄は、「株式等譲渡益課税(キャピタルゲイン税)や株式等配当課税(インカムゲイン税)の一律課税を見直す。1億円の壁を打破する」と発言し、9月29日になって総裁選に勝利して10月4日に首相へ就任したが、10月10日になって「金融課税について、当面、見直しをしない」という発言をした(記事)。つまり、岸田文雄は株主資本主義の弱体化をしようとしたが、あっさり断念した。
株主資本主義で発生する格差社会・階級社会
株主資本主義によって格差社会になる
株主資本主義の国では、労働者への人件費を削って株主への配当金を増やすことを目指す企業が主流となる。
株主の意向に従って労働者への人件費をひたすら削る経営者が「V字回復の救世主」「信念の人」などと口を極めて賛美され、そうした経営者には株主たちから褒美として高額の役員報酬が与えられる[44]。このため株主と「株主の手先となって人件費の削減に励む経営者」が高額所得者となり、企業経営に関与しない平社員が低額所得者になっていく。
さらには所得税累進課税が弱体化され、株主と「株主の手先となってコストカットに励む経営者」が高額所得を得る現象が法律によって強く肯定される。
こうして所得格差が広がり、貧富の差が広がり、格差社会になっていく。株主資本主義が席巻する国では格差の拡大が顕著であり、ごく少数の人たちが勝ち組となって富を独占するようになり、大多数の人たちが負け組となって貧困生活になる。「人口の1%の人々が国富の99%を所有する」といった状態が普通のことになる[45]。
平等にも機会平等と条件平等と結果平等の3種類があるが[46]、株主資本主義者が優先的に潰しにかかるのは結果平等である。「いくら頑張っても結果が平等になるという社会を作れば、人々の労働意欲が蒸発して社会が停滞し、共産主義の国のように経済が麻痺する」と主張し、所得税累進課税を徹底的に否定する。
株主資本主義者の望むように結果平等を潰してしまえば、自然と条件平等も崩れていく。大金持ちの子どもは高額の謝礼を払って塾に通って高学歴を得るのに対し、貧乏人の子どもは塾に通えず低学歴になる。子どもたちが社会に参加するときには学歴格差が大きく開いており、条件平等が完全に崩れることになる。条件平等が崩れてしまえば実質的に機会平等が崩れることになる。
さらに株主資本主義者は条件平等を直接的に潰そうとする。「親から子へ遺産とともに知恵が継承されていくことで社会が興隆する」と主張し、相続税や贈与税を必死になって否定する[47]。
平等を破壊するときの株主資本主義者は、日本国憲法第29条の「財産権の不可侵」を根拠にして、それを錦の御旗にする。「財産権を否定した共産主義国は、経済麻痺を起こして滅んだ」などと主張する。
株主資本主義によって階級社会になる
株主資本主義者の手によって平等を破壊して格差社会にすると、次第に階級社会になる。
階級社会の悪いところは、人が人に気軽に話しかける雰囲気が失われ、情報の流通が阻害され、社会が停滞するところである。階級社会の典型例というとスクールカーストであるが、スクールカーストが異なっている子ども同士は全く交流せず、お互いに話しかけない。
階級社会になると、上流階級のものは「下流階級の連中に話しかけると『あいつは下流階級の仲間だ』と思われて上流階級から追い出されてしまう」と考えて、下流階級に話しかけることをためらうようになる。下流階級のものは「上流階級の人は自分とは住む世界が違う」と考えて、上流階級に話しかけることをためらうようになる。人が人に気軽に話しかける雰囲気が失われ、人々積極的情報提供権(表現の自由)を自ら封印するようになり、情報の流通が阻害され、社会が発展せずに停滞する。
平等社会を作り出す所得税累進課税の根拠の1つは、日本国憲法第21条の表現の自由である。人が人に気軽に話しかける雰囲気を作り出して、人々が持つ表現の自由を尊重し、社会の中の情報流通を促進して社会の発展を目指すために、所得税累進課税や相続税を課税し、富裕層や貴族の出現を防止し、結果平等・条件平等・機会平等が保障される平等社会を作りあげる。
逆に言うと、平等意識が芽生えて人々がお互いに話しかけやすい雰囲気を作り出せる程度の結果平等にすればいいのであって、「すべての労働者を年収700万円にして完璧な結果平等にする」のようなことを実現する必要は無い、ということになる。
株主資本主義者は日本国憲法第29条の「財産権の不可侵」を尊重して累進課税を否定するし、ステークホルダー資本主義者は日本国憲法第21条の表現の自由を尊重して累進課税を肯定する。両者にはこうした違いがある。
「あいつは嫉妬しているだけだ」と言って格差社会・階級社会の批判を潰す
「日本国憲法第21条を遵守して『表現の自由』を尊重し人々の積極的情報提供権という基本的人権を保障しよう。そのために所得税累進課税を掛けて結果平等の平等社会にして無階級社会にしよう」と提案する人に対して株主資本主義者が投げかける言葉は「あいつは嫉妬しているだけだ、あいつは成功者の足を引っ張っているだけだ」というものである[48]。
基本的人権の尊重を求める人に対して「あいつは嫉妬しているだけだ、あいつは成功者の足を引っ張っているだけだ」とレッテル貼りして名誉を破壊するのが株主資本主義者が行いがちな行動である。
株主資本主義者は「あいつは嫉妬しているだけだ」というレッテル貼りを得意とするのだが、そういう行為は「嫉妬というのは絶対的な悪徳である」という思想に基づいている。
しかし、そうした思想は正しいわけではない。嫉妬がライバル意識と競争心を生んで労働強化をもたらして社会を活気づけることもあるから、「嫉妬は相対的な悪徳であり、嫉妬を否定することが妥当なときもあり、嫉妬を肯定することが妥当なときもある」という思想の方が正しい。
次のような話がある。年功序列的と揶揄された会社にAとBが同期で入社した。AとBが入社して数年後にAの月給がBの月給よりも数百円だけ多くなった。Aは「自分の方が評価されている」と張り切り、Bは「あいつには負けられない」と頑張り、AとBが2人とも出世街道をばく進し、月給の差が数百円のままで2人とも取締役にまで出世したという[49]。
ここでのBの心理は「あいつに負けて悔しい」といったものだが、これは嫉妬心の一形態である。その嫉妬心が猛烈なライバル意識を生み、競争を煽り、労働強化をもたらした。
このように嫉妬には競争を煽って労働強化をもたらすという好ましい面もあり、絶対的な悪徳と扱うことは望ましくない。
トリクルダウン理論の宣伝をして格差社会を肯定する
株主資本主義によって格差社会になることが批判されたら、株主資本主義者は次のような論理展開を行う。
まず、「人というものは所得が伸びればそれに比例して消費を伸ばす」と主張する。続いて「高額所得者を増やせば、その高額所得者が必ず高額の消費をする」と主張し、そして「高額所得者が高額の消費をすることで各企業の売上高が伸び、経済発展する」と主張していく。これがいわゆるトリクルダウン理論である。
また、「人というものは所得が伸びればそれに比例して消費を伸ばす」と主張してから、「高額所得者は頭が良くて優秀で商品に付加価値が付いているかどうかを見定める能力が高い」と高額所得者を崇拝するがごとく褒め讃え、そして「高額所得者は付加価値の高い商品を買う消費をして、『付加価値が高い商品を作る立派な産業』を育成している」と述べていく。「フランス料理は王侯貴族という高額所得者に提供する宮廷料理が基礎となっているし、ウィーンのオーケストラはハプスブルグ家という高額所得者の王族に提供する宮廷音楽が基礎となっている」などと例を挙げ、「高額所得者が付加価値の高い産業を必ず生み出すのだ」と主張していく。これもトリクルダウン理論の一形態と言える。
こうしたトリクルダウン理論の出発点となるのは、常に「人というものは所得が伸びればそれに比例して消費を伸ばす」という主張である。この主張にはあまり説得力がなく、「アメリカ合衆国の大富豪であるウォーレン・バフェットは倹約家であって消費を盛んに行っていない[50]」という反論を浴びることが多い。
ウォーレン・バフェットは株主資本主義の時代に生まれた大富豪であり、「株主資本主義が作り出した大富豪」と言っていいような存在であるが、その彼が株主資本主義者の好むトリクルダウン理論にとって皮肉にも天敵となっている。
大金持ちへの崇拝をして格差社会を肯定する
株主資本主義によって格差社会になることが批判されたら、株主資本主義者は「大金持ちを人為的に作りだし、その大金持ちに国際的な大活躍をしてもらって国内に富を呼び込んでもらえばいい。優秀な大金持ちに経済を引っ張ってもらい、そのおこぼれをコバンザメのごとく拾っていけばいい」と論じることもある。この主張には「金持ちへの期待感と依存心」を見てとることができる。
株主資本主義者は所得税の累進課税に反対することが多いが、そのことを主張するとき、「大金持ちは頭が良くて優秀で生産力が高い存在である」と信仰するがごとく褒め称え、そして「大金持ちの足を引っ張らずに放置しておけば自動的に国家の富を増産してくれる」と語り、「大金持ちへの所得税累進課税を弱体化させることで効率的に経済発展することができる」と述べていく。大金持ちを万能の神であるかのように扱う株主資本主義者の姿は、敬虔な信仰をする宗教者といった観がある。
「大金持ちが働けば働くほど富が生まれる」と信仰する株主資本主義者の姿が多く見られるが、現実は必ずしもそうなっているわけではない。大金持ちが間違った働きをして巨額の損失を出す現象はしばしば見られる。「高額所得の企業経営者が、海外進出をして工場を建設することを決断したが、どうにも上手くいかず、巨額の損失を出しながら撤退した」という現象はたまに報じられる。
このように、大金持ちは決して全知全能ではないが、それでも株主資本主義者は「大金持ちが働けば働くほど富が生まれる」と熱心に信仰する。
株主資本主義は企業を「倒産しにくく永続しやすい団体」に近づけることを目指している。そして「倒産しにくく永続しやすい団体」というと、その代表例は宗教法人なのである。宗教法人は宗教活動で得た法人所得に法人税が課されないので倒産しにくく永続しやすい。このため株主資本主義は宗教法人を理想視して企業を宗教法人に近づけようとする思想と言える。株主資本主義者からどことなく宗教の雰囲気を感じるのはこのためである。
株主資本主義と宗教団体
株主資本主義の国では宗教団体が躍動する
株主資本主義の国では長時間労働が横行し、労働者は疲れ果てて政治のことなど考えられなくなる。また株主資本主義の国では労働組合が弱体化し、労働組合がしつこく労働者に対して投票を呼びかけることが少なくなる。
こうしたことが重なり、株主資本主義の国では投票率が下がる。投票率が下がった国では組織票がものをいう選挙が行われるようになり、巨大な組織票を持つ宗教団体が政権与党に食い込むようになる。日本では創価学会が公明党や自民党を支持している。
株主資本主義の企業と宗教団体の共通点
株主資本主義の企業と宗教団体は似たところがあり、いくつかの共通点がある。
下意上達(ボトムアップ)が行われず上意下達(トップダウン)ばかりが行われる軍隊風の組織であること、組織に尽くすための長時間労働を構成員に要求すること、といったところである。
株主資本主義の企業と宗教団体の相違点
株主資本主義の企業と宗教団体は、明確に相違している点が1つある。
株主資本主義の企業は長時間労働を労働者に課すときに外発的動機付けを掛けることが多いが、内発的動機付けを掛けることが少ない。「長時間労働をして成果を出せば高給を与える」と正の外発的動機付けを掛けたり、「長時間労働を拒否したら怠け者と呼ぶ」と負の外発的動機付けを掛けたりするが、「長時間労働をすれば顧客に感謝されるだろう」と労働者に訴えて内発的動機付けを掛けることは少ない。
なぜなら、株主は、特に経営と所有が分離した企業においては、会社の業務をよく知らず、営業に関わることがなく、顧客の感謝の声を収集することができないからである。経営と所有が分離した企業の株主が内発的動機付けをするには営業部門の労働者の手を借りねばならないが、そうすると営業部門の労働者が自信を持ってしまうので、株主資本主義者としては望ましいことではない。
一方で宗教団体は、長時間労働を信者に課すときに内発的動機付けを掛けることが多いが、外発的動機付けを掛けることが少ない。宗教団体は信者に「長時間労働をしてわが教団を巨大化させれば、わが教団により救われる人が増え、君も感謝されるだろう」と訴えて内発的動機付けを掛けるのが非常に上手い。しかし宗教団体は総じて信者に対してケチであり、「長時間労働をして成果を出せば高給を与える」ということを全く行わないことが多い。
関連項目
- ロナルド・レーガン - 1980年代における株主資本主義・新自由主義の推進者
- マーガレット・サッチャー - 1980年代における株主資本主義・新自由主義の推進者
- 中曽根康弘 - 1980年代における株主資本主義・新自由主義の推進者
- 小泉純一郎 - 2000年代における株主資本主義・新自由主義の推進者
- ステークホルダー資本主義 - 反対語
脚注
- *このことは「借方 その他利益剰余金(純資産)、貸方 銀行預金(資産)」と仕訳される。ただし「借方 その他利益剰余金(純資産)、貸方 未払配当金(負債)」といったん仕訳しておき、その次に「借方 未払配当金(負債)、貸方 銀行預金(資産)」と仕訳するという手法を用いることがある。
- *期末において「借方 有価証券(資産)、貸方 有価証券評価益(収益)」と仕訳する。
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』5ページ、26ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』65ページ
- *「宗教活動に伴って作成する損益計算書」のことを正確に言うと「収益事業以外の事業にかかわる損益計算書」となる。宗教法人は「収益事業にかかわる財務諸表」と「収益事業以外の事業にかかわる財務諸表」を作る必要がある(国税庁資料15ページ)。
- *「法人所得に対して法人税が課税されない株式会社」と、「宗教活動だけを行っていて法人所得に対して法人税が課税されない宗教法人」は、厳密に言うと異なる存在である。前者は出資者の株主に利益を配分することを予定しているが、後者は公益法人等に属するので出資者に利益を配分することを予定していない。前者は解散したときに株主という個人が残余財産を勝手に受け取ってよいが、後者は公益法人等に属するので解散したときに個人が残余財産を勝手に受け取ることができない。(『税のタブー(集英社インターナショナル)三木義一 19ページ』)
- *所得税累進課税を弱体化させると「カリスマ経営者」が出現することは、トマ・ピケティが『21世紀の資本(みすず書房)』の532ページで、ポール・クルーグマンが『格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略(早川書房)』の101~104ページで、それぞれ指摘している。そして株主資本主義は所得税累進課税を弱体化させる傾向にあるから、「株主資本主義の国家では『カリスマ経営者』が多く出現するようになる」ということが可能である。
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』179ページ、385ページ
- *森生明は『会社の値段(ちくま新書)』の第二章の58ページあたりにおいて「1960年代頃までのアメリカ合衆国には『株主は黙って経営者のいうことを聞いていればよい』という風潮があった」と指摘している。また、アドルフ・バーリとガーディナー・ミーンズが1932年に発表した『現代株式会社と私有財産』という論文を紹介していて、「現代の大企業を支配しているのは雇われ経営者であり、株主は会社の所有者であるにもかかわらず会社の支配とは無縁な存在になる」と論文の内容を要約している。
- *この典型が小室直樹であり、『日本人のための経済原論(東洋経済新報社)』などの著作で熱心に「日本人は株主資本主義と所有権の絶対性を理解していない」と主張していた。
- *管理監督労働者とは、部長や課長などの中間管理職と呼ばれる労働者である。この中の一部は、取締役会設置会社において会社法第362条4項3号によって取締役会で選任されるか、取締役会非設置会社において会社法第348条3項1号によって取締役の過半数で選任されるかして、「支配人その他の重要な使用人」となる可能性がある。いわゆる執行役員は「支配人その他の重要な使用人」とされる。
- *役員とは取締役・会計参与・監査役のことで、会社法第329条によって株主総会で選任される。
- *テスラやTwitterの役員であるイーロン・マスクは長時間労働を好むことで有名である。
- *人は息子や娘にお金などの資産を渡すことに情熱を注ぐ傾向がある。ある大学教授は「娘が重病になったら臓器でも目玉でも何でも提供します。でも妻が重病になったら絶対に提供したくない(笑)」といった発言を大学受験用参考書の中で行っていた(本人の名誉のため名前を伏せておく)。この発言は、人が「息子や娘のためならあらゆる努力をする」という心情を抱えがちであることの一例になり得る。
- *「我慢して痛みに耐える労働者」を心から愛する株主資本主義者というと小泉純一郎が筆頭格である。小泉純一郎は2001年4月26日になって首相に就任し、2001年5月5日の国会における所信表明演説で「痛み」という言葉を3回使用しつつ(資料)、「構造改革で国民に痛みを強いることになるが、しかし、国民が痛みに耐えることで日本の国際競争力が向上するのだ」という内容の演説をしており、それ以外の場所でもそうした内容の演説を繰り返していた。また小泉純一郎は、2001年5月27日の大相撲夏場所優勝決定戦で勝利した貴乃花に向かって「痛みに耐えてよく頑張った!感動した!おめでとう!」と叫んでいた(この動画の3分30秒あたり)。この小泉純一郎の姿は、ただ単に怪我の痛みをこらえて頑張ったスポーツ選手へ賛辞を送っただけに過ぎないのだが、我慢して長時間労働の痛みに耐える労働者を好む株主資本主義を象徴する姿であるとも言える。
- *株主資本主義の信奉者とされる竹中平蔵や小泉純一郎が愛読して絶賛する『自助論(サミュエル・スマイルズ)』には、人が労働を積み重ねて成果を得る姿を紹介する文章が頻繁に現れるが、「労働をしすぎると肉体や精神が疲労してしまう」と危惧する文章が全く現れない。「長時間労働の副作用に悩まされる人など存在しない」といった雰囲気で進んでいく書物である。
- *覚醒剤を使用すると疲労感を感じなくなり、何日も不眠不休で働くことが可能になる。長時間にわたって労働や受験勉強をするために覚醒剤を利用する例がある(資料)。
- *1980年代日本の株主資本主義・新自由主義の旗手というと中曽根康弘首相である。中曽根康弘首相は国鉄の民営化を実行し、当時の日本で最大最強とされた国鉄の労働組合を弱体化させた。国鉄の労働組合の弱体化を目指していたことを各種のインタビューで語っている(記事1、記事2)。
- *Googleの社内に初めて労働組合が作られたのが2021年1月である(記事)。Amazonの社内において長年にわたって企業側の圧力により労働組合が結成されなかったが、2022年4月になって史上初めて労働組合が結成された(記事1、記事2)。AppleやFacebookには労働組合が2023年5月の時点で存在しない。
- *裁判所が確定判決によって救済命令を支持しているのに企業経営者が救済命令を無視したら、企業経営者は労働組合法第28条により一年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金又はその両方という刑事罰を課される。
- *『NHKスペシャル 戦後50年その時日本は 第5巻(日本放送出版協会)NHK取材班』252ページにおいて、国労(国鉄労働組合)の幹部だった細井宗一が「組織が崩されるというのは、労働組合にとっては致命傷だからね」「労働組合の目標は何かというと、二つある」「一つは、組織の人たちの“生首”を絶対に切られないこと。もう一つは自分たちの組織を守るということなんです。組織があれば運動ができるわけです」と語っており、労働組合が構成員の数の維持を重視する組織であることを語っている。
- *2023年7月の時点で内閣総理大臣を務める岸田文雄の生年月日は1957年7月29日であり、スト権ストが発生した1975年頃は18歳で、国鉄の労働組合の順法闘争をよく知っている世代である。「岸田文雄よりも年上の人たちは国鉄の労働組合の順法闘争をよく知っていて、『労働組合は順法闘争をする悪い連中だ』という煽りがよく効く」と認識しておいてよさそうである。
- *商品投資とは「コモディティ投資」とも呼ばれるもので、投資家が金・銀・白金(プラチナ)・アルミニウム・銅・鉄鉱石・ダイヤモンド・原油・ガソリン・石炭・小麦・大豆・トウモロコシ・暗号資産・外貨などを現物取引または先物取引の形態で売買して利益を追求することである。
- *「官から民へ」や「民間でできることは民間に」は、株主資本主義・新自由主義の信奉者とされる小泉純一郎首相が好んで使った言い回しである。
- *この典型例が渡部昇一で、『歴史の鉄則―税金が国家の盛衰を決める(PHP研究所)1993年初版』の151ページで普通選挙を敵視する文章を書いている。
- *N・グレゴリー・マンキューは『マンキュー経済学Ⅱマクロ編[第4版](東洋経済新報社)』の87ページで「セリーナ・ウィリアムズという超一流のスポーツ選手は、庭の芝刈りを自分で行わず、近所の少年を雇ってその少年にやらせるべきである。時間を庭の芝刈りに費やさずにテレビ広告の収録に回せば、テレビ広告の報酬を稼ぐことができる」と述べている。つまり「セリーナ・ウィリアムズはテレビ広告の仕事をして、近所の少年は芝刈りをする、という社会的分業をすべきだ」と主張している。
- *株主資本主義の信奉者とされる竹中平蔵や小泉純一郎が愛読して絶賛する『自助論(サミュエル・スマイルズ)』には、「貧困になると人が成長する」といった具合に貧困を賛美する文章が頻繁に現れる。
- *帝国データバンクが2022年1月後半に実施した価格転嫁の実態調査(1万1981社回答)では、約8割の企業が自社の商品やサービスに原材料価格高騰などの影響があると回答し、さらに36.3%は「価格転嫁が全くできていない」と答えた。時事ドットコムニュース2022年02月10日20時33分
- *「貯蓄から投資へ」とか「貯蓄から資産形成へ」は日本政府が好む標語である。1990年代後半の金融ビッグバンの頃から日本政府が「貯蓄から投資へ」という標語を使うようになり、2001年~2006年の小泉純一郎内閣も「貯蓄から投資へ」という標語を好んで使っていた(資料)。金融庁ウェブサイトのこのページにも「貯蓄から投資へ」の標語がある。また、2016年の金融庁は「貯蓄から資産形成へ」という標語を掲げている(資料)。2021年に発足した岸田文雄内閣は、「新自由主義からの脱却を目指す」と宣言しているが(記事)、その一方で「『貯蓄から投資へ』を大胆かつ抜本的に進めて『資産所得倍増プラン』を推進する」と宣言し(記事)、新自由主義・株主資本主義の中核である直接金融を推進する構えを見せている。さらにいうと岸田文雄首相は2022年5月5日に英国金融街のシティで講演し、「Invest in Kishida」と述べて「岸田文雄率いる日本に投資をしてください」といった意味の語りかけをして、直接金融を重視する姿勢を鮮明にした(記事)。
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』40ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』88ページ
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』33ページ
- *2020年東京オリンピックでは観光客向け案内人や医師や看護師をボランティアで募集した。
- *日本において国家公務員の賃金を引き下げる現象の代表例が2021年8月~2022年6月に発生したので紹介しておきたい。まず、人事院が2021年8月10日に国家公務員の賞与を引き下げることを政府に対して勧告した(記事)。人事院勧告を受け入れるか拒否するかは日本政府が自由に決めることができるのだが、岸田文雄首相が率いる日本政府は2021年11月24日に人事院勧告を受け入れることを決め(記事)、2022年1月17日から始まった通常国会に給与法改正案を提出した。同法案は2022年3月10日に衆議院本会議で可決され、同年4月6日に参議院本会議で可決され(記事)、同年6月30日に支給される国家公務員の賞与が減らされた(記事)。
- *不確実性に備えて通貨を貯蓄することを予備的貯蓄という。「不確実性が強まるほど人は通貨を予備的貯蓄したがるようになり、消費を避けるようになる」と指摘したのはジョン・メイナード・ケインズである。
- *「観光業 非正規雇用」で検索するだけで、観光業において非正規雇用の割合の多さを指摘する学術論文がいくつもヒットする。
- *株主資本主義の旗手として知られる竹中平蔵は、2015年1月1日にテレビ朝日の「朝まで生テレビ」に出演し、「正社員をなくしてしまえばいい」と発言した(記事)。
- *沖縄県の経済は観光業に依存している(資料)。観光業は第3次産業に分類されるのだが、沖縄県は第3次産業の割合が全国で一番高いレベルである(資料1、資料2)。そして沖縄県は非正規雇用の割合が全国で一番高く、正規雇用の割合が全国で一番低く、県民1人あたり所得の額が全国で一番低い(資料)。こうした事実と反・株主資本主義者の主張は一致している。
- *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』88~89ページ
- *田中角栄が首相に就任していたのは1972年7月7日から1974年12月9日までだが、1973年になって「福祉元年」と宣言し、老人医療の無料化や老人に対する年金支給額の大幅引き上げを実行した。このため、田中角栄こそが日本を福祉国家に変貌させた政治家だと言える。
- *姥捨て山(うばすてやま)とは江戸時代の日本の中の貧困地帯で存在したとされる風習で、生産能力が低くなった老人を人里離れた山に放置して絶命させ、その共同体の人件費を削減することをいう。ちなみに、共同体の構成員を追放したり殺害したりすることで人件費を削減することを口減らし(くちべらし)という。
- *医療器具の加工は非常に難しい。切削しにくい難切削材の素材であることが多く、切削しにくい複雑な形状であることが多く、切削しにくい微小な形状であることが多いためである。医療器具を上手く加工するには、切削工具、切削油、工作機械、CADソフト、CAMソフトといったすべての要素を改良する必要がある。切削工具のメーカーや工作機械のメーカーが自社の商品を売り込むときの定番文句の1つは「我が社の商品は医療器具の加工に使われております」である(記事1、記事2、記事3)。
- *小沢一郎は『日本改造計画』という著書を1993年に講談社から発表した。その冒頭の1~6ページで「アメリカ合衆国のグランドキャニオンには転落を防ぐ柵が見当たらず、注意をうながす管理人もおらず、立札さえ見当たらない。自分の安全を自分の責任で守っており、自己責任の考え方が成立している」といった趣旨のことを書いていた。
- *一例を挙げると、カルロス・ゴーンは人件費を削減するコストカッターとして有名であるが、日産自動車CEOの地位を解任されるまで日産自動車から高額の役員報酬を受け取り続けていた(記事)。「役員報酬が高すぎる」と言われると世界各国の自動車会社における役員報酬を調べ上げて「日産と同規模の自動車会社では日産よりも多くの報酬を役員に支払っている」と反論していた(記事)。
- *イギリスの非政府組織(NGO)「オックスファム(Oxfam)」は、2016年1月18日に、「世界の最富裕層1%が保有する資産の総額が、残る最富裕層以外の99%が保有する資産の総額を上回った」と発表した(記事)。
- *機会平等の例は「最終学歴が中卒の人にも最終学歴が大卒の人にも公務員試験の受験資格を与える」というものである。条件平等の例は「世の中のすべての人々の最終学歴を大卒にして、そうした上で世の中のすべての人々に公務員試験の受験資格を与える」というものである。結果平等の例は「所得税累進課税を掛けて世の中のすべての人々の年収を500万円~2000万円の幅に収める」というものである。
- *所得税累進課税を否定して所得税一律課税を肯定し、相続税を廃止することを主張した株主資本主義者というと、渡部昇一である。
- *2006年2月1日参議院予算委員会で小泉純一郎首相が「私は格差が出るのは別に悪いこととは思っておりません。今まで悪平等だということの批判が多かったんですね。能力のある者が努力すれば報われる社会、これは総論として、与野党を問わずそういう考え方は多いと思います」「成功者をねたむ風潮とか、能力のある者の足を引っ張るとか、そういう風潮は厳に慎んでいかないとこの社会の発展はないんじゃないかと。できるだけ成功者に対するねたみとかそねみという感情を持たないで、むしろ成功者なり才能ある者を伸ばしていこうという、そういう面も必要じゃないかと」と答弁した(資料1、資料2)。株主資本主義の支持者である竹中平蔵も「頑張って成功した人の足を引っ張るな」というのが定番の語りである(記事)。株主資本主義の支持者である渡部昇一も「所得税累進課税は成功者への嫉妬である」と繰り返し主張していた。英国の首相を務めたマーガレット・サッチャーは演説で「金持ちを貧乏にすることはできても、貧乏人を金持ちにすることはできない(The poor will not become rich even if the rich are made poor.)」と語ったが、これは「成功者に嫉妬して成功者の足を引っ張るな」と主張する人々によってしばしば引用される言葉である。
- *『虚妄の成果主義(日経BP社)高橋伸夫』35ページ
- *ウォーレン・バフェットはアメリカ合衆国の大富豪で、株式投資によって巨万の富を稼ぎ出した。彼の私生活は非常に質素であり、こぢんまりとした小さな住居に住み、一般市民が飲むようなチェリーコークを愛飲し、年会費無料のごく一般的なクレジットカードを使っている。
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